子供の頃、たしか小樽尋常小学校在学中だっただろうか?
スキーをしていて転倒した。
突然目の前に人が現れ、避けようとして変な転び方をした。
私は右手の筋を切断し、それ以後、人差し指が不自由になった。
当時の私は自分の将来に絶望し、悲しんだ。
食事のたび、字を書くたび、人差し指が動かない現実を知る。

成人し、タバコを覚えた。
私だけ、中指と薬指に挟んで吸っていた。
ハサミで自分の動かない人差し指を切りそうになったこともある。
いや、切り落としてしまいたかったのだろうか?

大正天皇が崩御し、昭和の時代になる。
日本は植民地の支配権をめぐって列強と対立。
やがて日本は欧米の国々との戦争に突入していく。
当時、私は鰊場での仕事をやめ、樺太で金融業をしていた。
しかし、戦線が拡大してきたので、日本に帰ってきた。
郵便局に就職が決まり、キクと結婚した。
しばらくは普通の生活をすることが出来た。

欧米の攻撃が強まり、日本軍の前線が押し戻されていく。
日本国中の成人男子は次々と徴兵された。
私も例外ではなく徴兵され、兵役検査を受けた。
私の人差し指はあいかわらず不自由だった。
そのため鉄砲がうまく撃てないので、検査の結果、不合格となった。

戦争に行かずにすんだ。
だが、人々の視線は厳しい。
我が家に待望の長男が生まれた。
私は長男なのに「征三」と命名した。
当時、私の身内に、戦争にいっていない弟が二人いた。
彼らの次、すなわち三番目に出征しなければならないから「征三」となった。
よくよく考えればかわいそうな運命である。
しかし、長男は名前負けした。
成人する前に戦争は終わったのである。
日本は敗戦した。

小さな頃のケガが私の人生を大きく変えた。
人の運命なんてこんなものだ。
今年、長男は無事に退職した。
私と同じように髪は真っ白になった。
これから第二の人生が始まる。
人間万事塞翁が馬。
与えられた生命を粗末にせず、大事に生きていきたい。
これからもずっと。