TOM CAT











「もう…朝か…?」
 カーテンに遮られ漏れて来る光に、桃城は横着に腕を頭上に伸ばし時計を取ると、時刻を確認した。時刻は10時を少し回った所だった。
「早いな」
 早いという言葉は、この場合語弊が有るだろう。平日なら、それこそ遅刻ではすまない時間帯だ。けれど休日の、二人だけで迎えた朝にしては、上出来な程に早いという論法が桃城の内側では成り立ってしまうから、世間一般での時間軸は、この場合切り離されて思考されているのは間違いがないだろう。
 遮光カーテンに遮られた室内は、外部からは隔絶されてはいるものの、向こう側の快晴を伝えてくる光が、僅かに室内を仄暗く照らし出している。その微妙で曖昧な空間は、昨夜の情交の濃密な気配を、そのまま残滓の如く、その匂いともいうべき部分を残しているかのようだった。
 外から僅かに響いて来る休日特有の閑舒な声。それがまったくこの空間を切り離し、隔絶されてはいないのだと知らせていた。
「越前」
 相変わらず、丸くなってネコのように眠るリョーマは、桃城が動くと、温もりを求めるかのように無意識に細い腕を伸ばし、桃城に触れると、そのまま少しだけ身動ぎ、穏やかに眠り続けている。
 指先だけ触れてくるその僅かに得る体温に、桃城は苦笑する。リョーマの体温は、桃城より低い。穿つ幼い胎内の熱とは裏腹に、表面温度は桃城より若干低いものだろう。
それはこんな時、情交の気配や感触といもうのが、肌の奥に燻る程度になって漸く気付く事が出来る。それ程、日常的に触れるリョーマの体温の印象は、理性と感情の部分で落差が存在していた。
「起きろよ」
 こう言って、起きるリョーマではない事くらい、桃城とていい加減学習しているから、小声で呼ぶ声は、さした本気は滲ませてはいないものだった。
「オ〜〜イ」
 胸元でネコのように丸くなって眠る姿に、桃城が安堵している事など、リョーマはきっと知らないだろう。
 こうして穏やかな眠りを貪るリョーマを眺めては、莫迦みたいに感慨に耽る程度の楽しみで望みで、それが桃城の最優先される願いのカタなのだから、いい加減終わっている自覚の10や20、桃城も持ち合わせているだろう。
「タヌキの飯、買いに行くんじゃなかったのか?」
 片肘を付き、穏やかに眠る歳相応の寝顔を見詰める桃城の眼差しは、柔らかいものばかりを映している。その笑みが、此処最近。桃城をめっきり大人に見せているものだと言う事に、当然本人に自覚はない。ないから、リョーマに言わせれば、悪党と言う事になる。
 無駄に優しい笑みばかり見せつけられて、それが周囲の莫迦な女達をも勘違いさせて行くのだから、天性の人タラシもいい所だと言うのが、リョーマの内心だった。そして救われない事に、桃城にそんな自覚はさらさらない。ないから、より始末に悪い。笑顔を盾に使用する事に罪悪の欠片も覗かせないくせに、肝心な所で無自覚なのだから、確かに桃城は始末に悪い男の見本で、最低的に天性の人タラシだ。
「リョーマ」
 面白い遊びを見付けたと言うかのように、桃城は眠るリョーマの耳に口唇を寄せ、情事の最中、吐息で呼び掛ける声で囁いて見せる。見せれば、リョーマはピクリと反応し、桃城に触れる指先に、微量の力が籠った事を、触れられている桃城が気付かない筈はない。
「本当、弱いのなお前」
 苦笑する。
穏やかなこんな日常がひどく優しく大切なのだと思える程度に、自分はもうこの綺麗な生き物を手放す事はできないと、桃城は自覚している。リョーマもそうだろうかと考え、それは判らない事だと、尚苦笑を深めた。


『俺は、上に行くよ』


 暮れる夕日、高い空。スラリと伸びた腕の先。
端然とした綺麗な立ち姿に見蕩れた。同時に、半瞬覗かせた泣き笑いの貌に、胸の奥の奥を鷲掴みにされた衝動を感じた。


『羽なんてなくったって、歩いて行くから』


 毟り取った羽の在処など、桃城に判りはしなかった。
薄く細い肩に、かつてはあったのだろう羽。きっと毟り取ったのはリョーマの意志でも、最初にその羽の何処かを喰ってしまったのは自分なのだろうなと、桃城は薄く細い肩を眺めた。



「痛くねぇのか?」
 フト莫迦莫迦しく下らない感情が何処からともなく湧き、桃城はケットをソロリと捲った。
 華奢で薄く細い肩。一体この細身の姿態の何処から、あの力強いテニスは生み出されて行くのかと思える。生み出され、生み落とされ、誰をも魅了する切っ先に転じるのだろうか?何度見ても、桃城にその在処は掴めない。
 リョーマより少しだけ体温の高い節の有る指先が、細い肩に触れる。それはゆっくり肩甲骨を伝い落ちて行く。
「んっ…」
 吐息が甘く溶ける。華奢な身が、コロンと桃城の胸元に滑り込む。
 漏れた声に、昨夜散々に番ってもまだ足りない気分が、桃城の血の奥を生々しく灼いて行く。
 幼い躯を開いた罪悪はいつも何処かに存在している。そのくせに、決して後悔はできないタチの悪さも、桃城は自覚していた。まるで知恵の果実を喰った気分だ。
 果実を喰う事を嘲笑したのは蛇でも、喰う事を決めたのは喰った者の意志、それだけだ。蛇はあくまで選択を与える者であり、決めるのはいつだって人間だ。
 果実を喰って得た知恵は、一体何かと思う。羞恥でもなく、背信でもなく。告解など微塵もない。ただ感じるものと言えば、幾重かの莫迦莫迦しい下らない感傷、それだけだ。喰うように奪ったリョーマの一部。けれどそれさえ傲慢な思考だと、気付かない桃城ではなかった。
 リョーマという綺麗な生き物を喰う意思は、桃城の内部から生み出され、共食いするように貪り番った。それこそ此処最近は、互いに引いた筈の境界線が、不明瞭な領域に解離していて、肉体という境界線まで凌駕してしまうから、脳髄が腐食していく感触すら生々しい程だ。濃密な気配に滴る生血のような情欲。何度番っても未だ足りないと、何処までも相手を喰う事に没頭する。意思も意識もすべてを喰い尽くさなくては、肌の奥を灼く焦燥が収まらない気分は、此処最近増すばかりだ。まして腐食して行く感触すら、何処か得体の知れない心地好さをも与えてくるから、タチが悪いし始末に悪い。きっとこの激情は、貪欲に貪り喰いあっても、簡単に収まるものではないだろう。
「ホァラ〜〜〜」
 桃城の、少しだけ歪んだ思考を絶つように、床の上で、聞き慣れた声が鳴いて存在を主張した。
「タヌキ」
 流石にリョーマのベッドに二人と1匹では寝られないから、桃城がこうして居る時、リョーマの愛猫のカルピンは、フローリングの床に置かれたクッションの上が、寝場所になっている。そのクッションの上から、リョーマと何処か似通った空色の瞳が、ユラユラ尻尾を揺らし、桃城を見上げていた。
「起きたのか?」
 愛嬌の有る独特の鳴き声に、桃城はおいでおいでと手招きすれば、未だ寝ている主人を慮ってか、カルピンは足音も立てず、軽い仕草で、トンッと桃城の所まで歩いて、枕元に飛び乗った。けれどその身軽さは流石にネコで、重力抵抗など感じさせず、さした音も立てずに桃城の枕元に乗った。
「腹減ったか?」
 ユラユラ尻尾を揺らし、キョトンと小首を傾げるように覗き込んでくる空色の瞳に、桃城は薄い笑みを浮かべた。
 つくづく、似ていると桃城は思う。このネコと飼い主は。覗き込むこんな仕草一つとっても類似性があるのだから、やはりリョーマはネコだ。そして、猛禽の鉄爪を研いでいる。
「お前のご主人様な、起きないんだよなぁ」
 喉元を撫でてやれば、気持ちよさげに声を上げるカルピンに、桃城は話し掛ける。
「お前また、ママのミルクでも飲むか?」
 思い出し、桃城は面白そうに笑った。


『んんっ…やっ…ぁ…いや…いやぁ…で…ちゃぅ…やぁぁ…』


 桃城に背後から抱き上げられ、下肢を恥ずかしい程左右に開かれたその間に、音を立て幼い肉茎を貪っていたのは愛猫だった。押し寄せる射精感を必死に怺えつつ喘いでいたリョーマは、それが雄の嗜虐を刺激してしまう被虐性だと気付く事はないだろう。
 流石にあの時は互いに二日離れていた所為で、理性的なものなど、綺麗に吹っ飛んでいた。貪る激情と情欲だけに支配された情交は、獣のそれだっただろう。元々性交と交尾に、さした落差など存在してはいない。むしろ獣の方が、有る意味、理性的なのかもしれない。種を残す為の発情、それだけなのだから。 たかが二日、離れていた事に大しての、自分でも思ってもいなかったその衝動に驚いたのは桃城であり、リョーマであり、互いに味わったものは大きく深い。
 知り合った一年近くの時間の中。二日会わなかった事など、さして珍しい事でもなかったと言うのに、近しくなった距離を代償に、離れ難さというものを手にしてしまった。そんなものを抱え込んで、これから先、離れて行く事など出来るのか?桃城には些か不安になる部分でも有った。
 夏休みに冬休み。夏休みは全国大会があり、それこそ連日習で顔を合わせ、夏休みも終わりの時期に、練習のオフ日があった程度だ。冬休みは、29日まで練習は合ったから、確かに合わない日の方が珍しい事だっただろう。けれど二日合わなかった日がなかったかと言えば、そうではないから、確かにあの時。二日間会えなかった意味は、物理的距離を意味していたのだろう。
 そして3日振りに会った時。互いに綺麗に理性は放棄していたから、どうしようもない行動に出た自覚は桃城にもあった。流石にそれだけは嫌だと言って拒否したリョーマとの情交に、子供を混ぜたのだから、確かに有る意味では最低で、ある方向性の中では、プレイだっただろう。
 カルピンの言葉が判らなくて良かった。
激情に支配された時間が去った時。開口一番、リョーマがしみじみ言った科白はそれだから、ソロモンの指輪はなくて正解、そういう事だろう。その少し前には、愛猫の言葉が判ればいいのにと、愚にも付かない事を言っていたリョーマだ。
「タヌキ、いい加減、ママ起せ」
 リョーマが起きていたら、きっと悪態を吐かれるだけでは済まないだろう『ママ』という科白は、よく南次郎が使うものだ。 南次郎の眼には、どうやら桃城とリョーマがカルピンを抱いていると、親子の構図にしか見えないらしい。それでよくカルピンに向かい言っているのが、桃城をパパ、リョーマをママ、そう呼んではリョーマの不興を買い喜んでいるのだから、南次郎とリョーマの親子間のコミュニケーションは、相変わらず得体が知れないと思う桃城だった。
「そんで起したらな」
 カルピンに、通じる筈もないたろうが、つい莫迦莫迦しく内緒話しをするかのように囁いてしまう桃城だった。そしてカルピンはと言えば、キョトンと小首を傾げ、それでもおとなしく桃城の言葉を聞いていた。





「カルピン、重い」
 トンッと乗った圧迫感に、リョーマは呻き声を上げた。
「ホァラ〜〜〜」
 ペシペシと、前足でリョーマの肩を叩く仕草は、確かに端から見ていれば、子供が親を起す構図に見えない事もない。けれど実際桃城にしてみれば、親子というより、リョーマとカルピンだけを見れば、兄弟のソレに見えるから、南次郎と桃城では落差が存在しているのだろう。
「判った、起きるってば」
 ペチペチと叩き続ける愛猫の戯れに、リョーマは堪り兼ねた様子で半身を起した。パラリとずり落ちていくケットの中から現れたのは白い裸体で、仄暗い室内にも、リョーマの白い裸体は冷ややかな彫像のように際立って見えた。けれど其処に宿るのは魂の通わない無機質なものではなく、肉の欲望も知っている血を持つ愛しい者、だった。
「ったくあんた何で、普通に起さない訳?」
 半身を起し愛猫を腕に抱き、リョーマは隣で片肘を付き、面白そうに事態を見守って笑っている桃城に、憮然とした表情を向けた。
「呼んでも起きなかったの、お前だろうが」
 嘘ではなかった。その声が本気のものなど何一つ映してはいなかったとしても、呼んで起そうとした事実は嘘ではない。
「だからタヌキに起してもらった」
「あんたサイテー」
 近頃何かと、カルピンを構って遊ぶ事に楽しみを見出している桃城の事だ。リョーマにしてみれば、子供に旦那を取られた気分と言うのも、全く嘘ではなかったのだろう。ましてセックス最中、その子供を交ぜたのだから、最低にも程がある。そしてもっと最低なのは、そんな異常な状況の中でも、桃城とのセックスに、どうしようもなく快楽を感じてしまう自分の浅ましい肉体だった。
 女にされ、抱かれる躯に慣らされ、受け入れ、穿たれる事で抱きしめる事が出来る。そんな生易しいものではなかったのだと、二日間会わないあの時に、思い知らされた。
「お前、タヌキの餌買いに行くから起せって言ったろ?」
 誰もが愛猫を可愛がっている中。珍しくもカルピンのキャットフードを切らしてしまったらしい事にリョーマが気付いたのは、昨夜愛猫に餌をやった時だった。買い置きが有る筈だと思っていた買い置きが無かった。だからどうしても、午前中にキャットフードを買いに行く必要があったのだ。
「可愛い子供の為なんだから、あんた一人で買いに行ってきてくれてもいいんですよ?
ねぇ?パパ」
「………お前本当は起きてたろ?」
「さぁね」
 クスクスと笑い、リョーマは腕から愛猫を離すと、スルッと桃城の胸元に滑り込んだ。
そんなリョーマと桃城に、狡いとばかりに、カルピンが抗議の鳴き声を上げた。
「起きるんじゃないのか?」
 こいつはまったくと、大仰に溜め息を付く。触れれば互いに身の裡に持ち越してしまった昨夜の残り火が、燻るだけでは済まないと判っていて、リョーマは桃城の肩口に顔を埋め、笑っている。
「起きるよ、でもいいじゃん。少しくらいこうしてても」
「抱き合うだけじゃ済まなくなるって判ってて、するなよお前は」
「済まなくなるんだ?」
 埋めた場所から顔を上げ、覗き込むように桃城を見上げれば、桃城は溜め息を付く。
「お前、だから朝からその眼はやめろって」
 もう幾度か言った科白で、けれど実際効力のない科白だ。
「娼婦みたい?」
 クフフッと笑い、リョーマはスルッとネコ科の小動物のような仕草で、桃城から身を離した。横着にベッドから床に身を乗り出し、放り出してある桃城のパジャマの上着に手を伸ばす。
 濃紺の桃城のパジャマは、いい加減リョーマの家に泊まる回数が増えた時、持ち込んだ物だ。最低な事に、リョーマの部屋には桃城の泊まり道具が一式揃っているという有様だった。それを見るにつけ、いっそ同棲しちまえと嘯いて笑うのは、南次郎だ。
「タヌキ」
 二人で過ごす夜。リョーマが自分のパジャマを着る事は滅多ない。大抵桃城のパジャマの上を羽織って過ごす。だから今も床に放り出してあるのは、桃城のパジャマだけだった。
 自分のパジャマの上着を纏いながら、トンッとベッドから抜け出したリョーマに、桃城はカルピンを呼んだ。
「ホァラ〜〜〜」
 桃城が呼ぶと、キョトンとした仕草で鳴いたカルピンは、床に散乱しているリョーマの下着を咥え、ダッと走り出して行く。
「カルピンッッ!」
「お〜〜スゲーなタヌキ。あいつ案外言葉判るかも知れないぞ」
 けれど桃城の笑いも、其処までだった。先刻判らない筈のネコに、内緒話しをするかのように持ち掛けた話しはまさしく今の状態で、けれどそれはこの部屋だけに止まっている筈だった。が、運悪く部屋の扉がきっちり締まっていなかった事が災いして、カルピンは素早い動きで、室内を飛び出して行く。
「カルピンッ!」
「あちゃ〜〜〜」
「あんた!一体カルピンに何教えこんでんのッッ!」
 今まで、こんなタチの悪い悪戯を、カルピンがした事はない。と言う事は、桃城が教えたのに違いないと思うリョーマの思考回路は、正鵠を射ていた。
 パジャマのボタンを2、3止めただけの格好で、リョーマは仁王立ちして桃城の後頭部を殴ると、慌ててカルピンを追い出した。
「越前〜〜〜お前その格好で部屋走り回るな」
 慌てたのは桃城も同様で、放り出してあったパジャマりズボンに脚を通すと、慌ててリョーマの後を追い出した。幾ら一回り以上大きいパジャマとは言え、上着だけを羽織って下着を付けていない格好で走られたら、堪ったのではない。
「あいつマジ、言葉判るんじゃねぇのか?」
 廊下の向日から響いてくるリョーマの声に、桃城は溜め息を吐き出した。








「カルピン、コラ、返せってば」
 リョーマの家は部屋数も多く、案外と広い。廊下を威勢良く走り降りたカルピンは、馴染みの居間を走り回っている。
「コラッ!」
「越前、頼むからその格好で走り回るな」
 ヒラヒラ裾が捲れ上がる都度、剥き出しの白く靭やかな下肢の付根が見え隠れするのに、桃城は堪らず叫んでいた。
「誰の所為だって思ってんスかッ!」
「とにかく」
 既に鬼ごっこになっているリョーマとカルピンの追い掛けっこに、桃城は大股で近付くと、ヒョィッと擬音が聞こえそうに軽い動作で、リョーマを背後から片腕で抱き留めた。
「あんた邪魔ッ!」
 片腕一本で抱き留められ、それでもリョーマはじたばたと暴れている。これじゃガキそのものだと思いつつ、けれどリョーマは未だ13歳になったばかりのガキだと、桃城は思い出す。 どうにも情事の最中は娼婦宛らの妖冶さで挑発されてしまうから、時折その年齢を桃城が忘れそうになったとしても、罪はないだろう。
「落ち着けって」
「これが落ち着いてられるかっての。大体カルピンに下らない悪戯教えたの、あんたでしょうが」
 桃城に抱き留められてしまった視線の先で、愛猫はリョーマの下着を咥えたまま、キョトンと様子を窺っている。どうみても事態を楽しんでいるのが、ユラユラ揺れる尻尾から判ってしまうから、桃城に八つ当たりの一つもしたくなるのは、仕方ないだろう。
「お前が俺とばっか遊んでっから、構ってもらいたいんだろう」
「逆じゃん。あんたがカルピンばっか構ってるんでしょうが。大体子供の前で教育上良くないとか言うわりに、あんたこの頃平気でカルピンの前でセックスするじゃん」
「そりゃお前だろうが。タヌキが恥ずかしがる程しようって、仕掛けてくんのはお前だろ」
 結局、どちらもバカップルの発言だと自覚がないのだから、これで南次郎当たりがいたら、立派にそのネタだけで当分遊ばれるのは間違いないだろう。
「桃先輩の節操無し」
「そりゃお前だ」
「ホァラ〜〜〜」
 二人の口喧嘩とも言えない軽口は。きっと南次郎が居たら、それこそピロトークと断言されてしまうだろう類いのものだ。それこそリョーマの発達した日本語は、彼氏とのピロトークの成果だと、南次郎には思われているのだから。
「ったく、カルピンは」
 足下に戯れ付いてきた小さい温もりに、リョーマは怒る事などできなかった。できなかったから、口から下着を離し戯れ付く小さい躯を抱き上げる。
「でも利口だぞこいつ。絶対言葉判ってるな」
 リョーマに抱っこされ、背後から覗き込んでいる桃城をキョトンとした仕草で見ているカルピンは、構ってと言うかのように、愛嬌の有る鳴き声を上げている。
「桃先輩、親バカ」
 桃城の科白に、リョーマが呆れたのは言うまでもない。