禁欲生活 作:しにを 「ちょっと言っておきたいんだけど、しばらく、秋葉たちとは……」  午後のお茶会の時であった。  休日という事もあり、秋葉だけでなく琥珀や翡翠も湯気の立つティーカップを手にしている。  和やかに折々の話題の後で、ゆっくりと志貴は皆を見回しながら口を開いた。  注目を浴びているのを意識しつつ、志貴は言葉を発して、そして迷うように止まる。  皆にとは云っても、名前が出された秋葉は強く反応している。  しかし、促そうとはしない。 「ええとだな……」  ゆっくりと視線が左右に動く。  意識してなのかどうか。 「止めたいんだ」  言い切ったという軽い安堵を含んだ顔。  しかし、聞かされた方は、なるほどと頷きはしない。  秋葉だけでなく、琥珀と翡翠も怪訝そうな顔をしている。  何をという部分が抜けているのだ、当然であろう。  ただし、口々に疑問を声にすることは無く、双子の姉妹は主に視線を向けた。  それを感じ、秋葉はおもむろに口を開いた。 「仰る意味がわかりません。兄さん、何をお止めになるのです?」 「だから、秋葉たちと……するのを」 「あの 「いろいろ、秋葉とはしてきたし、琥珀さんや翡翠とも、楽しませて貰っている」 「それなら、私が……」 「だめなんだ、これは誰の力も借りられない」  きっぱりとした言葉。 「夢精」 「眠っている間に勝手に射精する事です」  ぴくりと反応。  今までちょこんと椅子に座りつつも、我関せずとばかりにミルクのカップを手にしていたレンであった。  期待に満ちた顔で志貴を見る。 「いや、レンに頼むのとはまた違うから」  失望でまた、カップに戻る。  翡翠がそっとお茶受けの薄焼きパイの皿を差し出す。  滑らかなクリームが山のように盛り付けてある。 「断食をしていると食べ物ら匂いに敏感になったり、他の神経もある時点で鋭敏になる事があります。  志貴さんの女人断ちの影響ではないでしょうか」 「もうすぐの辛抱でしょう」 「でも、そんなにして濃縮された兄さんのがみすみす……」 「みすみす何です?」 「何でもありません」  何かをしゃぶる動作と喉を動かすような仕草。  それが何であるかを琥珀は問わなかった。 「くうっ」 「どうしました、志貴さま」 「何でもない、翡翠寄らないでくれ」 「え……」 「翡翠が傍によるだけで、いい匂いがするし、おかしくなりそうなんだ。  こんなだし」    尿意。  それも激しい。  普段であれば、少しおさまるのを待ってから駆け出す所であるが、その余裕が無い。  着替えをせずに志貴は部屋を出た。  漲り反り返った股間のものをそのままにしているので足早にはなっていない。  できなくはないが、過度の刺激は、何やら不味い気がする。 「う……」  排泄衝動は激しい危機意識を志貴にもたらしている。  場所はトイレであり、いつ出しても構わないポジショニング。  あとは、天国にいる如き法悦の表情を浮かべつつだじだじと排出すればいいのだが。  他ならぬ、肉体がそれを許さない。  排尿と射精と、大事な機能を司る器官が、管が、穴が、使い回しであるとは何たる神の悪戯。  何かで読んだか見たかした、そんな文言が頭に浮かぶが、冷静ではない。   出そうと焦るとも、滴すら許さない。  落ち着き、少しずつ出そうとすれば何とかなるかもしれなかったが。  すぐにでも全開にしたい焦りが道を塞いでいた。  死を前にする以上の緊張。  全身を切り刻まれる以上の苦悶。  しかし、ようやく。 「ああああああああああ」  悲鳴。  悲嘆と、驚愕と、絶望と。  ちょろちょろとようやく音がこぼれた。  途切れなく流れ、弾ける音。  しかし、その前。  溜めに溜め。  どうにかなりそうなほど高まり。  僅かな刺激ですら弾けそうな状態で。  出そう出そうと踏ん張り。  手で手荒に扱い。  力を込めて、尿道全開にしようとしていたら。  泣いていた。  これまでの苦労を。  ほぼ手中にしていた璧を取り落とした事を。  あまりの苦悶に快感も消し飛んでの。  壁に弾けた白濁液……、液と云うよりも粘体というべきもののを見つつ。