俺には、柳生から貰いたいものがある。
そのためには。
慎重に、話を進めなくてはならない。


俺『柳生、俺とシングルスで練習試合しよう』
柳『いいですよ』
俺『で。その試合に俺が勝ったら欲しいもんがあるんじゃけど』
柳『そういうのやめて下さいあなた絶対ろくな事言いませんから』


却下。


俺『柳生、俺の誕生日知っとる?』
柳『知っていますよ、部員名簿にも記載されていますし。12月4日でしょう?』
俺『そう。で、俺その自分の誕生日に欲しいもんがあるんじゃけどリクエストしてもいい?』
柳『いいですよ。ただ、中学生のお小遣いで買える範囲でお願いしますね』
俺『ああ、お金はほとんどかからんよ。ちょっと労力がかかるだけで』
柳『……』(途端に嫌そうな顔になる)


却下。


どうやって持っていくかだ…
どうやったら、柳生が俺の要求を呑むか考えるんだ。
どうやったら、柳生が俺に逆らわないか考えるんだ。


頭を、使え。俺。
そう、楽しい快楽のために。


で。


「柳生、俺の誕生日に、お前の書いた官能小説を俺にくれん?」


直球。
けど柳生にはこういうストレートな、考える暇を与えないような、そんなのが結局は一番効果的なのだ。


「はぁ!?
な、なんで私がそんなもの…」
「柳生がコピペとかそういうズルをするとは思ってないけど。
でも、そういうのろくに知らないお前は色んな本を読んで勉強するとは思ってる。
そして、そういうつもりはなくても、文章の感じや、シチュエーション、展開が似てしまう…って可能性はあると
思ってる。
だから、書いて欲しいシチュエーションとか、入れて欲しいセリフとか、適当に俺が指定するから」
「ちょっと、待っ」
「今8月で、俺の誕生日までは三ヶ月以上あるから大丈夫だよな?」
「ちょっと、待って!」
「なに?」
「なんで!そんな!ものを!私が書かなきゃならないんですか!!!」
「俺は、柳生の事を、知りたい、から」
「…っ」
「その人の事を知るのに、その人の書いた話を読むのも結構参考になるんよ?」
「と言われても嫌です。
だいたい…私達はまだ中学生で、そんなもの読んだらいけないんです!」
「じゃ俺の18の誕生日で構わん」
「え?」
「お前の誕生日は10月19日。俺より一ヶ月半くらい早く18になる。
それだけあれば、俺の誕生日には間に合うじゃろ?」
「に、仁王くん」
「よし、俺は柳生の書いた小説で官能小説デビューする事に決めた。
それまでは禁欲する」
「ちょっと待っ」
「あれ?でもそういうものって18になっても高校生じゃ駄目だったっけ?」
「ちょ」
「だったら、卒業式の日に。
そうだ、誕生日はやめて、卒業の記念にふたりで交換しよう!お互いにお互いの書いた官能小説を!」
「ちょっと待って!」
「あっそうか。そういうものを読んで勉強する時間が柳生には要るのか。
じゃ、卒業式から一ヶ月後くらいに、どっかで会って」
「だからちょっと待って下さい仁王くん!」
「なんで?
年齢的に問題なければいいんじゃろ?」
「高校の卒業式って…
だって、あなたが私の事を知るのも、私があなたの事を知るのも、ダブルスのためでしょう?
高校までは付属の高校で一緒かもしれませんが…
大学まで一緒だとは限らないでしょう…」
「…いいや。ダブルスのためいうのは方便。
俺はお前の事が好きで好きで仕方なかったけど、でもお前と親しくする親しく出来るうまい理由が見つからん
かったからあの時ああ言うただけ」
「はあ、そうですか」
「なんだそのうすーいリアクションは」
「そうじゃないかと思ってましたので」
「バレてたんか。まあ今はその事はいい。
それより俺は」
「…?」
「柳生がそんな先まで俺とダブルス組むつもりでおってくれてる事が死にそうなくらい嬉しい」
「私はあなたがその事に驚いたという事実に若干ショックを受けていますがね」
「!!!!!!!!」


魂が、本当に抜け出てしまうかと思った。


「…柳生、俺…」
「なんですか?」
「…もう、一生分の誕生日プレゼントを貰った気がする…」
「なら小説は書かなくていいですね」
「いや、それは貰うけど」
「…っ、もう一生分貰ったんでしょっ!?」
「ケーキは別腹みたいな?」
「なんですかそれ!」
「あー、柳生の書いた官能小説を読みながら…」
「勝手に話を進めないで下さい!」
「これを柳生はいったいどんな顔して書いたんだろう…って思いを馳せるのが楽しみじゃのー!」
「そ、そんな事をするつもりなんですかあなたは!!!」
「柳生も、俺のを読みながらしてくれてええんよ?」
「しません!
しませんし読みませんし、書きません!」
「ケチだな。たかが紙の上の作り事なのに」
「…そんな、他人に見せられないような事を、したためるなんて」
「…他人に見せられない事だから俺は知りたいんだよ」
「……」
「…うん、まあ… また高三の夏になったらこの話、するから。
とりあえず、今は保留にしといて」
「保留なんかにはしません。即却下です!」
「まあまあ、先の事なんてわからないんだから。曖昧にしておこう?」
「嫌です」
「…あ、そう… でもとにかく、高三の夏にはもう一度この話、するからな。俺は絶対に忘れないから」
「どうぞ、ご勝手に。私の答えは一生変わりませんから」
「柳生はほんとに、ケチじゃのう」


あーあ、ほんとは俺と柳生で濃厚な官能小説を紡ぎたいところを我慢して言ってるのに。けちけち。









(08/08/22)

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