爪を研ぐ


・岩ちゃんと及川

「ハイ」
と、及川がこっちに放り投げたものを落とさないように受けとめる。なんだこれ?爪やすり?
「岩ちゃん。ほら」
及川がニヤニヤと笑いながら右手を差し出してくる。爪をとげ、と言っているのだ。

「あー… ハイハイ」
恭しくその手をとり、放り投げられた爪やすりで爪の白い部分を削ってやる。
コイツのこういうくだらない嫌がらせにはもう慣れたがそれでもやっぱりイラッとくることはイラッとくるので
俺はこれから先しばらく試合がないことを頭の中の予定表で確認してから十本ぜんぶを少しだけ深爪に
してやった。

「ヒドイなあ、岩ちゃんは」
両手の爪を満足そうに笑って眺めながら及川は文句を言う。
俺が黙っていると及川はコートに戻り、いつもと変わらない澄ました顔でいつもと変わらないそれはそれは
キレイなトスをあげた。

あー、やっぱコイツむかつく。



・及川と影山 その1

「トビオちゃん、手ぇ出して」
と、あの人が言うのでなにか渡すものでもあるのかと右手の平を上に向けて差し出したら
「こうだよ」
と、あの人の左手が俺の右手をとってひっくり返した。

あの人が、俺の手をじっと見る。

「つめ、爪きりで切ってるの?セッターは
指先の感覚が大事だからもうちょっと丁寧に扱わないとね爪の先ひとつも疎かにしたらだめ」

と、あの人は歌うように言い俺の右手の人さし指を指と指できゅとつまみ
爪きりで切られた少しがたついて端には切り残しの尖りが小さく出っぱっている俺の爪を右手にもった
平らな棒ですっと撫でた。

「ほらね。こうやって」

角度を変えながらすっすっと二、三度撫でられた爪の先は丸く、きれいになった。
あの人は、次に俺の中指をつまむと、また、同じように爪の先を削った。

「あとは自分でやりなね」
あの人はそう言うと、俺の手の平をまたひっくり返して、そしてあの人の右手の中のものを俺の右手に
握らせ、くるりと後ろを向いて立ち去ろうとする。

「及川さん、これ」
「あげる。大事にしてね?」
あの人は振り向いて、にっこりと笑った。

あ。
ありがとうございます、…言いそびれてしまった。



(と、こういうの↑を考えたけど、及川に教えられなくても影山は既に知ってそうだなあ。てなわけで)

・及川と影山 その2

「トビオちゃん、手ぇ出して」
と、あの人が言うのでなにか渡すものでもあるのかと右手の平を上に向けて差し出したら
「こうだよ」
と、あの人の左手が俺の右手をとってひっくり返した。

俺の手をじっと見ていたあの人の顔が、ふっと柔らかくなった。

「さすが。ちゃんとやすりでキレイに手入れしてるね」
「及川さん?」
「爪のこと。あーあ、俺がトビオちゃんに一から爪の手入れ教え込んであげたかったのになー」

そう言ってあの人は残念そうに苦笑すると、
あの人の手の中に収まったままの俺の手をすっともちあげちゅっと音立てて俺の手の甲に唇をあてた。

「ギャー!」
慌てて手を取り返すと、あの人はとても楽しそうに、
「そんなに怒らないでよ。かわいいなあ。いいじゃない、褒めてるんだからさ」
と、笑った。

よくない。ぜんぜんよくない。

(13/04/27)





(…という感じのことを考えてたけど、7巻見たら中学及川ぜんぜんこんなじゃなかった(´▽`; 13/08/19)

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