酔って帰ってくる一子。  他愛の無いギャグにどっと観客席が沸くバラエティー番組。  初老の評論家が何か言っているインタビュー。  外国の風景。  ご当地カレーのお祭りを映しているニュース。  何か雪が降っている中を進んでいる半裸の男女……、映画か?  チャンネルを替えるだけ替えて、志貴は電源を切った。  多彩な色を失うブラウン管を見て、伸びをする。  関節がどうにかなりそうなほど伸ばし、糸が切れたように脱力。  そのまま、ごろんと横になる。  そしてちらりと視線を壁の一点へと向ける。  急に静けさが辺りに満ちて、そこからの音が聞こえそうな気がしてくる。  時を刻む音。壁時計の三つの針の動きと、見えざる歯車の音。  先ほど見た時間からはそう変化が無い。  そんな事は見る前からわかっていたが、それでも事実を突きつけられ、志貴は溜息を洩らした。 「遅いなあ、イチゴさん」 「ああ、すまん、今日は無理。  ごめんな、有間」 水、口移しで機械的に飲む。 「寝てる間に悪戯してもいいぞ」  服を脱がすと言う大義名分。  たいていはシャワーを浴びてから。  こんなに一日外にいて、そのままな事は今まで……。  ジーンズを脱がす。  ピンク色の少し可愛い系統のショーツ、細いのにむっちり感のある太股が見える。  視線がどうしても、そこに向く。  膝小僧、ふくらはぎと剥き出しにしつつも、ちらちらと目を向ける。    チーズのような乳酪系の匂い。  いつもはたいていシャワーを浴びているから、そんなには感じない。  石鹸の匂いと、一子さん自身の甘い香り。  それにまじってだんだんと生々しい匂いが混じりはする。  でも、こんな篭った匂いなんて初めてだった。  今日一日、この格好で過ごしていたのだろう。  少し汗ばむほど暑くて、アルコールで体を火照らせたりもして。  トイレにもいったろうし。  蕩けそうな多重な匂いの中に、確かにアンモニア臭に似たものもある。  強い匂い。  悪臭ではむろんないが、むせかえるような異臭。  でも、心とらわれる匂い。  どこかむずむずとしてはて、やがてオスとして反応する匂い。  何度も深呼吸するように吸い込んでいく。  息を吸っていると言うのに、極限まで匂いを吸いまくると、まるで逆の酸欠のようにくらくらとする。  でも、それが堪らない快感。 「どうしました」 「おしっこ」  あまりに率直な言葉に少しくらりとする。  これで一子さんは、普段は慎みがあったりするから、あまりこうした露骨な事は言わない。  二人で裸になって戯れている時はそうでもないけど、それでも俺がいろいろと質問をすると真っ赤になったりして、それは凄く可愛い処だったりする。 「行かないで」 「洩れちゃうよ、有間」 「じゃあ、ここですればいいですよ」 「ここ?」 「ちゃんとしても平気なようにしてあげますから。  苦しいんでしょ?」 「うん」 「我慢しなくていいですよ、さあ」 「わかった」  出るか。  出た。  とっさにそこにあった下着をあてがおうとしたが、到底足りそうも無い。  手に触れたタオルケットを引っ張り、こぼれを防ごうとする。  直接はそこにあてがわない。  そんな事をしたら、見えなくなってしまう。  舌を直接に秘裂の奥へ押し付けたので、一気にびしゃりと濡れる。  流れる温い液体が触れるのがわかる。  唇に、歯に、跳ねた滴が当たる。  僅かながら堪った尿を啜りこんだ。  微かにアルコール臭のする尿の香りが口に広がる。  こんなにするのは初めてだけど、一子さんがこぼしたものを舐め啜るのは初めてではない。  だから、口に広がる異臭を味わい、飲み下すのはまったく問題なかった。  ほとんどはタオルケットに染み込ませていて、量的には些細なもの。  いつもの放出が終わった後とは違って、今一子さんが放尿しているのを間近で見ているのだ。  至福だった。   「一子さん、水です」  口に含んだ水を流す。  機械的に飲み干す。  一子さんの尿がついているであろう唇を押し付ける背徳感。   「指、しゃぶって下さい。  噛んじゃダメですよ、優しく……」 「…う、うん……」  人差し指を口に差し込む。  小さく開いていた口が、こじ開けるような動きに逆らわず従う。  熱い口の中。  唇を通過し、舌と口蓋とに触れる。 「んん……」  きゅっと口の中が圧迫される。   指が吸われる。 「ああ……」  思わず声が漏れた。  気持ちいい。   ただ指を咥えられているだけなのに、このぬるっとした感じ。  温かい液体に揺すられるような動き。  まとわりつく舌。  ちゅぽっ。  去り難い気持ちを抑えて指を抜く。  濡れた指。  思わず口に含んだ。  一子さんの唾液。  よし、これなら。  どきどきとしながら、一子さんと体を逆になって近づいた。  一子さんの顔に、股間を近づける。  もっと正確に言うなら、興奮で反り返って動かすのも困難なペニスを唇に近づける。    初めて口でして貰った時より、心臓がばくばく言っている気がする。  あの時は、受け身に近かったし。  異端のくちづけ。  寝ている美女の唇を奪う行為。  それも唇を重ねるのではなく、露を滲ませた性器を押し付ける非道。  仮にも口と名づけられているペニスの先が、一子さんの口に触れる。  唇の濡れたぬめりと、ぬらぬらとした腺液が混ざり潤滑油となる。 「うわ、気持ちいい」    起きてるんじゃないだろうな。  でも起きている時ならこんな事させられない。    腰を甘い痺れに委ねながら、また一子さんの股間に顔を埋める。  馥郁たる香りと、まだ色濃い尿の匂い。  わざと音を立てて、膣口と言わず、周辺の襞と言わず、舐めまわす。  愛液の粘りと別に触れるアンモニア臭。  そうだ。  ふと、思いつく。  水を注げば喉を鳴らして飲む。  指を咥えさせたり、今みたいにペニスを突っ込んだらしゃぶってくれる。  なら、もし……。  幾らなんでも、それは……。  出来ないよな。  一子さんの口に。  飲んで貰おうなんて。  おしっこを。  排泄物を。  とんでもない。  でもなんで、こんなにぞくぞくとしているんだろう。  ぶるっと震える。  なんだかわからない。  でも、出せば出せる。  こんなはちきれそうな状態だから、ちょろちょろとこぼれる程度だろうけど。  逆に、それ位なら、飲むんじゃないか。    頭が興奮でぐらぐらと煮えたぎる。  どうだろうかという仮定が、だんだんとやりたいという意志に転じる。  絶対に出来ないという意識が、僅かな躊躇いに脆弱化する。  今なら、口に入れたら飲むだろうか。 「それは拒否する。  噛み切るぞ。  代わりのものなら……」  明らかに違った快楽を引き出す動き。