マイ・ネーム・イズ…
砂煙が舞い上がるグラウンド。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。5時間目は体育の授業である。階段を上がり教室に戻る生徒たち。北川くん(仮称)もその中にいた。教室で体育着に着替え体育館へ急ぐ。この日が彼の人生を左右する日になるとは、本人も周りの友達もまだ気づいていない。
鬼先生が体育館で待っている。勉強はできるけどスポーツは苦手だったので体育の授業は嫌いだった。体育館につくとなぜか英語の先生が待っていた。「今日、安藤先生(仮称)は風邪でお休みです。ドッジボールでもしていてください。」と言われた。ラッキー、今日はドッジボールだから楽しいな。北川くんはジャージを脱いで張り切っていた。

秋風が吹き、落ち葉が舞う寒い日だった。体育館の中も冷え込んでいて、息が白い。適当に二手に分かれて試合が始まった。岡本くん(仮称)と野村くん(仮称)がいるから勝てるかな?北川くんは強そうなチームの方に入れたので喜んでいた。寒いから一生懸命動いた。敵のボールをかわしているうちに暖かくなってきた。アッ!と思った瞬間、岡本くんがやられた。ボールを受けそこなったのだ。体育館の床にひっくり返ってしまった。これで五分と五分になった。
勝負は白熱してきた。ボールの投げあいになる。敵のチームが野村くんを狙い撃ちしてきた。外野でボールをパスされ、逃げようとした野村くんが転んだ。ボールをぶつけられ野村くんが外にでた。味方で残っているのは背の低い北川くんと田中くん(孫)だけになった。必死に逃げるが足がふらふらしてきた。速球が北川くんを襲った。かろうじてギリギリいっぱいで逃げたが、真後ろで敵がボールを受ける音が聞こえた。しまった!北川くんは振り向いた。敵が自分にボールを投げようとしている。ボールを受けるしかない。そう覚悟を決めた。
ボールが飛んできた。両手を前に出し、ボールを胸で受けようとした瞬間、靴が滑って尻餅をつきそうになった。胸で受けようとしたボールは、顔に飛んできて鼻を直撃し、鮮血が飛び散った。北川くんは尻餅をつきながら相手を睨みつけ「ぶ、無礼者―!」と叫んだ。

霜が降りて手が凍えるような寒い朝、1人登校する北川くんがいた。友達がニコニコしながら近づいて来た。「おはよう、無礼者」と声をかけて逃げていく友達。校舎が見えてきた。ため息をつきながら教室に入ると、「ヨッ、無礼者!」「無礼者くんおはよう」と北川くんは人気者になっていた。担任の先生は何が何だかわからず、目をキョロキョロさせている。それ以来、北川くんのあだ名は「無礼者」になった。

人生というものは、些細なことで大きく左右されるものだ。あの日あの時あの出来事、人間は後悔し反省しそして成長していくのだ。もし今でも「無礼者」と呼ばれているのなら、あの一言が何十年という彼の人生を変えたのだ。だから面白いのかもね、人生って。
あなたのあだ名は?
                       孫の小学校での出来事