b) 新AIと脳科学の接点(2)  

<赤ちゃんの学習とAIの学習の違い>

 赤ちゃんの脳内神経回路の形成は、外から入った画像や音、味などの

刺激情報が、ニューロンの回路網を通過する際のシナプス強化現象によって

行われます。

 つまり、外からの画像や音等の信号が、視覚系や聴覚系のニューロンを

通過すると、下図のように、シナプスが強化されます。



 脳内神経回路網のつながりは、最初、ランダムに近いと考えられます。 

 但し、ディープラーニングAIと同様に、例えば視覚系では、脳部位毎に、

ニューロンが平面上に配置されています。  そして、そのニューロン平面

(layer)が信号の流れる経路に沿って、一次元的に数珠繋ぎされていると

考えられます。

  


     


 しかし、今のDNN(ディープラーニング)AIの学習と、赤ちゃんの脳内での

学習のメカニズムは、次のような点で決定的に異なっています。

 AIでの学習処理は、次のような勾配降下法という数学的処理によって行わ

れています。 

         

                   勾配降下法

 この処理を、次の図のように、出力と正解との誤差を小さくする方向に

向けて何度も繰り返します。

       


 これに対し、赤ちゃんの脳内では、前述のように、単純に外からの信号が

通過する時にシナプスが強化されていく、ということだけが行われています。

 ニューロン自体は1個の細胞に過ぎず、考える性質はないので、難しい数学

は一切使っていません。 

 但し、脳の構造は立体的であり、大脳皮質での知的活動に関しても、次の

図のように、必ず脳幹や大脳辺縁系からの欲求ホルモンの投与が行われて

います。


           


 赤ちゃんは、目が見えるようになってから、いろんなものの形や色、硬さ

等をだんだんに覚えていくようになりますが、その際、必ず口に持って行って

味を確かめます。

 味としては、何より、お母さんの乳の味を最初に本能として感じ取っていま

す。 手が動くようになってから、いろんな物体を口で味わう時、それの味を

乳の味と比べながら認識していくのではないかと考えています。

 さらに、いろんなものの色や形等の認識の際には、その味と結び付けて

認識していくとも考えています。 

 これは、おいしい、まずい、といった本能的欲求と一体となった学習の仕方

です。 

 もう少し大きくなってからは、お母さんはじめ、いろんな人との戯れやコミュニ

ケーションの楽しさも、ドーパミン等の欲求ホルモンとして働きます。 


 脳の場合は、大脳皮質での知的活動も、脳幹や大脳辺縁系の活動から出発

している、といっても過言ではなさそうです。 


 これは、例えば歴史の勉強で、その事件の起こった年を覚える際、抽象的に

数字を覚えようとしても覚えられませんが、何かのイメージと結び付けると覚え

やすい、というのとも、少し似ています。 

 極端なのは、語呂をあてはめることです。 例えば、

1492  コロンブス新大陸発見    いよー、国が見える

1776  アメリカ独立          いいな、なろう独立国に

 赤ちゃんは、味と結び付けていろんなものの概念理解をやっているのでは

ないでしょうか?


 時間がないので、今回はここまでに。