「ねぇ?あんたはそれで満足なの?」
情事の熱に浮かされた肌が、漸く通常の体温に戻りつつある中。リョーマは桃城の腕の
中、半身を起こし、端整な貌を覗き込むように口を開いた。薄い腰を滑り落ちるケットが、
パサリと渇いた音を立て、撓んだ。
白絹のようなリョーマの肌に、桃城が見える場所に愛欲の痕を残すのは、決まって白い
内股の内側に限られている。その反面。リョーマが残す情事の爪痕は、桃城のそこかしこ
に散らばっていた。だから桃城の褐色の肌の上には、遠慮無しにリョーマが刻み付けた
色濃い情欲の痕が、胸や腕、シーツに密着して今は見えない背に、残されていた。
「なんだ急に?」
元々、周囲にも自分自身にも無頓着なリョーマは、時折こうして一切の文脈を無視した
形で、話し出す事がある。それはリョーマの人間形成の不得手さを顕すのと当時に、国語
なんて嫌いという子供っぽさが、同居した形で、現れる事を判っているから、桃城は別段
気にもしなかった。
桃城は、半身起こして覗き込んでくる小作りな容貌を凝視し、次には深い苦笑を漏らし、
リョーマより太い腕を伸ばした。
「こんな俺で、あんたは満足?」
伸ばされた腕を掬い上げ、リョーマは自分にはない節の在る長い指に、口唇を寄せる。
桃城の指は、自分にはない、大人の男の指をリョーマに連想させる。リョーマは口吻て
から、自分の掌中と見比べて、再び口唇を寄せた。
「コラ、噛むな」
カリッと、小さい擬音が響きそうな淫靡さで、リョーマが桃城の中指に歯を立てた。ネコ
が舐めるのと大差ないその仕草に、当然痛みなど伴うものはない。
リョーマの歯は白い。日本より、余程歯科教育が徹底されているアメリカで育ってきたリ
ョーマの歯は、歯科検診の歯科医師を感嘆させる程、白く綺麗な歯並びをしている。
尤も、スポーツ選手にとって、歯はある意味絶対的に強度の必要な代物だから、桃城と
て歯には気を配ってはきたが、リョーマの綺麗な白い歯に、到底適う筈はなかった。
「お前、俺の指とか手とか、好きだよな」
気持ちいいのか?そう笑う桃城に、リョーマは節目がちに指を舐めていた眼差しで、チ
ロリと桃城を眺め、笑った。
「俺の事、俺以上に知ってるやらしい指。女にした俺の奥深くを弄るやらしいあんたの指、
凄く好きだよ。俺を浅ましくするあんたのやらしい指。太い腕全部ね。あとは、ココ」
ココと、悪戯気に、リョーマの片手が桃城の雄に伸びた。
「コラ」
「あんたのココ、まだとっても元気でしょ?」
繊細に縁取られた小作りな顔を桃城の眼前に突き出し、背後に桃城に愛撫を加えたま
ま、リョーマが笑う。
「お前、話しとんでるぞ」
ヤレヤレと、桃城は薄すぎる躯に片手を伸ばし、簡単に体勢を入れ替えた。
「ホラ、元気じゃん」
クスクスと、リョーマは笑う。伸し掛かってきた桃城に、即座に下肢を開く。
「っで?」
体勢を入れ替えた拍子に、ケットの半分以上は、床に落ちている。シーツの上に撓んで
いるのは、お情け程度のものだ。
「?」
桃城を挟む恰好で下肢を開き、リョーマが小首を傾げた。
「満足って、なんだ?」
惚けるのは、早すぎるだろう?そう笑えば、リョーマはやはりクスクスと笑った。
伸し掛かり、吐息が触れ合う温度で覗き込むと、リョーマはその瞬間だけ、何処か苦し
そな表情を作る。その表情に隠された意味など、桃城には今更だった。
「お前は、本当、俺なんかより、優しい奴だよ」
クシャリと、汗と涙と、それだけではない滴を含んで濡れる髪を、梳き上げる。
「優しくないよ。全然。あんたには、優しくない」
髪を掻き回され感じるのは、切ない程の恋しさでしかない。一体いつから、こんな化け物
のような恋慕を持ってしまったのか。教えられたのか。リョーマにも、その境界線は不鮮
明だ。
触れてくる体温。他人の肌が心地好いと感じるのは、それなりに築かれる関係故だ。
誰にでも心地好いという感触を抱ける程、浅ましくはなれない。
その浅ましさと心地好さを、たった一人の男に教えられた淫猥さに、リョーマは時折どう
しようもない想いに囚われる。
「優しいよお前は。だからどうにも傷ついて、そんな顔してんだ」
突然前後の文脈を無視して語られ問われた言葉の意味を、判らない桃城ではない。
その意味など、時折不安定になるリョーマから感じ取れるもの以外の、なにものでもない。
「俺は……」
繰り言だと判らない程、リョーマは無知ではなかった。けれど時折こうしてどうにも確か
めないと不安に駆られる衝動を、堪えて持ち越せる程、大人でもなかった。
「俺は、最後には自分しか選べない……」
「そんなのは、人間生きてれば、誰だって当然だろ」
下から、縋るように伸ばされ、頬を触れていく形良い指を掬い上げると、桃城は口吻る。
「あんたが一番ならいいのに。テニスじゃなくて、あんたの事だけ一番考えていたいのに!」
それは時折リョーマが覗かせる不安の形で悲鳴だと知っているから、桃城は宥めるよう
に、抱き締めてやる。躯を繋ぐ行為が、寂しさと贖罪を伴う行為ではないように。
「頭が可笑しくなる程、あんたの事しか考えられないようになればいいのに」
テニスも何もかもをかなぐり棄てて。ただ恋する男の事だけを考えていたい。実際、テニ
スに割く時間以外の事は、近頃そんな事ばかりだ。それは桃城が何処に向かおうとして
いるのか、一切手の内を覗かせないから、尚不安に駆られるのだ。
「俺が一番最初に惚れたのは、テニスしてるお前にだよ」
「……だから…あんたよりテニスを優先しろって言うの?俺を女にして!あんたの事しか
考えられない雌にして!」
それはあまりにも、無責任な事だろう。
「俺がどんな浅ましい事考えてるか知りもしないで。あんたは知ってる?あんたのペニス
に突き崩されて、ずっと咥え込んでいたいとか、24時間、1年中。あんたのペニスに貫か
れていたいとか。そんな浅ましい事しか考えてない俺の事。あんたは知りもしない。女な
んて、綺麗なもんじゃない。雌だよ雌。あんたのペニスに犯される瞬間の事しか考えてな
い雌だよ。セックスする事しか考えられない。頭可笑しくなる程、あんたとセックスする事
しか考えてない」
「越前……」
吐き出される激情に、桃城は自分の罪深さを、見せつけられていくのは、いつもの事だ
った。
リョーマにテニス以外の恋情を教えてしまった罪深さを、桃城は嫌と言う程正確に理解し
ている。リョーマは、テニスしか知らなければ、それこそ生きやすかっただろう。テニスの
事だけを考え、頂点に向かえだけを目標に。雑念になど囚われず。そうすれば、リョーマ
は苦しまずに済んだ筈だ。
「それでも…それでも俺は…上に行くって決めた……」
吐き出した激情の次には、ポツンとした呟きが漏れた。
それは痛々しさを滲ませた呟きだった。
「俺は、優しくない。あんたの事だけしか考えられないくせに、テニスを棄てられない。上
に行くっていうのを、棄てられない」
棄てられないのは、痛みさえ孕む幾重かの選択肢の中。泣き喚きそうな衝動に駆られ
ながら、出した答えだからだ。
乗り越える壁である父親を超え、世界の頂点に立つ。それはリョーマがほんの幼い時
から、持ち続けてきたものだ。リョーマにとっての目的は、プロになる事ではなく、父親を
叩きのめす事だった。父親が成し遂げず引退した世界ランキング1位になる事。それがリ
ョーマの夢、というより、野望だった。けれどリョーマは知らないのだろう。だろうと、桃城
は組み敷いた小柄な顔を覗き込む。
何故南次郎が、世界ランキング1位を目前に引退してしまったのか。リョーマにも話して
いないと言った南次郎のその理由を、桃紙が聞いたのは、正月だった。その時改めて、
南次郎には適わないという実感を深めてしまった桃城だった。
「お前は、それでいいよ。テニスして、笑ってろ」
それは桃城が最初に願い、墓場まで持ち込む願いだろう。
「あんたは?」
慄える声で尋ねたみた所で、桃城が決してその先を言わない事を、リョーマは学習して
いる。
「俺は、いつだってお前と居るよ」
お前が望む限りは。
そんな言葉を簡単に、何でもない事のように言ってしまう桃城の悪党さに、リョーマは泣き
笑いの貌をする。
「あんたやっぱ悪党じゃん。人でなし。詐欺師」
「お前限定の詐欺師だ。安心してろ」
それはリョーマの為に必要なら、幾重もの嘘は吐き続けて行くということなのか?リョー
マには判らなかった。
「………何と引き換えたら、あんたを手に入れられる?」
何の犠牲もなく引き換えられるものなど、この世にはないと、リョーマは思っているのだ。だからこそ渇いていく。躯を繋げても、だからこそ満たされない。
いっそテニスしかできないこの左手と引き換えたなら、桃城は手に入るのだろうか?
そう考えて、リョーマは自嘲する。そんな犠牲で手に入る桃城なら、それはきっと桃城で
はないと知っているからだ。左手と引き換えて手にいれる桃城は、それは多分同情と憐
れみという名しか持たないものだろう。
「お前が俺を枷にしないで、歩いていてくれたら、俺はいつだって此処に居る」
泣きそうに顔を歪めるリョーマを見下ろしは、桃城は柔らかく口吻る。
「あんたはさ、絶対羽衣隠してはくれないよね」
「またお前はそういう……」
「隠さないで、羽衣渡して、天女天に還しちゃうんだよね」
リョーマの細い両腕が、スルリと桃城の首に回る。
「俺の事も、そうなの?」
「お前は?お前どうなんだよ。羽衣渡されて、天に還っちまうのか?」
「還る必要ないじゃん。天女だって、きっと還りたくなかったと思うけど?」
幾重か存在する七夕伝説の中。天女の羽衣が題材になっている節もある。
「俺は、羽も羽衣もいらない。別に天を飛びたいわけでもないから」
回帰したいのは、いつだって桃城へだというのに、桃城が望むのは、テニスへだ。だか
らこそ、上に行かなくては、桃城に回帰さえ許されない気がして、時折胸が痛む。
誰かに依存して成り立つ道など、長続きはしない。それは自分の意思ではないからだ。
少なくともリョーマは、桃城に依存して、上に行く道を決めたのではなかった。けれど時折、リョーマの意思を無視して、身の裡の淵から言葉にできない不安が顔を覗かせる。以前
は制御できた筈のそれも、今は何故か制御できない。その餓えを満たすには、こうして一
時の繋がりでも桃城と番うしか癒されない。その後に更に餓えがひどくなると判っていて
も、番わずにはいられないのだ。
「だったら俺は、藁草履千足編んで、お前に会いに行ってやるよ」
天に還った天女は、きっと一時でも共に過ごした男と一緒に居たかったのだろう。だか
ら天に伝わる道を示した。
千足の草履を編み土に植え、その上に竹を植え、天に伸びる竹を伝い、会いにきてほし
い。そう願ったのかもしれない。
「どれだけ遠くにお前が行っても、呼べばちゃんと行ってやるから」
「あっ……」
柔らかく触れてくる口唇に気を取られている間に、もう十分硬度を持った桃城自身が、
先刻の情事で渇いていないリョーマの秘花に、押し込められてくる。
無自覚に、桃城の首に回した両腕に力が入り、爪を立てる。胎内の深みからトロリと溢
れ、内股を穢がして行く愛液は、今も渇く事なくリョーマの白い下肢を濡らしている。その
小さい入り口に、桃城はゆっくりと慎重に、昂まる自身を押し込んで行く。そこはプツリと音
が聞えそうな威勢で桃城を飲み込み、後はもう沼地のような滑りが桃城を襲った。生温
い爛れた熱さは、まるで泥沼のような沼地を連想させ、桃城の雄を絡め取る。抱きながら、抱かれていると思うのは、リョーマと繋がれば、感じるのはいつもの事だった。
「いっ…」
気持ちいいと、白く薄い背が撓うのに、桃城は昂まる自身を根元まで押し込んだ。
乱れきったシーツの上。リョーマの背が綺麗に撓った。
□
「ねぇ?あんたに逢う為天の川を渡るのに、もし渡し守が俺を求めて、それじゃないと天の
川渡らせないって言ったら。他の男に抱かれて逢いに行く俺を、あんたは抱いてくれる?」
残骸となったシーツを床に放り出し、反対に、床の上に落としたケットを敷き込んで、新し
いケットを肌身に掛け、リョーマ桃城の腕の中で、何が可笑しいのか、クスクスと笑ってい
る。
「お前絶対親父さんと、ろくな話ししてないな」
ったくこの親子はと、桃城は苦笑する。
「逆だよ。親父に訊かれたの」
七夕の話しが出た時。南次郎がリョーマに尋ねたまは、そんな下らない事だった。
「それでお前は、どう答えたよ」
「訊きたい?」
腕の中、桃城をチロリと見上げれば、桃城は苦笑しか浮かべてはいない。と言う事は、
大凡答えなど判っていると言う事なのだろうと、リョーマは更に可笑しそうにクスクスと笑
う。
「お前が、そんな殊勝なもんか」
「なんで?」
ゆっくりと、桃城の下肢に、リョーマの下肢が絡んだ。
まだ足りない。番っても番っても、餓えは更にひどくなる。
「俺以外に抱かれて、お前が正気でいられるとは思えない」
正気な顔をして、内側に狂気をため込んでいくようなものだ。正常と狂気の境界線を、
当のリョーマ自身の意識なく失しなって行く。気付いときには、きっと遅いだろう。
「だったらお前は、端から相手殺して、血みどろになって、俺に逢いにくるだろ?」
自ら船を漕ぎ、血に塗れた顔をして、平気な顔で逢いにくるに違いない。
「サイテー」
まったくその通りの科白を、リョーマは南次郎に語っていた。
『俺があの人以外に、抱かれると思う?』
一年に一度の逢瀬。恋しい男に逢う為のたった一つの手段。別に船を漕ぐのが、他人で在る必要は、何処にもない。
『目的の為には、手段選ばないんじゃないのか?』
南次郎の知っているリョーマは、勝ち気な性格をしている子供だった。周囲にも自分に
も無頓着で、目的の為には、躯さえ平気で穢がしても笑っていられるような子供だった。
それが南次郎の危惧になっていたのだと、リョーマは知らない。だからこそ、リョーマが桃
城という特別を得て、執着する意味や何かを覚えてくれた事を、南次郎は喜んでもいたの
だ。それがどれ程、世間からは歓迎されない、爛れた同性同志の関係でもだ。
『目的と手段が逆転して、どうするって?親父、莫迦じゃないの?』
呆れた顔をして笑ったリョーマは、けれど何処までも怖い程妖冶な笑みを刻み付けていた無自覚さに、気付いてはいなかっただろう。そして南次郎は気付いたのだ。むしろ理解していた事実を、改めて目の当たりに曝された気分だっただろう。
『あの人以外に犯されるくらいなら、殺してやる』
壮絶な妖冶さを刻み付け笑った微笑みが、どれ程南次郎に驚異を与えていたのか、リョーマは知らない。
『俺がどうにもならない雌だって、親父だって気付いてるくせに』
クスクス笑うリョーマの艶冶さを、身の裡に抱き込んでしまった、柔らかいだけではない痛々しい恋情を、その時南次郎は初めて気付いたのかもしれない。
それはこれから先。リョーマが歩む道筋の困難さと同時に、もう二度と、離れてはいけな
いだろう二人を想い、南次郎が幾重かの後悔を抱いた事を、リョーマは知らない。
そんなリョーマとは相反し、きっと桃城は気付いただろう。こうして話しているだけでも、
情報として、桃城は南次郎が感じただろう幾重かの後悔を、推し量る事ができただろう。
「辛いか?」
薄い躯を抱き込んでいる躯が、ケットの中でモソリと動く。肩肘を付き、桃城がリョーマを
覗き込んだ。
「あんたの事しか考えられない頭だったら、辛くなかった」
ねだるように、リョーマの腕が伸びる。
もう幾度となく繋げた躯は熱を失せる事を知らないように、貪婪にたった一人の雄を求め、簡単に喘いでいく。
「お前がな…」
自嘲とも、苦笑とも付かない曖昧な笑みを浮かべ、桃城の指がリョーマの頬を撫でて行
く。
「お前が、もし本当に辛いならな、逃げる事も、時には悪くないかと思ってるよ」
リョーマに自覚はないだろう。テニスに餓える自覚は、リョーマにはない。リョーマにとっ
て、テニスは呼吸する程自然なものだから、リョーマにテニスに対する餓えはない。
けれど万が一、互いの関係だけに溺れてしまったら、リョーマは間違いなくテニスに餓え
る。餓え尽くして、水を奪われた魚りように、干からびていく。それでもリョーマはその狂気
を、きっと自分の前で曝すような真似はしないだろう。だから尚更、桃城はリョーマからテ
ニスを奪えない。
壊れてほしくはないからこそ、テニスを続けてほしいと願う桃城の想いなど、到底リョー
マが知る筈はない。それは別段、リョーマが知る必要もない、桃城の隠された真実の願
いだった。
「嘘つき。逃がしてなんて、くれないくせに」
テニスを棄てる事は、決して許してはくれない。桃城という男だけに餓え尽くしていると
いうのに、こんな局面でさえ、桃城は逃がしてはくれない。
「俺なんて、本当つまらない生き物だよね。テニスしかできなくて、あんたって男の事しか
考えられない」
テニスしかできない子供。それはテニスしか知らない子供だった。そしてどうにもならな
い恋情を教えられ、雌になる事しか考えられない。綺麗な部分の欠片もない醜悪な生き
物。けれど実際、人間最後の最期は、そんな醜悪さが、残るのかもしれないと思えば、そ
れも悪くはないのかもしれないと、リョーマはひっそりと笑う。
「別に、逃げ出す事が、悪い事なんて思ってないさ。実際辛いなら、そんな時も必要だろ」
「一時っていう、限定のくせに」
「逃げ出したままなんて、それこそお前の性格じゃないだろ」
頬を辿る節のある長い指が、酷薄な口唇に辿り着くと、朱に濡れた舌が、淫靡に差し出
され、舐めていく。
「でもそういうのは、俺の見える部分でしろよ」
何処とも知らない場所ではなく。どうか自分の眼の届く範囲でしてほしいと願う桃城の
科白に、リョーマは半瞬だけ泣き笑いの表情を浮かべ、
「あんたやっぱりさ」
カリッと、小さい音を立て、白い歯が指を噛む。
「最低の悪党」
決して逃げ出す事など許してはくれないくせに、自分の眼の届く範囲で逃げ出せとは大
概な科白だと、もう笑うしか手段は残されてはいない気がして、リョーマは泣き出しそうに
笑った。
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