悪い男
act3












 ベッドサイドの照明だけが灯された室内には、リョーマの嫋々と啼く艶やかな嬌声が繰
り返されていた。ギシギシとなるスプリングの音。リョーマは背後から深々、桃城に犯され
ている。
「やっ…やぁ…跡…付けないで…」
 崩れるように撓む白い背が、薄闇の中、そこだけがまるで静謐なもののようだった。
既に桃城に腰を抱え上げられていなければ、リョーマは膝さえシーツの上に立てている
のは困難な情欲に支配され、小作りな頭は枕をフローリングの床に投げ落し、シーツの上
で身悶えを繰り返すように頑是なく振り続けている。
 ダラリと垂れる頭。シーツを掻き乱す白い指先。怺える術を失い、淫らにシーツを濡らし
ていく流涎。
「んゃ…ね…がい…桃…先輩…跡……ひぁ…ッ!」
「今夜だけは、無理だな」
 今まで幼い躯を開いてきた桃城が、リョーマの肌に情交の跡を残すとしたら、それは人
目には付かない足の付根に限られていた。あからさまに跡を付け、他人にリョーマの所有
を見せびらかす程、桃城はガキではなかったし、むしろ誰も知らない、自分だけが知るリョ
ーマの所有印を見て楽しむ程度の余裕がなければ、悪党とは言えないだろう。けれど今
夜の桃城は違った。
「ぁぁん…だめぇ…」
 耳朶を甘噛みされるように囁かれ、項や首筋を彷徨っている。敢て淫らな音を立ててい
るのだろう。淫靡な舌戯を繰り返すそれは、時折柔らかい皮膚に痛感を与え、甘噛みし、
吸い上げる仕草を繰り返している。
 それが何を意味するか、情欲に囚われ耽溺しているリョーマにも、朧な意識の片隅で判
ることだった。
 後髪で隠れてしまう部分を、丹念とも、玩弄とも言える仕草で淫らな舌戯を繰り返す桃
城の、情事の最中では、時には意地の悪い男に変貌するのを、リョーマは身を持って教
えられている気分に陥っていく。けれどそれに対する不快は微塵もなく、むしろそれは更
に淫蕩に耽る官能をもたらしてくる。
「桃…先輩…桃先輩……」
 ガクガクと顫える細腰。幼い射精感に、リョーマは身悶える。直接的な愛撫を加えてもら
えない幼いリョーマ自身が、先端の窪みから粘稠の愛液を滴らせ、痛い程反りかえって
いる。それは白い内股を伝い、シーツに染みを作っていく。幼いリョーマ自身が顫える様
は、哀願する淫靡さにも見える。
「ん…くふぅぅ…もぉ…」
 先刻から、捏ねるように腰を押し込めてくる桃城に、胎内の深い部分を丹念に擦られ、
それでもイカせてもらえない意地の悪さに、リョーマは哀願を繰り返している。
 それでも、女の性器と変わらぬ悦楽を、桃城というたった一人の男に教えられたリョー
マの内側は、女と変わらない淫らさで胎内の雄を柔らかく締め、後ろでイクことを教えられ
た柔襞は、桃城の雄に貪婪に絡み付き、自ら絶頂を極めようと無自覚に細腰を揺すり立
てている。その淫らさに、リョーマは気付かない。
 貪婪に快楽を貪る淫らさの前には、どんな男もあっさり陥落してしまう程の、妍冶さが滲
み出ている。それさえリョーマに自覚はない。リョーマの自覚しているものなど、桃城とい
う男に躯を開くことを教えられ、抱かれ達する快感に、桃城というたった一人の男の為の
娼婦だという自覚だけだった。所詮清潔と淫蕩はコインの裏表で同一のものだ。堕ちる所
まで堕ちた娼婦こそ、高貴さを纏うものだというのが、リョーマの持論だった。それはまる
で、美徳が勝れば悪徳が増すというのに、何処か似ているのかもしれない。
「まだだ…」
 焦爛する胎内に、昂まる自身を埋没させている桃城とて、実際余裕など何処にもない。
荒々しい情欲の吐息を吐き、崩れそうになっている細腰を抱き抱えるように固定し、貪婪
に絡み付いてくるリョーマの柔肉に、捏ねるように腰を押し込めていく。
 細い腰だけを抱え上げられているリョーマは、腰から上はダラリとシーツに伏せ、嫋々に
喘いでいる。腰だけを突き出す恰好はひどく淫らで、雄の欲情と嗜虐を煽情する被虐性
が、垣間見える。
「リョーマ……」
 伸し掛かる威勢で更に腰を併せ、壊れそうに細い腰を引き寄せると、リョーマの掠れた
嬌声が嫋々に響く。
「だめぇ…壊れる…壊れちゃぅ…桃先輩…」
 胎内で濡れた音を立て、内側で絶対的質量を増す桃城の雄。内側から開かれる圧迫
感と、敏感に慣らされた部分を擦られ捏ねられ、更に爛れていく官能に灼かれていく愉悦。肉体と精神の両方を、たった一人の男に喰われていく気がした。その瞬間リョーマが感じたものは、桃城という男に壊されていく快美感だった。
「壊れちまえよ」
 桃城は薄く細い背に伸し掛かり、シーツを握り締める細い指に、自らの節のある指先を
絡めていく。 
「あっ…あっ…ぁぁっ…・ダメ…ダメェ…もぉ…ッッ!」
 胎内で切迫する抽送に、リョーマは痩身をガクガク揺すられ、譫言じみた嬌声が口を付
く。グチュグチュと、卑猥な濡れた音が、耳のよいリョーマを、更に嬲るように煽っていく。
耳までも犯されていく生々しさに、リョーマは細腰を揺すり立て、愉悦に崩壊する一歩手
前の狂乱さを、桃城の眼前に曝け出している。
「イク…桃先輩…イッちゃう…」
 後ろだけでイクことを教えられた淫らな性。日常的に見せるリョーマの一面は、テニスし
か知らない子供の顔だ。けれど桃城という男の前で見せる表情は、淫蕩に耽る淫らなも
のだ。誰もが愉悦に崩壊するリョーマの陶然さなど、想像できないものだろう。それは桃
城との関係を知っている元レギュラー陣も、例外ではない筈だった。
「んっ…桃先輩…桃先輩…桃先輩……」
 発狂する程の心地好さと、相反する、胸の奥の奥を、抉り出されていく切なさに、リョー
マは絡め合う指先の先に、背一杯の力を込めた。


『その想いのまま、繋いだ手を離さない方がいいよ』

『オチビは、その想いのまま、桃の手を離したらダメだぞ』


 不意に真摯な貌をして告げてきた、不二と英二の貌が、浮かんでは消えた。




「お前だけだ……」
 互いに、意思も意識も混融する世界に崩壊する手前だ。リョーマに力など有る筈もない。それでも賢明に絡み付いてくる細い指に、節の有る指先を絡み付かせ、桃城は幼い胎
内の奥の奥に、痛い程昂まる雄を押し込める威勢で埋没させていく。瞬間、桜に染まった
細く薄い背が大きく撓う。
「ぁぁん…!いやぁ…桃先輩…桃先輩…もぉ……ッッ!」
 根元まで埋没にしているにもかかわらず、更に奥へと押し込まれてくる、愛しい男の雄。
幼い胎内を内側から支配するかのような桃城の雄に、リョーマは腰を揺すり立てることで
受け止める。喰われ壊されていく、一瞬の快美と永遠。解体される心地好さが、淫らに全
身を貫いていく。
「あっ…ぁん……!もぉぉ………ッッッ!」
 抉れる程に薄い腹から、白い内股をヒクヒク淫らに痙攣させ、リョーマは白濁とした粘稠
の愛液を、シーツの上に吐き出していく。
「リョーマ…」
 幼い胎内を押し開き、それでも絡んでくる爛れた肉襞の感触。けれどリョーマが達した
瞬間。それは急激に搾り取る威勢で収縮し、桃城は否応なく射精を促された。
 吐精し、一挙に崩れ落ちていく華奢な躯。一切の力を失ったリョーマは、けれど細腰か
ら白い下肢だけが別の生き物のようにヒクヒク蠢き、リョーマの官能の深さを物語ってい
る。
 桃城は崩れる腰の奥に、容赦なく熱い獣液を流し込むと、リョーマは掠れた声で嫋々に
喘ぎ、桃城は腰を押しつけ幼い花襞に吐き出すと、萎えた自身をゆっくりリョーマの胎内
から引き出した。
「ぃゃあ…動か…ないで……」
 ズルッと、擬音が聞こえる気がして、リョーマは充血しきった胎内を再び擦り、引き摺り
出されていく桃城の雄に、掠れた悲鳴とも嬌声とも判らない声を上げ、身悶える。
 桃城が完全に胎内から引き摺り出されると、同時にドロリとした白濁とした馴染みきった
液体が内股を伝い流れていくのに、リョーマは更に快感を煽られ、顫えた。
「んっ…んっ…ぅん…やっ…んん…」
 背後から、容赦なく押し込められた桃城の熱い雄。引き摺り出され、胎内で吐き出され
た愛液が伝わる生々しさ。同時に、得たと思った瞬間に、手の内から失せていく恐ろしい
までの喪失感。
 満たされたと思うのは、たった一瞬の出来事だ。喰われ壊されているのは長い間だと思
うのに、満たされたと思える瞬間は、たった一瞬のできごとで失せてしまう、その理不尽さ。
「…あんた…なんて…」
 どれ程番ってみた所で、手にいれたと思うのはたった一瞬だ。桃城が初めて女を教えら
れた、綺麗な従姉妹。
 先刻の綺麗な顔をしたマリコもそうなのだろうか?そう考えリョーマは、不意に莫迦莫
迦しい思いに囚われる。彼女は気紛れでも何でもなく、もっと別の意図を持ち、桃城に女
を教えたのだろうから。
「リョーマ」
 男同士の情交なら、背後からの行為の方が、リョーマに負担は掛からない。けれどリョ
ーマは、普段後背位の態勢は好まないから、桃城が背後からリョーマを犯すことは稀だっ
た。
 けれど今夜リョーマは、自ら背後からの交わりを桃城に要求した。普段背後からの結合
を好まないリョーマの理由を知る桃城は、自嘲すると、リョーマが望む抱き方をするしかな
かった。それでなくては、リョーマは信用しなかっただろう。
 桃城は甘やかにリョーマの名を繰り返すと、萎えた自身を引き摺り出し、崩れ落ちるリョ
ーマの躯を態勢を入れ替え、抱き寄せた。 












 情後は、どれ程勝ち気な面を覗かせても、その性格とは裏腹に、吐精により根こそぎ体
力は奪われてしまうかのような、錯覚に囚われる。けれどそれは決して不快なものでは
なく、むしろ心地好い脱力感だった。その情後の心地好さに支配され、リョーマは桃城の
胸板に小作りな頭を乗せ、されるままに、汗を含んだ髪を梳かれている。
「悪かったな」
 おとなしくされるままにされているリョーマに、桃城は幾度目かの謝罪を口にした。
「あんたは、何を謝る訳?あんたの初めて女と鉢合わせたこと?俺が、嫉妬もしないだろ
って思ってたこと?」
 されるままにされていたリョーマが、不意に桃城の腕の中で身を起こし、精悍な貌を真
上から見下ろすように、顔を近付ける。
「……お前さ、気付いちまったのかよ」
 情後の陶然さに支配されながら、それでも逃げを許さない眼差しが、まっすぐ射る威勢
で凝視してくるのに、桃城は深い自嘲を刻み付けると片腕を伸ばし、情後の熱がゆっくり
失せ始めた白皙の造作を緩やかに包み込む。
「何を?」
「ったくお前は、どうしてこう見逃してほしいとこばっか、綺麗に見透かしてくよ」
「それは、お互い様」
「本当」
 桃城は長い吐息を吐きだすと、
「お前は、手厳しいよ」
 包み込む輪郭から首筋に指を伸ばし、普段なら決して付けない場所に付けた所有印を
撫でていくと、リョーマが甘やかな吐息を漏らし、
「あんた、詐欺師だからね」
 逃がしてあげないと、淫蕩に耽った笑みを向けた。
「あのマリコって人が、あんたに教えたんでしょ?」
 後ろ髪で隠される白い項に残された、桃城の所有印。けれど激しいプレー最中、髪が風
に吹けば、判る人間にはくっきり浮き出て見えるだろう、ギリギリの場所だ。そんな場所に
普段なら決して跡など残さない桃城の、今夜は饒舌な愛撫に、リョーマはそんなことで誤
魔化されてやらないと、綺麗な面差しを吐息が触れ合う間近まで近付ける。 
「戯れるようキスの仕方。眩暈するような舌を縺れ合うキスの仕方。女の膣に雄を押し込
めるセックスも」
「……そうだな…」
 人形じゃないと言った割に、今のリョーマから悋気なものは一切見えてはこない。
けれど今のセックスで満たされた訳ではないのは判るから、桃城は誤魔化せないと自嘲
すると、半瞬の間の後、リョーマの科白を肯定した。
「嫌らしい腰の使い方も、女の啼かせ方も」
 全部あの女に、桃城は教えられたのだろう。そう思えば、胸の奥が灼け付く嫉妬を味わ
うのは当然だ。けれどリョーマが感じたものは、更に根深いものだった。
「肉の芯蕩かすような愛撫も。セックスの後、優しくすることも」
「越前…」
 吐息が触れ合う間近で、囁かれるように繰り返される言葉に、桃城はリョーマの内側に
刻んでしまったのかもしれない疵を、垣間見た気分にさせられた。
「マッサージするような髪の洗い方も。散々甘やかされて、甘やかすこと教えられて。
最終的には、従姉妹盛大に甘やかして」
「何処まで気付いた?」
 気付いてほしくない局面ばかりを綺麗に見抜いていく勘の良さは、テニス以外の天性の
才能に違いないと、桃城は白旗を上げた。
「10も年下の従兄弟に、本気になって手を出す女じゃない。それでも10も年下の従兄弟
に手を出して女教えて、忘れられなくした、サイテーな女」
 その瞬間、忌ま忌ましげにリョーマは桃城を見下ろすと、
「あんたのこと、好きでもなんでもない女に、セックス教えられて。それでもそんな女甘や
かすあんたなんて、見たくなかった!」
 吐き棄てるように、最後は叫ぶように、リョーマは話す。
「あんたの初めての女ってだけなら、此処まで嫉妬したりしない!」
 腹が立つのは、裏切りに近い形でセックスを教えられ、それでもいい関係を築いている
のが判ってしまったからだ。そして今では、従兄弟同士としていい関係の距離にある二人
なのだと気付いてしまったから、リョーマはいたたまれなくなった。
 甘やかされて、初めての女を盛大に甘やかしてきたに違いない。
「あんたが、女に散々甘やかされてきたから、俺甘やかすことできるってのは判ってる。
だけど、あんたが今甘やかしてればいいのは、俺だけだって、忘れてたんじゃない?」
「忘れる訳ないだろうが」
 激情のまま、リョーマが叫び出すのは案外少ない。けれど今は、勝ち気な性格も手伝っ
て、リョーマは激情のまま、桃城を見下ろす眼光は、冷ややかな熱さを秘めていた。それ
はコートに立つリョーマと何処か似ていて、桃城を冷静な熱さに駆り立てる力を持ってい
た。
「確かにマリコは初めての女で、あいつに教えられたものは大きいよ。あいつが俺に抱い
てほしかった訳じゃないのも、気付いてたよ」
「それでも、莫迦みたいにあの女に腰振ってたんだ」
「ガキ、だったからな」
「今でも十分、ガキじゃん」
「お前さ、なんで気付いたんだよ」
「……あんたって、本当…」
 リョーマは深々溜め息を吐き出すと、
「莫迦!じゃないの?」
 何で気付いたのか?そんなのは簡単で単純な理由だ。桃城を見ていたからだ。
桃城を見ていたから、桃城に注がれる視線が気になった。10も年上の聡明だという従姉
妹が、安易に手を出すとは思えなかった。
 そう考えた時。唐突に判ってしまったからだ。聡明な従姉妹だというマリコが、当時きっ
と桃城に抱かれながら、何も知らなかった子供に女を与えるようにセックスを教え、桃城
を通して誰を見て、求めていたのか。
 明確な個人を特定することは、当然リョーマの立場からは困難なものだった。けれど桃
城を通して誰かを見ていたのだろうと、気付いてしまった。
 だから尚更癪に触ったし、腹がたった。何より桃城自身が、そんな従姉妹に甘やかされ
てきたのだと思えば、リョーマの怒りの有り様は、尚更だろう。そして途中から気付いてし
まったから、あの場所にはもう居られなかった。
 甘やかされてきた子供は、最終的には莫迦な従姉妹を甘やかしていたのだと。気付い
てしまったら、茶番に見えた。そんな下らない団欒に付き合う義理は、リョーマに毛頭な
い。
「あんたの過去の女に、嫉妬するだけ無駄だって判ってる。でも感情は別だって思い知ら
された。やっぱり腹が立つし、忌ま忌ましくなる。俺は人形じゃない。それだけは、あんた
忘れないでよ。嫉妬する程度には、あんたは俺のもんなんだから」
 実際、気付いた瞬間に身の内側から湧いた感情は。殺意に近かった。桃城を最初から
裏切りながら、今でも大切にされている女。リョーマにとって、面白い筈がない。そんな女
を甘やかす桃城も、気に入らない。だから今夜は背後から犯してほしかった。顔など見た
くなかったと言う以前に、後ろだけで達する快感を教えられた躯は、背後からの行為に、
より敏感に反応するからだ。
「ねぇ?言ってよ」
 そうしたら、今回だけは許してあげると、リョーマは意味深な笑みを刻み付ける。
「お前だけだよ」
 真摯な誓いを告げるかのように、桃城はリョーマを凝視する。
「お前失ったら、きっと呼吸の仕方も判らなくなるな」
 生命機能を維持する呼吸は、別段意識とは無関係に行われる、単純なガス交換だ。
けれどリョーマを失ったら、そんなものさえできなくなるだろうと思う桃城は、だからリョー
マに告げることなく未来を見据え、歩き出しているのだ。
 昔から聡い従姉妹は、既に選び取った未来を歩く姿を垣間見たらしいが、実際明確に
判っている訳ではないだろう。一体何処まで見透かされているのか、桃城にも判らない
部分だ。
「マリコは初めての女で、憧れだったんだよ。恋愛も知らないガキが、セックスの心地好さ
だけ求めた、な。でもお前は、本気の相手だからな」
「………あんたがそう言うのって、本当嘘くさいよね」
 手の内など一切見せない桃城が言うと、どうにも嘘くささが際立ってしまうから、リョーマ
は笑うしかなかった。それでも、桃城の本気を、疑うつもりは欠片もないのだ。
「俺に本気っていうなら、信じさせてよ」
 桃城の最初の女は、キスやセックスだけではなく、確かに桃城に色々なものを教えた
のだろう。
 甘やかす術。優しくすること。後ろめたさと、それだけではない部分で、彼女が盛大に桃
城を甘やかしてきたのは、先刻の会話で丸判りだ。甘やかされてきたからこそ、桃城は
甘やかす術を教えられたのだろう。そして最終的には、甘やかしていたつもりで、彼女は
甘やかされていたことに気付いた筈だ。
「あんた、悪い男の見本市みたいだから、信用できない」
「俺程誠実な恋人が何処に居る?」
 既に言葉遊びに転じてしまった会話の甘やかさに、桃城は首筋から、スルッと背に指を
這わせていく。そうすれば、情事の熱の失せ始めた躯は、呆気なく熱を煽られていくのは、判りきっていた。
「俺に何も言わないあんたの何処が、誠実だって?」
 簡単に熱を煽られていく躯。たった一人に、番い心地好さを教えられた雌の部分。
リョーマは淫蕩に笑うと、桃城の肩口に顔をうずめ、可笑しそうにクスクスと笑った。
「あんたが何処に向かおうとしてるのか、何も教えようとしないくせに」
「お前の望む場所に、いつだって居るさ」
 その為に、歩き出したのだから。枷ではなく、互いの道を歩く為に。
「詐欺師」
 最後まで、嘘を嘘と気付かせないのが詐欺師だというのに、桃城は、結局悪い男では
あるけれど、詐欺師にはなれないのかもしれない。
「仕方ないから、今夜は騙されてあげる」
「騙してないぞ」
「だから、信じさせてよ」
 埋めた肩口に白い歯を立て、リョーマはひっそりと笑った。












「そういえば、あんたの初めての女が知らないあんたの表情を、俺は知ってるんだよね」
 仕方ないから、今夜はそれで機嫌直してあげると、リョーマは悪戯を思い付いた子供の
ような顔を桃城に見せた。
「ん?」
「セックスの最中のあんたは、そりゃもうケダモノだけど」
「ケダモノかよ……」
 リョーマの言い様に、桃城はガクリと脱力する。
「でもテニスしてる時のあんたは、雄、だからさ」
 全国区のテニスの腕を持つ桃城の、コートに立っている時の曲者度を、桃城の初めて
の女は知らないだろう。間近で見ていなければ、ボールを無心に追い相手を見据える姿
は、獲物に狙いを定めた獣のような雄だ。
「なんだよソレ」
 よりによって、テニスをしている時に雄を感じることはないだろうと、桃城は溜め息を吐く
と、
「だったら、テニスしてる時のお前は、娼婦だな」
「………逆じゃん?」
 桃城の前以外、娼婦で居るつもりはなかったから、桃城の言い様に、リョーマは半瞬憮
然となる。
「誰かれなく、喧嘩ふっかけるからな」
「あんたって、やっぱサイテー」
 リョーマは呆れた顔をしてクスクス笑うと、桃城の背に腕を回した。



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