「おやすみ、あさひ」
「うん、おやすみ、スガ」
体のあちこちが旭に触れているのが嬉しい。自分の体温を旭が喜んでくれているのが嬉しい。
幸せだ。
眠ろう、このまま。眠りたい、このままで。
肌と肌とをあわせて毛足長めのタオルケットの中にいるんだからもう旭の手足はだいぶあたたかい。
けれど離したくない。
だから、そろそろもういいよ、と言われてしまう前に、さっさと意識を、失ってしまおう。
………
目が覚めたので、布団からむっくりと体を起こした。
しかし旭の部屋ではない。
周囲はぼんやりと白く、なにもない。
隣りを見ると、旭が、はだかの腰に白い布を巻きつけただけの赤んぼになっている。
(あ、夢だ、これ)
(…)
(それにしても…)
隣りの旭をしげしげと眺める。夢の中の赤んぼ旭は、顔も体も赤んぼらしくぷくぷくころころと丸く小さくなって
いるものの、しかし団子状にまとめたロン毛とちょぼちょぼと生やした顎ヒゲはそのままで。
(気持ちわるいな!)
笑ってしまう。この旭を作り出したのは自分で旭はなにも悪くないのだとわかっていても、止められない。
『あ、』
バカにしたことが伝わったのか、赤んぼ旭がひんひんとぐずりだした。
(ははは、ごめんごめん、俺が悪かったよ)
以前、親戚の子どもを抱かせてもらったことがある。そのときのことを思い出しながら、旭の首の後ろとお尻を
しっかりと手で支え、よいしょと抱きかかえた。
『よしよし』
『あさひ、泣かないで』
胸にもたれさせ、優しく背中をたたいてやりながら、立ちあがる。
自分の体を小刻みに上下に揺らして、あやす。旭は泣きやみ、おとなしくスガにしがみついた。
(ふふ、かーわいい)
手の中の小さくてあたたかくて柔らかい体が愛しい。なんだかとても嬉しくなって、足どり軽く歩きまわる。
『あさひ』
『今どき、布のおむつしてるなんて珍しいねえ』
旭は、祖母からとても可愛がられていたのだと聞いたことがある。このレトロなおむつは、そこからの連想
だろうか。
『なんだろうね、これ。ガーゼ?』
腕にやんわり、さらさらとあたる、この感触。
『いや、それよりはもうちょっとしっかりしてるかな…?けどこれ、すごく気持ちいい』
むにゅむにゅと、旭がなにか言う。顔は見えないが、きっと笑ったんだろうとスガは思う。
『ふふ、旭も気持ちいいって、思ってるんだ』
まるでそれを肯定するように、旭が頭をスガの頬に寄せる。スガも、旭の頭に優しく頬ずりした。
(かわいいなあ)
(……)
(それにしても、どうしてこんな夢、見てるんだろ)
今、赤んぼ旭を抱きかかえているように、昨夜、旭の腕を抱きながら、眠りについたからだろうか。
(そういえば、親がお祝い事で出かけていないから、って言ってたけど…)
もしかしたら、出産のお祝いなのかもしれない。
(だったらすごい偶然だよね。目が覚めたら旭に聞いてみよっと)
腕の中の旭が、また、むにゅと小さく声をあげる。
(けど、まだ、目、覚ましたくないなあ)
だってこんなにかわいいんだもの、と、スガは思う。
(まだもう少し、このまま…)
このままでいたい、と思った、そのとき。
(…ん?)
Tシャツの胸のあたりに、熱いなにかがじわりとしみこんでくるのを感じる。
(あ、)
(これはもしかして)
スガは急いで布団まで戻り、膝をついて旭をおろした。
(やっぱり)
旭のおむつがびちょびちょだ。
スガが着ているシャツも、ぺったりと胸に貼りつき、肌が透けて見えるほど濡れている。
(ああ、いっぱい出したねえ)
スガは苦笑して、旭の頬を撫でた。こんなに濡れてしまっては気持ち悪いだろうに、旭は目を閉じたまま
うんともすんとも言わない。
抱いて、歩いているうちに、いつの間にかすっかり眠りこんでしまったのだろうか。時折、気持ちよさそうに
むにゅむにゅと口を動かすだけだ。
(安心、してるのかな)
目を閉じて、大の字になって。なにもかも、スガに任せきって。
(ね、あさひ)
返事するように、旭がすーんと鼻息をもらした。
(ふふ)
また、旭の柔らかい頬を撫でる。旭の口の両端が、少しあがる。
(笑ってる)
(かわいい)
(あ、)
(いけない、こんなことしてる場合じゃ)
濡れたままでいては、冷えて、風邪をひくか、あるいは腹を壊すかしてしまうのではないか。
(なにか、乾いてる布)
探さなくては、と、立ちあがる。しかし周りには、なにもない。
(どうしよう)
(あ)
足元に、目を落とす。
(そうだ、シーツ)
(これ、裂けないかな)
けれど使い古した布ならともかく、これはまだ、ほとんど、真新しいと言っていい。
(うー)
(けど、)
(やるか!夢だし、そこは都合よくどうにかなるかも!)
スガはてきぱきと濡れたおむつを外し、シャツを脱ぎ、シャツの濡れていないところで旭の体をぬぐった。
タオルケットをぱたぱたと四つ折りにしてその上に寝かせ、余った部分を折り曲げ旭の腹の上にかける。
(これでよし)
(待ってて、旭!)
と、鼻息荒く立ちあがったところで、スガは目を覚ました。
続く
(14/06/20) |