かつて異端の哲人は言った「人生は、たゆまざる恐怖の克服、その連続である」
と。
 あるいは青褪めた隠者は言う「昼の生とは、より安らかなる夜の眠りを得るた
めの、その手段に過ぎない」と。
 人生とは逃走である。人生は闘争であると高らかに謳ったあの男も、幾多の先
人達同様に敗れ去り、その遺骸すら今は残らない。

 人生とは逃走である。死からの逃走である。

 人々の百億の形の営為、人類の千億の文化の諸相、それら全ては、たったひと
つの衝動が姿を変えたものに過ぎない。死から目を逸らしたい、死を忘却したい、
死に背を向けていたい。その単純にして唯一の目的のため営々と傾注される人間
力。それが人間が生まれ死してゆく間に成すことの全てだ。そして、それは決し
て実を結ぶことのない徒労である。死に追いつかれなかった者はいない。これは、
不平等と不条理に満ちたこの世界にあって数少ない、冷厳にして揺ぎなき原理だ。
 それでも、逆説的な物言いではあるが、人は一時だけ死を忘れ去ることがかな
う、かりそめの死たるぬばたまの眠りのなかにあっては。眠りこそは、祝福。
 されど、ヒュプノスの恩寵より醒める度、清冽なる朝の光のなかにさえ死線を
視ずにはいられない幸薄きその者は、いかなる夢を夢見るものか。




  「背徳の数字」 喰人(もとはる)


 チッ、チッ、チッと時を刻む秒針の音が癇に障る。  チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、ギィッ、チッ、チッ、チッ、チッ−−−− 「え−−?」  今、確かに扉を開けて部屋に入ってきた。誰だろう、こんな夜遅くにやってく るっていったらそれは−−− 「一別以来だな、遠野志貴」  その声に一気に眠気が醒めた。忘れようもない、その低く寂びた獰猛な声。  ネ、ネロ・カオス?!!  どうして?と思う間にベットから跳ね起き、身構えた…はずだった。  カクン。まるで誰かに膝の裏側を押されたかのように、下肢から力が抜け、へ たりと座り込んでいた。  何だ?違う、何故なんだ? 「どうやら、肉体は早々に抵抗をあきらめたようだな。精神よりずっと賢明とい うわけだ」 「あ?ああぅ?」  ネロ・カオスは、もう、すぐそこに立っていた。その右肩から、ヌゥッとクロ コダイルの巨大な半身が生え出てきた。凶悪な牙の並んだ口がクワァッと開く。 一噛みで自分の上体などこの世から消えて無くなってしまうだろう。その顎が襲 い掛かってくる。指一本動かせない。恐怖に瞼も閉じられない。 「えひゃぁぁぁぁ〜ぃぃ」  ガッッッキ!  文字通り目と鼻の先で牙が閉じ合わされた。ワニの体が引き戻される。 「ククク…。まだ、殺しはせん。ひと思いに殺してなどやるものか」  ネロ・カオスの感情を表わさない爬虫類のような目が見下ろしてくる。 「あの夜、お前達は、取り返しのつかぬ過ちを2つ犯した。1つは、私達のすべ てを滅ぼし得たと結論した事。我が半身が滅び去る様子、分体たるフクロウの眼 を通じあまさず観察させてもらった。なかなかの余興ではあったぞ。そしてもう 1つは、我が肉体の破片をその身の傷を補うために塗りこめた事だ。愚かなこと をしたものよ、おかげで魔眼を要さずこんな芸当もできる」  途端、自分の体が意に反してギクシャクと動き始めた。まるで見えない操り糸 に縛られているようなたどたどしい動きで、手が勝手にパジャマのボタンを外し ていく。腕が、肢が、自分の体から生えた別の生き物のようだ。馬鹿な。急いで、 意のままになる数少ない筋肉を総動員してみるが、圧倒的な力の前に成す術もな い。 「抵抗をすれば筋肉が張り裂けるぞ。もはや、お前の四肢は私の四肢も同然なの だ」  俺の体は、抵抗も虚しく次々に着ているものを脱ぎ捨ててゆく。力を込めてい たため、最後の下着を脱ぎ去ろうとする途中でバランスを失い、無様に床へ倒れ こんでしまった。 「ぎりぎりの死の間際から私を斃してみせたお前の闘争能力は本当に素晴らしい。 まさに万物の霊長と呼ぶべきだ。よって、私達と供に生きることを許そう。だが、 お前のその貧弱な精神は不要だ。どこまでもどこまでも辱め、嬲り尽くし、心を ひしいでやる、へし折ってやる。その肉体を自ら進んで差し出すようになるまで」  ネロ・カオスは、床の上で必死にもがく俺をお姫様だっこで持ち上げると、乱 暴にベットの上へ投げ落とした。したたかに背中を打ち、声が洩れる。 「−−たふ」 「饗宴の始まりだ。私を満足させろ。お前で満ち足りねば、この館にいる雌ども 全てを犯しながらに喰らってやるぞ。臓物に私の味が染み込むまで何度も何度も 犯し抜き、内側から喰らってやるのだ!」  ネロ・カオスは、俺の上に跨り覗き込んできた。 「気がついているか?お前、今、笑っているぞ。どうした?何故自分がこんな場 面で笑っているか解らない、まったく不理解だ、そんな顔だな。だが、正しい。 お前は、とても正しい」  笑っている?そうだ、確かに笑っていた。俺は笑っている。でもなぜ笑う。ま ったく解らない。壊れてしまったのか?俺は。 「笑顔とは何だと思う?笑顔は人間だけのものだ。獣は笑わない。獣にとって、 それは威嚇の表情だからだ。教えてやろう。集団生活をするようになった猿が、 のっぴきならぬ緊張状態に陥ったときのため、争いをここまでで停止しようとい う降伏のサインを設けた、それが笑顔だ。そう、お前の本能はもう、私に屈服し ているのだ」  ネロ・カオスは、赤黒く怒張したその人間離れした逸物で、ぴたぴたと俺の頬 を叩いた。  嫌悪感と屈辱感にギリギリと奥歯を噛み鳴らす。肉体の檻のなかで、憎悪だけ が沸騰した。殺してやる、殺してやる、殺し−−グ−−  いきなり鳩尾に拳を叩き込まれた。ゴフッ!たまらず息の塊を吐き出す。その 開いた口が、たちまちいきりたつ男性器によって埋められた。髪を鷲掴みにされ、 強引に頭部を上下させられる。 「もしも歯を立ててみろ、前歯をすべてへし折るなどすこぶる容易いのだぞ。ま あ、噛み千切られるくらいの刺激も一興だがな…」  ネロ・カオスの脇腹からズルリと生えた出た大蛇が、俺の胴から太腿にかけて を絡めとり、締め上げてきた。もの凄い力だ。 「オッ、アッ、ウッ、んぐゥ」  窒息するぎりぎりのところ、背骨が砕けるぎりぎりのところで開放される。で たらめなリズムでまた締めつけられる。何度も何度も繰り返される。  殺してやる、殺してやる、殺し…いや、殺されるッ、嫌だ、逃げ、逃げな… 「どうした、口のほうがお留守だぞ。このままボロ雑巾にされたいか?」  ひときわ強く絞り上げられ、肋骨がミシミシと不気味な和音を奏でる。 「ハーーッ。いつ聞いても心地よい音だ。よし、ここでクレッシェンド!」  ギュギュギュウウウ、ミリッ、メシシィ。  肺が潰されている。俺の肉体は、ただ必死に空気を求めてネロ・カオスの強張 りを痙攣する喉の奥へ奥へと飲み込んだ。 「ん〜〜ッ」  ネロ・カオスの体が震え、俺に巻きつくアナコンダが一瞬にして象の鼻に変貌 し、咆哮した。  ぱおーーーーーっんんん!  ようやく緊縛から解放され、荒々しく突き放された。体に力が入らず、仰向け にベットへ転倒する。もはや抗う意気など、ごっそりと搾り尽くされていた。  だが息つく暇などない。すぐにまたネロ・カオスがのしかかってきたのだ。 「マスター・テリオン、私が何故そのふたつ名で呼ばれるのかを、お前は身をも って認識することとなる」  血を滲ませている胸の古傷を狼の舌がべろりと舐め上げた。胸に回された巨怪 な熊の手が、象牙色をした爪が、乳首を探り当てる。ほつれたスチールたわしの ような剛毛が腹部を撫でる。  奴の指が、猛獣を馴らす調教師の否やを許さぬ嫌らしさで、俺のモノをしごき 立てている。巧妙に、狡猾に。 「勃てているのか?獣に蹂躙されたこの有様で、人間様が」  顔を背けたくなるような獣臭い息とともに、嘲りの言葉が吐きかけられる。下 卑たハイエナの嘲いだ。  そして、ネロ・カオスは両掌を虎のそれに変え、俺のモノを肉球で挟み込んで 器用に擦り立てた。大型肉食獣の普段は眼に触れることのないこの部分が、こん な快楽を呼び起こすなんて。俺は声を押し殺し、うめくことしかできなかった。 「エロスとタナトスは背中合わせに生まれ出でた不肖の双つ子だ。エロスは限り なく残酷に翻弄し、タナトスはどこまでも優しく抱擁する。お前になら解るだろ う?死を視る者よ。死の深淵を覗く者は、かりそめの快楽にどうしようもなく身 を焦がさずにはいられない。タナトスに魅入られ、エロスに愛でられし子よ」  ネロ・カオスは、体のありとあらゆる場所に舌を這わせては囁きかけてきた。 「お前の肉体には、もはや余すところなく我が烙印が刻まれている。あの夜、我 が分身たる数多の獣が、引き毟り、ついばみ、齧り取り、抉り出したのだ。ここ も、ここも、そしてここも。その傷を埋めているのは、まさしく我が原初の肉泥。 そうだ!お前の肉体はすでに私のものなのだ」  カシミアの柔毛が抱きすくめ、孔雀の羽根がくすぐり、シャム猫の肌が撫で過 ぎる。 「クククク…悦楽と野生の王国へようこそ」  クズリの爪がびくびくと震える男性自身を上下し、傷つけないくらいの微妙な 強さで、敏感なくびれをなぞっていく。  あぁあっ、たまらない。いまや嫌悪感は、快感を増大させる触媒でしかない。  黒豹の琥珀色の牙が喉を甘噛みした。白頭鷲のカチカチと鳴る嘴が腋下を突つ いた。ガラガラ蛇の毒牙が内腿を擦過していった。それらは大動脈の通う人体の 急所ばかりだ。そして、だからこそ感じる。狂おしいほどに感じる。 「は、はぁぁっぁぁん」  オオアリクイのネバネバとした細長い舌が肉棒に絡み、嬲るように動き回る、 先端が鈴口に差し込まれると、腰から下が蕩けそうな快感が湧いた。  チロチロと菊座をからかうのは大蜥蜴の舌だろうか? 「さあ、さらなるパラダイスを見せてやろう」  ネロ・カオスが右手の中指を立てて見せた。その指だけが無闇に長い。先端に は邪悪な鉤爪。人間の手ではない。それは紅い毛で覆われた異形の手だった。猿 の手? 「初めてマダガスカルに上陸した探検家たちは、その原始猿類を、耳の穴から指 を差込み人の脳味噌をむさぼる悪魔の化身と考えた。だが…」  その禍々しい指が、そろそろと後門へと差し込まれる。 「ふむ…ここだ」  動かしはじめた。擦られている。引っ掻くように、そのほっこりとした、内に 隠された秘密の、実は男の最も敏感な部分を爪の先がこしょこしょと撫で上げた。 体験したことのない強烈な感覚だった。 「アイッ、痛ッ、アーーィッ、いーーーっ」  臆面もなく悶えた。理性などではどうしようもない。人間は機械だ。自動的な のだ。男はそういう風に出来ているのだ。猛烈な勢いでこみ上げてくる。なのに −−−抜かれたッ。寸前で。いけない。お預けだ。全身を細かい痙攣が走る。力 が抜ける。ひどい。あんまりだ。意識が遠のく。スーッと落ちていきそうになる。  そこを力強い腕に掴まれ、引き戻された。 「もうお前も準備は整ったようだな。さあ挿れるぞ。受け入れろ。これから私は、 きっかり六百と六十と六回お前を衝く!知恵ある者は数えるがよい、それこそ獣 の数字、お前が死に至るまでのカウントダウンだ」  未だかつて何者にも許したことのない青い蕾をこじ開け、赤黒く怒張した灼熱 の焼ゴテが侵入してきた。これまで与えられたなかで最大級の苦痛。裂けるッ。 「イイイィ、イギィィィ!」 「安心しろ、裂けはせぬ。加減は心得ている。苦痛も、快楽もひとときで終わら せはせぬよ…」  後門の花びらが裏返され、捩れたまま内側へたくし込まれてゆく。剛毛に覆わ れたネロ・カオスの懲罰棒がザリザリと内壁を擦った。野生のリズムを刻みなが ら、際限なく続く陵辱。  苦痛、苦痛、燃えるような苦痛しかない。苦痛で脊椎が灼き切れそうだ。奴は 間違いなく俺をこうして嬲り殺す気だ。助からない。怖かった。気が違うくらい 恐ろしかった。この苦痛の彼方に死が待っている。そして間断なき苦痛の連続と 死とのあわいに、かすかに、途方もない解放と快楽が垣間見える。そのことがま た魂が消えゆくくらいに恐ろしかった。 「さあ、あと400回」  ああッ、まだこれが400回も続くのか、拷問だ、絶望的な長さだ。耐えられ ない、絶対に。いや!そうじゃあない、違う。400回だって?それが俺の余命 なのか?たったの?400回で?いや、今はもう396回…ああああぁ、嫌だッ、 死にたくない。けど、苦しい。死んだほうがまし。なのに、そのはずなのに。 「阿呆のようにとろんとした目で、涎を流しているぞ、遠野志貴。壊れるのはま だ早いぞ、まだ許さん」  ネロ・カオスは、繋がったままで俺の体を裏返し、尻を高々と掲げさせた。 「ケダモノにはこちらの格好がお似合いだな。んん?」  さらに激しく、さらに深く、さらに容赦なく責め立ててきた。 「フぅム、素晴らしい!お前のなかは。屠られる寸前の小兎のように震えている。 曝かれた牝鹿のはらわたのように熱く濡れているぞ」  先端が、さらにグゥウと膨らむ。体内でモノ自体が形を変えはじめる。別の何 かに変貌している。別の生き物だ。  これは、この太さは、ダメだ、太過ぎる。 「に゛いぃーー。えうーーーー」  それが容赦なく抜き差しされる。まるで鉄拳を続けざまに叩きつけられている ようだ。レバーに響くヘヴィパンチを何発も何発も、しかも内側からダイレクト に。内臓が裏返り、胃袋そのものを嘔吐してしまいそうな感覚。それなのに遠野 志貴の口から吐き出されるのは、苦痛とも哀訴ともつかない連続した短い吐息だ けだった。 「どうだ、ガラパゴスゾウガメの味はッ」  男性器を亀の頭に例えるのは常套句だ。しかし、未だかつて本当に亀に犯され た者がいるだろうか。それも世界最大の陸亀にこうして貫かれて。 「さ、さあ…供に昇りつめようではないか。最後はこれをくれてやる」  ネロ・カオスのそれがまたも形を変えていく。さっきより細く滑らかに、しか しより執拗な何かに。 「ヒグゥぅーーー」  滑り込み再び引き戻される度、逆撫でされた鱗が後門の縁をゾリゾリと削りあ げていく。冷たく長いものが、のたくりながら、ひときわ奥へと潜り込んでくる、 信じられないくらい奥へと。 「そうら、これがコブラだ。シヴァ・リンガの象徴、ナーガ・ラジャだ。実物は 初めてかな。ん?挨拶はどうした?そうだ、言ってみろ。コブラだ!さあ!」 「こっ…コ、、、コ〜ブラァーーァァァ」 「ファハハハッ、よくできた。ご褒美だッ」  キシャーーーー!  その瞬間何かが炸裂した。コブラが、俺のなかで、威嚇に頭部を膨らませ鎌首 をもたげたのだ。 「ガッ、アゥ、フゥッ、フゴァァァッ」  空気を全部吐き出しても、絶叫は止まらなかった。 「ンパァッ−−−オパアッ−−ッ−−」  苦しい。酸素を求めて脳の血管がぱんぱんに膨らんでいる。意識が朦朧と融け 出していく。  遠い夏の日に、秋葉と、邸の庭で一匹の猫が灰色の小さなボールのようなモノ で遊んでいるのを見つけたことがあった。時々、庭へ入り込んでくる猫で、あん まり可愛い声で鳴くものだから、ミルクをあげて撫でてあげてたりもしてたっけ。 その日も無心に遊ぶ愛らしい姿に惹きつけられて眼を凝らすと、弄んでいるその 毛玉は、実は、くしゃくしゃになった鼠だった。猫の右手から左手へ、ぐにゃぐ にゃ転がされる。お手玉みたいに放り上げられ、くるくる回って落っこちる。脱 力した四肢の動きが、トランポリンで跳ねる太っちょピエロみたいにユーモラス にも見えた。そんな姿になりながらも、鼠はまだヒクヒクと鼻先だけは動かして いた。きっと爪か牙かで脊椎を断たれ、身体の自由を失ってるのだ。俺は取り憑 かれたようにそれを見ていた、乱暴に肩を揺すられるまで。目の前の陰惨な光景 に、秋葉は悲鳴に似た声で、助けてと俺に訴えた、助けて、助けてと。俺が大声 をあげて走り寄ると、猫は聞いたこともない威嚇の声を発し、目にも止まらぬ疾 さで身を翻すと逃げ去っていった。後には、噛み千切られた鼠の首だけ。鼠が可 愛そうだったのか、小猫が見せた残酷さが怖かったのか、小さな秋葉はしばらく ずっと泣きじゃくっていたっけ。  ああ、今この時まで、あの鼠は絶対の絶望のなか脳を苦痛に煮え立たせている ものと思っていた。  けれど、生きるのを諦め切った小動物は、こんなにもこんなにも快美な感覚に 身を委ねていたのだ。  俺は今、自由だ。どうしようもなく自由だ。生きるという義務に時計仕掛けの ごとく動かされ追い立てられることもなく。  痛い、生きている、生きているから、痛い、そして死ぬ、もうすぐで死ぬ。絶 対だ、それは避けられない。でも、心配しなくていい、死ぬのは今日か明日か十 年後か?そんな心配しなくていい、怯えなくていい、足掻かなくていい、死ぬの はすぐ、もうすぐ、それは避けられない、それが分かってるんだから。  眼を開く、世界はこんなにも死に満ち満ちている。そうだ生きているのがおか しいんだ。どうしてそんな簡単なことに気づかないでいたんだろう。もうすぐあ たりまえのかたちになる。すべてといっしょになる。だからこんなにきもちいい。 ああ、自分は生きてる、そして死ぬ。もうすぐ、もうすぐ、いま! 「さあ!いくぞ、いくぞ。来い、来い。私のものになれ。私の一部になれ。志貴。 ハァッ。はあッ。あるるるるるぅ〜、ウウぉッ!!!」  カウント666。  吼えた。シャァァァァァァツ!!  体内の蛇がひときわ大きくのたくり、震え、弾丸のように大量の毒液を吐き出 した。何度も、何度も。熱い。ぶちまけられた毒液が臓腸をぐずぐずに溶かし浸 蝕する。 「ーーーーーーーー!」  肺のなかにはとうに何も残ってはいないのに、声もなく絶叫した。  何に?快楽に。  弾けた白い光が弾け遠野志貴は居なくなったいや光が遠野志貴だった誰だ遠野 志貴って?俺は光だ快楽だ純粋だ死だ。消える。 「堕ちたな…。お前は我となった。我が猥雑にして懐かしき混沌へようこそ。 我は死よりも優しく汝を抱擁する。おやすみ、シキ」               $  $  $ 「志貴さま!志貴さま!」 「はへ?ひ、翡翠…?」 「大丈夫でございますか?獣のような声で叫んでおられましたよ。それはもう凄 いうなされ様で…」 「じゃ…夢、夢なのか?あれは?は、はははっ、ハタハッハ…」               $  $  $ 「ね、教えてよ。志貴が誰といい夢をみたかぐらい、教えてくれてもいいじゃな い。ねーねー」  アルクェイドの追求をかわしながら俺は、後ろ手に短刀の鞘を払い、できるだ けさりげなく聞いてみた。 「ん、アルクェイド。お尻は、好き…かな?」   ギャフン!(終わる)   
二次創作ページへ