妄想選手権参加作品

作:しにを



お題:幼馴染み...CASE1 「うわあ、結構変わっちゃってるなあ」  駅から広場に出て辺りを見回す。  離婚した父に連れられて遥か遠方の地に移って5年余り、田舎街だった生まれ故郷も 開発が進んでいた。 「まさか、家が分からないなんて事は…… ありそうだな」  素直に迎えに来て貰えばよかった。  母さんか、隣のあいつにでも。 「きゃあっ」  女の子の悲鳴に振り向くのと、階段から転び落ちかけた少女の体を受け止めた、とい うかぶつかったのが同時だった。 「大丈夫?」 「は、はい。すみません」  白いワンピースの少女がペコリと頭を下げる。 「いいよ。怪我が無くてよかったよ。はい」  落としたバッグを手渡す。 「ありがとうございます。……」  ?   少女かじっと俺の顔を見つめて首をかしげる。  これほど可愛い子にそんな真似をされて、ドギマギとしてしまう。 「ええと?」 「あ、何でもないです」  ニコリと少女が微笑む。 「そう? あ、そうだ、この街の人ならちょっと教えてくれるかな。△△ってどの辺り か分かる?」 「わかりますよ。私の家もその辺だからご迷惑で無ければご一緒しましょうか」 「それは助かるよ」  所々記憶に残る道を歩きながら、少女と言葉を交わした。  お互いに同い年で同じ学校らしいと言うこと。昔、俺はこの町に住んでいたこと。い つの間にか復縁した両親に振り回され、また戻ってきたこと。 「そう言えば○○って知ってるかな。高2なら同い年なんだけど」  ふと思いついて隣に住んでいた幼馴染みの少女の名を口にする。 「どんな方だったんですか?」 「幼馴染みで、小さい頃から一緒だったんだ。男の子みたいな奴でよく喧嘩したりもし たけどいつも一緒で、引っ越してからずいぶん泣いたなあ」 「ふうん。もしかして初恋の人だったりするんですか」 「そういうのとは、いや、もしかするとそうだったのかな。一番大事な存在だったし。 今も男っぽいのかなあ」 「……そんな事は無いと思いますよ」 「あれ、知ってるんだ、やっぱり」 「ええ、良くね。あ、着きましたよ。……ちゃん」  え?  いつの間にか5年ぶりの我が家の前に立っていた。 「今日はお夕飯一緒に食べるから、後でね。……気づいてくれるかなと思ってたのに」  少女は悪戯っぽい笑みを浮かべて隣の家へ入っていった。  俺は呆然と、どうしても一致しない男の子然とした記憶の中の幼馴染みと今の少女の 姿を結び付けようとしていた……。

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お題:幼馴染み...CASE2 「ほらまた来たよ、手紙。今日は3通もかちあった」 「うん。すまないな。……また断りの手紙書かないと」 「ろくすっぽ相手も確かめなくていいのか? 2組の小林さんなんて、女の私から見て も相当レベル高いと思うけど。本当に性格も良いし、同性にも嫌われないタイプだぞ」 「興味ない」 「ふうん。そういう処がまた一部の女の子に『ストイックで素敵』とか変な誤解受ける んだよな。だいたい昔はちびで私の後着いてきてぴーぴー泣いてた癖に中学高校と柄ば かりでかくなるわ、外面ばかり良くなるわ、ずるいよな。単にぼうっとして黙ってるだ けなのに寡黙で大人びた雰囲気なんて言われるし。私なんかちびで幼児体型で声もガキ っぽいから男なんて寄って来ないってのに」 「そういうのじゃなくちゃ嫌だって奴も、昨今いるんじゃないのか」 「そんなのこっちがお断りだい」 「そうか。でも一方的に自分の中のイメージぶつけられるのも辛いぞ」 「ふうん。でもそれも酷い話だな。無愛想だけどけっこう優しい処とか、何かやり始め たらきちんと最後まで責任取る処とか、ちょっと間抜けな処とか、良い処だっていっぱ いあるのに……」  悔しそうな顔で言う。  そうやって俺のことちゃんと見ててくれてるの、おまえだけだよ。 「じゃあさ、逆にどんな娘ならいいの? 何なら探してあげるよ」 「そうだな。頭が良くてそれを大抵ろくでもない事に使う奴。口が悪いくせに本当は優 しくて繊細な奴。自分の事はかまわずに他人のことばっか一生懸命な奴。気が回る癖に 自分のことは鈍感な奴」 「……? ふうん、よく分からんが、そういう娘が好みね、変な奴」  それで、ちびで幼児体型で声もガキっぽい、子供の頃からぴーぴー泣く俺を庇って腕 を引っ張ってくれた女の子じゃなきゃ俺は嫌なんだけどな。  一緒に出掛けたり、それとなく告白じみた真似をしても全然気づいてくれないけどな。 「ねえ、どうしたの? 立ち止まって」 「何でもない。行こうか」溜め息。

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お題:妹  一睡も出来ぬまま、夜明けを迎えた。 「なんで、あんな事をしてしまったんだろう」  何百、何千回めかの答えの出ない自分への問いかけ。  妹の姿がまた脳裏に浮かぶ。もはや打ち消すのにも疲れた。  次々に過去の事が思い出される。  親父に手を取られ家に来た、父母を亡くし辛い目にあっていたという遠縁の少女。 「俺とお前と一緒に暮らした方がまだ幸せなんだ。悲惨だろ。今日からお前の妹にな るから、仲良くしてやってくれ」  日頃は無口で怖い印象の親父の頼むような口調に、力強く頷いた事。  俺や親父の方を見る怯えた瞳が、少しずつ氷解し笑みを見せるようになった事。  初めて「お兄ちゃん」と呼んでくれたあの時の事。  絶対に絶対に妹の事を守ると、妹の事を傷つけようとするすべてから守ってやると 誓ったあの日の事。  全て昨日の事の様に鮮明に覚えている。  妹の笑顔が何よりも俺には大事だったのに。 「なんで、あんな事をしてしまったんだろう」 「……お兄ちゃん、起きてる?」  扉を叩く音と、その声にギクリとする。 「入るな」という一言が口を出ない。 「お兄ちゃん? 起きてたんだ」  いつもと変わらない妹の笑顔と態度。 「朝ごはん出来てるよ」  妹が窓に近づきカーテンを開ける。朝の光が射し込む。  ずっと昨晩の事を後悔し、朝が来てまた妹と顔を合わすのをあれほど恐れていたの だ。安堵を覚えても良い筈だった。  でも、俺の口から出たのは、黙っていればそのまま何事も無く続いたかもしれない 日常を破壊する一言だった。 「何で平気なんだよ」  凍りついたように妹の動きが止まる。 「何でもない事だったのか、お前には」  終わった。これで終わりだ。でも不思議な満足感を覚えていた。  振り返った妹が絞りだす様な声で言う。 「平気なんかじゃないよ。でも私が平気じゃないとお兄ちゃんも」  真っ赤な瞳と涙の痕が目に映り、急に気持ちが萎む。 「ごめん」 「……謝るの。じゃあ、あれは気の迷いか何かだったの?」 「違う。あれは俺の一方的にぶつけた気持ちだったけど、本気だった。俺はお前のお兄 ちゃんでいることにもう耐えられなかったんだ」 「……」 「迷惑だよな。お前の信頼は全て失ったけど、最後に一つだけ約束する。お前の言うと おりにする。お前の兄に戻してくれるなら二度とあんな真似はしない。謝れと言うなら 何度でも謝る。こんな見下げ果てた男と一緒の家にいるのが嫌なら、今すぐ出て行く。 頼む、何でもいいから、言ってくれ」 「……私、お兄ちゃんはいらない」 「そうか、そうだよな」  拒絶。当たり前だ。一番最低なやり方で妹の信頼を踏みにじった馬鹿兄貴には当然の 報いだ。  不思議に平静な気持ちで妹の最後の姿を心に刻む。 「私も……、私ももうお兄ちゃんの妹のままじゃ嫌だよ」  潤んだ瞳で妹はそう言うと、呆然としている俺の胸にとび込んだ。  胸に妹の顔が当たる。  触れたら壊れそうな妹の体を腕の中におさめて、俺はただ立ち尽くしていた……。  

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お題:永遠の少女(+機械少女)  カチャリと扉が開き、少女が部屋に入ってくる。  15歳ほどに見える人形のように整った顔立ちの少女。 「まだ、お勉強の時間は終わっていませんよ」  非難の眼差し。 「課題は終わったよ。採点する?」  少年は笑いながら答えて、ノートを差し出し、少女は受け取ると代わりに手にした紅 茶とスコーンを載せたお盆を渡す。  少年が薫り高い紅茶を啜っている間に、少女はパラパラと無造作にページをめくる。 「200問中195正解。まずまずですね」 「やった」 「ご褒美に夕飯はリクエストに答えましょう。何がいいです?」 「栗ご飯」 「分かりました。茶碗蒸とお吸い物と鮮度の良い鯖が売ってましたから、それで何か作 りましょう」 「アリアってそうやってるとお母さんみたいだね」 「あなたを立派な大人に育てるというのがマスターの最後の命令でしたから。その為な ら、母親にも姉にも教師にも医者にもなりますよ」 「……それだけなの?」  少年は、科法の粋を集めて作られた人造の少女を見つめる。 「私に自分の意思などありませんから」 「それでも僕はアリアが好きだよ。アリアが前に言ったように自分の投射による錯覚だ としてもね」  少女は無表情な瞳で少年を見つめる。 深夜。 ソファーでうたた寝していた少年を起こさぬようそっと抱きかかえて少女は寝室へ向 かう。  慈愛に満ちた表情。昼間とはまったく違った人間じみた、感情を湛えた目で少年の寝 顔を見つめる。 「本当は私には人間みたいな感情も備えられているんですよ。内緒ですけどね。でも、 あなたを立派に育てる為にそれは消していなければいけないんです。 早く私に依存しない、私が仕えるに足るマスターになって下さい。きっと寂しいでし ょうけど、それだけが私の喜びであり望みですから……」

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お題:隣のお姉さん  台所で炒め物の音と良い匂いが漂ってくる。  今日も両親不在なので、姉さんが料理を作りに来てくれているのだ。  所在なげにテレビを眺めていたが、またふらりとそちらへ足を運ぶ。 「なんか手伝う事ないの?」 「うーん、もう出来るから。じゃ、お皿とか運んでくれる?」  制服姿のままエプロンという格好で、手際良く出来た料理を盛りつけ、味噌汁をよそ いながら姉さんが答える。  頷くと俺は皿を受取った。 「こうやって一緒に食べるの久しぶりだね」 「昨日も夕飯一緒だったぞ」 「家に食べに来るのと、私が作りに来るんじゃ全然違うよ。ねえ?」 「ん?」 「彼女とかまだできないの?」  むせた。 「だ、大丈夫」 「……大丈夫くない。突然変な事言うな」 「ごめんなさい。でも変な事じゃないよ」 「彼女なんていないし、別に欲しくも無い」 「そうなの?」 「そっちこそ、あれだけいろんな奴から告白されてて、一向に彼氏の一人も出来ないの はどういう訳だよ」 「私は……そういうのはいいの。でも、それならまだ私、○○ちゃん(*普段はこう呼 ばれるが学校とかでは○○君と呼ぶ)のお姉さんでいていいのかな」 「……」  弟か……。  嬉しくもあるが、少し心に刺が刺さる。  物心ついた頃からずっと一緒にいた友達であり姉である彼女の存在が、今では……。 「弟じゃ嫌だって言ったらどうする?」  思わず言葉が洩れる。  ちょっと二人の間に沈黙が落ちる。  しばらくして、ぽつりと姉さんが言う。 「私ね、小さい頃は○○ちゃんの本当のお姉さんじゃないのが不思議で、それに嫌だっ たんだ。本当のお姉さんじゃないといつかどこかにいっちゃうと思っていたから。  でも、今は本当のお姉さんじゃなくて良かったと思ってるんだ」  視線が合う。  真剣な目だ。  多分俺も同じ目をしている。  いつのまにか俺は岐路に立っていた。  そして俺は……。

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お題:犬と少女 公園にて  白い犬を連れて散歩に来た少女。  期待に満ちた目できょろきょろ辺りを見回すが、落胆して溜息。  しゃがんで我関せずといった風情の犬に話し掛ける。 「よくここに来るって昨日は言ってたのにね」  しばらく犬を撫ぜていたが、ふと怒ったような顔をする。 「ベスはいいよね。○○君に可愛いって言ってもらって頭撫でて貰って。あんなにじゃ れついて。  私なんか緊張してろくに返事も出来なかったのに。  ……なんで飼い犬に嫉妬しなきゃいけないのよ。  聞いてるの、ベス?」  ばうっ、ばうっ。 「どうしたの、ベス?」  振り返ると同じ年頃の少年がちょっと困り顔で立っている。 「え、ええっ? ○○君、いつからいたの?」
二次創作へ