「可笑しいわね。素材はシエルと大差ない筈なのに、アンタの髪はどうしてシエルみた いに輝きがないのかしら」 長く伸びた赤い髪をブラッシングしながら、マダム・レッドが理不尽だわと、告げた相手 にこそ理不尽だろうと思える科白に口をして、鏡に映るグレルを見ては溜め息を吐き出し た。 「その失礼な科白は一体何よ」 理不尽極まりないマダム・レッドの科白に、メガネを外したグレルが、鏡の中の女主人 に睥睨を向ける。 「私の髪が、あのダメっ子に劣るって言うの?」 死神のくせに人間界に適応している赤い髪の死神は、既に人間界に訪れた際の定宿 として、当たり前の顔をしてマダム・レッドの屋敷に居座っている。 「本当なんだから仕方ないでしょ。死神のアンタでも、人間に負けるなんてことあったの ね」 「これでも私の髪は、死神の世界では有名なくらい癖のないストレートな髪だって、評判 なのよ」 「アンタの場合、性格に癖がありすぎるから、髪くらい癖がない方が釣り合いがとれてて 丁度いいじゃない」 世の中ってやっぱりバランスが大事なのよねと、完全に他人様の意見を口にするマダ ム・レッドに、グレルは眉間に皺を寄せる。 「愛情が足りないのかしらね。セバスチャンから聴いたシエルと同じメーカーのシャンプー とトリートメント使ってるのに、毛先が傷んでるわよ。お洒落を語るなら、ちゃんと手入れし なさいよ」 確かにこの死神はお洒落だと思うし、社交界に連れて行けば、シエルと負けず劣らず の髪の艶はあるだろう。けれど実際シエルの髪を見てしまうと、負けた印象が拭えない のは、注がれる愛情の有無なのかもしれない。 「マダムのブラッシング技術が、セバスちゃんに劣ってるだけじゃないの?」 どうにも姉と妹のような会話に軽い眩暈を覚えながら、それでもこの人間と過ごす他愛 ない時間は悪くないと思うグレルだった。 「いい加減ウィルのところに帰りなさいよ。シングルマザーにでもなるつもり?」 「嫌よ。あの四角四面の堅物が、真っ赤な薔薇の花束抱えて求婚してきたから、ついう っかりほだされちゃったのが間違いの元なのよね」 だから当分帰らないと断言するグレルに、マダム・レッドは苦笑する。 「此処はアンタの実家じゃないわよ。夫婦喧嘩する都度、人間界に来るアンタも、大概ピ ントがずれてるわよ。四角四面のウィルが帰属しているとは思えないルーズな世界ね」 犬も食わない喧嘩に、死神界が放置を決め込んでいるとは思わないが、大雑把な感 触が拭えないのは、グレルが当たり前の顔をして、ちょくちょく屋敷に訪れるからだ。 「いいじゃない。また合コンに連れてって頂戴よ」 「ダメ。妊婦に酒を許可すると思うの?なんなら私がアンタの担当医になってあげるわよ」 サラリと赤い髪をブラッシングしながら、本気か嘘か判別の付かないマダム・レッドの 科白に、グレルが嫌そうに柳眉を歪めた。 「いい男をつまみ食いも出来ないなんて、アタシって可愛そう」 「こんな性格の何処が良かったのかしらね、あの子も」 自分より遥かに生きている死神を掴まえて、平然とあの子呼ばわりするマダムの気丈 夫さに、グレルは呆れると同時に、少しばかり感心した。きっとウィルが聴いたら心底嫌 そうに眉を顰めるだろうけれど。 「折角綺麗な髪なんだから、もうちょっと真剣に手入れしなさいよ。お洒落の基本は心か らよ。見えない部分に気を使うのが、本当のお洒落。だからいい加減ウィルとは仲直りし て帰りなさい。アンタってほっとくと、徹底して自堕落に落ちるんだから」 「……マダム…アナタ私の姉みたいね」 「私がババアだって言う訳?私達人間より遥かに生きてるアンタに言われる科白じゃな いわよ」 意思疎通があるんだかないんだか、今一つ真意の計れないマダム・レッドに、けれどこんな他愛ない会話が楽しいんだから仕方ないじゃないと、グレルは赤い髪をサラリと揺ら した。 |
| すみません、すみません(汗)此処はお遊びのオマケページです(汗) My Fair Ladyの設定のグレルとマダム・レッドはこんな具合なので、ちょっと書いてみました(汗)姉と妹の会話…。 |