思い出の迷路を越えて
 20年という時を越えて、再びかの地へ。そんな大それたことではないが、久しぶりに二子玉川園を訪れたとき、記憶の扉が開いたような気がした。何となく気があった彼女ともいつのまにか年賀状のやりとりすらなくなった。そわそわしてきた。会いたい。

 駅を出て、玉川○○屋に入った。正面にはエスカレーターがあった。昔と変わらない。屋上には木や花が植えられていて、憩いの場所になっている。ベンチに座って迷いを吹き飛ばす。行ってみよう。

 二子玉川園から瀬田までは急な上り坂で、途中で息が切れてくる。やっとのことで環状八号線、いわゆる環八に出た。そこから住宅地に入っていく。ところが、あまりにも景色が変わっていて、昔住んでいたところに辿り着けない。困ってしまって戻ろうと思ったら、何となく記憶がある薬屋さんがあった。この道で間違いない。そう確信し進んでいくと、懐かしい住所が見えてきた。残念ながら、昔住んでいた住宅はなくなっていた。そこには立派な建物があった。

 この様子だと、彼女が住んでいた家もすでに存在しないかもしれない。でも、ここまで来たら行くしかない。記憶を頼りに歩いてみることにした。途中で信号機のある交差点にさしかかった。昔の家から彼女の家まで、信号を越えた記憶はない。

 不安を覚えながら歩いていくと、見覚えのある神社があった。そしてその向こうには学生服を着た自分の姿が見えたような気がした。私は後ろ姿の彼を追った。どんどん吸い込まれていくように私の視界が狭くなっていった。彼が立ち止まって消えた。思わず走った。

 そこは迷路の出口だった。門には彼女の苗字が書いてある表札があった。いや、旧姓かもしれない。もうひとつ別の苗字の表札があった。一瞬の喜びは、一瞬にして消えた。まあ、思い出なんてこんなものなのかもしれない。謎がひとつ増えた。気がついたら用賀駅だった。用賀駅までの経路は覚えていない。考え事でもしてたのかな?