リョーマの母の申し出に、手塚が越前宅を訪れてからしばらくの間。
手塚とリョーマの二人はお互いの空いている時間にリョーマの家の寺の前で待ち合わせてはエロ本の
隠し場所である寺の本堂の中、座布団などの備品を仕舞っている小部屋に行き、そして持てるだけの本を
持つと手塚の家まで一緒に運ぶ日が続いた。


でも、とりあえず今日でそれは終わりだ。
重たい鞄を背負って並んで歩きながら、そう言えば、と手塚は口を開いた。

「俺は、最初、お前のお母さんの本をいただくはずだったのだが…。でも結局持って帰っていないだろう?
越前、お前はお母さんからそのことについて何も言われてはいないのか?」
「あ、それなんですけど…」
リョーマは笑ってそのときのことを話し始めた。


『リョーマ〜、ちょっと…。ちょっと来てくれる〜?』
階下から聞こえてくる母親の声に、リョーマははっと目を覚ました。

手塚が変な意地を張って父親の本を持って帰ったあと、家に戻ってきたリョーマは手塚が母親の本を持って
帰っていないことをどう言い訳しようかと自室のベッドに寝転がって考えているうちについうとうとと眠りこんで
しまったのだ。

(やば…、どうしよ…)
本のことかもしれないが、もしかしたら他の用かもしれない。とにかくまず母親の顔を見てからどうするか
決めよう、とリョーマは自室を出た。

『なに?母さん』
『ちょっと部屋に来て〜』

(本のことかな…?)
まあいいや、悪いのは親父だ、正直に話してもいいか。だけど言い方によっては部長がエロ中学生に思われ
かねないから、そこだけは注意して話そう。とリョーマは心積もりをして、
『なんか用?』
と、両親の部屋にとことこと入ったのだった。

『リョーマ、ごめんなさいね。』
?、とリョーマは思う。謝るのは、どちらかと言うとこっちの方ではないだろうか。

『南次郎さんがね、私が分けて箱に入れていた本をまた本棚に元通り戻してしまっていたの。
たぶん、私が出しっぱなしにしてると思ったのね…。
ごめんね。私がちゃんと南次郎さんに伝えておかなかったから。どれが要らない本か、わからなかった
でしょう?』
リョーマは、母親にわからないようにほっと安堵の溜息をつき、そして苦笑を噛み殺した。

(たく、あの親父は…)
『もう…、たまに気を利かせてくれたかと思ったら、これなんだから…。南次郎さんたら、いやねぇ…、うふふ。
ほんとにごめんね、リョーマ。…リョーマ?』
怪訝そうな顔をしている母親に曖昧に頷く。

『せっかく来ていただいたのにねえ…。手塚くんに申し訳ないことをしてしまったわ。
リョーマ、あなたからよくお詫びしておいてもらえる?』
『うん、いいよ。あ、母さん、また分けておいてもらえる?先輩、今日持って帰れなかったから』

『もちろんよ。でもまた来ていただくの?悪いわ… いっそ、送ってあげたほうがいいかしら』
『えー!いいよ、そんなのもったいないよ。
それにほら、欲しくない本もあるかもしれないし、ここに来て見てもらわないと!
ね?』

『そう、ね…。要らないなら、処分するのにまた手間をかけさせてしまうものね…』
『そう。だから俺からちゃんと先輩に伝えておくから』
『わかった。お願いね』
『うん』


「…とまあこういうわけです。
まったくそんな隠蔽工作までして先輩にエロ本あげたかったのかと思うと、可笑しくて。
隠し場所は寺の本堂だし。確かにあんな風にごちゃごちゃ荷物の多い部屋にダンボール箱が一つくらい
余分にあっても目立ちませんけど…。まあバチ当たる前に全部運び出せてよかった」
リョーマは目を細めてくすくす笑った。

「そうだったのか。
…越前、お母さんとそんなことがあったのなら、早く言ってくれればいいのに」
「だって、これ全部持って帰ってからじゃないとどっちにしても母さんのほうは持って帰れないでしょ?
母さんの本がもし一度で持って帰れる量だったとき、先輩がまたうちに来てごそごそやってたら変じゃ
ないすか?」
「………そうか?」
「そう、だと思いますけど…」
「………」
「まあいいじゃないですか。
また、俺のうちに来てくれますよね?」
「ああ、ぜひ」
「よかった」


二人は、手塚の家に到着した。
「じゃ先輩、俺はここで」
「…越前、今日はまだ時間も早いし、上がってお茶でも飲んでいかないか?」
「…え、でも」
「母の作った美味いおはぎがあるぞ」
「じゃあちょっとお邪魔します」

「…お前は、特に洋菓子じゃなくてもいいのか?」
「俺、美味いものなら何でも好きっすよ?」
「そうか…。
じゃあ、これを先に俺の部屋まで運んでしまおう」
「っす」
階段を上がり、手塚は先に立ってドアを開ける。


「すまない、奥の本棚の前に置いてくれないか?」
と言って手塚は部屋の奥の本棚をドアの外に立っているリョーマに指し示すと、歩いていってまず自分の
荷物をその前に下ろした。
「うい〜す。
……痛ッッ!!」
「越前!?どうしたんだ…!」

手塚は振り向くと、入口にうずくまるリョーマの側に駆け寄った。
「越前?」
「…………た、タンスの角で、小指ぶつけた…」
それは痛い。手塚はその痛みを想像して思わず眉根を寄せた。

「大丈夫か、越前。」
肩を掴んで、上半身を抱き起こす。リョーマはいたたとうめきながら手塚にしがみつき、涙目で見上げた。
「…大丈夫すけど…。
なんすか、先輩…
この、狭さは…ッッ!!!!?」
「…は?狭い?」

「ここ…!ベッドとタンスの間がむちゃくちゃ狭いじゃないすかッッ!」
「そうだろうか。
ずっとこういう配置だったが…。俺は、そうは思わないが」
「そりゃ先輩はずっとこれで生活してて慣れてるからでしょ!?
変!絶対変!変だ!」

「越前、そこまで言わなくても」
「変なものを変だと言ってなにが悪いんすか!
先輩、今まで誰からも言われたことないんすか!?」
「…今まで誰もこの部屋にきたことがないから…」
「………………。
…っ、と、とにかく!模様替えはしたほうがいいんじゃないすかッッ!?」

「でも…」
「ねえ先輩、今ぶつけたのが俺だからいいけど、もし先輩に彼女が出来て、でその人がこんな痛い目に
あったら可哀相でしょ?」
「俺はそんな人間を作るつもりは…………
じゃあ、そ、そんなに言うなら、お前が手伝ってくれるか!?」
「えっ!なんで俺が!」
「俺一人じゃ家具を動かせない。駄目か?」

ダメ。と即答しかけてリョーマは口篭もる。
元はと言えば、リョーマの父親のしたことが原因なのだ。いくらリョーマも本を運ぶのを手伝ったとはいえ、
卒業式やなんやらで忙しい手塚の時間を最初の予定よりかなり取らせてしまったのは事実だ。それに
まだ母親のぶんも取りにきてもらうつもりでいる。
迷惑をかけてしまったのに、頼まれたことを無碍に断るなどということは、さすがのリョーマも大層気が
ひけた。

「…………じゃあ、春休みに、一日だけなら」
「ありがとう。越前」
「…いいっすよ。親父のことでは迷惑かけちゃったし…」
リョーマは溜息をつくと目を閉じて手塚の肩にもたれかかった。

「………迷惑だなんて、俺はそんな風には思ってはいない…。
あ、そ、そうだ、お茶を…」
手塚は、リョーマから体を離すと、そそくさと階段を下りていった。

リョーマは立ち上がると、膝をついた拍子に落としてしまい、床に転がったままだった鞄から本を出して、
部屋に入る前に手塚に言われた場所にそっと下ろした。
そのまま、部屋の中を見渡してみる。

まず、壁にかけられた色とりどりのルアーが目をひく。釣りが好きなのだろうか。
ベッドの側のケース、ガラスが光って中が見えにくい…、近づいてよく見ると、釣竿が収まっている。
これだけ道具を揃えているところを見るとかなり好きな様子だ。

ケースの隣りの本棚に目をやると、父親の本がブックカバー等で覆われることなく剥き出しで収められて
いた。そりゃ、日本語タイトルに比べれば遥かにどんな本かはわかりにくいが…。

…ベッドの側の本棚に入っているというのが、また、その…、嫌な連想をさせる。ベッドに横になって官能
小説を読む手塚、そして…。生々しく想像してしまいそうで、リョーマは頭をふった。

机の横にある本棚にも、よく見ると父親の本が入っていた。あちこちに点在しているところを見ると、単に
空いているところに入れているだけかもしれない。リョーマはほっとした。
そして、ほっとした自分を訝しく思う。別に手塚があれでなにをしてようが自分には関係ないのに。変な
自分が可笑しくてリョーマは少し笑う。

「何か面白いものでも見つけたのか?」
笑っているところを見られたのだろうか、お盆を手に戻ってきた手塚が不思議そうな顔をしていた。

「なんでもないっすよ」
「…そうか。ほら、こっちへこい。今座布団も持ってくるから」
「あ、いいっすよ、このままで」
「そうか?じゃあ、食べよう。
それから、足はもう大丈夫か?」
「大丈夫っす。
うわ〜、美味そうっすね!」
リョーマは艶のある餡にくるまれたおはぎと、いい香りのする日本茶に歓声を上げた。


「…じゃ、今日はこれで。
おはぎとお茶、マジ美味かったっす。ごちそうさまでした」
「お前に喜んでもらえてよかった。母にもそう伝えておく」
「あんなに美味しいものが食べられるなんて、先輩のうちはいいなあ…
じゃあ、また日曜に!さよなら」
「ああ、またな」
手塚は小さく手を上げた。




日曜日。リョーマの家で待ち合わせて、まず手塚が本を選び、そしてそれを運びがてら二人は手塚の家に
向かった。

「こんにちは、お邪魔します」
玄関を開けて招き入れた手塚の後ろからそう挨拶をしてリョーマが玄関に入る。
靴を脱いでいると、奥から手塚の母親が現れた。

「いらっしゃい。あなたが越前くんね?初めまして国光の母です」
「あ…、初めまして。越前です。先輩にはいつもお世話になってます」
リョーマは、ども、とぺこりと頭を下げた。

「うふふ、うちではそんなに畏まらなくていいのよ。どうぞ楽にしてね。
それから、今日は夕飯をうちで食べていってくれるわよね?」
「いいんですか?」
「ええ、もちろん。うちの息子の部屋の片付けを手伝ってもらうんですもの。
越前くんは、和食と洋食とどっちが好き?あ、中華でも構わないわよ」
彩菜がにこにこと笑う。リョーマは嬉しそうに目を輝かせた。

「えと…、じゃあ和食がいいな!あ…、和食がいいです」
「うん。わかったわ」
彩菜はにっこりと頷いた。
「それから…、あの、おはぎ美味しかったです、とっても!あの時は、ごちそうさまでした!」
「ありがとう、越前くん。夕食もそう言ってもらえるようにがんばるわネ。
そうだ、ねえ国光」

リョーマとにこにこと話をしていた彩菜が手塚を振り返る。
「なんですか?」
「お茶は…、どうしましょうか。今部屋に持って上がると、片付けの邪魔よねぇ?」
そう言って彼女は小さく首を傾げた。

「俺が、切りのいいところで自分で用意します」
「そう。あ、それから、私はもう少ししたらお夕飯の買い物に出かけるから。
お留守番、頼むわね?」
「わかりました」
「じゃあ、越前くん、ごゆっくり…っていうのはこれからお手伝いしてくれる人に対して変ね…
じゃあ、そうね…。重いものを動かす時は気をつけてね」
「はい、気をつけます」
リョーマは、笑って頷いた。




「………痛ッッ!!!!」
「越前!?」
リョーマは、タンスには気をつけて、そして避けた。その結果、今度はベッドの足の角に小指を強打
してしまった。
この前より遥かに酷い痛みに、リョーマはベッドの上にもんどりうち、ベッドカバーをきつく握りしめて
身悶えた。

「い、た…ッッ…、う…っ、く…ぅ…うぅ…」
「越前…、越前、大丈夫か?」
「うう…、もう少ししたら痛みひくと思うっす…
ちょ、ちょっと待っ…、あ、いた…、は、ぁ…っ」

右足を抱えて仰向いて顎をのけぞらすリョーマの目尻には涙が滲んでいて痛々しい。
「越前…」
「………は、はあ…、は〜…
すいません、もう、平気っす」
「越前、ちょっと見せてみろ」
「え?でも、もうあんま痛くないっすよ?」
「いいから。爪が割れてるかもしれない」
「げっ」

リョーマは、ベッドに腰掛け、両足を床に下ろした。
手塚はそっとリョーマの右足を持ち上げると、するりと靴下を脱がせた。
ほとんど日に焼けていない、白く小さな足が剥き出しになる。

手塚は、小指のあたりを慎重に支えると、しげしげと眺めた。
爪は何ともないようだ。指も…、少し赤くなっているだけで、特に異常な腫れなどは見受けられない。
痛みさえひいてしまえば、心配することもないだろう。

「先輩…、なんとも、ないっしょ…?」
「ああ。大丈夫だ」
「よかった〜。あ、そう言えば」
「なんだ?」

「………ね、勉強は、したんすか…?」
からかうように、手塚の手の中の足をちょいちょいと振ってみせる。
意味ありげな笑みを浮かべて手塚を見下ろすリョーマは、とても煽情的だと手塚は思った。
思って、そして。

「………越前…」
ゆっくりと、リョーマの素足に唇を這わせた。


「ぎゃ――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!」

小さな体のどこからそんな大きな声が出るんだと思うくらい巨大な、そうまさに巨大と呼ぶにふさわしい
絶叫を、リョーマはものすごい勢いで発した。
手塚はその大音響に一瞬くらりときた。冗談ではなく、家屋がびりびり震えたと思った。

「国光!?越前くん!?」
ばたばたと足音を響かせて、息せき切って駆け上がってきた彩菜が扉から顔を覗かせた。
「なに?今の悲鳴は!?」

「…なっ、何でもありません!ゴ、ゴキブリが出たんです。びっくりして、それで…」
いつも落ち着いている彼にしては珍しく慌てた様子でそう告げる息子と、彩菜のほうを見たまま何も言わず
目を白黒させているリョーマを見て、彼女はかなりの大物が出たのだと思ったらしい。
きつく眉を寄せて泣きそうな顔になると、ぞっと体を震わせた。

「いやだわ…、いつも、もっと暑くならないと出てこないのに…。
それで、そのゴキブリはどうしたの?」
「あ…、ド、ドアの下の隙間から外へ…」
「ええ…!?や、やだ…。
あ、でもこんな狭い隙間を通れたってことは、そんなに大きくはないのかしら…
ああでも、買い物のついでに忘れずにホウ酸団子を買ってこなくちゃ…。
ごめんなさいね、越前くん、びっくりさせて」
リョーマは無言でこくこくと頷いた。

「…国光。ちゃんと掃除しなきゃ駄目よ。じゃあ、少し早いけど、私、買い物に行ってくるわ」
「はい、行ってらっしゃい」
彩菜は、ぱたんと扉を閉めると、階段を下りていった。


「…手塚先輩…」
徐にリョーマは足を上げると、ゆっくりと手塚の体を後ろに蹴り倒した。
手塚は、押されるままにころんと仰向けにひっくり返る。
リョーマはゆらりと立ち上がると、倒れた手塚の体の中心にそっと足をのせた。

「………踏みますよ?」
「!」
「あんた、アホですか」
「…越前…
お前が、あんなことを言うから………」
手塚は、顔を赤くして目をそらした。

「言うから?」
「その…、お前は、俺と…し」
「なんで、俺が、あんたとんなことしなきゃいけないんすか。
…………………………もう、呆れて………………」

リョーマはすとんとベッドに腰を下ろした。手塚は身を起こすと床に正座する。
「…………………」
「いいすか?そうやって気を回すのは悪いことじゃないすけど、ちゃんと相手が自分をどう思ってるかよく
見極めてから行動に移したほうがいいっすよ!?
でないとまた、………こんな風になっちゃいますから………」
「…………わかった」

「…………………でかい声出してすいませんでした。
ごめんなさい。
部屋、片付けましょうか」
リョーマは、足元の靴下を拾うと、身につけた。

「越前………」
「そういう約束を最初にしてましたからね…
怒って帰ったりはしませんよ。しないけど…、もうあんなこと、しないで下さいよ…?」
「…………わかった」


二人は日暮れまでかかって家具を動かした。奥の本棚をどけてそこにベッドを。
ベッドがあったところには大小の本棚を壁沿いに置こうと思ったが、意外と棚の幅が広くて並べられなかった
ので、小さな本棚を竿のケースに変えて、本棚はケースが元あった辺りにL字型に配置した。
ルアーは、移動したベッドの脇の壁に掛けかえられた。これでもう入口での不幸な事故は避けられるだろう。

彩菜の美味しい夕飯をいただいたあと、リョーマは帰ることになった。
「俺は越前を駅まで送ってきます」
「暗いから、ちゃんと送ってあげるのよ国光。
越前くん、またうちにいらっしゃいね?今度は手伝いじゃなく、遊びに。ね?」

リョーマは、言葉を詰まらせた。
「母さん、越前は下級生の指導などで忙しくなりますから、あまり無理は…」
「そうなの?残念だわ」
リョーマは小さく苦笑した。

「じゃあ、今日はありがとうございました。ご飯とても美味しかったです。
ごちそうさまでした」
「ううん、こちらこそ国光のためにありがとう。越前くん、気をつけて帰るのよ。
国光、駅までじゃなくてお家まで送ってあげたら?」
「あっ、いえ、俺は大丈夫ですから!
…じゃあ、お邪魔しました。さようなら」
リョーマはぺこりと頭を下げた。

「さようなら」
彩菜は小さく手を振った。
リョーマは彩菜のその仕草がひどく手塚のものに似ていると思った。
もう一度頭を下げて、リョーマは歩き出した。




「越前…、今日は…
嫌なことをして、すまなかった…
だが、俺は…」
「俺は」
リョーマは立ち止まった。きっ、と手塚を強い視線で見上げる。

「ん…?」
「俺は手塚国光を倒して自分の力を証明したいだけです」
「越前」
「だけど…」
「だけど…?」

「…言えない」
「越前…」
「言えません」
「…………」
「もうここでいいです。
先輩、さようなら」

「越前?
駄目だ、まだ駅までだいぶある。それに暗い…」
「いいです。大丈夫です」
「駄目だ」
手塚はさっさと歩き出した。

「なにをしている。行くぞ」
「………はい」
リョーマは、仕方なく後ろからついてきた。


「じゃあ、ここで。
送ってくれて、ありがとうございました」
「本当に家まで送らなくても大丈夫か?」
「大丈夫っす。あっちの駅から家まではよく知ってる道だし…」
「そうか…」
「さようなら」
「ああ…。気をつけて」
「はい」


「………先輩」
「なんだ?」
「いえ……、
さよなら」
リョーマはなんでもないという風に頭を振ると、小さく頭を下げて改札へと歩き出した。





(03/06/09)

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