『ごめんね、病気に罹ってから甘いものは控えてるんだ。ありがとう、もう、その気持ちだけで十分だよ』

断るのが毎年めんどうだったバレンタインデー。
今はにこりと笑ってそう言えば、大抵の人間はそうですかと引き下がってくれる。
病気は嫌だったけどこの手が使えるようになったのは正直ありがたい。

今日、最初に会ったとき、真田に
『俺は放課後用事があるから待っていて。迎えに行くから一緒に帰ろう』
そう告げていた。

そして放課後、俺はゆっくりと各学年各教室をまわる。

黙って机の中に入れられていたり、人づてに渡されたチョコレートを返却するために。
本人がまだいれば本人に直接例のセリフで詫びながら。
いなければメモをつけてそっと机の中に入れた。
差出人のわからないものは仕方なく持って帰って家でひっそりありがとうでもごめんねと処分する他ない。

さて。

たっぷりと時間をかけて作業を終える。
俺がこうしてある間にも、真田はチョコレートを受け取っているのだろう。断りたくても断れずに。

真田の教室を覗くと、薄暗いそこにはもう真田しかいなかった。
真田は机の上に紙袋をふたつのせていて、時々それに触ったり、中を見たり、なんだかもぞもぞと落ち着き
なく、居心地悪そうにしていた。

「真田」
「あ…」
「おまたせ。待った?」
「あ、いや…」
そんなに待ってはいない、と、もごもごと口ごもる真田に俺は答えずにすたすたと真田のところまで歩いて
にっこり笑って、言った。

「たくさんあるね」
「あ、ああ…」
真田はバツが悪そうに下を向く。
「嬉しい?」
「あ…、いや…、その」
真田の、伏せた目が左右に泳ぐ。
「あれ?嬉しくないの?」
「いや、その、あの」
真田がはっきり答えないのはわかっていたので俺は話題を変えることにする。

「そうだ。ねえ真田」
真田は話題を変えられたことに気づいてほっと表情を緩めた。
「な、なんだ?」
「その中の誰かと真田はつきあうの?」
「え!?あ、いや、俺は…
そんなつもりは、と、また口ごもる真田から紙袋をひとつ引き寄せ、俺は中を見た。

可愛らしい色使いの包みの中に、黒い包装紙で包まれた箱を見つける。
手に取るとそれはすべすべと滑らかで、触れただけで上等なものだとわかった。
装飾は、控えめな細い金のリボンだけ。
真田が好みそうだなと、思った。

「ほら、これなんか真田の好みじゃない?」
「幸村!」
俺はそれを取り出して俺の顔の高さまで掲げて見せると真田が声を荒げた。
俺はきょとんとした顔を作って真田に言う。

「…なに?」
「俺は」
「うん」
「俺は…」
「…うん」
「そんな…、包み紙だけで、そんな、表の飾りだけで…」
「うん」
「判断、したりは」
出来ない、と、真田は消え入りそうな声で呟いた。
「そうだね」

「ふふふ。今日、帰って開けるのが楽しみだね真田!
もしも、真田の心を動かすようなメッセージをくれた子がいたら俺にも教えて?
おめでとう、って言うよ」
心からね、と、俺が邪気なく笑って言うと、真田はまるで毒でも飲みこんだみたいに苦い顔をして、頷いた。


真田は俺に不機嫌になって欲しくてチョコレートを受け取るから俺は不機嫌になってやらない。
真田は俺に『俺は断っているのに』と真田に言って欲しいから俺はそれを絶対に言ってやらない。


「じゃあ真田、帰ろうか?重いだろ?ひとつ持つよ」
「あ、幸村、そんなことは」
いいから、俺が、と、またもごもご口ごもる真田に俺もまた答えずに、扉まですたすたと、そして振り返って

「早く」
と、快活に笑った。



そういえば立海のバレンタインて書いたことないなー、て。 それにしてもヒドイ話だ(苦笑)(でもきっとふたりは楽しんでる) 130214

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