「これ、大石にあげる」

最近、負けてはいないものの辛勝が続いた大石と菊丸ペア。
一度よく話し合うかとやってきたいつものコンテナの上、鞄の中からごそごそと小さななにかを
取り出し、菊丸はそれを大石の手のひらにのせた。

「チョコレート?」
「そう」
「余ったんだ?ありがとう、いただくよ」
「うん」
「これ、英二の手作り?」
「ううん、俺だけじゃなくて兄弟みんなで作ったの。
バレンタインとホワイトデーはいつもそう。
みんな付き合いいいから義理とかお返しが大変でさ。買うより、作った方が安上がりだからって
毎年みんなで作るの」
「へえ〜…
うん。美味い」
大石は透明な小さな袋の口を縛ってあるリボンを解いて白い小さなハート型のチョコを口に放り
込んで言った。
「溶かして固めただけなんだけどね」
「え、でもチョコレートは溶かす温度の調節が難しいんだろう?」
「へえ〜!よく知ってるね。テンパリングなんて」
「妹が、家で作ってたから。
…美味しかった、ありがとう。あ、ごめんな、俺ばっかりもらっちゃって」
何かなかったっけ、と大石は自分の鞄を開いて探し始めた。


「大石」
「ごめん、ちょっと待って。昨日妹から飴をもらって…」
「大石。俺は」
「…英二?」
「俺は大石と一番仲のいい人間になりたい。一番がいい」
「…英二」
「そうなりたいんだ」
「英二、俺も、英二と仲良くなりたいと思ってるよ」
大石は笑う。

でも一番とは言ってくれない。


「…うん。嬉しいな、大石にもそう言ってもらえて。
あ、ね、見つからないなら今からどっか行かない?」
菊丸は、鞄の中を覗きこむ大石の後ろから笑いながらじゃれついて、ひとつ涙を落とした。



(03/06/09)

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