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同じ風景を見ている筈なのに、視点が違えば見え方が違う。見え過ぎる眼を持って、疲れないだろうか? フト下らない心配をしてしまう自分に苦笑する。 騒がしい店内の中。桃城武は店内に入ってから数度目の溜め息を漏らした。 「桃、お前さっきから何溜め息ついての?」 駅前のファーストフードで、窓際の席に陣取って、先刻から溜め息を吐く後輩の姿に、菊丸英二はテリヤキバーガーを頬張り、不思議そうに口を開いた。 「桃先輩、食わないんスか?いらないなら俺が貰いますよ」 トレイの上に、自分と同じチーズハンバーグサンドとアイスコーヒーを並べ、けれどまったく口を付けていない桃城に、英二の隣で、リョーマも不思議そうに眼前の桃城を眺めている。 「二人が俺にその台詞言うか〜〜?」 きっと自分の溜め息の理由など、欠片も理解してはいないのだろう二人に、桃城は更に溜め息を吐いた。 「何スか?」 アイスコーヒーに口を付け、リョーマは自分を凝視してくる桃城に、キョトンとした眼差しで問い掛けた。 「何だよ桃〜〜」 後輩の物言いたげな視線に、英二は頬を膨らませる。 天真爛漫で桃城同様、部のムードメーカの英二は、けれど本質は桃城同様、内心を勝手に他人には土足で踏み込ませない領域を確保している人間だと、知る者は少ない。 アクロバティックなプレイを得意とする英二の本質は、案外繊細で神経質だ。 「どうして俺が、二人に奢ってやらなきゃなんないんです?」 理不尽だと、桃城はゲンナリ肩を落す。 「そりゃだって」 英二とリョーマ、二人が同時に口を開き、次に互いに顔を見合わせ、次には同時に眼前の桃城を凝視し、 「口直し」 「オチビ担当のお前が、後輩指導ちゃんとしてないから」 同時に英二とリョーマが口を開いた。同時の行動に苦笑し、リョーマと英二は互いに顔を見合わせ、 「っスよね?」 「だよな?」 「だから〜〜〜そんな時ばっか、息合わせないで下さいよぉ」 二人の台詞に、自分は苦労性だと溜め息を吐く桃城に、きっと罪は無いに違いない。 「鬱陶しいっスね」 「何が不満なんだよ桃」 「そりゃ確かに、越前には言いましたよ。確かにね」 「だったらいいじゃないっスか」 あんた何考えてんの? リョーマはバーガーに口を付け、呆れた様子を覗かせる。 「でもそこになんで英二先輩がくっついて来るんです?」 「そりゃオチビ担当のお前が、ちゃんと躾してないから」 「菊丸先輩、躾ってなんスか?俺桃先輩の扶養家族じゃないっスよ」 英二の台詞に、途端リョーマは憮然となる。 「何言ってのオチビ。桃には特別懐いてるくせに。送り迎えさせて、こうして奢ってもらって、桃がオチビ担当なんて、部の共通認識じゃん。桃の過保護ぶりなんて、今じゃテニス部だけにとどまってないだろ」 確かに英二の言うのにも一理有る。 後輩の登下校を、喜々として自転車で遠回りしてまで寄ってやるあたり、誰の眼からみても、過保護と言われても仕方ない面は存在するだろう。ある意味でソレは確かにテニス部の共通認識になりつつある。影ではルーキーの専属アッシーとまで言われている事を、桃城自身知っている。それでも、周囲の喧騒に今更態度を改める事などない桃城だったから、相変わらず小生意気な後輩を喜々として構い倒している。 「それにさ、聴いたにゃ〜〜オチビ男に交際申し込まれたってぇ〜〜?」 「………それの何処が、今の会話と結び付くんスか?」 一体何処からそんな話しが英二の耳に入ったのだろうか?憮然となって眼前の桃城を睥睨すれば、 「俺は何も言ってないぜ」 俺は無実だとばかりに、桃城は手をヒラヒラ振った。 「だからテニスだけに限らず、桃はオチビ担当なんじゃん」 「………」 「越前リョーマのボディーガード、桃は大型犬だからなぁ」 「俺は犬ですか?」 英二の軽口に、桃城は肩を竦めた。 「シェパードなんて言うんじゃないけどねぇ〜〜軍用犬でもないし。でもアレだにゃ、二人共。女子の間じゃ格好の噂対象だよん」 見目の良い少年が二人。それも全国区でその名を馳せているテニス部のレギュラーともなれば、噂には事かかない。 「墓穴掘った自覚ありますから」 「俺ないっスよ、桃先輩みたいに、人生捨ててないから」 「お前なぁ〜〜〜協力してやったんだろうが」 「頼んでないっス」 憮然としたまま、リョーマはバーガーを頬張った。 確かに、男に交際を申し込まれもしたし、迫られもした。けれどリョーマはそんな事で驚く事はなかった。 彼は帰国子女だ。アメリカでは別段珍しい事ではなかった。特にリョーマは日本の全国平均値に照らし合わせても、中学一年性としては小柄だ。それがアメリカになど居たなら益々小柄に見えたから、その手合いの駆け引きはある意味で慣れてもいた類いのものだった。大体共学で女子に不自由しない環境で、何故自分なのか?首を傾げてしまう。そういう人種も在るのだと言う事は、同性愛が世間的にも受け入れられつつあるアメリカで育っていたから、偏見は少ないだろう。けれど何故自分なのかと疑問に思う。けれどリョーマは気付かないのだ。 小柄な姿態。そのくせに、伸びやかで靭やかな姿態は決して貧弱でもなければ脆弱な繊細さははない。線の細さが不利になる事はなく、繊弱な印象は微塵もない発達途上の未成熟な躯。 自分のペースを崩さない個人主義で、テニスの技巧は12歳が持つものではないハイレベルなものを持っている。何よりリョーマを鮮烈に印象づけるのは試合最中だろう。 研ぎ澄まされた冷ややかな双眸と勝ち気さ。それでいて冷静に相手の弱点を判断して進め構築される試合形式。けれど心底からプレイを楽しんでいるから、誰もがリョーマと対戦すると、その熱さに引きずられ、引き寄せられる。その鮮烈な印象は、入学間もなく全国区の青学テニス部レギュラーを射止めた時から、益々鮮やかで鋭利なものを滲ませている。 感情の未発達な時期。羨望や憧憬と恋愛感情とを勘違いしても可笑しくも不思議でもない程に、リョーマは印象的だ。けれどそんな事を、本人に何一つ自覚はない。 尤も、その時相手を説き伏せる為、桃城と共犯して仕掛けた半ばタチの悪い悪戯は、相手を打ちのめす事には成功してはいたが、その時から嘘から出た本気で桃城との関係は気付かれてしまったから、リョーマにも何一つ言えた義理ではないのだ。 『なぁお前さ、このまま俺と本当になってみねぇ?』 アノ時の桃城の言葉の意味を、リョーマは知らない。 桃城が女子にモテる事は知っている。それなりにそんな関係を気付いた女も在るのだろうと、漠然と感じた。試合最中の野性さや精悍さは、女を引き付けない筈はない。 そんな桃城が何故自分なのか?リョーマには判らない。 『面倒』 面倒で、けれどこれ以上こんな事も御免だと、何故かフリではなく、自分には珍しくYESと言う返事を返した。 『ただし、俺のモンとか言わないよーに』 『なんだそりゃ?』 『言葉のまんま。そーいうの、面倒だから』 『本当、面白れぇなぁ、お前』 深い苦笑を刻み付け、クシャリと掻き混ぜられた髪。 『鬱陶しい事も厳禁』 『気持ちいい事はOKだろう?』 『フーン、そうやって、口説くわけだ。桃先輩って案外タラシ』 気持ちいい事が何を意味するか判らない程無知でもなかった。 『気持ち良くさせてくれるならね。別にSEXなんて、大した意味ないでしょ?』 「だから、桃はオチビ担当なんだよ。そのお前が教育しっかりしてないから、俺にボールぶつけるような真似すんだ」 何処まで理解しているのか甚だ怪しい英二の台詞に、桃はやはり深い溜め息を吐き、トレイの上のバーガーの包みを剥くと、半ば自棄気味に頬張った。 「菊丸先輩がいけないんスよ」 「オチビ、自分が負けたからって、俺にボール当てる事ないだろ、先輩だぞ」 「あんな不味いもの、飲ませられるの菊丸先輩の所為スから」 「パワーアップして、野菜汁から乾汁に昇格ですからね」 「冗談!あんなん昇格されてたまるか〜〜〜」 今回は免れたが、いつまた何を飲まされるか判らない。益々コーチ業が板に付いてきた乾だった。 ニヤリと意味深に笑って片手にジョッキを手にして嬉しげに笑う乾の姿を思い出し、ついでに以前飲まされた野菜汁の味と匂いまで思い出し、英二はウエッと舌を出す。 都大会までの短い期間。乾が組んだ練習メニューは、確かにデータマンの乾らしいプログラムだった。 その練習メニューでリョーマと英二は対戦し、リョーマは負けた。その時の罰ゲーム的要素で飲まされたのが乾特性の野菜汁だ。けれどリョーマが飲まされたのは更にグレードアップした乾汁。一体中身に何が入っているのか謎だらけのソレは、飲んだ大石と海堂がハテてしまう程、とんでもない味を構成していた。 『ハハハ、まぁ帰り奢ってやっから、機嫌なおせよ』 グッタリと校庭の水道に凭れ突っ伏してしまったリョーマを、何度言っても一向に改める気配なく、桃城はグシャグシャと柔らかい髪を掻き乱した。 『ムカ付く〜〜』 反駁と抗議は、けれどいつもより力はなかった。アノ何とも言えない独特な味と匂いに、舌が麻痺した感覚が生々しい。 『オイ桃ッ!俺にも何か奢れよな』 『英二先輩?』 『オチビ担当のお前がちゃんとしてないから、俺にボールぶつけるよーな事すんだ。だからお前の責任。だから俺にも奢る義務あんの』 甚だ理不尽な英二の論法で丸め込まれてしまった桃城は、結局こうして駅前のファーストフードで英二とリョーマに奢らされる羽目に陥っていた。自ら喜々として後輩を構い倒している桃城は、先輩の英二に懐いてもいたから、結局反駁に効力はなく、半ば両手に花状態で、桃城は二人に引き摺られてきた。 バーガーをパク付き、何気なく店内の窓から外をみれば、初夏の夕暮れは未だ明るい。二階のこの場所からは、ビルの影に傾き始めた夕日が雄大に映っている。 遠くに傾き始めた太陽を見詰め、桃城はフトした事を思い出した。 「そういえば、越前と英二先輩って、どっちが動体視力いいんスか?」 両足首に鉛の板を巻いての練習メニューの時。やはり二人は乾から特性野菜汁を飲まされた事が有る。 三種類に色分けされたカラーボールを、カラーコーンに当てるという、技術、集中力、精神力、共に揃わなければ難度の高い練習をしていた時。動体視力のよい筈の二人が、まっさきに乾の野菜汁の犠牲になった。その事を桃城は思い出したのだ。「そりゃ当然俺だにゃん」 「当然俺っス」 同時に口を開き、同時に互いに顔を見合わせる。 「オチビ生意気」 「事実を言ったまでっスよ」 ツンッと、リョーマは英二から顔を逸らすと、必然的に窓際に座っていたリョーマには、窓の外が映る事になる。 「益々生意気〜〜〜」 「まぁまぁ英二先輩」 「桃ッッ!お前の躾が悪いからだ〜〜」 「それ理不尽て言うんスよ」 「オイ越前」 お前の所為だぞ、桃城が呼ぶと、リョーマは何か窓の下を凝視している。 「越前?」 「オチビ?」 「ねぇ菊丸先輩、下見て」 「はにゃ?」 何処か感情を無くしたリョーマの声。少しだけ真剣になった双眸は、試合最中の切っ先を潜ませた、冷冽なものに変化している事に二人共気付いた。 「オイオイ、アレッて」 リョーマの台詞に店内の窓から下を見下ろせば、夕暮れ時の駅前は、何処か騒然としている事に気付く。 上がる悲鳴。追いすがる人。逃げる少年達。巧みな連係プレーで、小さいバックが次々に周囲を走る少年達に手渡されて行く。そうしている間に、追い縋る人間には、視覚的に攪乱されるてしまうだろう。そして少年達は、周囲の喧騒に紛れてしまう。近頃駅周辺で多発している少年グループのひったくり、窃盗だ。 「視える?」 「バッチシ」 「俺も視えるぜ」 「視力じゃないっスよ」 桃の台詞に薄い笑みを漏らし、けれど視線は窓から離れない。凝視する眼差しの奥に、ナニが映されているのか思う。 「何人?」 「判るので5人」 「俺と同じ答え」 「5人〜〜?」 「桃先輩はいいっスよ」 無理だから。 視力の問題ではないのだろう。視力だけならこの3人に差はない。3人とも2.0だ。けれど自分に視える事なく、リョーマと英二にしか見えないと言う事は、動体視力の問題なのだろうと、桃城は窓の外を凝視し思った。 同じ風景を視ている筈なのに、視えているものはまるで違う。それはきっとこういう時に気付かされるのかもしれない。 眼に映る景色だけではなく、視界に捉え映り、広がる視点や立場や意味やナニか。 瞳に映るものだけが全ではなく、むしろそれは視る者の眼によって色も形も変ってしまう不安定さを孕んでいる。眼に映る光景が、そのまま内界に投影される事は少ないだろう。視る者の視点、立場、価値によって、様々に姿形を変えて行く。同じものなどきっと誰も視えはしないだろう。感情や感性、個々の固体によって、視え方はきっと違う。今自分がリョーマや英二と同じものが視えないように。彼の気持ちが推し量れないのと同じように。 それはきっと下らない感傷ではないだろう。何よりこの状況では、物理的に違いすぎる。 「指揮者、誰か判ります?」 「ん〜〜」 ヒョイっとリョーマの体にピッタリと身をひっつけて、窓の下を見下ろして、英二は騒然としている人混みを冷静に見渡して、 「残念、タクト持ってるのまで判らない」 駅からショッピングモールに続く道を、左手に威勢良く駆け抜けて行く少年達の姿は正確に捉えられていても、指揮者は誰かは流石に判らない。 「桃先輩、視力も記憶力もいいんなら、記憶して」 「記憶ってオイオイ〜〜」 「桃の親父さん、一課だろう」 「何処にんな関係が」 確かに自分の父親は警視庁捜査一課管理官だけれど、この事件は確か所轄の管轄になっている。第一子供の目撃者証言が採用されにくい事も、桃城は判っていた。 「最後に走ってるアレ」 グループの中で、後方に居たのだろう、丁度視界の中央を走って行く少年の姿が映る。 「少年グループだって聴いてたけど、5人か…」 「取り敢えずね。一人面が割れれば、芋づる式っスから」 「少年法改正になったのに、バカな奴等」 「ありゃどう見ても高校生だね」 「マヌケ」 「桃先輩覚えた?」 「無茶言うな」 「まだまだだね」 「一瞬だろうが」 「此処からボールぶつけた方が、早かったにゃ」 「同感」 「確かついこの前も、そんな事してなかったスか?」 練習後、部の買い出しに馴染みのスポーツ店に向う途中。ひったくりに出会い、桃城はそのまま被疑者を追いかけて走っていってしまった。 三度目の正直で、ひったくり犯はリョーマのツイストサーブの犠牲になった。その時一緒に居たのは菊丸と河村、リョーマと一緒の一年生トリオだ。そしてリョーマと張り合ってひったくり犯にサーブを放った、不動峰中の伊武深司も一緒だった。 桃城はと言えば、結局ひったくり犯を追っていた筈が、途中から目的が完全に変ってしまい、不動峰の神尾とストリートテニスでダブルス対戦をしていたから、著しくリョーマの機嫌を損ねてしまったのは言うまでもない。 『ヘェ〜〜人に買い物押しつけて、自分は王子様してたんだ』 『……王子様って、お前の事か?』 睨めつけて来る眼差しに宿る光は揶揄と哄笑ばかりだったから、桃城も軽口を付く事しかできなかった。言い訳なんてさせてくれる相手ではない事は、判りきっていた。 『橘 杏、不動峰の部長の妹助けてたって』 『妬いたか?』 『バッカじゃないの桃先輩。俺に妬いてほしかったら、も少しマシな相手助けるんだね』 『お前なぁ〜〜〜』 大概大した言い草だったが、正鵠も射ている台詞でもあった。 『大体なんで俺が妬かなきゃなんないの?』 『俺達一応、付き合ってるし』 『取り敢えず、でしょ?』 その件の一番の被害者は海堂薫であったから、影ではこう呼ばれている。『海堂薫の三隣亡』 「オチビ、勝負」 「英二先輩〜〜?」 窓から視線を外し、リョーマに向き直った英二は、意味深な笑顔を見せているのに、桃城は勘弁してくれと内心で溜め息を吐き出した。負けず嫌いなリョーマな事だ。返事など聴かなくても判る。 「いいっスよ」 「越前、お前も」 「嫌っスからね、有耶無耶にされるの」 「有耶無耶ってな、そもそも最初から有耶無耶になるモンねぇだろうが」 「何言ってるスか。どっちが動体視力いいかなんて言ったの、桃先輩のくせに」 「そうだぞ桃。お前が原因。だから審判はお前。贔屓すんなよぉ」 「英二先輩〜〜大体どう勝負するって言うんですか」 ついつい情けない声をあげてしまう桃城だった。 「だって確かあいつらこの近辺出没してるってニュースで言ってるじゃん」 「ダメですよ、待ち伏せしようとか考えてるのかも知れませんけど、無理っスよ。第一もうじき都大会だって言うのに、こんな事部長にバレたら、校庭二十週じゃ済みませんよ」 それこそ部長の手塚の、静かに地を這う鬼気せまる声で、 『校庭百周』くらい言われるのは覚悟しなければならない。第一そんな下手な事をしてしまったら、都大会出場停止にもなりかねない。 「んじゃ桃、お前俺とオチビのどっちが動体視力が良いか、付き合えよなぁ」 「勘弁して下さいよ、英二先輩〜〜」 大体そんなものにどうして力をいれなくてはならないのか? 「よしっ、んじゃ明日、練習後、勝負だぞオチビ」 「望む所っスよ」 「オイオイ……」 「桃、審判だかんな」 つまり以前乾がやったと同じ方法を用いて、勝敗を付けると言う事なのだろう。 勘弁してくれ、桃城は深々溜め息を吐き出した。 「結局墓穴掘ったの桃先輩なんスよ」 まだまだだね、リョーマは笑う。 「っるせぇ、第一お前もその喧嘩っ早い性格どうにかしろ」 バーガーショップから出て、駅前のショッピングモールを、三人は歩いて行く。桃城は自転車を引きながら、歩いていた。 「でもさ桃、さっきのあいつら、顔覚えたから、モンタージュ協力くらいならしてやるよ?」 「だから俺に言われても……」 「桃先輩のお父さん、警察官なんだ」 知らなかったと、リョーマは隣を歩く桃城を見上げた。 見上げられ尋ねられた桃城は、困った様子でポリポリと蟀谷を引っ掻いている。 「すごいぞ、桃の親父さん。刑事じゃなくてその上だもんな」 「上?」 「英二先輩〜〜」 「刑事達を束ねる管理官」 「フ〜〜ン」 「オチビには判らないか」 「菊丸先輩には判るんスか?」 「ぜ〜〜んぜん。でもサ、だから協力するからさ」 「取り敢えず、親父に連絡付けときます……でもなぁ、どやされそうっスよ」 「なんで?」 「そりゃまぁ色々と」 子供が口を出す事柄ではないし、見ていたらどうして掴まえなかった、きっとそれくらい理不尽な事は電話口で言われそうだったから、心底勘弁してほしいと思う桃城だった。 そんな時だった。 駅前のショッピングモールを抜け、徐々に住宅街へと広がる道で、悲鳴が上がった。 「なんか今日はよくこういう場面に出くわすにゃ〜〜〜」 呑気な菊丸の台詞に、 「そんな事言ってるようじゃ、俺の勝ちっスね」 ニヤリと笑うと、言うが早いかリョーマはテニスバックからラケットを取り出し、ボールを持って構えている。 前方から走ってくる数人の少年達に、漸くリョーマの台詞の意味に気付いた英二と桃城だった。 「アリャ」 「眼ぇ、いいな」 「だから動体視力、良いんスよ」 こちらに向って走ってくる相手の顔を、一瞥で判断できたリョーマは、2.0と言う視力と動体視力の両方を、綺麗に合わせ持っているのだろう。 夕陽も翳り、周囲は完全に夜の褥の時間帯になっている。等間隔で灯る街頭だけが頼りの中、リョーマの焦点はヒタリと迷いなく正面に向けられている。 「んじゃ俺前方走って来る右のあいつね〜〜」 「桃先輩はバッグ持って走ってるあいつね」 「ウヒャ〜〜桃のダンク、痛そう〜〜」 嘯きながら、英二も既にラケットを手に構えている。 「俺は左っスね」 前方を走ってくる相手は、多分前方を走っている左右の相手のどちらかにひったくった相手のバックを投げ渡すだろう。そう予測した三人だった。ようはバスケットのボールパスと変わりない事を、少年達はしていると言う事だ。 女性ばかりを狙って発生したひったくりは、今日これで5件。此処で終わりだろう。多分少年達に、罪の意識ないだろう。日常に飽きて、少しばかりのスリルを求めての犯行。少年ならと言う、自らの年齢に甘え、温室に守られているといつまでも信じて、人を傷つけ、犯した罪の重さに気付くのは、すぐ後の事だろう。 「んじゃイクか」 「オチビ、走ってくる奴にちゃんとヒットしてこその動体視力と技術だかんな」 「菊丸先輩こそ、相手間違わないで下さいよ」 三人が一斉にラケットを構えボールを投げた瞬間、鋭い打球に足下を打たれた三人の少年達は、したたかアスファルトに躯を打っていた。 「それで」 「だから、手塚、説明したじゃん。朝刊に載ってるとおりだよ」 「そうっスよ部長〜〜別に悪い事した訳じゃ」 翌日の朝練で、開口一番、手塚の鋭い眼光に睨まれて、三人は立ち尽くしていた。そんな手塚達に、近付ける人間は、当然の事だが、レギュラー陣しか居なかった。 「そういえば、手塚の所のお爺さんって、警察で道場の指南している人だもんね、情報早いわけだね」 朝練に出てくる時間帯。手塚が生真面目に朝刊を読んでいる可能性は低い。けれど情報が正確に伝わっていると言う事は、情報源として考えられる人物は一人しかいなかった。 「でもまぁ、手塚が怒るのも無理はないよ」 不二がやんわりと窘める。 「大体よく判ったね。手塚の話しじゃ、走ってきた相手を最初から知っててボールぶつけたそうじゃないか?テニスをそんな手段に使うのは、関心しないな」 「乾の言う通りだ。大会前に何をしている。練習がたりないなら、幾らでも追加してやる。まずお前達は朝は校庭30周だ」 「エ〜〜〜」 「何か不服か英二」 「朝から30周?俺達何も悪い事してないのに」 「そうっスよ」 英二の隣で、リョーマがボソリと呟いた。それでも、帽子を深めに被り、視線をあわせないようにしている様子が、バツの悪さを現していた。 「お前達は朝はランニングだ。暴れたりないなら、午後にも追加してやる」 「手塚横暴〜〜」 叫びながら、英二は走り出す。これ以上文句を言えば、午後も心置きなくランニングだろう。 テニスの鬼と呼ばれる手塚は、顧問の竜崎スミレも多大な信頼と信用を寄せていて、口は挟まない。助け船が入る余地は皆無に思えた。 「大体桃の所為だ」 「何でですか?」 ますます理不尽だと、桃城は走りながら、既に疲れきっていた。 「桃先輩が、動体視力云々なんて言わなかったら、あんな事にはならなかったんス」 「越前〜〜お前まで」 「言霊作用だにゃ〜〜桃の発言で、俺達の力確かめる事件が舞い込んでたんだ〜〜だから全部お前の所為だ〜〜帰り奢れ〜〜」「本当っスよ。帰り奢って下さい」 隣を走りながらのリョーマの台詞に、もう反駁も空しい桃城だった。 【コメント】 ハハハ、もぉタイトルと内容の不一致ったら、笑って誤魔化すっきゃないです。否ネ、以前聞いたことあったんですよ。動体視力の在る人間ってのは、走っている車の中から、相手を探し出せるって。っで、何となく思いついて書いたんですが。ネタ的には、某探偵よりの話〜〜でした…。 相変わらず、桃リョと断言するにはって話しでした…。 | |||||||||
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