猫魅媚

作:しにを



「うん……」  甘い吐息。  荒い息遣いに重ねるように、こぼれる。 「ふ、ぅぅん……んっ。ああっ志貴、し、き……、んんっ」  つまった息。  くちゅ、んふぅ……、ちゅぷっ、くちゅ……、んんっ。  声とも呼吸音ともつかぬ湿った音。 「はあ……、あ、ん……」 「満足した? アルクェイド」 「うん……」  また、ちゅっという音が起こる。  志貴とアルクェイドの口づけの音。  先程のような激しさは無いが、舌が互いを求め合っている。  しばらく唇は合わされたままで、糸を垂らしつつ離れる。 「ごめんね、志貴。急に夜に……」 「なんだ、急にしおらしくなって」 「今になって、迷惑だったかなって思って。怒ってない?」 「怒ってたらこんな事しないよ。ちょっとびっくりしたけどな。ここしばらく学校とかも 忙しくあんまりかまってやれなかったものな。それに……」 「それに、何?」  アルクェイドとしては別に機械的に問い掛けただけかもしれないが、言いかけて意図的 に言葉を止めた志貴の方は、露骨にしまったと言う顔をしている。 「ね、志貴、どうし……、ううんっ」  また志貴の唇がアルクェイドの柔らかいそれを塞ぐ。  ちゅぶっ、ちぅぅっ……、くちゅ……。  しばらく志貴はそのままアルクェイドを抱き締める。  ようやく離れた時には、アルクェイドの目はとろんとしていた。 「……なんだかごまかされちゃったけど、許してあげる」  服を着ながらアルクェイドは志貴に微笑みかける。  志貴はかすかに苦笑いをしている。 「じゃ、帰るね」 「ああ。休みに何処か行こうな」 「本当? 嬉しいな。ばいばい、志貴」  窓からトンとアルクェイドは飛び降りる。  出入り口じゃないんだぞ、と何十回目になるかわからない文句を口にしながらも、志貴 は優しい目でアルクェイドを見送る。  ひらひらと手を振ってからあっという間にアルクェイドは遠ざかっていく。  消えた後もしばらく志貴は外を見ていた。  そして窓を閉めかけて、途中で止める。  少し夜風を入れようかと開けたままにして、ごろりとベッドに横たわる。 「さすがにちょっと疲れたな」  ふうと志貴は溜息をつく。  目は天井を見つめている。    感じる。  自分を見る目を。  感じる。  アルクェイドがいた時からじっとこちらを見ていた目を。 「レン……?」  姿が見えぬ使い魔に呼びかける。  何処にいたのだろうか、トンと黒猫が姿を現す。  じっと無表情に自分の主を黒猫は見ている。  志貴はどうしたものかな、と迷った目で黒猫を見ている。 「俺とアルクェイドの……、見てたろ、レン?」  傍から見るとおかしな光景。  しかし志貴はわずかに咎めるような口調で真面目に話し掛けている。  今の外観は一匹の小さい黒猫に過ぎないが、志貴の問い掛けに反応して、黒猫は単なる 猫である事をやめ、人語を解する使い魔たる正体を明かす。  志貴の飼っている黒猫から、使い魔のレンに変わる。  屋敷の中で志貴一人が知るレンに。  志貴の問いにレンは頷く。  言葉無く。 「ああいう時は外にいてくれって、前にも言ったよね?」  レンは志貴の目を見ているが、答えない。  しばらくそうしていてから、部屋にある時計と開けたままの窓を指し示す。  志貴はちょっと考え、ああと気がつく。 「まあ、予定外に来たあいつも悪いけどさ」  どことなくこちらを責めているようなレンの瞳。  かえって志貴のほうがたじたじとなる。  レンがベッドにのって、志貴の横のシーツをぽんぽんと無言で軽く叩く。  またじいーっと志貴を見つめる。 「うーん」  レンにしてみれば、せっかく志貴と一緒に寝ていたら突如現れた深夜の闖入者に邪魔さ れたという認識なのだろう。  挙句、飼い主たる志貴に邪険にベッドの下に追い立てられ、アルクェイドと交わる志貴 の姿をえんえんと見せつけられる始末。  確かにレンには面白くないよな、と考えて志貴は気弱げにレンに訊ねる。 「レン、もしかして怒っている?」 「……」 「レンの事もちゃんと可愛がってるだろ。昨夜だってさ……」  言いながら志貴は、宥めるようにレンの頭を撫でてやる。  さっきアルクェイドに言いかけたのも、「レンに精を与えているから、アルクェイドとは 頻繁に出来ないしな」という、言ったが最後一悶着ありそうな言葉であった。  レンが動いた。  ベッドで胡座をかいた志貴の胸をぺろりと舐める。  舌が汗ばんだ志貴の肌を丹念に舐め上げる。  くすぐったさを伴ったやんわりとした快感が走る。 「レン?」  レンは志貴にかまわず、胸を舐めて、さらに腹へ、下へと徐々に舌を移動させていく。  そして、先程の激しい交合の名残りが残る志貴のペニスへと。  簡単にティッシュで拭いたものの、まだ色濃く性臭が認められるそれに近づく。  戸惑っていた志貴もレンの意図を察する。 「レン、さすがに今日はもう無理だよ」  ぞくぞくするような快感に志貴のペニスは頭をもたげつつも、通常に比べて遥かにその 反応は鈍い。 「また、今度……、ああっ」  舌先での濡れた感触を期待していた志貴であったが、違う刺激に思わず嬌声を洩らす。  舌ではなく、まず小さなレンの手が触れた。  柔らかいぷにっとした手が。  両手で挟むようにしてペニスをこする。  そして、次の異様な感触。  羽箒か、陶磁器の埃を払うの柔毛のハケででも撫でられたが如き柔らかく軽い刺激。  レンは手で志貴のペニスを支えつつ、自分の顔を、頭を、擦りつけていた。  粘性のある精液と愛液の混ざり合った残滓が、柔らかな感触の中で絡め取られていく。  気持ちいい……。  純粋なペニスから染み入る快感。  そして、レンに舐め取らせるならまだしも、まるでさっきのティッシュの如くレンに己 の性交の跡をなすり付けているという歪んだ興奮。  レンはさっきのアルクェイドとの激しい情交を自分に移したいとでも言うように、熱心 にその行為を続けている。  そして満足したのか、飽きたのか、今度はいつの間にか屹立して志貴のペニスを舌先で ちろちろと舐め始める。  ミルクを与えられた仔猫のように。  さっきの行為がアルクェイドの匂いを奪おうとしていたのだとすれば、今度は痕跡も全 て消し去ってしまおうと決意したとでも言うように、熱心にそして丹念に。  舐めている、前の飼い主と新たなマスターの残滓を。  残った精だけではなく、新たにペニスの鈴口からこぼれる少し濁った粘性のある露も嬉 しそうに舐め取っている。  そして……。  しかし、不満そうに志貴の顔を見上げる結果に終わる。  レンの期待した熱く薫り高い素敵な精は姿を現さない。  志貴はある程度までで、限界を越えてくれない。 「さすがに無理だよ。ごめんね、レン」  熱心に奉仕をしていた使い魔に対して、志貴はすまなそうに頭を撫でる。  レンは「ダメなの?」と言いたげな瞳で志貴を見ている。 「おいで、レン」  言いながら志貴は体を後ろに倒す。  仰向けに寝転んだ形。  レンは名残惜しげにしながらも、股間から離れて志貴の胸に体を重ねる。  志貴は舌を出した。  レンは応じて、自分も小さな舌を伸ばす。  二人の舌が近づき……、触れた。  ちろりと、レンの舌が志貴のそれを掠める。  絡めとるように、志貴の舌がレンのそれを追いかける。  唇は近づきつつも触れず、舌だけが淫らな遊戯を行っている。  ちろちろ、と。  くちゅり、と。  舌を伝って唾液がこぼれ、ぽたぽたと志貴の口を顎を汚す。  しかし志貴はかまわず、レンの舌と戯れ続ける。  レンの舌が志貴を追うのに合わせて、口腔に誘い入れる。  そのまま志貴とレンは唇を合わせた。  志貴の口腔でレンは思うがままに動く。  志貴の唇を、歯を、舌の根を、頬の粘膜を舐める。  それに伴いレンの舌からとろとろと唾液が志貴の口に流れ落ちる。  ぢゅる……と志貴はそれを啜りこむ。 「レン……」  くぐもった声にならぬ声で志貴はレンの名を呼び、愛しげにレンの頭を撫でる。  先程の行為で粘液がついた部分も気にする事無く、撫でてやる。  頭だけではなく、まぶたを軽く指でなぞり、耳を指を這わせてくすぐってやる。  口づけを交わしたまま、レンは嬉しそうに目を細める。  長い長い口づけが終わり、唇が離れる。  どうしようかなと志貴が思っているうちに、レンの方が積極的にアクションを起こした。  くるりと体を半回転させ、再び志貴の股間へと顔を埋める。  ペニスに顔を触れさせる。 「やっぱり、精が欲しいのかな」  困ったなという顔をしつつ後ろ手に上半身を起こして、志貴はレンを上から見つめる。  レンの小さな口では志貴のペニスを全て含む事は不可能だが、精一杯口を広げて唇と舌 とでレンは志貴を包み込む。  さっきの舌だけで舐めていた感触とも違う快感。  腹に当たっているレンの体の感触もさっきは無かったものだった。  それに熱心に頑張っているレンの姿。  それは単に使い魔の本能として精を欲しがっているだけなのかもしれないが、志貴の目 には健気にも映る。  せめてレンを気持良くさせてあげようかな。  そんな気分に志貴はなっていた。  上体をさらに起こして、志貴は手を伸ばした。  左手でレンの足を掴んで、右手の指をレンの女の子に当てる。  口戯の邪魔にならない程度にレンの足を広げて、レンのそこを観察する。  さっきやはり同じ様な事をしていたアルクェイドとはまるで違った形状のように見える。  複雑な形状だがお馴染みでわかりやすい成熟した女の性器であるアルクェイドのものと 比べると、レンのものはシンプルだが小さくかえってわかりにくい。  志貴は指を動かした。  レンの幼い小さな性器を拡げ、弄り、なぞる。  目でわからない繊細な部分を、指で確かめる。  ぐにぐにと熱意をもって探求する。  レンが声にならない声を洩らす。  志貴を高める行為が止まってしまう。 「レン、気持ちいい?」  表情が見えないので声を掛けながら、志貴は返事を待たずにつぷと人差し指を膣口に挿 し入れてしまう。  狭い。  きゅうきゅうに締め付けてくる。  入ったものの動かすのも困難なほどまったく余裕が無い。  それでも動かそうとすると、指ごと膣壁が前後に動きそうになる。   「ちっちゃいなあ」  感心したように呟く。  大きく動かすのは諦めて小さく揺らすように指を動かす。 「お、レン?」  指の刺激に耐えていたのか、動きを止めていたレンだったが、幾分慣れたのか志貴への 奉仕を再開する。  よりいっそうの熱意と動きをもって。  ペニスのカリの部分を、裏の筋の部分を、先端の鈴口を、重点的に唇でこすり舌で激し く舐め上げる。  さすがに長いこと刺激され続け、そして今の的確な動きで弱点を攻め立てられ、志貴は ようやく臨界点近くまで高まっていった。  じんわりと腰が痺れるような感触に満ちる。  ああ、来そうだ。 「レン、いくよ、ごちそうだ」 「……」  嬉しそうにレンが喉を鳴らす。  ここが出口だと知らせるように、鈴口を集中して舌で激しく責める。  舌先で穴をちろちろとほじり、先端に舌を絡めてこすり上げる。  じわり。  ああっ。  爆発する様な射精感。  びゅくッ、びゅる、びゅるるッッ!!  もう一滴も残っていないと思っていたくらいなのに。  いったい何処にこんなに残っていたのか。  激しく精液が迸りレンの口で弾け、勢い良く暴れたペニスはレンの顔をも染め上げていく。  しかし身体の体力や活力を無理矢理に精液に変換したかのように、今の爆発で志貴はぐっ たりと倒れ込んだ。  耳に届いたレンの歓喜の声は本物なのか、錯覚だったのか。  ほっとしたような満足したような顔で志貴は意識を失った。  ・  ・  ・   「うん……?」  どれだけ、倒れこんでいたのだろうか。  頭に霞がかかったまま志貴は目を開いた。  ぼんやりと寝たまま辺りを見回す。  裸のままベッドに横たわっている。  レンは?  お腹にくっつくようにして眠っている。 「あーあ、後で綺麗にしてやらないと」  顔は拭ったらしいが、乾いた精液がところどころついたままだった。  レンにしてみたら汚れどころか、喜ばしいマスターからの贈り物なのかもしれないが。  自分のは、と見ると知らない間にレンに後始末されているようだった。  嬉しそうに舐めるレンのいつもの姿が浮かぶ。 「風呂でも入らないと、でも今は……。  いいや、後で翡翠に気づかれないうちに起きて、レンと一緒に……」  言いながら大きく欠伸をして志貴は目を閉じる。  時折肌を撫ぜる夜風が気持ち良い。  ああ、眠い。  ……。  ……。  おやすみ、レン。  《FIN》 ―――あとがき  蒼月祭2の外での並び列と、帰りの電車で書いてました(ほぼ完成の下書きを)  ……。  それはそれとして、私は現実世界ではレンは女の子形態になれないものと解しています。  少なくとも、ゲーム内では言及されていないし、なってませんよね。  と、言う事で公式でそういう設定になるまで、少なくとも私が書くSSでは、レンは現 実世界では黒猫のまま、女の子レンは夢の中のみとします。  もちろん、このSSの中でもそういう設定です。  ・  ・  ・  と言う事で。(別に女の子形態として読んで頂いても支障が無い様にしましたが……)  しかし4/26決戦の伏兵『KISS×200』の影響がそこかしこに(笑  それとタイトルは「ねこみみ」です。漢字は適当につけています。以上。    by しにを(2002/5/6)
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