わし岩探検記
2002年7月23日、やや曇った空模様だが幸い海はおとなしい。
少し肌寒いが大丈夫だろう。
長く浜益に住んでいるが、まだ一度もわし岩を見たことがなかった。
今日は絶好のチャンスだ。

カヌーを組み立て、食料とカメラを積み、送毛船揚場を出港した。
2人で約120キロ、喫水線が高いので横波には注意しなければならない。
海岸線が遠くなっていく。
これからは未知の世界だ。

わし岩までは歩いていくことはできない。
日本海に険しい崖がそびえたっており海岸がないのだ。

5分ほど漕ぐと、ブイマワシが見えてきた。
ブイマワシは海に突き出た巨大な岩。
大きな冑のような形をしている。
近づくと岩壁に吸い込まれていきそうなので沖のほうへ向かった。

ブイマワシを越えると目的の岩が遥か遠くに見えてきた。
わし岩だ。
ここまで順調に進んでいたが、少し波が出てきた。
岩壁に白波が見えてきたので気をつけなければいけない。
叩きつけられたら小さなカヌーはあっというまに沈没してしまう。
私もショージも泳げるが、たどり着く海岸がない。



海上のところどころに白波が立っている。
そういうところは海中に巨大な岩が眠っている。
カヌーの船底をこすってしまったら水没してしまう。

岩場のカモメがこっちを見ている。
100羽?200羽?
数え切れないくらいのカモメが不思議そうに横目でこっちを見ている。
カヌーのそばにもカモメがいる。
我々を偵察しているのだろうか?
オールを魚と勘違いしているのかもしれない。

だんだんわし岩が近くなってきた。
写真で見るよりやはり巨大だ。
わし岩は陸の方を向いていた。
わし岩の周りは海上のあちらこちらで岩が突き出ている。
近づくのは非常に危険である。
私は夢中でシャッターを押した。
ここまで近づいて写真をとる人もめずらしいだろう。

送毛を出てから約1時間でわし岩に到着した。
わし岩の周りにはカヌーを置くスペースがなかったので、少し毘砂別寄りにカヌーを進めて小さな湾に上陸した。



クーラーボックスからジュースとおにぎりを取り出して夢中で食べた。
そして、誰も来ない海岸で男同士で・・・・・海に向かって叫んだ。
「オーイ、助けてくれー」

毘砂別側から見ると、わし岩のくちばしが見えづらい。
トックリのような形に見えた。
コンビニで買った100円のおにぎりが美味しい。
レモンティーも体中に広がっていく。
帰りの体力が戻ってきた。
仕方ない、帰るとするか。

カヌーに荷物を積み込み進水させた。
わし岩を陸に見ながら別れを惜しむ。
わし岩の送毛側の岸壁にある洞窟が気になったので探検することにした。
それが不幸の始まり。

入り口は広いが奥に行くとだんだん狭くなってきた。
ショージが奇声を上げると手前の暗闇からコウモリが数羽。
ビックリして飛び出したのだろう。
洞窟の幅が3メートルくらいになってきた。
頭上も低くなり心細い。

カヌーの背後から来る波が高くなってくる。
「これ以上進むと戻れなくなる!」とショージが言った。
洞窟の入り口に戻ろうとオールを漕ごうとしたが、うまく海面に届かない。
洞窟はどんどん狭くなる。
光が届かなくなって暗くなってくる。
洞窟の壁にオールを当ててバックした。
必死にオールを漕ぐ。

やっと洞窟を脱出することが出来た。
2人とも疲れてしまった。
カヌーをUターンさせ、少し油断してしまった。
引き波でカヌーの真横に岩が頭を出した。
「あっ」

突然目線よりも高い波が現れて、カヌーの真横から浴びてしまった。
必死で沖に進路を変更する私。
我に返ると肩から下が濡れて、下着までビチャビチャで冷たい。
ショージがスポンジで水を外に出している。
笑ってる場合じゃないな。
危なかった。

ブイマワシを越えると、わし岩ともお別れ。
名残を惜しみながらオールを漕ぐ。
わし岩が見えなくなった。
次はいつ会えるのだろうか。

陸に町並みが見えてきた。
送毛は30人くらいの小さな集落。
でも何だか安心する。
人間の生活する気配が懐かしい。
カヌーは船揚場に到着。

わし岩は愛冠岬の先端にある。
アイカップとはアイヌ語で「矢の届かないところ」という意味だ。
海岸から崖の上に矢を放っても届かなかったのだろうか?
昔の人の行動範囲の広さには驚かされる。
今は人の気配すらない。
忘れ去られようとしている。

私は忘れないよ。
来年も来るからね。