● 小瀬氏の「リハビリ日記」No.５９、２００４年１１月２２日（月）より
♪先々週の土曜日、今年３度目のライブを新栄にある「名演小劇場」という映
画館でやってきた。 なんでそんな場違いのとこでやったかといえば以前R＆B
に同居していた高藤君が名演小劇場でのライブの話を持ってきた時からこの
話は始まる。 初めはそんなタイソレタ考えもなく簡単に「ライブ、いいよ」と二つ
返事で承諾していた。 しかし私達に知らないところでそのライブ、結構タイソレ
タことになっていた。 そもそも昨年アメリカで“ブルース生誕１００0年”を記念し
て、コンサートやラジオ、CD、書籍、学習教材などあらゆるメディアを通して展
開されたブルースプロジェクトというものがあった。 その大トリを飾ったのがマ
ーティン・スコセッシ製作総指揮による７本の長編音楽ドキュメンタリー、「THE
BLUES Movie Project」。 名古屋では３つの映画館を使って上映されるという。
その１本を名演小劇場でやることになり、先行上映会のイベントとして我が
GOOD OLD BOYSのライブが賑やかしの企画として持ち上がってきたという
訳。 同様の企画が全国でも展開されていて、大阪では日本ブルース界の大
御所にして週刊モーニング連載の「Ｈｅｙ！ブルースマン」の大好評コラム執筆
者兼ブルース博士でもある永井“ホトケ”隆のライブ。 神戸ではあのＢＥＧＩＮに
「日本語ブルースの真骨頂！」と言わしめた関西屈指のブルースマン光玄が登
場。 その他、各会場でも有名な現役ブルースバンドが多数出演して盛り上げ
たという。 そんなブルースマンとしてはコレ以上もない晴れ姿の話がどうした訳
かオジサンバンドであるGOOD OLD BOYSに降り掛かってきちゃったんだな。
♪そうとも知らないノー天気の我々はといえば、先月の２３日星ヶ丘のライブハ
ウス「SLOW BLUES」において何と７ヵ月ぶりに練習がてらのライブをこなしてチ
ャンチャン（それというのも名演小劇場でのライブの話を家田君にすると、その
日は学校保健学会に出席するため新潟に行ってていないとのこと。 早速、そ
の日のために代わりのハ−ピストを用意しなくちゃならないとばかり、急遽スロ
ーブルースでのライブ兼ハープとの音合わせを企画した訳よ）。 ライブが終わ
ってしばらくして横山君から「今度の名演ライブの曲目は」という何時にない積極
的な電話があっただけで、２人のオジサンからはナシのツブテ。 ウンともスンと
も言ってこなかった。 ホントにいいのかなと思っていると、ライブの２〜３日前に
雄サンから「今週に入って熱が出てきたみたいで大変だった、昨日なんか３９度
もあった。どうしよう？」という泣きの電話が掛かってきた。 どうしようと言われ
てもどうしようもないじゃん。 冷たく「なるようにしかならない」とも言えないので
「当日までにはきっと治るよ、雄サン」と励ますしかなかった。 ヤレヤレと思って
いるとライブの前日、研チャンが突然事務所にやって来て言うことには「明日の
ライブ出なくていいよね」とこの期に及んで他人を装おうとんでもない話を持ち出
すではないか。 「何言っとるの、ダメダメ」とも言えないので「研チャンが出てく
れないと、このライブ中止しなくちゃならない。みんなが落胆するんだよね」とい
う話をしてこのライブ、ヒトエに研チャンにかかっているんだよという雰囲気で盛
り上げると最後は「それじゃ、明日ね」と機嫌よく帰っていった。
まだまだ続く、当日は雄サンに4時半までには私を向かえに来てもらう約束を
していた。 それなのに４時過ぎに「今、研チャンを迎えに行っているから、そっ
ちへは５時過ぎるよ」とどうした訳かいきなり変更の通知があった。 ダメだとも
言えず「何でもいいから、なるべく早く迎えに来てね」と愛想よく言うのがやっと。
４時５０分頃、階段の足音で雄サンの来たのが判った。 しかしドアを開けての
第一声が「今日は腹にチカラが入らんから歌は歌えんな」と予定をボロクソにす
る一言を言うじゃない。 これには温和な私でもカチンときた。 「何でもいいか
らインストでいいから自分の持ち時間だけはちゃんと消化してね」と嫌味を言う
のが精一杯。 その時、私も雄サンも研チャンも年甲斐もなく心臓が飛び出す
ように緊張していたのかもしれない。
♪名演小劇場という劇場は場所だけは以前から知っていたが入るのは今回が
初めて。 車を降りたら高藤君のところの女の人が待っててくれていた。「誰か
来てる？」と聞くと「もう２人来てますよ」と言うではないか。 「律儀者の横山君
はえらいな」と言いながら階段を上がったところが映画館のロビーというにして
は狭過ぎる何でもないところ。 エレベーターがないことは前から聞いていたが、
いざ上がろうと階段を見て「何だこの階段、片方にしか手摺がないじゃん」とた
ぶんそんなことだとは思っていたが落胆の色を隠すことはできなかった。 「手
摺が右側にあるということは、降りて来る時は手摺はなしか」と将来の苦労を今
から心配しているアリサマ。 そうは言ってもないものはないんであって、なるよ
うにしかならない。 愚痴ともつかない溜息をつくしかないのだ。 それにバンド
の控え室が３階にあるという。 ライブをやるのはさらにその上の４階だという。
「これは先が思いやられるな」とイツしか自分だけの世界にどっぷり浸ってい
た。 控え室に入ると案の定、横山君とハープの森野君が手持無沙汰でポツン
と待っていた。 「やぁ！調子はどうかな」と妙に明るく、しかしつまらん話しかそ
の時は思いつかなかった。
今日の曲順を雄サンに決めさせ待つこと２０分、いよいよリハの時間が来た。
階段を上がって今夜のライブ会場に入る。ざっと１００席ぐらいだというがそんな
に広くは感じない。ステージに上がろうとして事態の大変さに気がついた。 杖を
ついてでもステージに上がれないではないか。 雄サンがすかさず手を出して引
っ張り上げてくれた。 高藤君が言うには司会を勤めるZIP-FMのナビゲーター
の合図でひとりひとりステージにあがるというが、そんなことはできる訳ない。
すると雄サンが「ステージの裏にたしか階段があるんじゃない」と他人の家の構
造まで見透かしたようなことを言うではないか。 高藤君もその事に気がついて
「じゃ、そうしようかな」と予定変更に。 そうと決まれば早いことリハを済ましてゆ
っくりしようと思うが雄サンの執拗なまでの気真面目さで思いのほか時間が掛か
ってしまった。
♪控え室でライブの時間を待つ間、雄サンも研チャンもだんだん落ち着いてき
たみたいで、来る前あんなに騒いでいたのをチャッカリ忘れたのか、タワイモナ
イ事を言えるようにリラックスしている。 そろそろお客さんも入って来たみたい
で外が騒がしい。 知っている人の横顔も何人か見つける事ができた。 事前
に貰ったギャラを仲良く５人で別けると、すかさず雄サンが「やる前にギャラを貰
うなんて、なんか必殺仕置き人みたいだな」という話題が出るところがオジサン
バンドなんだな。 そうこうする内に高藤君が「そろそろ時間です」と知らせにき
た。 お客の上がる階段の反対側の事務所を通って裏にある非常階段を上が
るんだが、案の定こっちも手摺なし。 「日本のビルはこういうところがお粗末
なんだよね」と独り言を言いながら一番最後に登って行く。 中は真っ暗。 雄サ
ンが幕の合間から客席を覗けるところを見つけたみたいで盛んに何か言ってい
るが誰もそんな話は聞いていない。 しばらくボサッと突っ立っているとナビゲー
ターの合図が掛かった。 研チャンから順次ステージに入っていく。 第一印象
は「なんだこりゃ、めちゃくちゃ明るいな」と平生を装いながらオジサン達はまた
緊張の極致に上り詰めたんだった。 すぐ隣に雄サン、それから横山君、一歩
下がって森野君、一番向こうに研チャン。 一応スタンバイはできた。
するといきなり雄サンが１曲目（雄サンの歌）のイントロを弾き始めたではない
か。 顔を見ると引きつって緊張しているのがアリアリ。 「大丈夫か？」と思い
ながらも雄サンには「うん、大丈夫」とにこやかな顔で合図していた。 こうでもし
なけりゃ増々アガッて心が何処かに行ってしまう。 １曲目が終わる頃には「雄
サンのリードはいつもよりはギコチなかったがまぁ、こんなもんでしょう」と私は
既に評論家のように冷たい他人の目で回りを見ている。 ２曲目は私の歌、ま
あまあこんなものだな。 ３・４曲目は研チャンの歌、年季が入ってさすがだ。
５曲目はまた私の歌、自分で言うのもなんだがいつもよりは声が出てたようだ。
６曲目は横山君のオハコ、歌はちょっと線が細かったが出来はさすがの一言。
７曲目は研チャンと私のデュエット曲。 終わりに近づいた雄サンの安堵の心に
ポッカリ大きな穴が開いたみたいで、リハの時とは全く違うメチャクチャ遅いリズ
ムで勝手に始めるてしまった。 何だコレはと雄サンの顔を見ると「ワシ知らんも
んね」という他人顔をしている。 そんなこんなで音程も取りづらくて結局たいした
ことなく慎ましくそしてつまらなく終わってしまった。 最後にメンバー紹介を兼ね
たいつもの定番。 私の歌で始まり、雄サン、森野君、横山君とリードを繋いで
いって研チャンに。 最後はまた私に戻ってブレイク。 しかし最後の最後の聞
かせどころで私が歌詞を間違えて無惨にもジ・エンド。 見ていた客は何のこと
だかチンプンカンプンだろうが、私は「あ〜あ、最後にやっちゃったな」と後悔し
きり。 「まぁ、こんなもんだわな」という世紀のライブも無事終了。 終わりに研チ
ャンがいつになく直立不動で今日来たお客様に深々と感謝のお辞儀をしていた
のに、あとの者はソソクサとステージ裏に引き上げてきた。 そして肝心の映画
も見ないで打ち上げ会場のジャズ喫茶に全員シケ込んだのでした。 お疲れさん
でチャンチャン♪