作:しにを
※ 本作品は「Moon Gather」さんで掲載いただいた『君去りし後』という羽居×蒼香SS の設定他を、反転させた構造になっております。 そちらを読んでから、こちらをお試し頂くとより生温い失笑感が味わえるかと思います。
「……羽居」 「え、ああ。何、蒼ちゃん?」 何回呼びかけただろうか。 ぼんやりとした顔をしていた羽居は、一向にあたしの声に反応を示してくれなかった。 少し、大きめの声でようやく届いた。 「何って、そんな顔してるから。……寂しいか、やっぱり?」 唐突な言葉。 何故、とか、何に対して、という言葉が足りない。 だが羽居にはわかる。 羽居がわかる事をわかっているので、あたしはあえてそれを言わない。 遠野秋葉の名前を。 「うん、寂しいな、わたし。秋葉ちゃんいなくなって……」 素直に羽居は答える。 あたしが同じ事を訊かれたらどう答えただろう。 強がって否定したかもしれない。 だいたいが皆で仲良しという集団行動より、一人で気ままな方を好む性質だから、誰で あれ他に執着していると思われるのは心外だという思いがある。 つまらないこだわりだけど。 羽居を見てると、そう思う。 だから自分から訊かれもしないのに口にする。 「そうだな。遠野がいなくて、なんかいつもと感じが違うな」 「学校も休んでるものね」 「ああ。まあ、家から通ったり、転校してみたり、かと思ったらまた戻ってみたりと最近 はまっとうに一緒にいた事の方が少ないけどな」 「今度は戻ってくるのかな」 この質問は羽居を含め、いろんな奴から受けている。 その度にあたしはこう答えている、いや他に答えようがない。 「どうかな」 そっけなさすぎるか。 でも羽居はそんなあたしには慣れっこで構わず続ける。 「でも、戻って来ないって事は、お兄さんとうまくいったのかな」 「さてね」 あの手紙が来てからの遠野は痛々しいを通り越して、寒気がするくらい壊れかけていた。 だからあたしも羽居もあいつを家に戻らせようと、いろいろ言を尽くした訳だが、いざ いなくなるとやはり幾ばくかの寂寥感を覚える。 特に休学届を出している訳でもないし、前の唐突に転校した時に比べれば、軽度なのか もしれないが、もう戻ってこないんじゃないかという不安がある。 同じ一室で暮らしている羽居もまた、そういう感覚があるのだろう。 勢いと激情のままに行動する時の遠野は、冷静になりさえすれば理性的な行動に戻る。 しかし思いつめたものが結実し行動規範となった時は、人が変わったように馬鹿になる。 あるいは自分に対して素直になると言ってもいいかもしれない。 前だってそうだ。唐突に転校した時は、かなりいろいろな憶測を呼んだ。 よきにつけ悪しきにつけ注目されやすかったから、遠野は。 まったく材料がなかっただけにかえってその「遠野さんのスキャンダル」の背景は様々 に考えられ、そして尾ひれがついていった。 駆け落ちだの、遠野一族のお家騒動だの、恋人を追いかけて学校まで変えた等々と、笑 えるものから眉をひそめるようなものまで千差万別だった。 なかでもリアリティをもって語られたのが、遠野が妊娠して体面を考えた学院と親族が 転校させ、事の露見を防いだという話とそれを基にしたバリエーションの数々だった。 やがて遠野が学院に戻り、前と変わらぬ姿を見せたので、それらは大体収まりはしたの だが。 あたしは与太話を信じはしなかったが、しばらくしてから遠野に問い質した。 こんな噂話があったと話して、遠野の反応をじっと観察した。 遠野はさもありなんという表情で、あっさりとその噂を否定した。 どうでも良いと言わんばかりに。 それでおしまい。その話はあたし達の間ではそれっきりになっている。 幾つかの疑問があたしの中に残っていたけれど。 だったら本当は何が起こっていただろうか。 痛みをこらえるような顔で遠野が洩らした呟きはどんな意味なのだろうか。 あの「子供ね、本当にそんな事だったらどんなによかったか……」と洩らした呟きは。 そして確かに遠野が呟いた「兄さんの子……」、その言葉の意味は何なのだろうか。 まだ、ある。 遠野が戻って数日、あたしは気づいてしまった。 どこがどうと言う訳ではないけど、あたしはそういう事に変に敏い。 不在だった間に、遠野は処女を喪失していた……。 そしてそれから今までの言動を加えると、何か見てはいけないものが見える気がする。 遠野に何が起こったのか。 材料が少ないだけに歪んだ穴だらけの姿であるが、それ故にその異相は正視し難い。 あくまであたしの勝手な憶測にすぎないけれど……。 「蒼ちゃん?」 黙りこんだあたしを羽居は不思議そうな顔で見る。 いけない、いけない。 こちらから、話掛けておいて。 気を取り直す。 羽居に話し掛けたのは……。 「羽居……、慰めてあげようか」 「えっ?」 そうだ、これが本来の要件。 頭を完全に切り替えて、あたしは羽居を見つめる。 じいっと羽居の顔を間近に、覗き込む様に。 羽居はあたしの視線にもじもじと顔を少し赤くする。 「慰めるって……、蒼ちゃん?」 「羽居が寂しがっているから、慰めてあげようかなって。あたしは言葉でどうこうって苦 手だから、せめてあたしが出来る事でね。 まあ、嫌というのを無理やりするのも……。羽居の事可愛がるのはまた、今度」 「やだ。して。あ……、わたし……」 反射的に叫ぶ。 そして僅かに紅潮していた顔を、完全に真っ赤にする。 可愛いな。その反応も、恥ずかしがる羽居の姿も。 わかったよ、と言う返事代わりに軽く唇を奪う。 柔らかい感触。 びっくりしたような顔をして、それでも羽居はあたしの唇を受け入れる。 数秒そのままで、そして離れた。 このまま抱き締めてすぐに羽居を可愛がってやりたくなったが、ありったけの意志を動 員して身を離した。 「蒼ちゃん……」 「ちょっと待てって、このまま始めたらまずいだろ。とりあえず羽居はバジャマ脱いでて」 「うん」 物足りなそうな羽居を諭して、あたしはドアの鍵を閉めてカーテンを下ろし始める。 誰も入って来られない様に。 外からは、中の様子が窺い知れない様に。 一度あった寒気のするようなニアミスから得た教訓。今度会ったら誤魔化せない。 二人の閨の準備をすませると、今度は自分の身支度。さっさと下着も脱いで、それをき ちんと畳む。 どうせまた着るのだが、こういう処が躾けと言うか年少からの刷り込みの深さを感じさ せて、ちょっと眩暈を覚える。 羽居はと見るとまだ半裸。 決してもたもたとしている様には見えないのだが、なんと言うかゆっくりだ。 ある意味、あたしや遠野なんかよりお嬢様っぽいのかもしれない。 しかし、なんだろう、この目の前にある不公平さは。 同じモノを食していてなんでこうまで差が出るのだろう。 遠野ほどでは無いがちんまりとした我が身を省みると、溜息が洩れる。 羽居は嫉妬まじりのあたしの視線等は気にせず、ぷるぷると胸を揺らしながら身を屈め てショーツを脱いでいる。 本当に遠野とあたしの吸い取ってるんじゃないのか。 「おまたせー」 「……」 「あ、また蒼ちゃんわたしの胸見て何か酷いこと考えてるー」 「うるさい」 手を伸ばして、むにと胸を掴む。 柔らかい。手に収まりきらないし、力を入れると指の隙間からこぼれそうだ。 感触の良さにしばし胸をぐにぐにと弄ぶ。 手を離して見つめながら呟く。 「なんかまた大きくなってないか」 「うん。前測ってから2センチくらい大きくなたみたい。おかげでお気に入りのブラジャ ーがきつくなっちゃった」 ……。 持てる者の処に集まるのはお金だけじゃないんだなあ。 しかし、2センチ、20ミリメートル……。 「これ以上大きくなると肩こりしそうだし、小さいほうがいいよ。秋葉ちゃんまでいっち ゃうとちょっと寂しすぎるけど。蒼ちゃんの胸だって可愛いのに、なんで気にするのかな あ。あっ、秋葉ちゃんには内緒だよ」 小さいほうがいいだと? 持てるものの驕りか。 遠野が聞いたらどれだけ激怒するか。……会ったら言ってみよう。 「えへへー」 あたしがベッドに移動すると飛びつくようにして羽居は抱きついてきた。 体格の差があるから、当然受け止めきれずに二人して倒れそうになる。 「頭打つからそんな真似はやめろって」 三人部屋の限られたスペースを有効活用するためのベッドであり、そう大きなものでは ない。 あたしが小柄だから羽居が横に並んでも、なんとか窮屈にならずにすむけれど。 その狭い空間を活かして二人で向き合う体勢になる。 「羽居……」 羽居の顔を、その瞳を見つめながらあたしは顔を寄せる。 羽居は無言のまま、拒むことなくそれを待ち受けている。 羽居の唇に触れる、唇と唇が重ねられる。 ちゅっと柔らかい感触。 二人呼吸を止めて互いの唇の感触を味わう。 まだ舌は使わない。 ただ唇同士で触れあい、僅かな動きから生み出される感触をゆっくりと味わう。 これだけでもじんわりと快感が起こる。 もぞもぞと羽居の左手が上からあたしの背に回される。 あたしも右手を羽居の肌に滑らせる。 より強く、より深く結びつく為に。 口づけをしたまま、互いに相手の背をさする様に弄りあい、互いの体を引き寄せあう。 ぎゅっと押しつぶされる羽居の胸の感触が気持ち良い。 砂糖菓子のような甘い体とか言うのだろうか、こういうのを。 息が詰まるくらい長い口づけをかわして、ようやくあたしと羽居は離れた。 口づけして動きあう流れの中で羽居がシーツの上で仰向けになり、あたしが上から身を 重ねる形になっていた。 上半身を起こして羽居の顔を覗き込む。 「いっぱい可愛がってやるよ、羽居」 「うん、慰めて……」 返事として上から顔を近づけ、改めて唇を合わせる。 さっきと違い軽くついばむ程度。 すぐに羽居の首から胸へと、唇と舌とを滑らせていく。 大きく柔らかい、寝ていてなお見事な形を保っている羽居の胸の先端に、ぬめぬめと湿 った舌を這わせる。 すべすべで滑らかな羽居の白い肌、鼻腔をくすぐる甘い羽居の香り。 くらくらとなりながら、山頂へ辿り着き、ちゅっと乳首を吸った。 舌先で転がすように刺激し、唇で挟んで引っ張る。 僅かなこちらの動きに反応し、つんと突起が固く突き出てくるなんとも不思議な感触。 唇だけでなく、軽く歯を立てて甘噛みする。 「ひゃうん……、ああ、蒼ちゃん」 舌が胸に触れた時から甘い吐息が洩れていたが、それに時折堪えきれぬ声が混じり始め ている。 前には恥ずかしがって必死に我慢していて、その姿を見るのも楽しかったが、今のあた しの動きに身をゆだねて素直に反応する羽居も可愛い。 遠野ともまた違う反応。 遠野か……。 あいつがいた時もこんな風に三人で戯れる事があったな。 行き過ぎた戯れというか、遊びの延長というか、羽居と遠野と肌を重ねてキスをしたり 互いの体に手をはわせたりといった行為を、何度となく繰り返していた。 耽溺するほど熱を入れた訳ではないし、あくまでささやかな情交に過ぎなかったけれど も。……多分。 あたしだけが三人の中で経験済みであったから、自然と中心になったり、する側になる 事は多かった。俗な言い方をするとタチ役、お姉さま側。 反対に羽居はだいたいがネコであり、可愛がられる事が多かった。 秋葉と羽居の間でもおのずとそういう役割分けになっていた。まあ性格と、あと遠野は 妙に耳年増なところがあったから。 何より羽居の体は触られ、弄られる為にある。 少なくともあたしや、秋葉に比べれば、ずっと。 柔らかく甘いうっとりとするような女の子らしい体。 肌の白さや、信じられないくらいくらいの滑らかさは遠野も凄かったけど、見ると呆然 とするくらい細すぎたから。 まだあたしの方が、全体のバランスからすれば凹凸に富んでいると言えた。 でも、遠野と二人で、それと羽居を交えた三人で、寝台遊戯に勤しんだ事もけっこうあ ったな。 遠野の体も、あれはあれで楽しかったし。 羽居とは別の魅力は確かにあった。感じやすい体、はりつめたものが砕けるときの何と も言えない艶かしさ。 羽居がいなくて、ずっと二人でこんな淫靡な行為耽っていたら、けっこう凄い処まで行 き着いたかもしれない。 それにしてもいつこういう関係になったんだっけ。 ・ ・ ・ たしか部屋だかお風呂だかで。 羽居の胸を見て。 思わず二人で。 確かそんな感じだったかな。 脳裏にあの時の事が蘇る。 「痛い、痛いよ秋葉ちゃん」 「あ、ごめんなさい、つい」 「なんか怨念すら感じるよ、今のおまえさんの手つきは」 「うるさいわよ、蒼香。でもなんで羽居ばっかりこんなに大きいのよ」 「知らないよー。中学の時からこんなだもん。小学生の頃からブラジャーしなくちゃいけ なかったし、男の子にも変な目で見られるし……」 「……ふうん、そうなんだ」 「痛いよ、秋葉ちゃん」 「遠野、気持ちはわかるが、やめろって。どうせならこうやって……」 「うわあ、蒼香、その手つき、ちょっと……え、そんな事まで」 「あぅ、蒼ちゃん、や……」 「じゃあ、こっちはどうかなあ。遠野、そこ指で軽く摘んで、そうそう」 「やあんん……、はぅぅ」 といったじゃれあいがあって、面白がって二人掛かりで羽居を弄んでいたら、止められ なくなるほど本当に感じ初めて乱れて、それがあまりに可愛すぎて……。 うん、やっぱり羽居が悪いんだな。 あんな身体をして誘惑したのが悪いんだ、きっと。 と、回想モードに入りつつも、指も舌も唇も、止まっていた訳では無い。 羽居の様子を見ながら身体をまさぐり、そこかしこの性感帯を攻めていた。 すっかり羽居はとろんとした熱っぽい表情、体も力なく投げ出され四肢はしどけなくだ らんとしていて、息だけを荒げている。 よし、次はと…… 「待って、蒼ちゃん」 「ん、何? 羽居」 「また、わたしの……、舐めるの?」 「ああ。嫌?」 「……嫌じゃない。ええとね、あの……」 言いかけて口ごもる。 何を言う気なのか、真っ赤になって……。 そんなもじもじした様子は、さらにあたしの劣情の炎に油を注ぐ。 何を言うのか待っていたかったが、我慢できずに羽居の足の間にうずくまり、顔を股間 に近づけた。 羽居のまだ開かない秘処に指を走らせる。 上下の亀裂にゆっくりと人差し指の腹を当ててなぞる。 柔らかい。 少し力を入れれば閉じた唇の奥の花びらに届くが、そうはせず、次第に増していく内側 の湿り気を感じながら指だけでしばらく羽居を味わう。 そして、両手でそっと羽居を開いた。 微かにそこはもう潤んでいる。 複雑な形状の花びら、鮮やかな紅い粘膜、全体が濡れ光っている。 繊細な花びらの奥にそっと指先を差し入れた。 ほんの少し、爪の先ほどをちゅぷと潜らせる。 まだ異性を知らない羽居の大切な女の子部分。 羽居自身ですら、よくは知らない秘密の場所。 遠野とあたしだけが開き指で感触を知った処。 「蒼ちゃん」 「うん?」 「なんでそんな処、舌で舐められるの? おしっこする処なんだよ」 「そうだな」 「秋葉ちゃんだってそこまではしないよ」 「遠野はまだ経験無いし」 あたしは女の子とも経験あるし、それも何人も……という声は呑み込む。 昔はもっと乱れていたしな。 「なんでわたしのここ、舐めてくれるの?」 少し羽居の言葉の響きが変わる。 顔を上げると真剣な目であたしを見ている。 「羽居を悦ばせてあげたいから。そうしたらあたしも嬉しいから」 自然に答えていた。 答えはお気に召したのだろうか。 羽居はにっこりと笑う。 「じゃあ、あたしも蒼ちゃんの舐める」 ……。 えっ? 羽居があたしのを? えっ? 戸惑っているあたしには構わず、羽居は動き始める。 体をぐるっと回して、あたしとは反対向きになった。 互いに相手の脚の間に顔を向けている姿勢。 互いに相手の性器に舌が届く形。 まあ、そういう事なら。 妙に緊張しながら、さっきと上下逆さになった羽居の股間に顔を埋めた。 濡れ光る花びらを舌で舐め上げる。 ぴちゃ、ぴちゃと。 羽居の中から溢れ出す蜜液を舐め取り、啜る。 指で触れながら舌を動かし続ける。 ぴくぴくと羽居の腰が、太股が動く。 感じている。 その事実が嬉しい。 さらに舌を動かし……、ひゃうっ。 突然、予想外の刺激が走る。 咄嗟で何が起こったのかわからない。 え、これ……、羽居? 羽居だった。 羽居が、あたしが今していたように、あたしのを舐めている。 まさか、本当にするなんて。 だって、平気なのか。 こんな見ようによってはグロテスクな処を舌でなんて。 羽居みたいな、何も知らなかった女の子が……。 今、自分がしている事など忘れて、あたしは動揺していた。 羽居はそんなあたしに構わず、唇と舌とであたしを刺激し続けている。 「羽居、そんな処、平気なのか?」 「うん。あたしも蒼ちゃんに悦んでもらいたいもん。ヘタクソでわたしじゃ物足りないか もしれないけど」 「嬉しいよ、羽居がしてくれるたけで凄く嬉しいよ」 「よかった」 また羽居は顔を埋める。 刺激を受ける。 そうか、ならあたしも羽居をもっと……。 高ぶった。 異常なほど興奮していた。 正直、羽居の動きは的確さに欠ける稚拙なものだったけれど、そんな事は問題ではなか った。羽居があたしの為に……、そう考えるだけで体中に電撃が走る。 最初は自分のを見せる事すら、嫌がっていた羽居が。 何度も身体を重ねてようやく指を許許してくれた羽居が。 それからさらに時間を掛けてし、舌と唇を受け入れてくれた羽居が。 自分から……。 この高ぶりを、増幅して羽居に返してあげた。 舌で羽居の急所を舐めまわす。 膣口に舌を挿し入れ、包皮の上から小さな肉芽を擦り、摘んで転がした。 ……。 うん? あたしへの刺激が途絶えている。 羽居は? 羽居はあたしの秘裂に顔を埋めたまま力尽きていた。 刺激に耐え切れない様子。 肩が震えている。 なるほど。 とろとろと止めどなく蜜液を垂れ流している事といい、これは間近だ。 もうすぐ達してしまうだろう。 それなら、とクリトリスを重点的に攻める。 皮の上からでは刺激が足りない、剥き出しにする。 舌で直接触れてゆっくりと動かす。 「やだ……、そんなにしたら……」 「可愛いな、羽居……」 唇で挟んで軽く引っ張る。 そして歯で軽く、ほんの少しだけ軽く、かふとクリトリスを噛んだ。 さあ、これで天国だよ、羽居。 「ああッ、あああーーーッッッ!! 蒼ちゃん、わたし、ダ……」 羽居が弾けた。 数秒体が硬直してびくぴくと痙攣したように動く。 イカせた。 言葉では言い尽くせぬ満足感。 「蒼ちゃん……」 か細い声。 絶頂を迎えた体をどうしていいのかわからない悲鳴にも似た声。 こんな時に羽居は確かなものを、あたしか遠野の体を求める。 あたしは羽居を抱き締めてやった。 口づけをする。 互いの蜜液で汚れた唇を合わせた。 「大丈夫か?」 「うん。わたし凄く興奮しちゃった」 「あたしもだよ」 「本当?」 「ああ」 嬉しそうに羽居は笑う。 よかったと呟いている。 「でも羽居、よくあんな事したな。嫌じゃなかったか?」 「始める前はちょっと躊躇したけど、一度舐め始めたら平気だったよ。蒼ちゃんがぴくぴ くって動くのが嬉しかったし、蒼ちゃんが濡れてきたのって、わたしで気持よくなってく れたんだよね?」 「ああ。気持よかったし嬉しかった。感激したよ。 ……だから、感謝の気持ちとして、もっと羽居の事可愛がってあげる」 「え? あ……」 羽居の足を取って上へ引っ張る。 さっきまであたしが舐めまわしていた秘裂が開く。 そこにあたしの体を差し入れる。 お互いに脚を交差して相手の間に入るというか挟むというか。 二人の性器がくっつきあう。 鮮やかな紅の唇を合せる淫靡なディープキス。 くちゅくちゅと水音が起こり、はしたなくも涎を垂らしてしまう。 ゆっくりと動き始める。 うんん、これも、気持ちいい。 刺激自体はさっきの羽居の舌使いの方が荒削りだが上だけど、二人で女の子の大事な処 をこすり合わせて刺激しあうこの行為は、全身が痺れるように心地よい。 どこかむず痒い感じ。 気がつくとあたしだけでなく、羽居も体を動かしている。 二人身体を揺すりながら、より強い刺激を求めていた。 身を乗り出して上の唇もちゅっと重ねる。 可愛い。 羽居が愛しい。 どうにかなりそうな程胸がどきどきしている。 自分の体が得る快感、相手に与える喜び、一緒に気持ち良くなる幸せ。 愛し合う行為……、それって本来こうしたものだよな。 遠野あたりが聞いたら「あら、蒼香がそんな詩人だったなんてね」と冷笑されそうだけ ど。いや、あいつ案外好きかも、こういう台詞。 今は自分がまだガキだとわかる程度には成長したけど、まだ馬鹿だった少し前のあたし は、あっささりと処女を失った、いや捨てた。 いずれ経験する事だし、早い遅いにはさして意味をもたないけど、正直あの頃のことで あまり想い出して楽しくなるような事は多くない。 いくつかの想い出は、無意識のうちにあたしに拳を固めさせる。 まあそうした事があったから、こんな処に放り込まれて、羽居や遠野にも会えたし、今 はそれなりに楽しく日々を過ごしている。 折れた骨は強くなるんだよ、なんて言葉もあることだし。 「蒼ちゃん……?」 「ああ、ごめん。動きが止まっちゃってたか」 「どうしたの? 表情が……」 「うん? どんな顔してた、あたし」 「ちょっと後悔してるみたいな、怒ったみたいな顔してた」 「そうか。いや、なんでもないよ。……今は羽居がいるしな」 終わりは小さく呟き、前以上に身体を擦り付ける。 羽居は悲鳴をあげた。 「きゃふッ、やだ、強いよ……。あんん」 リズムを上げて唇をこすり合わせる。 互いにとろとろと蜜液をこぼしていなければ、痛いほどに早く、激しく。 かと思うと一転して軽く腰を揺らす程度に、動きを微弱に。 「ああンン……。蒼ちゃん、わたし、わた、んんん、もう……」 「可愛い顔してるよ羽居……」 感じすぎて泣きそうな羽居の顔。 口からは絶えず喘ぎ声が洩れている。 上半身を起こして唇を寄せた。 羽居も体を動かしあたしに顔を向ける。 ちゅっと唇が合わさり、そちらに気をとられた瞬間に指を二人の合わせ目に伸ばした。 指で、クリトリスを探り、優しく摘んだ。 「……!!!」 もう声になっていない声を、口づけしたまま呑み込む。 羽居はあたしにすがり、ぎゅっと抱き締めた。 抱き締めつつも体は反り、唇が離れる。 「やだ……、蒼ちゃん、わたしの事つかまえてて。体が、もう、あああッッッ」 「羽居、ちゃんと抱いててあげるから、安心して飛んじゃいな」 「うん、蒼ちゃん、蒼ちゃん、蒼ちゃん……」 ふっと羽居の体が軽くなった。 そんな事ありえないけど。 羽居のなかのなにかがふっと消えたかのように……。 だから、あたしは羽居の抜け殻をしっかりと抱き締めた。 弛緩しきった柔らかい羽居を、ぎゅっと両手で放さなかった。 羽居が何処にも消えてしまわないように。 ・ ・ ・ 羽居が浮遊している間に、性器同士をこすり合わせている体位を解いた。 絶頂の余韻だけで羽居はもう充分で、これ以上少しでも刺激を受けたらむしろ苦痛です らあっただろうから。 弛緩していた羽居がぴくりと動く。 うん? 帰ってきたかな。 「蒼ちゃん……」 「羽居、よかった?」 「幸せ……」 「そうか」 微笑む。 満ち足りた羽居の顔を見て、あたしは微笑んでいた。 心は満たされた。 でも、あたしはまだ羽居が達した処まで行き着いていない。 まあ、それはいつもの事だし、単に気持ち良くなるだけなら一人遊びでも満足できる。 羽居を悦ばせるだけで、肉体が得る以上に満足感は高い。 でも今夜はダメだ。なまじ羽居にあんな事までされただけに、通常より体が火照っても っと強い刺激を求めている。 あたしも一度最後まで達しないと、切なくて我慢できなくなっている……。 羽居はぐったりとしてまだ動けそうに無い。 だから、あたしは放心している羽居の手を取る。 「羽居、ちょっと指伸ばして」 素直に羽居は言葉に従う。 綺麗な指先。 白くて、ほっそりとした指と、貝殻細工のような爪。 もちろんその手が普通にペンを握ったり、裁縫をしたりと、けっこう器用に動いている のは見ているが、手としては使われない手のような人形めいた感じすらある。 少なくともあたしのように傷跡があったり、人にもっとも的確にダメージを与える拳の 握り方を自然と手が取るなんて事はない手だ。 その手首を取って、あたしの膣口に羽居の伸ばした指先を差し入れた。 「んんんッッ……」 思わず声が洩れた。 自分でやっている事なのに、自分の指でやるのとは、どこか感覚が違う。 先端だけでは足りない。 そのまま第二関節くらいまであたしは羽居の指を呑み込んだ。 異物感。 違和感。 自分の手でしている時とは違う異物が進入している感覚。 どちらかと言えば男のモノを受け入れた時のそれに近い。 拒もうとする拒否感と、逆に取り込み消化しようとする捕捉欲。 今、あたしの体は羽居の指に違和感を覚えつつ、それを解決するためにむしろ貪欲に呑 み込もうとしている。 「えっ、蒼ちゃん……」 羽居はびっくりした顔で自分の指があたしの中に挿し入れられているのを見つめている。 そうだよ、今羽居の指があたしを……。 うんん……、じんわりとした快感。 羽居の指があたしの中をゆっくりと前後し、時には円を描くように動いたりもする。 「蒼ちゃんの中にわたし……」 潤んだ目で羽居があたしを見ている。 自分の指があたしを弄んでいるのを見つめている。 過去にも羽居はそこを触ってあたしの快感を引き出す為に弄んだりもしたが、あくまで 外から触れる部分とその上の敏感な突起を攻めるだけで、こんなに奥の方まで指で探った 事はない。 経験の無い羽居には、性器の奥深くに指を差し入れるのは怖かったのだろう。どうして も躊躇して羽居には出来なかったし、無理にさせる事はあたしも望まなかった。 でも今は、羽居の指があたしを犯している。 羽居も道具として使われている事を、嫌がってもいなければ怖がってもいない。 いや、むしろその熱っぽい表情は、好ましく思っているのではないかと思える。 多分それはあたしの独り善がりではない。 羽居が食べられているのは、人差し指と中指の二本。 「凄い、きつくて、でも中が熱くて柔らかい……」 「羽居……」 「気持ち良いの? 蒼ちゃんわたしの指で感じているの?」 「ああ、凄く気持ちいいよ。羽居の指があたしを……、んッッ」 羽居の指を中で激しく動かし、あたしは吐息を洩らす。 ぞくぞくする快感がおこる。 「蒼ちゃんでもあんなになっちゃうんだ……」 まじまじと羽居は自分の指を咥えた秘裂を見つめている。 前に、訊かれた事がある。 自分の体の深奥に受け入れるのは怖くないか、そしてそんなに気持ちいいものなのか。 答えると今度は「じゃあ、わたしもして……」ととんでもない事を言われた事がある。 多分も羽居も同じ事を思い出しているのだろう。 急に羽居の指が、くっと曲げられた。 あたしの膣の上の方、柔らかい少しざらざらした襞を、軽く掻き毟る形になった。 「ひゃん、ッッふぅ」 「なに、蒼ちゃん、痛かったの?」 「今の、凄く響いて、一瞬頭が真っ白に……。もっと、もっとして」 「そっかあ。うん」 羽居は頷く。 あたしが出し入れをしている動きに合せて、羽居はさっきのように指を曲げる。 爪は立てないようにして、指先で膣内の襞を掻くように擦る。 「あああぁぁぁ、なんで、これ。羽居、や……、んんッッ」 さっきよりもツボに入った。 びくびくと体が小刻みに動く。 「大丈夫、蒼ちゃん?」 あたしの激しい反応に心配になったのか、羽居が顔色を変えて訊ねる。 ああ、でも返答している余裕が無い。 羽居は指を引き抜こうとすると、がっしりと手首を両手で掴む。 「もっと、もっとして羽居、お願いだから」 「うん、わかった」 初めてだ、こんな懇願の言葉を洩らしたのは。 指を曲げて引っ掻く動きが再開された。 むしろそれを邪魔しないようにあたしは羽居の手を動かした。 腰も自然に動いてしまう。 近づいている。 小さな波が大きくなってきて、もうすぐ最後まで達してしまう。 最後までイってしまうのか。 羽居の目の前で。 ……。 うん、見て欲しい、羽居に。 羽居に膣口はまかせて、あたしは自分の手を別な処に這わせる。 片手をささやかな胸に伸ばし、それでもつんと突き出ている先端にさらに刺激を与える。 もう一方は、羽居の指が呑まれた谷間の少し上、少し顔を覗かせた突起を包皮の上から 摘み上げる。 羽居に手伝ってもらいながら、あたしは自分で自分の体から快楽を引き出していく。 あさましい雌の姿。 「可愛い、蒼ちゃん」 かあっと顔が紅潮したのがわかる。 でも手は止まらない。指はどんどんあたしの気持ちいい処を刺激する。 羽居の顔が胸に近づいた。 え? かぷりと空いている乳首の先を吸われ、そして噛まれた。 爆発するような快感。 それに合せてあたしはクリトリスをきゅっと強く摘む、押し潰されるのではないかと思 うほど強く。 そして、白くなった。 何もかも。 あたしも、周りのもの全て。 羽居ですら消えてしまった。 宙に浮いているような、底知れぬ地の裂け目に落ちいてるような、体がなくなったよう な頼りなさ。 気がついたら羽居の体を抱き締めていた。 それだけがあたしを繋ぎとめてくれるかのように。 そう、それだけが確かな存在だったから。 ・ ・ ・ ◇ ◇ ◇ それからしばらく二人で何もせず横たわっていた。 「蒼ちゃん、凄かったね」 「ああ。確か最初は羽居を慰めてた筈なのに」 「ううん、あたしもいっぱいいっぱい慰めてもらったよ。でも蒼ちゃんにしてあげられた 方が嬉しかった」 「可愛い事言ってくれるな」 照れずに羽居はこっちを見ている。 むしろこっちの方が目を逸らしてしまう。 「でも、蒼ちゃんがあんなになったの初めて見た」 「そうかな……」 「やっぱり、あそこってそんなに凄いの?」 恥ずかしそうにしながら羽居はあたしのあそこをじいーっと見つめる。 やめろ、羽居。 そんな目で見るな。 「人によるだろ、性感帯自体は膣内には少ない筈だし。でも精神的なものも大きいかな。 好きな人が自分の中にいるって感覚……。その辺はよくわからないけど」 「ふうん。ねえ、やっぱり蒼ちゃん、わたしにはしてくれないの?」 「駄目。どうせなら初めてはまっとうな男と出会って、それでしてもらいな。何が悲しく て女同士で花散らしたいんだ?」 「わたし、蒼ちゃんに初めて、貰って欲しいんだけどなあ」 ……。 ……。 今のはきた。 本当に危なかった。 全精神力の限りを尽くして、あたしはあたしを止めた。 理性のありったけで身に沸き起こった何物かを抑え付ける。 ……。 でも、羽居が望んでいるんなら。 どうせいつか誰かとするのなら、つまらない男に引っかかって泣くような真似になるの なら、いっそあたしが……。 優しくしてあげて、痛がらないように、血が出たら全部舐め取ってあげて……。 道具なんて使わずに、あたしの指で……。 まだ誰も、羽居自身ですら知らない、あの可憐な襞の奥に……。 あたしが羽居の処女を……。 ……。 ……。 駄目だ。 駄目だ、駄目だ。 そんなの駄目だ。 羽居の事考えたら、そんなの……、駄目だよな、絶対。 「馬鹿言うな。あたしだって羽居相手に本気になんかなりたくないぞ。責任取ってとか言 われてもどうしようも無いし」 「ええーー。酷い、わたしの事あれだけ弄んでおいて……」 「……否定できないな。でも羽居なら外観だけはいいんだから幾らでも男引掛けられるだ ろう。少しは努力しろ」 「だけ? 蒼ちゃん、酷い事言ってる……」 「これでも褒めたつもりだがね」 実際、羽居は一緒に外で掛けてた時もかなり人目を引く。 遠野のような美人ではあるが近寄りがたい雰囲気って訳でもないし、アルファー波出し まくりの言動も男から見れば可愛く映ると思う。 少なくともあたしが男なら放っておかない。 酷いや、蒼ちゃんとかぶつぶつ言っている羽居。 よし、話が逸れた。 真顔でうるうる顔で「蒼ちゃん、わたしの事嫌い? もし以下略」なんて言われたらい い加減、理性がもたないからな。 「ねえ、蒼ちゃん。秋葉ちゃんに会いに行ってみない?」 「遠野にって、自宅にか?」 もう頭の中は切替ったらしい。 「うん。やっぱり顔だけでも見て安心したいよ」 「そうだな」 「お兄さんにも会ってみたいし」 そうだな、と答えかけて止めた。 あたしも会ってみたいが、それはダメだ。 「……いや、やっぱり止めておこう。あたしも興味があるけどな」 「なんで?」 「遠野の邪魔をしたくない」 「邪魔なの……。わたし達?」 驚いた顔をする羽居。 それにくすりと笑いかけ、あたしは少しまじめな顔をする。 「あの遠野が学校の事もあたし達の事も忘れている程なんだ。きっと遠野にとっての本当 に大切な何かをしている。それが何なのかはわからないけれど……」 「うん、……そうかもね」 「ああ。また帰ってくるにしろどうなるにしろ、ちゃんとケリはつけるよ、遠野は」 そう、戻るにしろ、このままこの学院を去ってしまうという選択を取るにしろ、な。 「うん、わたし、秋葉ちゃんがまた学校来るまで待つ」 「ああ」 「蒼ちゃんがいるから、秋葉ちゃんいなくても我慢する……」 体が勝手に動いた。 可愛い事を言った羽居の唇を奪う あたしもだよ、羽居。 本当言うとあたしも寂しいんだよ、遠野が消えて。 羽居がいるから、遠野がいない寂しさを我慢できるんだ。 羽居がいるから……。 でも遠野、こうして待ってる奴が二人はいるんだぞ。 覚えていてくれよ。 そっちはそっちで上手くやって、また済ました顔を見せてくれると嬉しいよ。 それまで羽居と待っているからさ。 ぎゅっと羽居がくっつく。 羽居の柔らかさを改めて感じる。 ……。 いや、ちょっとくらい遅くなってもいいからさ……。 《FIN》 ―――あとがき 冒頭で書いた『君去りし後』という羽居×蒼香のお話で、ありがたくも頂いたご感想の 中で、「蒼香が初心って普通ですか」という主旨の問いがありました。 ……どうなんでしょう? でも確かに裏嬢祭作品のこの二人ってどれもこの構図。 ううん、普通に考えると逆かなあ。じゃあ蒼香×羽居だとどうだろう……、とか思って、 もとの原稿を改変させていって、出来上がりました、本作品。 楽して書いてますね。さすがに後ろめたくていろいろ手を加えていますが……。 蒼香による羽居弄りもけっこういいかなとか思いました。 と言う訳で、きっかけを作って頂いたクラザメさんありかとうございます。 by しにを (2002/5/9)
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