”Do not judge,or you too will be judged.

For in the same way you judge others,
you will be judged,and with the measure you use,
it will be measured to you.







胎内回帰

深淵の残骸に宿る生命の欠片

Wohin und Woher?








 単細胞生物は分裂を繰り返し、自己を複製し続けて行く。
生きる流れの辿り着く先は、どれ程抗って見た所で『死』それだけだ。
その為に、繰り返される分裂と複製。
 『死の』の概念が生まれ、鮮やかに『生』が定義付けられていくそのパラドックス。所詮繰り返される種の保存の定義に乗っ取って、複製されていく生命にすぎない有機物。
 種を遺こして死へと歩く生命設計図。生み出される自己複製の延長線など、その程度の事実でしかない。
 繰り返される螺旋の環状。行きする生と死。繰り返される複製によって得る永遠。そんな程度なちっぽけな事実。


「んっ…ぁっ…んっ…」

 生々しい耽溺の嬌声を上げてみた所で、出会う事のない行為。
こうして二人で在る限り、出会う事のない一対を求め、昏い海を探すのだ、桃城は。


「んんっ……」

 桃城には、きっと生涯判る事はないだろう。抱かれる事のない桃城には、きっと永遠に判らない下らない感傷の産物。


「っん…っ……もぉ…」

 非生産的な行為の延長線には、その複製さえ訪れはしない。
少しばかりの痛みと悲しみ。きっと桃城には判りはしないだろう。幾許の罪悪と憐れさと。気付いてしまった事実に対しての感傷的な憐れみの在処など。
 判る筈もないし、判って欲しいとは望まない。
自分は自分でしかないから、限定された思考領域の感情の産物を、相手に求めても仕方のない事だ。
 反対に相手に『判る』と言われても、嗤う事しかできない。判る筈はない、決してだ。それでも、時折問い掛けてみたくはなるのだ。答えなど、バカみたいに判りきってはいるのだけれど。


『アア、可笑しいな……判る筈なはないと思うのに、判ると断定している自分がココに在る』


 なんて整然とした矛盾。二律背反もいい所だ。
痛みの在処など、桃城に理解できる筈もないと言うのに。それでも、問い掛け得られる答えは判っているのだから、始末が悪い。
 所詮人間が相手の身の裡を正確に理解する事など不可能に近い。
理解できるとしたら、理解出来ないという事を理解する程度だ。それはどれ程近しい存在でも大差はない。
 近しいから判ると言うのなら、感情の切れ端から、推し量れる程度の理解、その程度だ。1判った所で、所詮10にはならない。判ったというのなら、それは『つもり』の領域。自己満足で幼稚な理解だ。
 我が者顔で、他人に土足で内心を踏み荒らされる自虐趣味はないので、理解されるのもゴメンだった。抱かれる自分の痛みなど、抱かれて抱く痛みなど、桃城に判り得る筈もない。
 抱かれる言葉の意味と重さが判るとしたら、それは自分達の間には存在しない、ダレかとの間に生ずる感情だ。
 所詮自分は何処まで行っても自分でしかないし、桃城ではない。その境界線は極簡単で単純なものの筈が、『愛する』という定義の向こう側に、ヒトは簡単に誤魔化されてしまうのだから、始末に負えない。


『ああ、そうしてこの醜悪な生き物は、プログラミングされた複製を繰り返す
のか』



 繰り返される連鎖の仕組みと片鱗が垣間見得る気がした。
した途端、無性に可笑しくなる。大笑いで憐れだ。
 プログラミングされた複製の中に、偽りで存在し続ける思惑。種を遺こす事が最優先事項と決定されている以上。遺こす為に必要なものは、ヒトならば定義づけされた『愛』なのだろう。
 まったく大笑いだ。生物なら極単純に持ち得ている優先事項さえ、ヒトは何しからの思惑の中にしか、遺こす事もできないのだから。


「あぁ……もぉ…」

 逝く………。


 ただ心地好くて、快楽だけが優先される行為。何も生み出す事のない、出会う事のない海を、探し続けていく憐れさ。
けれど気付いてしまった憐れさは、そんな感傷的なものではなかった。
 こんな時、壊れているなと、冷めた部分が苦笑と痛みを齎してくる。


『愛…ねぇ………』

 自己を他者に投影して、得られる複製。
自己の存在を他者に求め、ヒトは常に己の立つ位置を確認して行く。
他者に自己を預け、存在を確認する。そうして、思考領域を限定して行くのだ。求める代償に、求められる代償に。
 愛していても、愛していなくても、所詮他人の身の裡を正確に理解する事など、できはしないと言うのに。
 簡単に『お前の事は判る』なんて言う人間、信用できる方がどうかしている。そんな些細な言葉一つに誤魔化され、『愛されている』と喜ぶ人間の思考回路は、既に相容れない産物だ。自分には到底理解にも及ばないから、得体が知れない気持ち悪ささえ感じてしまう。
 出会う事のない海を探して、死んで行く。億数の生命の欠片。死んで逝く。この未熟な胎内の何処を切り刻んでも、在る筈のない海を探して。








「どした?越前?」
 サラリと梳き上げられる指に、リョーマの視線が桃城を見上げ、凝視する。
 相変らず、こういう時だけ勘の鋭い男だと、内心舌打ちをするリョーマだった。
「お前さ、何か下らない事、考えてねぇ?」
 情後の気怠い時間の中。リョーマの様子は何処か違う。肌身で知覚出来得る部分の何処かが、可笑しいと告げて来る自分の勘を、桃城が読み違えた事はない。
 言葉にはできない、けれど可笑しい。言語構造できない部分が、雄弁に語り掛けてくる眼差しの深淵が、いつもと違う。
 研ぎ澄まされた冷ややかな眼差しが、情後の余韻を綺麗に打ち払っている。
 見上げてくる眼差しに、情後の余韻は欠片もない。ただ冷めた部分が強調されている事だけが奇妙に判る事だった。
 きっとリョーマは信じないだろうし、理解しないだろう。
言葉にできない知覚部分というものを。雄弁に語り掛けてくる眼差しの深さというものを。『眼は口程にものを言う』そんな事を、リョーマはきっと理解出来ない。正確には、理解できるけれど、理解したくない、そんな所だろう。
「お前の、悪い癖だよな、ソレ」
 肩を竦め、深く苦笑する。
語る眼差しの深さ。研ぎ澄まされた切っ先のような深い淵。
色素の薄い蒼味を帯びた一対の眸。見上げられれば、言葉につまる程、深淵を湛えて問い掛けてくる、鏡面のような淵。
「正常じゃない」
 端然とした言葉の切れ端の向こうに、一瞬走り抜けた影。
「でも、異常だと思ってねぇだろ」
 見逃す筈はない影。切っ先のように研ぎ澄まされた眼差しの背後に横たわる言葉。
「非生産的」
 種を遺こす優先事項を放棄した非生産的な行為に耽溺する遺伝子というのは、壊れているのだろうか?
 重ねて番って、生み出されるものは一体何だと言うのか?
作り出す『海』など、胎内の何処を抉り出して探してみた所で、有りはしないというのに。在るとしたら『死海』だ。作り出す事なく、注ぎ込まれた熱は出会う事もなく、死の淵に追いやられて行く。
 狭い胎内を移動しても、永遠に受精は行われない。桃城の精子は、この躯の裡に存在しない海を探し、死ぬのだ。卵と出会う事もなく。受精も分裂も行われずに。本来の目的に到達する事もなく。在るのは、生まれる事のない死、それだけだ。出会う事のない行為の意味は、疑似行為と大差ないのかもしれない。
 可哀相だなと、フトバカな事を考えて苦笑する。
可哀相なのは自分で、気付いてしまった自分が憐れだからだ。
 気付いてしまった痛みや悲しみの在処。
重ねる躯の痛みは、心の痛みだ。快楽の淵に追いやられながら、深まる官能に比例し痛んで行く憐れさ。
 残骸は、自分の胎内の何処に澱んで遺これさて行くのだろうか?生まれる事もなく、出会う事もなく。けれど確実に遺こされていく分子の死骸。吐き出されて尚、身の裡に巣喰っている。
「認めてほしいとか、そういう感傷じゃねぇだろ?」
 そんな世間の評価や祝福など、欲しいと願う人間ではない事は、知っている。
「ダレに?」
 個の集合体の世間に、認められる必要もない。世間が構成され集まる要素が社会だと言うのなら、別段そんなものに価値は置かない自分には、尚更必要のない言葉だ。
「お前に」
「判らないよ」
「お前ってさ、崖っぷち佇む危ういバランス、時折してるよな」
「何?」
 見上げた視線の先。彫りの在る面差しは、何とも言えない表情をして苦笑している。
「あんたにだって、判らないよ」
「………そういう笑い方、してるから言うんだ」
 散り逝く一瞬刹那に垣間見せるかのような、壮絶な微笑み。研ぎ澄まされた冷ややかな、身の裡に切っ先を潜ませている綺麗なソレ。
 時折痛々しくて、抱き締めて尚癒す事のできない無力に泣き出したくなる。
「俺はお前が在たら、ソレでいいよ」
 幾重もの言葉を言い募っても通じないだろう言葉を、痛ませるだけだと知っていて吐く事しかできない無力な自分。
「あんたには…判らないよ」
 身の裡に巣喰う残骸を抱き抱えて尚。快楽に溺れていく自分の憐れさなど。性急に、胎内の深みで溢れ満ちて逝く他人の生命など。
「判るさ」
 穏やかな声、静かに満ちていく柔らかい声に、リョーマの面差しが不意に泣き出しそうに歪んだ。
「判る筈ない」
「それでも、判るさ」
 ソレだからこそ、判る。そういう事は理屈ではない。
リョーマに何処まで理解できるかは、判らないけれど。自分の存在をダレかに預け、ヒトは存在し続けていく。
 整然とした矛盾に疑問を感じず、連鎖を繰り返すソレは、二重の螺旋ととても良く似ている。





「死んでも生きてるさ。第一、死んだりしてない」
「ナニそれ」
「俺だから」
「相変らず、桃先輩の言葉は判らないよ」
「お前の裡で、迷ったりしてないって事だよ」
 鷹揚に笑う桃城の言葉に、リョーマの双瞳が見開かれる。
「………あんた…バカだね…」
「だから言ったろ?お前が在れば、それでいいって。お前って胎内で、迷う筈ないだろ。卵なんてなくったって」
 受け継がれる事のない生命。永遠に受精はされない生命の欠片。けれど、それでも、迷う筈もない。深淵を探して辿り着く場所など、最初から一つだ。
 リョーマの胎内。生命を受け継ぐ海は無いけれど。けれどソコに確かに在る深淵を、自分は知っている。だから、迷う事など、ある筈もなかった。
「怖がらなくていい」
「怖い筈ないよ」
 ただ少しだけの憐れみと、幾許の痛みが押し寄せるだけだ。生み出されて死んで逝く生命の欠片。
「お前の胎内に還れれば、俺は倖せだから、いいんだよ」
「…………思い切り身勝手。俺の倖せは?」
 深淵の底に残骸と成り果てて尚、生きていると言うのなら。
「お前だって、倖せだろ?それなりに」
「それなり…ね…」
「それなり、ほどほどが、丁度いいんだよ。何事も」




【コメント】
何かね、突然こーいう代物を書きたくなるんですわ。特別意味もなく、ただダラダラと無闇な文章を繋ぐって事が、時折疲れた脳細胞には心地好いのですわ。
なんでしょうね、桃城さんとリョーマさん。
まぁあんま私ゃ世間様のように、ベタベタ大甘イチャイチャっの桃リョってのは書いてませんが、っにしても、この二人は一体…。リョーマさんの胎内の何処を抉り出して切り刻んでみたって、生命を繋ぐ「海」なんて存在しないよなぁ…。
なんかこの二人、二人で居て尚淋しいって感じです…。
アア誤解ないようにと言うか、いい訳ですが、リョーマさんが憐れで痛いのは、別段桃城さんの生命を繋ぐ事のできない自分にではありませぬゆえ。
男二人で番ってて、今更そんなアホな感傷抱かれても困るので…。
気が向いたら、次回「受胎告知」か何かで書きます。
この「DNA」はですね、こーいう2パターンものなんですわ。コメディと分け判らない代物と…。




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