| 国道231号を北に向かって走っていた。 まだ早い時間なので車はまばらで、すれ違うこともなかった。
 毎日毎日通い慣れた道だ。
 目をつぶっていてもハンドルを動かすことができるようだ。
 たまに眠っているのかもしれない。
 
 送毛トンネルが見えてきた時だった。
 中央のオレンジの線に鳥がいた。
 車はかなりスピードが出ていたが、横切っても鳥は逃げなかった。
 すれ違うとき、こっちを見ているような気がした。
 トンネルを走っているときも鳥のことが気になり、引き返すことにした。
 トンネルを出ると、まだ鳥はいた。
 停車し、鳥に近づいた。
 首をこっちに向けた。
 まだ生きているようだ。
 手を伸ばしても飛ばない。
 鳥はおとなしく捕まった。
 
 車の中で手を開いた。
 鳥はおとなしかった。
 羽を開いてみたが異常はないようだ。
 足を引っ張ってみると痛がって動いた。
 どうやら左足をケガしているようだ。
 足の指が動かない。
 すり傷があって血が出ていた。
 
 頭をナデナデしていたら時計が目に入った。
 大変だ!仕事に遅れてしまう。
 おまわりさん、ゴメンなさい。
 片手運転で、いつもよりちょっとスピードを出した。
 右手が熱い。
 鳥の平熱は人間より高いようだ。
 
 家に着いてから新聞紙をちぎり、箱に入れた。
 左足の傷に薬を塗り、ガーゼを巻いた。
 治療を終え、箱の中に鳥を入れようとしたら嫌がって入らない。
 仕方ないので手に抱えたまま仕事に向かった。
 私の右手が気に入ったようだ。
 
 久しぶりに指1本でパソコンを動かした。
 鳥がピクリとも動かないので右手を開いてみた。
 鳥は寝ていたので、そーっと箱の中に入れた。
 箱の中に家から持ってきたヒマワリの種を粉々にして入れた。
 これで大丈夫だろう。
 
 時を告げるチャイムが鳴った。
 私は箱を抱え、まっすぐ家に帰った。
 家に帰り箱を開いた途端、鳥は飛んだ。
 家の中を飛び回り、羽をまき散らした。
 もう私の手の中には戻ってくれないようだ。
 もう私は必要ない。
 
 カーテンレールにとまって体勢を崩したときに捕まえた。
 手の中には鳥がいる。
 のぞいてみると目がおびえている。
 左足のガーゼをはずした。
 必死に逃げようとしている。
 野生の鳥に戻ったようだ。
 
 玄関を開けた。
 両手を開いたら鳥は空に向かって飛んでいった。
 箱の中で我慢していたのだろうか?
 道路にペチャッと落としていった。
 もうこっちを振り返ることはなかった。
 
 
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