W・Cの喜劇

先日、デパートに買い物に行った。
紳士服売り場を中心に見てまわった。
あちらこちらをまわっているうちに、トイレに行きたくなった。
トイレに入ると、若くて小太りの男が立っていた。
男は手洗い場のカガミをジーッと見ていた。
手を洗っているわけでもなさそうだった。

手洗い場に行くと、男はまだその場所にいた。
男は腰に手を当てて、体を少し斜めにして立っていた。
顔は相変わらず「すまし顔」でカガミをジーッと見ている。
私は男が何をしているのか少し興味が出てきた。
とりあえず少し様子を見る為に、カバンからティッシュを取り出し、鼻をかむことにした。
すると、男は急に回れ右をして、トイレの方に向かった。
モデルのように腰を振り、顔は後ろ向きにカガミを見ながら、歩いていった。

男がいなくなったのでトイレから出ようと思った。
ティッシュをゴミ箱に捨てようと思ってふとカガミを見たら、男が写っていた。
男はポケットに手を突っ込んで、顔を斜めにして立っていた。
私もびっくりした。
男はそのままのポーズで歩き出し、手洗い場の前で立ち止まった。
ポケットから手を出し、腰に手を当てて、再びカガミをジーッと見ていた。

私も面白くなってきたので、今度はカバンからリップクリームを出して唇に丁寧に塗り始めた。
男は私のことなど意に介さずに、首を上下に振り、髪の揺れ具合を確かめていた。
私もさすがにすることがなくなったので、トイレから出た。
すると、若い女性がトイレの前で誰かを待っていた。
この女性が男の連れなのかもしれない。
そう思ったので、私もトイレの前で人を待つふりをした。

しばらくすると、男がトイレから出てきた。
若い女性の方へ向かった。
そして男は女性の前をかっこよく歩いて、通り過ぎていった。
女性は不思議そうな顔をしてその男の方へ視線を向けた。
男は買い物客の中に消えて行った。