光飛ぶ緑の午後










 暖冬と言われていたわりに、年を越してから例年通り、冬の寒さが到来して以来、逆に暦の上では春
になっても、まったく春らしい陽気が訪れなかった季節は、五月の連休少し前に、春を通り越し、初夏の
陽気に移り変わっていた。
「春を通り越して、これじゃ初夏だよな」
 突然気温が上昇した陽気は、音と光の春を飛び越し、一挙に初夏の熱さを肌に伝えてくる。
四月中旬から徐々に気温が増した温度差は、下手をしたら連日十度近い落差があったから、体調管理
には自信のあるテニス部面々にも、流石にこの気温差は勘弁してくれと、誰にともなく愚痴る者も存在
していた。
「桃先輩、夏好きでしょ?」
 開放的な笑顔が印象的な桃城が相応しい季節と言えば、十人に訊けば十人とも夏と答えるだろう程
度には、桃城は夏の印象が付き纏う男だった。
 雄大な空を従えるかのように、身体能力を生かした跳躍力でスマッシュを決める姿は、確かに夏の太
陽が似合う男だろう。たとえその本質が、実際は夏とは対極に位置しているものだとしても、見掛けの
印象から推し量るなら、桃城は夏が似合う男なのには間違いがないだろう。
「祭り大好きだし?」
 桃城の胸板に薄い背を預け、膝の上には愛猫を寝かしながら、莞爾とした笑みを浮かべ、リョーマが
背後を間視すれば、慣れた仕草でリョーマのネコッ毛の柔髪を撫でながら、桃城が苦笑する。
「そりゃ俺より、英二先輩」
 ついうっかりリョーマの科白に頷きかけて、桃城は緩い反駁を試みる。祭りが好きなのは、自分より一
つ先輩の英二の方だ。法被姿で御輿でも担ぎそうな威勢で、英二は祭りが好きだ。
 その天真爛漫な笑顔と明るさが、テニス部内のムードメーカとして、英二は桃城と二人で重要な位置
を担っていた。その英二達も、三月上旬に中等部を卒業し、今は隣接している高等部に進学している。
尤も、中等部は卒業しているものの、春休みには当たり前の顔をして、ストリートテニス場で打ち合った
りしていたから、あまり精神的距離が離れた感触は感じなかった。尤もそれは、体育会系特有の縦割
り関係から生じているものではなく、手塚が部長をしていた去年のテニス部は、ある意味で特殊だった
からだ。部員同士の結び付きが、それまでのテニス部に比べ遥かに強かった。それが全国大会優勝と
いう偉業を成し遂げた原動力になっていたのは、疑いようがないだろう。
「そいや英二先輩が、遊びに行こうって言ってたぞ」
「ヤダ」
 即答すれば、背後から緩い苦笑が漏れるのが判り、リョーマが途端に憮然となる。
「お前ならそう言うと思ったよ」
 人混みが苦手なリョーマのことだ。それでなくても行楽地は、いっそ愉快な程、人を見にいくような有
様だろうから、リョーマが拒否するのは桃城には丸判りだった。
「だったらちゃんと、断っといてくれた?」
「できるかって」
「なんで」
「相手は英二先輩だぞ」
「ムカツク、何自慢してるの?」
 桃城だけが、後輩の中で、英二を『英二先輩』と呼んでいる。それは裏を返せば、自分だけが桃城を
『桃先輩』と呼ぶのと何一つの変わりはないから、リョーマにはそれが少しばかり面白くなかった。
「拗ねるな」
「面白くないだけ」
 どうせ英二に押し切られれば、自分も断りきれないのは判っている。英二には不思議とそういう一面
があるのだ。
 天真爛漫という言葉が比喩でなく笑顔の似合う英二は、鬱陶しくならないギリギリのラインを見極め、
人懐こいと思わせるこちら側に佇んでいる。そうして容易に人の懐に自分を押し出すことが巧みな人間
だったから、人懐こい笑顔で誘われれば、断りきれない自分をリョーマは知っていた。尤も、英二も伊達
に全国大会優勝を成し遂げたテニス部レギュラーではなかったから、ただ単純に天真爛漫な笑顔を振
りまいている子供ではなかった。その内面は、リョーマでも驚く程の繊細さを持っている。
「それで?」
「まぁ何処も混雑してるだろうから、テニスでもしようってな」
「フーン、菊丸先輩にしては、賢明な提案」
「お前にだからだよ。大石先輩とは、遊び歩くらしいぞ」
 膝の上で、目蕩むように寝ている愛猫の、艶のある長毛を撫でながらリョーマが軽口を叩けば、桃城
は緩い微苦笑を刻み付けた。
 今は隣接している高等部に進学した元三年レギュラー陣は、そんな部分が特殊だった。
実力に裏付けされた小生意気さを、彼等はかなり気に入って、リョーマを弟のように可愛がっていた。
何かと言っては構い倒し、リョーマに鬱陶しがられるのさえ、楽しんでいた。それは裏を返せば自分の
実力に対し、リョーマ同様自信があったからなのかもしれない。そして今はプロになる為アメリカに留学
した手塚は、『柱』という重責をリョーマに託し、部長という責務を桃城に託していた。
「ねぇ?俺達の予定は?」
 不意に思い出したようにリョーマがクルリと半身捻って振り向けば、桃城は盛大に呆れ顔になった。
それはそうだろう。人混みが苦手で、行楽地など絶対行かないと断言しているリョーマの口から、そん
な科白が出るとは、桃城は思っていなかったからだ。
「リクエストあるのか?」
 連れてってやるぞと言外に滲む科白に、リョーマは悪戯を思いついた子供のような表情で笑い、次に
トンッと桃城の胸板に深く背を預け、
「箱庭」
 シレッと口を開いた。そんなリョーマの科白に、桃城は大仰に溜め息を吐いた。
「不健全だぞ」
「意味判ったんだ」
「判らない方が可笑しいだろうが」
 ヤレヤレと脱力しつつ、リョーマの薄い肩に顎を乗せ、リョーマの膝の上で目蕩むように寝ているカル
ピンに腕を伸ばした。
 GWの始まりを告げる四月下旬の祝日初日、テニス部の練習は午後早い時間に終了している。現在
殆どの企業は週休二日を実施しているから、月曜を休日にあて、大型連休を実施している企業も少なく
はない。何かと物騒な海外旅行に行く人間も少なくはない。尤も、青学は私立で土曜はしっかり授業が
あるから、その休日はカレンダー通りだ。とはいえ、生徒が家族と過ごす時間も大切だという建て前の
元、月曜は世間同様休日にあて、青学は日曜から5連休となっている。
「連れてってくれるの?」
「却下」
「……何それ?」
 莫迦みたいに自分との関係を慎重に扱う桃城は、未だセックスに対する罪悪を持っていることをリョー
マは知っていた。
 未成熟な肉体を開き、快楽も知らない子供に快楽を与えた罪深さを、桃城が手放せないでいることを、リョーマは苦い思いで自覚しているのだ。
「壊しちまうだろうが」
「嘘つき。あんたにそんな甲斐性ある筈ないでしょ?」
 いつだって、壊してほしいと願う自分を慎重に扱い、自分自身の欲望など、あっさり容易に縛ってしま
う男だ。壊す甲斐性など、持ち合わせてもいない。
「無茶言うな」
 それでなくても来月中旬からは、全国大会への切符を手に入れる為の予選が開始されるのだ。連休
に浮かれている時間は何処にもない。去年全国大会優勝を果たした青学を目標に、全国の強豪は打
倒青学を合い言葉に、練習に励み、予選に出てくるのだ。去年優勝できたからといって、鍛練を怠り全
国に出ることは決してできない。それでなくても現在のテニス部の選手層の薄さは、部長を引き継いだ
桃城と、副部長を受け継いだ海堂にとっては頭の痛い事実なのだから。
「リクエストあるから言ったのに」
「もっと無難なのにしてくれ」
 世間と隔絶された、閉じられた密室空間を箱庭に見立てたリョーマの望みは、そう簡単に叶えてやれ
るものではなかった。実際、叶えてやることは可能だとしてもだ。
 リョーマの望むままに部屋に閉じ籠って。それは容易にでき得る望みだ。けれどそれをしたら、自分は
リョーマを壊してしまう可能性を桃城は否定できなったから、却下するしかなかったのだ。
「甲斐性無し」
 膝の上の愛猫に伸びた桃城の手の甲に爪を立てる。さして痛感の乗らないそれは、リョーマの甘えと
同義語だ。
「だったら、打倒案出してみてよ」
「まぁ休みの間は、泊まり込みかな」
「刺激ない」
 それじゃさしていつもと変わりないとリョーマが憮然となれば、桃城は意味深に酷薄な口唇に弧を刻
み付け、
「俺んちにな」
「桃先輩家、休み何処か行くの?」
「ああ、チビ共が煩いからな」
 それでも、警視庁捜査一課で管理官をしている父親が、この時期休日をとれることはない。大型連休
期間は犯罪が多発するから、警視庁だけにとどまらず、何処の都道府警本部も、厳戒態勢が引かれる
のだ。特にテロ関連に関しては尚更で、大都市の警察本部は、この時期警戒態勢を実施する。観光地
を抱えている箇所は特にそうだ。
「フーン」
「だからお前は、俺ん家に強制連行な」
 たまには気分が変わるだろう?そんな風に笑う桃城に、リョーマは呆れた。明るい笑顔を向けているく
せに、内容は不健全極まりない。
「あんたは?」
「今更チビ共の面倒みさせられるだけの旅行に、行きたい訳あるかって」
「だったら、部屋、片付けておいてよね」
「前に片付けたら、居心地悪いって文句言っただろうが」
 適度に散らかってないと居心地が悪いと、以前リョーマは文句を言ったことがある。それ以来、リョー
マが来ると判っている時でも、さして部屋の掃除をするのはやめた桃城だった。
「あからさまに片付けすぎたんじゃないの?俺に見られて不味いものでもあった感じで、片付けされても
ねぇ」
 シレッと笑うリョーマに、桃城は深々溜め息を吐いた。
「でもそれってさ、箱庭以外の何ものでもないんじゃないの?」
 隔絶された空間で、番い合うことを目的とした明確な誘い。
「ゲームやったり、CD聴いたり」
「セックスしたり、番ったり?」
「不穏当な発言、昼間からするなって」
「意味は同じでしょ?」
「ゲームやったりCD聴いたりがか?」
「だってどうせ、無駄だから。どうせすぐに俺達、セックス始めちゃうでしょ?堪え性ないから」
「そらお前だ」
「挑発にのっかるあんたも同じ」
「まったくお前は、ああ言えばこう言う」
 深く溜め息を吐くと、桃城は長いフワフワの毛から、長いリョーマの前髪を梳き上げる。
「彼氏との睦言の成果なだけでしょ?」
 当然のようにリョーマが口を開くのに、桃城は盛大に苦笑するしかできなかった。それはまったく否定
材料が、桃城の中にもなかったからだ。
「いいんじゃない?テニスしてシャワー浴びてセックスして。結構健全」
 クスクス笑うリョーマの口唇に、呆れた微苦笑を滲ませながら、桃城の口唇が重なった。













「光が飛んでるみたい」
「ん?」
「緑」
 珍しくも自室ではなく縁側での会話に、不意に視線を外に向ければ、開いた縁側の大きい窓から、流
れこんで来る緩い風に、柔らかく髪を撫でられる。視界の先では青黛眩しい樹木が、萌えるように眩し
い光を反射させていた。
 都内の立地としては広い敷地を持つ庭は、定期的に庭師が入り、庭木を手入れする程、数多い樹木
がある。初夏の陽気を誇る今の季節は、緑が萌えるように美しくなる。これが夏になれば積翠となり、
心地好い日蔭を提供してくれるのだ。
「あ〜〜眩しいよなぁ」
 視界の咲きにある樹木は、名前までは判らないものの、濃い緑が風に揺れ、閃爍としている。緩い風
が吹けば、ゆっくり通り過ぎていく風のカタチを樹々はよく現して、サワリと揺れる都度、葉擦れと共に
揺れる緑が光を零して行く。
「見えないけど、見えるんだよね」
「何がだ?」
「風」
「お前が国語苦手なのが、俺はつくづく不思議だよ」
 捉えることのできないカタチを、よくリョーマは見ている。
「理不尽だから」
「国語がか?」
「登場人物の心に、絶対的な答えがあるのが気持ち悪い」
 書き手と読み手の温度差を無視して、登場人物の心に完全な答えが求められる日本の国語教育は、
リョーマには甚だ理解しがたいものだったから、リョーマは国語科目が苦手だった。けれど読書が嫌い
な訳ではなかったのだ。桃城の影響も手伝ってか、リョーマは結構推理小説は読む方だ。
「まぁなぁ」
 得てして読み手なんてものは、書き手の思惑とおりには、読まないのが普通だ。紆余曲折を経てみた
り、曲解的な解釈をしてみたり。書き手が思ってみなかった部分を指摘して感心してみせたりと、それ
が実は面白いと判っている桃城は、リョーマの言う理不尽さは理解できる。けれど生まれ育ってきた環
境の所為も手伝って、桃城は十分日本の国語教育に適応していた。
「まぁ大人なんてのは、マル貰える答えを示しとけば、安心する生き物だからなぁ。マル貰える答えが
肝要なんだろうな」
「またそう言う」
 これは二月にもやりとりした会話だったなと、リョーマは思い出す。
「まぁそう言うなって」
 これでも褒めてるんだからなと笑えば、リョーマはやはり呆れ顔になった。
「それにしても、よく寝てるなタヌキ」 
 節のある桃城の長い指が、リョーマの膝の上で目蕩んでいるカルピンの背を柔らかく撫でていく。それ
でもピクリとも身動ぎもせず、スヤスヤ穏やかな寝息を立てているカルピンは、一向に起きる気配を見せ
ない。
 帰宅してきた時には、既にカルピンは縁側で目蕩んでいた。大抵リョーマのベッドの上で寝ているこが
多いリョーマの愛猫が、縁側で寝ているのは珍しかったから、物珍しさも手伝って、二人は揃って縁側
で睦言じみた言葉遊びを繰り返していたのだ。 初夏の陽気になった気温には、縁側の木目はひどく心
地好く、ああだからかと、リョーマも桃城もカルピンが縁側で寝ている理由が判った気がした。
「こうして眺めてると、お前によく似てるよな」
「何ソレ?」
 武骨な指が、思いの他優しい仕草で愛猫の背を撫でていくのを長め、リョーマは淡い笑みを漏らした。
節のある武骨なばかりの指先は、けれど思うより遥かに優しく動くのをリョーマは知っている。それこそ
もう一年近く、そんな指先に躯の芯から熱を炙り出されているのだ。それも心地好かったり焦燥を生み
出したりと、桃城の本質同様、指先もひどく曲者な一面を持っているから始末に悪い。
「一度寝たら、なかなか起きない所とかな」
 そして丸まって寝ている部分が、ひどくカルピンとリョーマは似ていると思う桃城だった。
情後意識を手放すように寝てしまうリョーマを腕に抱き込んで寝てしまえば、あまりそういう態勢をとるこ
とは少ないものの、リョーマは一人で寝ていれば、自分を抱き締めるように丸まって寝ていることが多い。その寝顔を最初見た時、桃城はリョーマのアメリカでの境遇を思い知った気がしたから、尚更だった。
 背後から注がれてくる視線が、ひどく優しいものを滲ませているのが判るから、それがリョーマには少
々癪に触った。まるで我が子に旦那を盗られた気分がするその理不尽さに、リョーマ自身、苦笑する。
「ねぇ、桃先輩?」
「ん?」
 開け放った窓から、緩く通り過ぎていく風。それは初夏の陽気同様、心地好く柔らかいものだ。リョー
マのネコッ毛の柔髪がフワリと風に揺れる都度、自分と同じシャンプーの香りが漂ってくるのに、桃城は
倖せを感じずにはいられなかった。
「ネコって、夢は観ると思う?」
「観るんじゃないか?」
「あんたやっぱ詐欺師だよねぇ」
「なんだよそりゃ」
「普通笑うんじゃないの?こういう科白って」
「そっかぁ?別に可笑しくないんじゃないか?ネコだって夢くらい観たって。タヌキの奴、時折起きた後、
何か訴えに来るしな」             
 それは極稀なものの、起きたら突然子供が親に観た夢を報告するように、カルピンは桃城の足許に近
寄って、さかんに甘えた鳴き声を上げることがあるのだ。だからリョーマの科白は、ある意味で的を得て
いると思う桃城だった。
「ソロモンの指輪でもあれば、話しでも聴けるんだろうけどな」
 緩い笑みを覗かせながら、桃城の指はひどく優しく長毛を撫でていく。
「……親バカ……」
「親父さんに言わせれば、タヌキは俺達の子供にしか見えないって言うから、いいんじゃないか?」
 それはリョーマとの関係が始まり、人見知りの激しかったカルピンが、桃城にだけは懐くようになった
時から、延々南次郎に言われている科白だ。今では刷り込み効果も手伝ってか、桃城にもカルピンは
子供のように見えてしまうから、親バカという科白は、間違っていないのかもしれない。
「連休はさ、こうしてるのもいいかもね」
 コトンと桃城の胸板に安心しきって全身を委ねたリョーマは、視線の先の緑を眺めて薄い笑みを漏らし
た。
 淡い陽射を弾き、風に揺れる緑。葉擦れと共に光を零していく閑暇な光景に、リョーマの瞼がゆっくり
重くなっていく。
 無防備に背を預けてくる重みが増したのを感じ取った桃城が、少しばかり超えを潜めリョーマを呼べば、聞こえてきたのは穏やかな寝息で、桃城は微苦笑を滲ませた。
「ったく、兄弟っていうか、親子っていうか」
 愛猫を膝の上に乗せたまま、自分の胸板に全身を預けて目蕩み始めたリョーマの無防備さに、節の
ある長い指が、風に揺れる髪を梳く。
 背後の障子戸に背を預けていた桃城は、加わった重みに自然と背後に背を付ける恰好になり、リョー
マの躯をゆっくり膝の上に横たえてやる。そうして開け放した窓を閉じれば、そこは無音の世界にすり変
わる。その世界の中で、視界の先で揺れる緑が、ひどく眩しかった。
 淡い光を零す緑。穏やかな午後。連休はこうしてのんびり過ごすのも悪くないなと、桃城は穏やかに
笑った。




















「ったくこいつら、何してんだか」
 南次郎が外出から帰宅した時、静まり帰った家の中に、人の気配は感じられなかった。リョーマが彼
氏を連れ込み帰宅しているのは判っていたから、寺のコートでテニスでもしているのかと居間に来てみ
れば、縁側で親子三人仲良く午睡を貪る桃城とリョーマの姿に、南次郎は呆れながら、穏やかな笑み
を覗かせた。
「本当に、親子の肖像だな」
 リョーマの小さい頭に膝枕をしてやりながら、桃城は障子戸に背を預け、やはり眠っている。愛猫のカ
ルピンも、リョーマの腕の中で丸まって寝ているから、南次郎に家族の肖像と言われても、仕方ないの
かもしれない。
「風邪ひいても知らないぞ」
 いくら陽気が急速に初夏になったとはいえ、夕暮れ近くになれば気温は下がる。まして縁側で寝てい
れば、室内より体感温度は冷えるだろう。
「仕方ないガキどもだな」
 南次郎は苦笑すると、親子三人寝ている恰好に、何処からともなく取り出した毛布を無造作に頭の上
から掛けてやりながら、
「今夜は晩酌に付き合わせるか」
 愉しげに笑った。



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