部活が午後三時で終わった十二月二十四日。
この日は部活が終わったら、クリスマスイブに特定の誰かと特別な予定がない者何人かで適当にファミレスに
でもなだれこんでちょっとした贈り物でも交換しようかという事になっていた。

参加を希望する人間が少しずつ制服姿で校門周辺へと集まってくる。


コートの片付けで遅くなり部室を最後に出ることになったリョーマは、その人の輪の中に入るべく鍵を閉めると
急ぎ足で歩き出そうとした。

「越前」
三メートル前方で、手塚がリョーマを呼び止める。
「?」
リョーマはその場に踏み止まった。

「誕生日のプレゼントだ。受け取れ」
そう言って、手塚が茶色い紙袋からぽぉん、と丸い鮮やかな黄色をリョーマへと放り投げた。
「わっ」
リョーマは、あたふたとそれを両手で受けとめる。

「……これ」
「柚子だ。風呂に入れるといい香りがするぞ」
「…柚子」
「俺が自分で選んでちゃんと自分でも使ってみて確かめた。
越前は、入浴剤入りの風呂に入るのが好きなんだろう?」
「…そうっすけど…」
「いらないのか?なら返せ」
手塚がすたすたと歩み寄ってきて左手を差し出した。

「………思い出して」
「…?」
「手塚先輩が、こんな風にボールを投げたのが、きっかけだった」
「………」

「ね、手塚先輩」
「…なんだ」
「テニスしません?今から」
「…わかった」
「それから、これはありがたくいただきますんで」

リョーマが黄色い柚子を手塚に見せてにっと笑った。

「そうか。…ここにもまだ、あるから。
まとめて袋に入れて持って帰れ」
手塚が少し重みのある紙袋を手渡す。
リョーマが柚子を仕舞うとき、開いた紙袋からふわりと柑橘類の甘酸っぱい匂いが僅かに香った。


「手塚!越前!」
「大石先輩」
「何してるんだ?もうみんな集まって…」
「先輩、俺たちやっぱり行くのやめます」
「ええ?」

「さよなら!お疲れっした!大石先輩、これ!」
リョーマが鍵を大石のほうへと柔らかく放り投げた。
「わっ」
「じゃあな、大石」
「て、手塚」

「ほら先輩、早く行かないと暗くなっちゃう!」
リョーマは手塚の腕をとって走り出した。





(03/12/24)

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