俺は今日越前と大きな駅前で待ち合わせをしている。
まったく…、もう九月も終わりだというのになんて暑さだ。
着ているシャツのボタンを、もうひとつ外した。
襟元を摘んで軽く動かして中に風を入れる…、が、あまり涼しくはならなかった。
「待ち合わせ…、してるの…?」
俺と同じくらいの背の高さの中年の男が近付いてきた。
「…はあ、してますが」
それがどうかしたのか。
男は黙って俺を上から下までまるで品定めでもするかのようにじろじろと見た。
一体なんだというんだ。大体、人にものを尋ねておいて、そして俺はちゃんとその質問に
答えたというのになぜ黙っているのだ。
待ち合わせしているが、それがなんだと口を開きかけたとき、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「部長〜!
遅くなって…」
「越前…!」
手を振りながら越前が小走りにこっちにやってくる。
ふと横を見ると、俺に声をかけた中年の男はなんだか逃げるように人ごみの中に消えていこうとしていた。
「すいません、遅れて…。
あれ、どしたんすか?」
後ろを振り返って見ている俺を不思議に思ったのか、越前が怪訝そうに見上げてきた。
「いや…、なんだかよくわからないが…
中年の男に待ち合わせしてるのかと聞かれて…
していると答えたら、黙って俺をじろじろ見て…」
「ふーん。春を売ってるんだって勘違いされたんじゃないんすか?
ここ、すぐ裏はホテル街ですしね」
越前があまりにさらりと言うので、一瞬言われたことのとんでもなさがわからなかった。
「…なんだと!?」
「俺もそういう手合いに声かけられたことありますよ?
夏場とか多いんですよね。
…ほら」
言って、越前は背伸びして俺の襟元に手をかけた。
「…こんな風に、胸元ぴらぴらさせてるから…
臍まで出して」
一番上をひとつだけ残して他のあいたボタンを全部留められてしまった。
「越前…
あ、す、すまない…」
「いいっすよ別に。俺は男の肌なんか見ても嬉しくもなんともないし。見苦しいから仕舞ってて下さい」
「あ、ああ…」
「あれくらいで動揺してるなんて部長もまだまだっすね!
ほら、早く行きましょ!」
越前が、笑って俺の手を引っぱった。
(03/06/10)
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