18歳人口の減少が進み、定員割れする大学は多くなっている。ただし、だからといって、簡単に大学は倒産しない。身の丈にあった入試(お見合い入試的色彩が濃い日本型AO入試)・学生・入学定員に衣替えしたり、高校で多く見られるように経営規模の大きい大学の傘下に入るなどして、生き延びるだろう。また、採算の合わない短大・学部の募集停止も最近増えてきている。しかし、学部系統に関係なく大学として、受験生の支持を集め、十分な選抜性を確保して、社会的評価を高い位置で維持できる大学は少ないだろう。
遠山文部大臣のいうトップ30は研究に重点がある。ただし、研究は旧帝大を中心にした大学院重点化構想ですでに大学院に負うべきところが大きいし、税金を湯水のごとく使って、国庫補助も大きい国立大学と私立大学は同じ土俵には立っていない。
国立大学があるのが普通だとか、国立大学がエリート養成機関たるべしなどというのは、まあ特殊な人の特殊な意見である。アメリカには国立大学などないし、ハーバードもMITもコロンビアもエールも、さらにはイギリスのオックスフォードもケンブリッジもみんな私立大学なのである。費用対効果というものを考えれば、国立大学などはないほうがいい。
国立大学は開発途上国であれば必要かもしれないが、今の財政赤字に悩む日本には無用の長物である。私立大学に援助して、あるいは今ある国立大学のごく一部を完全民営化して、補助するほうがいいに決まっている。年度末の工事と同じで、各国立大学ではあまった研究費をよくわからない研修旅行や学会という名の飲み会につかっているのが実態である。そもそも、経理だとか会計だとかの概念がない団体に税金を渡すのが間違い。「じゃあ貧乏人はどうする?」、奨学金制度を充実させるしかない。今は大学にだけ国庫補助がされているが、大学進学者に対する国庫補助をすれば済むことである。
ちょっと、話がそれた。ここでは、社会的評価(就職、OB)や教育・研究内容、さらに受験生の支持、言い換えれば選抜性維持の状況、そして大学入学難易度および附属校の各入学段階での難易度を総合的に判断して、私なりのトップ30を選出してみた。女子大と理工系以外の単科大学は外してある。
最初はまあ大方の人が私大トップ30に挙げるであろう早稲田、慶應から。数字だけ見れば慶應の方がいい。創設者の福沢諭吉と大隈重信を比べても、福沢の方が人格的に優れている。大隈重信は晩年、在野精神どころか、首相になり第一次世界大戦に参戦している。また、そもそも早稲田大学の真の創設者は歴史を紐解けば小野梓である。医学部だってあるし、附属校に関しては幼稚舎という名の小学校からフル装備の慶應に対し、早稲田の直系附属は高校からしかなく、慶應圧勝?ということでもない。
以前、両大学の総長・塾長を取材したが、O総長が取材時間をオーバーするほどの熱弁を振るってくれたのに対し、当時のT塾長は取材40分前に入った私たちを1時間半以上も待たせたあげく、「忙しいから10分しか時間はとれない」ときた。これには温厚な私も頭に来た。こちらは「T塾長のおてすきの時間に撮影も含めて1時間」という取材申し込みをし、広報を通して返事をいただき、その時間なら時間がとれるということでうかがっているし、事前にインタビュー項目はファックスしてあるのである。「そんなものもらってない」とごねる宗男のような感じの人だった。まあ、次の塾長選で落選したのもわかる。
まあ、個人的体験はこれくらいにして、要は慶應はレールを用意してくれる大学であり、まあ講義だけの大学。それに対して早稲田はレールを用意しない分、自由で、いろんな人が集まり、学生の熱気もある。学生文化という点では、圧倒的に早稲田である。また、大学から入るとしたらやはり早稲田である。早稲田の内進組は選民意識が薄い。これに対して、慶應はカースト並みである。天現寺出身者じゃないと入れないサークルもある。
学部別に見ると、慶應は所詮理財あがりで、早稲田に並んでるのは経済学部・商学部くらい。慶應は法律学校ではなく、伝統ということでいえば早稲田・明治・中央・法政・専修(明治期の五大法律学校)に及ばず、日大・関大にもどうだかというところ。偏差値が妙に高いのは、センター試験に初年度から参加して、一般入試の募集人員が削減されたことと、偏差値としては2教科偏差値であることからだ。もともと経済がいい。大学入試で同じ大学だったら普通は法→経済という順。結局、法が経済を偏差値的には超えて今に至っている。文学部だって、あとでとってつけたもの。坪内逍遥創設の早稲田とはかなり差がある。個人的には慶應のわざわざ文学部に入るメリットはないと考える。SFC2学部は人と触れ合えない。このコミュニケーション不全で、パソコンばかりつつく教育が大学改革として持ち上げられたのが間違いの元。文系学部の大学生は半分は大学の外で学ぶのである。理工学部もダントツで早稲田。慶應のとくに理学系は歴史が浅い。
上智は偏差値で言えば早慶クラスである。理工系がやや弱いものの、少なくとも文系は早慶並みだ。イエズス会経営の同大学は旧制大学ではあるが、伸びたのは戦後。また、学部数は多いものの、各学部の募集人員が国立大学並みに少ない。これが偏差値急進の原因でもある。ただし、早慶に比べてOBが少ないこと、全国的知名度がまだ早慶には遠く及ばないことなどの弱点もある。女子で人文系志望者であれば、学部一括募集で成績によっては希望する専攻に行けない早慶より、上智だろう。法、経済も歴史では早慶に及ばないがそこそこの実績はある。
一方、上智と比較されることの多いICUは、他大学とは別世界。東大とICUにしかない教養学部では学問・国籍の枠を超えた学びができる。キャンパス内には学生寮や教師の家もあり、アメリカのリベラル・アーツ・カレッジ以上にアメリカっぽい。文系とくに人文科学系なら十分慶應を上回り、早稲田・上智とは大学との相性だろう。
青学は女子教育・初等教育に明治初期からの伝統がある。それが現在でも女子のレベルの高さにつながっている。また、初等部は慶應・学習院と並ぶ御三家として人気が高い。中等教育も、マーチレベルの中では、女子のレベルが高いこともあってやや抜けている。肝心の大学も、東大→青学という流れからできた国際政経の教育・研究の質は高く、伝統の文学部とともに看板。民間企業への就職も、明治・中央、もちろん法政などよりは随分いい。音楽系サークルや広告など青学ならではの学生文化も。あまりにも有名なサザンや、小西康陽、ラブ・サイケデリコなどを輩出。尾崎豊も高等部中退だ(いいのか、悪いのか微妙だが)。渋谷キャンパスも、秋やクリスマスツリーの点火祭の時期などはいいムードだ。明治や法政のような「アメリカ帝国主義打倒」的な立て看板がないのがいいのか、悪いのかはそれぞれの判断。厚木から相模原へのキャンパス移転で、文系の1・2年次の不便さもやや緩和される。
立教は「東京六大学」唯一のキリスト教系。観光学部は他大学の観光関連学科の雛形となった。社会学系がコミュニティ福祉も含めれば三学部あることも特徴。文学部はまずまず。理系は工学系学科がないのが辛い。また、法学部や経済学部は、マーチの他大学に比べると中途半端な感じだ。総じて、上智・青学・立教は学生の層がいい意味でも悪い意味でも「坊ちゃん」気質。とくに青学・立教はそうだ。
日本史上の「民法典論争」を知っているだろうか?明治期に民法をつくるにあたって、穏健なイギリス流のものにするのか、急進的なフランス流にするかで巻き起こった論争だ。結局、イギリス派が勝利したわけだが、このときイギリス派だったのが中央の前身であり、フランス派だったのが明治や法政の前身である。中央大学は以後、公務員、とくに法曹界で大きな勢力を占めるようになり、今でも各種資格試験の実績は高い。法学部は言わずと知れた看板学部である。マーチの法学部では間違いなくベストだ。基本的に地道で実学主義の学風であり、経済系学部や理工学部もまずまず。総合政策学部は関東では慶應に次いで設置された学部だが、慶應との違いを出すため文化まで教授内容に含め、やや欲張りすぎた感じだ。文学部は印象がきわめて薄い。マーチの中では伝統でも他大学に譲る。就職では公務員のほか流通に実績がある。
一方、敗れた明治や法政は以後在野精神が一つのスクールカラーになる。学生運動も根強く続いた。とくに法政は1980年代くらいまで、キャンパスが柵で覆われ、広報部が学生の襲撃を避けてキャンパスの外にひっそりとあるという異様な状態が続いた。明治は法と商がダブル看板だが、政治経済や後発の経営も含めて社会科学系は手堅い。また、早稲田大学ともっとも似た雰囲気をもつ大学であり、学生文化という視点で見れば八王子の山奥の中央よりはいい。私大としては貴重な農学部も有する。
法政は法学部はもう少し実績がほしい。伝統に実績が追いついていない。社会学部は私大の社会学部としてはもっとも古い歴史と規模、学部内容を誇る現在の法政の看板学部。情報科学部の新設で、理工系の厚みも増した。あとの新設2学部はまだ判断を下すほどのデータはない。ただし、大学院の改革は進んでおり、社会科学系の大学院としてはマーチでは青学と法政が出色だ。これら三大学のうちとくに明治と法政は、人種(国際的意味ではなくいろんなタイプの人がいる)の坩堝。これを面白いとみるのか、怖いと考えるかはそれぞれの判断。
公家、明治期以降は華族の学校だった学習院も実力校。併設校も含めて教育機関としての信頼度は大学の中でも指折りだ。就職も当たり外れが小さく、全般としては早稲田・慶應・上智・ICUに迫る。目白という立地条件もいい。文学部も立教・青学などと遜色ないし、経済・法もバランスが取れているが理系がやや寂しい。
成蹊は三菱財閥の支援を受けて、大正新教育運動の中で自由教育を標榜して設立された学校。附属校の評価は学習院とほぼ並びで、法政や明中系が足を引っ張る明治、高校からしかない中央よりはいい。文学部は学科数こそ少ないが幅広く学べるし、キャンパスの欅並木、吉祥寺という立地条件もプラス。工学部もある。工学系が他の文系学部と同じキャンパスで4年間学べるというのは首都圏大学では、他に上智くらい。
同じ大正新教育運動の流れの中で誕生した成城も十分トップ30に数えられる。附属校は偏差値こそあまり高くないが、社会的評価は定着している。女子なら、明中法よりはおすすめだ。
関東のキリスト教系大学としてはもう一校、明治学院を推したい。もっとも古い歴史を持つミッションスクールであり、文学部に近年新設された芸術、心理2学科の人気が高い。また、国際学部のバランスもいい。本拠は「シロガネーゼ」で知られる白金である。ただし、この大学は骨太な面も持っている。昭和天皇の病状悪化で「自粛ムード」が世間を覆い、「天皇は平和を愛された方だ」的な美談で町が埋め尽くされ、大妻女子大学など多くの保守的大学が学園祭を中止する中、「天皇問題を考える一週間」と題して、教員有志がさまざまな視点で特別講義を行った。なお、群馬の上武大学ではその年の入試で受験生全員に「黙祷」を命じている。
日大は規模としては日本最大の大学である。また附属校や契約に基づく準付属校の展開など経営的にもしっかりしている。また、社長数もトップ。学部間の交流が少ない在学中よりも卒業してから、日大のスケールメリットを実感することが多いだろう。法学部はお買い得。爆笑問題や、「木更津キャッツアイ」や「池袋ウエストゲートパーク」の脚本家の宮藤官九郎などを輩出した日芸の評価も高い。医学部だってある。いわゆる日東駒専の中では抜けた存在だ。
専修も実学主義の学風で、社会科学系には定評がある。また弱かった文学部も教育内容が拡充されてきており、トップ30に滑り込む。
国学院は文学部が看板。文学部なら中央よりいい。ただし、残る法・経済の2学部がイマイチ存在感が薄い。
東洋は伝統の文学部のほか、新学部設置で理工系も拡充されたがやや社会科学系が弱いし、駒澤は立地条件に恵まれているがこれというメリットにかけるのでトップ30に選びづらい。神奈川は堅実な学風に好感を持てるが、全国的な知名度が低いので選外。
社会科学系の専修、人文科学系の国学院と合わせて選ばれるべきは理工系の東海ではどうだろうか?理工系の施設・設備なとは国立大学並みに充実しているし、学びの幅も広い。
国立大学がつよい理工系大学では、東京理科が間違いなく私大トップの実績を示す。下手な地方国立大学よりはずっといい。教育・研究だけに限れば、慶應よりいいかもしれない。ただし、文系の経営学部はその認知度が低く、優先順位ではマーチの下になる。
理工系大学では、芝浦工業・武蔵工業・東京電機の3校もトップ30クラス。武蔵工業は少人数で就職の良さは抜群。芝浦工業は入学難易度では他の2校に差をつける。なお、トップ30には入れないが日本工業も面白い大学だ。
さて、地方に目を移す。北海道で選ぶとすれば北海学園か北星学園だろうが、トップ30入りとなると厳しい。東北には東北学院があるが、ここも今回は採らない。
東海・北陸・甲信越では、やはり南山を無視できないだろう。全国的知名度を補ってあまりある学生の質の高さがある。中国研究に定評のある愛知、地方工科系大学としては有数の規模をもち、社会的評価の高い金沢工業の2校も推す。金沢工業は選抜性に不安があるが、学びの仕組みが工夫されており、出るのが難しい大学だ。
近畿ではいわゆる「関関同立」がある。同志社は全国的知名度・歴史と伝統・学生の質の高さなど総合して、西日本ではやはりトップだろう。どの学部も平均点以上。看板となるとやはり文学部か?
関西学院は関西では同志社と並ぶトップブランドといえるが、地方および東京での認知度がきわめて低い。経済学部は看板学部。女子に人気が高いのに、直系附属は男子校のみというのも戦略上どうか? キャンパスの雰囲気はイイ。
立命館は全国的知名度では同志社に並ぶ。ただし、入試を複線化しすぎており、その複線化とカリキュラムがどういう対応をしているのかが見えない。結局、ただの偏差値アップ策ともとられる。合格者偏差値では関学を上回るが、入学段階では逆転していると見られる。また、ここの創設者は西園寺公望ではなく、中川小十郎である。昔、昔のパンフでは西園寺公望の名前はなかったようだ。もともとは民主的大学として知られ、学費の決定もきわめて良心的な大学だが、最近の拡大策はどうかと思う。就職状況でも、同志社と関西学院には遠く及ばない。もともとが法律学校なので法学部と、新参組の国際関係・政策科学の2学部は充実している。また、理工学部は名前では同志社に負けているものの、教学体制が整っており、評価できる。
関大は伝統の法学部を西日本私学トップにしなければ、いつまで経っても四番手のままだ。全国的知名度も京都の二大学に及ばない。ただし、トップ30から外す積極的理由も見つからない。
就職状況および社会的評価、経済系学部の充実度などで甲南も評価できる。東京で言えば、成蹊あたりの位置づけになるだろう。
京都産業は全般的に力不足。龍谷は人文系はまずまずだが、他学部が評価材料に乏しい。近大はスケールメリットがあるが、文系学部の弱さが目立つ。理工系では大阪工業が伝統があるが、国立大・総合大学志向の中で相対的難度を下げ、トップ30に推すのは難しいのが現状だ。大谷は大学らしい大学として評価できる。京都の仏教系大学としては、もっとも格式の高い大学だ。
計29校になった。最後は中・四国、九州で1校選びたい。広島修道、松山、西南学院、福岡などが候補となるが、やはり西南学院か? 福岡との差は以前ほどはないが、関学の福岡版のような大学であり、就職もいい。地元で就職するなら十分ブランドになる。