| ある日、野球を見ていたら台所で「バタン!」と音がした。台所に行ってみると、ネズミ捕りにネズミが引っかかってた。
 エサはソーセージだった。
 今までカップラーメンは食べられるし、石鹸は盗まれるし、ゴミ箱はひっくり返されるし、にっくき相手だった。
 ネズミは檻の中をクルクル回っている。
 そして前歯で一生懸命脱出しようとしている。
 私が顔を近づけると、一番遠いところに身を潜めた。
 
 普通ネズミを捕まえたら、水を張ったバケツにネズミ捕りを沈めて溺死させる。
 私も仕方なくバケツに水を張ったが、どうしても殺す気持ちにはなれなかった。
 とりあえずネズミ捕りを居間に持ってきて、野球の続きを見ようと思った。
 ところが、居間に入るときに、ネズミ捕りを落としてしまった。
 ネズミはこれ幸いと逃げた。
 私は居間を封鎖し、ネズミを取り押さえることにした。
 ネズミはとてもすばしっこくて、ちょっと追い詰めただけでさっさと逃げてしまう。
 そしてついに家具の裏に逃げてしまった。
 途方にくれてしまったが、家具を前に出して、布団とタオルで隙間をすべて封鎖し、とうとうネズミを追い詰めた。
 軍手でネズミを捕まえた。
 ネズミは前歯で軍手を噛んだ。
 目は必死である。
 私は近くにあった虫かごにネズミを入れた。
 逃げてから約30分後のことであった。
 
 
  
 野球が終わったあと食事をした。
 食事中、ふとネズミのことを思った。
 おなかが空いているのかな?
 虫かごを見ると、ネズミはちぎった新聞紙の間でジーッとしていた。
 試しにひまわりの種を入れてみると、ネズミは前足で器用に種を持ち、前歯で殻をむいて中味を食べた。
 私はチュー太郎と名づけた。
 
 3日後、チュー太郎は死んだ。
 ストレスが原因でしょう。
 それ以来、ネズミはいなくなった。
 
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