海の知恵袋

浜益村の千代志別にトド岩という場所がある。
そこは、読んで字の如くトドが海から上がってきて休む場所である。
毎年11月頃からトドが集まり、多いときには100頭以上が休んでいる。
トドは陸から人間が行くことができないような岩場を好む。
しかも国定公園だからトドにとっては都合が良い。

トドはゴミステーションをエサ場にするカラスのように頭が良いという。
トドのエサは主に魚介類である。
本来、泳いで自分で取るのが当たり前だが、浜益に来るトドは頭が良い。
普段のトドは五木ひろしのように目が細い。
しかし、漁師さんが網を入れると、岩場で休んでいたトドは起き上がり目をギョロリと開ける。
魚影が見えたらトドは海に飛び込み、網を食いちぎり、魚を食べる。
漁師さんが網を上げる頃には、網はボロボロになり魚も食べられてしまう。
魚といっしょに口の中に入ってしまった網は、丸くして口から出すそうだ。
お腹いっぱいになったトドは岩場に戻り、寝てしまう。

怒った漁師さんは地元のハンターに頼んで駆除してもらうことにする。
ハンターを乗せた船はトド岩に向かう。
船からトド岩が見えると、ハンターは銃を構え、トドに狙いをつける。
カラスに銃を向けると逃げるのと一緒で、トドもすかさず警戒し、次々と海に飛び込む。
船は揺れるのでなかなか照準が合わない。
パーン!パーン!
射撃を開始する。
逃げ遅れたトドが血を噴き出し倒れる。
しかし、100頭以上いるのに1頭いなくなっても、漁具の被害はなくならない。

困った漁師さんはえらい人に陳情に行くことにした。
トドは泳いで疲れた体を休めることができる岩場を好む。
そこで、トド岩にピンを打って、生け花で使う剣山のようにして、トドが岩に乗れないようにすることになった。
工事が始まった。
世の中にはいろいろな立場の人がいる。
自然保護団体にしてみれば、トドにも生命があるからピンを打つのは動物虐待だと考えてしまう。
漁師さんにしてみれば、畑に現れる鹿のようなものだから、駆除したいと考える。
間に挟まれたえらい人はどっちにもいい顔をしようと考えた。
ピンは打つけど、1本1本の間隔を広げてピンを打つことになった。
しかも、ピンが刺さったらトドが痛がるからという理由で、先の尖ってないピンを使うことになった。
トドはピンとピンの間をするりと抜けて、何事もなかったように岩場で休んでいるという。
ピンはトドの重さに耐えかねて曲がってしまったそうだ。
このように、中途半端なことをしたって、お金の無駄遣いなだけ。
何も変わらない。
日本の景気対策のようだ。

トドが嫌いな超音波を使って、トドを追い出そうとしてみた。
最初は効果があり、トドは嫌がっているようだったが、効き目は数日しかなかった。
トドにとって、狩をしなくてもエサが手に入るこの場所は、最高のねぐらなのだ。
今日もトドと漁師の戦いは続いているだろう。