黄金週間合宿、そして音駒との練習試合の前に、懸案事項だったエースとリベロのことが解決して本当に
本当にほっとした。

烏野バレー部、フルメンバーが揃って、さて明日からの練習はどんなふうに進めていこうか、ということを
副主将のスガと打ち合わせていたとき、

「アサヒさん!」

と、日向が旭を呼ぶ声が。

ちら、と、スガから声のしたほうに目線を移すと、ちょうど旭がこちらに背を向け、日向と相対したところだった。

日向が、少し緊張した面持ちで、それでも、はっきりと言う。

「おれは、エースじゃないけど」
「エースの前に、道を作ることはできます。最強の囮に、なります!」

おお。

スガを見ると、スガもまた日向たちのほうを見て、向こうの話に耳をそばだてていたようなので、俺はこそっと
スガに言った。

「ありがたい話だな」

スガが笑う。

「ほんとにな」

「…あっ、かっ、影山のトスがないとできないけど… だから、だからえーと…」

おおっ?どうした日向。何かつっかえている。俺たちはまた、ふたりを注視した。

「日向、だっけ」

お、しどろもどろになってしまった日向に、へなちょこが何か助け舟を出そうとしているような。

「エースってさ、たいていウイングスパイカーのレフトのポジションの選手がそう呼ばれるけど」
「俺とか、田中とか」

…エースの自覚があるならさっさとチームに戻ってこいっつの…!!!

俺はイラッとしたが、

「はい」

と、日向はおとなしく旭の言うことを聞いている。まあ仕方ないか、日向からすれば旭は憧れのエースだ。

「三枚ブロックをブチ抜けるとか、大事なところでトスが集まるとか、それは、確かにエースの役目だけど」

旭が、少し黙る。

「あんな風にセッターに言わせられるっていうのも、とんでもなく凄いことだと思うよ」

あんな風に、とは、俺がいればお前は最強だ、とか?どんなブロックとでも勝負できる、とか?

…旭、それは、自分がスガにそう言わせられなかったという、自責なのか?
…それとも、そう言ってくれなかった、スガのほうを責めているのか?

俺はスガを見た。旭をじっと見るスガからは、彼が今何を思ったのか、何も読み取れない。

スガはただ、旭をじっと、真っ直ぐに見ている。

「…あ??」

あ、日向がなんだかわかっていない様子だ!こら!旭!ちゃんと喋れ!

そう俺が思っているのに、旭は逆に、

「えと…、だから、あの、なんだ」

と、どもりだす。スガの体が僅かにふたりのほうに動いたのが目の端に入った。間に入って助けたほうがいい
のかと迷っているんだろう。

「どんな呼び名でもポジションでも」

あ、よかった、ちゃんと喋りだした。緊張を帯びていたスガの体からも、ほっと力が抜ける。

…ほんと、旭のことになるとすぐにうろたえるよな、お前は。

「敵チームにいちばん恐れられる選手がいちばんカッコイイと思わないか?」
「あのミドルブロッカーやべーぞ!気ぃつけろ!」

…なんだその小芝居。

「とか言われてさ」

しかし本人はうまくできたと思っているようだ。声が、背中が満足げだ。

苦笑して、俺がスガに、旭ってほんとにしかたのないヤツだな、といった感じのことを言おうとしたとき、

「負けないからな」

日向に宣戦布告する、旭の声、言葉。スガの目が、ぱあっと、光を帯びる。それから嬉しそうに、その双眸が
細められた。口の両端が、ふわ、と、あがって。

…ああ、こういうのを、幸せそうな顔、って、言うんだ。

…よかったな、スガ。また旭が、俺たちとバレーをやる気になって。

「あ。でも俺は、レギュラーに戻してもらえたらの話だけど…」

は!?お前、俺とか田中とかがエースって呼ばれるんだよって日向に言っておいて今さらそういう話!?

だいたい、お前ほどの身長とパワーを兼ね備えた選手が今うちにはいないだろうが!見てわからないのか!
それとも何か?お前は俺がそこまでイジワルだと思っているのか!?

俺が旭のアホっぷりに内心、呆気にとられていると、スガのくつくつ、可笑しそうな笑い声が聞こえてきた。

「ふふふっ… 旭はでっかいくせにほんと気は小さいなー」

楽しそうな、機嫌よさそうな、スガの声。

久しぶりだ。

…よかったな、元に戻って。
またこうして、ほんとに旭はかわいいなあと言ってるようにしか聞こえない、憎まれ口をたたくことができて。

「ちゃんとお前も復活したな、スガ」

…今俺の言ったことが旭の耳にも入っていればいいと思う。反省しろ。

復活したスガは、少し強気な笑みを浮かべて、

「うじうじくよくよいじいじしててすみませんでした」

と、ぺこりと頭をさげた。

おいおい。

「そこまで言ってない」

旭もスガも、俺のことどんだけ怖いと思っているんだろう…

そこは、心配かけたごめん、ありがとう、もう大丈夫、で、いいんじゃないかなと思いつつ、けどスガのあの
笑顔はたぶん、そう言っていたから、まあ、いいか。





(14/06/11)

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