My Fair Lady





「子供に谷間の良さは判らないんだろう?だったらそこで鬱陶しい顔をしているな」
 ベッドの枕元に腰掛け、らしくなく眉間に皺を寄せているセバスチャンに、シエルはやれやれと言った
様子で溜め息を吐き出した。セバスチャンの腕には、生まれて二か月のマリーがいる。当然シエルの
腕には息子のセシルがいて、小さい躯で母親の胸に吸い付いている。
「子供でなければ、許していませんよ」
 母親のミルクを吸ってすっかり満足しきった愛娘は、先刻まで大声で泣いていたのが嘘のように、今
はすやすやと可愛らしい寝息をたてている。その様子を眼を細めながら愛しげに見詰め、次にはシエル
の腕に抱かれている愛息に視線を移す。
 目鼻立ちがシエルと似ているマリーは、成長したら母親似の美人になるだろう。そして今シエルの腕
の中で一心に母乳を飲んでいるセシルは、他人から見ても目許が自分とそっくりだと言われているから、そのそっくりな子供が愛妻の胸元に吸い付いているのは、セバスチャンにしてみれば、些か面白くな
かった。                  
「だからお前が一番手の掛かる子供になるって言ったんだ」
 小さい躯で一心に母乳を飲んでいる息子に柔らかい笑みを向ければ、更にじっとりと眺めてくる旦那
の鬱陶しさに、シエルは辟易した様子でがっくりと肩を落した。
「セシル、そこは本来私の場所ですからね」
 ふにゃふにゃと軟らかい赤ん坊が、母親のミルクを飲んでいる姿は、莫迦みたいに可愛らしいと思うし、これが親の感慨だと判っているが、そこは私の場所だと思うのも、セバスチャンの素直な本音だ。
「……セバスチャン…お前は乳飲み子相手に何所有権を主張しているんだ。第一お前の場所の訳があ
るか」
 心底本気の旦那の科白に、シエルは呆れて言葉もない。乳飲み子相手に言う科白かと腕の中のセ
シルをあやせば、満腹になったのか、セシルはうとうとし始めている。
 そんな子供に眼を細め、シエルが母親の表情をして腕の中の我が子をあやせば、セバスチャンの腕
の中でマリーが身動いだ。
「マリーは、もうお腹一杯になったでしょう?」
 まるで怪獣だと母親の苦笑を誘ったマリーは、ふにゃふにゃと何やら泣き声のような声を漏らし、小さ
い手を動かしている。
 双子の兄であるセシルより余程ミルクの量を飲むマリーは、時間に関係なく泣き出しては、シエルを
睡眠不足にさせている張本人だ。大抵の場合、空腹を訴え大きい泣き声を張り上げるのはマリーが先
で、セシルは割合におっとりとしているのか、マリーの泣き声にも動じない。それはそれで小生大物か
もしれないなと、セバスチャンのことが言えない親バカのシエルだ。
「いい子で寝て下さいね」
 起きればきっとミルクを催促するだろう愛娘の愛らしい寝顔に苦笑し、柔らかい頬を撫でてやる。そう
するとマリーはセバスチャンの指をきゅっと握った。反射なのは判っているが、赤ん坊の高い体温がどう
にもならない程愛しく感じられる。
「親バカ」
 眼を細めて我が子に見入っている悪魔の夫に、シエルはバカみたいな倖せを感じていた。
 一歩間違えれば、失われていた生命が今はちゃんと腕の中に在る。それが泣き出したい程倖せだと
思えた。
「それは当然です。貴女が生んでくれた子供達ですよ?可愛いのは当たり前ですよ、マイ・レイディ」
 散々に泣かせたシエルが生んでくれた子供達だ。言葉には尽くしがたい程可愛いのは当然だ。たと
え愛妻の胸に吸い付かれたとしても。
「でもそろそろ、私の相手をして下さってもいいでしょう?」
「お前は……」
 腕の中の我が子に眼を細めながらの科白に、シエルは小さく微苦笑を滲ませる。
やっぱり大きい子供だ。
 子供が生まれると旦那も一緒になってタチの悪い甘えを発揮すると、何やら何処かの本で読んで記
憶があったが、悪魔の夫も同じかと思えば、軽い眩暈に襲われてしまう。
「優先順位が子供達なら、最後の私には、たっぷりと奥さんを味あわせて下さいね」
 いい子で待ってたんですから。そう囁くセバスチャンに深々溜め息を吐くと、シエルは次の瞬間、悪戯
を思い付いた子供のような意味深な笑みを向け、細い指がセバスチャンの髪を引っ張った。
「奥さん?」
「お前が僕に飲ませるんだろう?」
 上にも下にも。そう笑ってやれば、半ば鬱陶しい生き物と化していたセバスチャンが眼を円くする。
そんな旦那のらしくない表情に満足すると、シエルは花が綻ぶように柔らかい笑みを浮かべた。



九里様より頂いた美麗マンガのイメージでSSを書いてみたんですが、イメージ壊してしまっていたら、
すみません(汗)九里様に謹んで捧げさせて頂きたいと思います。アッ、返品可ですので(汗)
シエルが超可愛らしくて、私が胸揉みたい!と本気で思ってしまいました。
九里様の描いて下さるイラストとマンガは、My Fair Ladyのイメージそのまんまで、頂いた作品に身
悶えしております。大好きな作家の方に、書いた小説をイラストとマンガにして頂けるなんて、書き手冥利につきます。ありがとうございました!


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