花も恥らう乙女が、自分の大好きなものをあえて避けてしまう。  それも自らの意思で。  そんな事をする理由は、例えば願掛けなどがあるだろう。  片思いの相手に想いを届かせたい。自分の方を振り向いて欲しい。そんな想いを叶えるための呪術めいた儀式。  一歩足を踏み出せばすむ事かもしれない。でも、その一歩の踏み出しは限りなく重い。  それゆえのおまじない、願望の成就の儀式。    でも、禁じたものが自分の好物、特に甘い物などであれば、もっと散文的な理由かもしれない。  同じ願いや望みの領域であるとは言えるが。  端的に言えば……「痩せたい」  もっと痩せたい。痩せる、痩せるのだ。肉を減らしたい。肉が憎い。贅肉は敵だ。  そんな切実な思いを実現する為の、合理的手段。直結したリアルな行動。  しかし、秋葉にとってはどちらも当たらなかった。  愛する者は傍にいる。  それ以上に望むものなどない。  兄の腕に抱かれ、優しい眼で見つめられる。  それだけで、幸せ。  何もしていなくてもいいのだ。  その体温を、鼓動を、息を感じていられれば。  触れ合っている、その事実だけで震えるほどの幸福感に包まれる。  では、ダイエットはどうか。  こちらも、不要だろう。  ほっそりとした脚、腰。それでいてしなやかな強さを秘めている。  胸は……、ややささやかに過ぎたかもしれないが、それはそれで美しいラインを描く。  別段、好きな食べ物を我慢する必要は無い。  もともとが小食ではあるのだし。  しかしである。  秋葉がひとつの決意をした。  好きなものを口にするのを止めようと。  しばらくは我慢してみようと。  誰に言われたからでもなく。  自分の意思で。  断つのだと心を決めたのであった。  泣く泣く。  断腸の思いで。  しかし、必要と判断して、己の矜持の為に。  乙女の決意を固めたのだった。  火照った頬を拭う布。  湿り気と冷えた感触が心地よく、秋葉は溜息をついた。   「ああ、秋葉、もう出る。このまま出していいか?」  快美感と呻き声の混ざったような声。  切望の声。  普段の志貴からはなかなか想像できない熱っぽい声。    紅を引くように、艶めいた唇に化粧をしていく。  白い液で彩られていく。  唇に塗りつけるのはさすがにやり過ぎだったか。  でも喜んでたしなあ。  志貴は悩む。 「あ、もしかして」 「はい」 「太った?」  邪眼というものがある。  見ただけで神秘的な 「……何ですって?」 「見た目からはまったくわからないけどさ、タンパク質で栄養有りそうだし、あれだけがぶ飲みしたから……」 「いくらなんでも、そんな影響はありません。  だいたい、その理屈なら、兄さんはもっと衰弱しても良さそうなものじゃないですか」 「ああ、もっともだ」 「さあ、兄さん、私の中に……」 「ダメだ、秋葉」  先を指で押さえられたままの、そそり立つ肉棒。  秋葉は優雅といってもよい、滑らかな動きで兄にまたがり、色づき甘露に潤った谷間を空いた手で広げ、飲み込もうとしていた。  しかし、その震え。  触れただけで、終わる。  撒き散らされる。  兄さんの熱い迸り。  体内で弾けて溶けていくミルク。  くらくらする薫り高い絶頂液。  思わず、反射的に動いていた。   「ああ、秋葉の唇。  気持ちいい、凄いよ、秋葉ッッッ」    ああ、と絶望しつつ、樹液を啜る。  次々とこぼれだす濃厚にしてねっとりとした液体というより粘液を、飲み込んでいく。  機械的にではなく、口中に広げるように、舌全体で味わうように。  そして喉越しの感触を大いに堪能する。  一滴たりともこぼそうとはしない。  まったく苦しげなく口を満たし、飲んでしまう。  それどころか、もっと欲しいと、ストローを強く吸う。  さらに勢い良くミルクが噴出すのを、酔った顔で受け止める。