Windows95

ちょっと泊めてもらえないだろうか?
父(繁穂)から電話があった。
浜益からバスに乗り札幌に出てきた父を、私はバスターミナルまで迎えに行った。
晩御飯を食べ終え、いつもなら横になってテレビを見る父が、さっさと布団に入って寝てしまった。
父の様子が変だと感じたが、別に具合が悪くて寝たわけでもなさそうだった。
次の日、午前7時になっても父が起きてこないのを不審に思い、和室のふすまを開けたら父がいない。
布団はたたんであり、置き手紙があった。
「電気屋さんに行ってWindows95を買ってくる」と書いてあった。

午前10時頃、父から電話があった。
「2時間も並んだよ、これからまっすぐ浜益に帰る」
この日はテレビ局の取材も来ていたようで、電気屋さんはどこも混んでいたそうだ。
父は昔、○ァミコンが発売されたとき、真っ先に買ってきたことがある。
でも、マ○オブラザーズで孫に負けてからは、マージャンしかしていないようだった。
負けず嫌いであきれてしまう。

日曜日、子供たちを連れて浜益に遊びに行った。
母(キク)が玄関に出てきた。
「父さんはどこにいるの?」と聞いたら、仏間にこもって出てこないと言われた。
仏間に入ると父が座布団に座っていた。
Windows95は、仏壇にお菓子といっしょに飾られていた。
父はパソコンを持っていなかった。
父の肩は小刻みに震えていた。

我が家は21世紀を迎えた現在もOA化が進んでいない。