「酷いなあ、秋葉……、お姉ちゃん」
「えっ」

「聞こえなかった? 酷いなあって言ったんだよ。いたいけな子供にあんな真似をして。
 抵抗できなくして力ずくで弄ぶなんて、トラウマになって異性恐怖症になってもおかし
くないよ。そうだろう、秋葉お姉ちゃん?」
「!!!」
 秋葉は目を見開き、志貴を見つめた。

 微妙に志貴の口調が変わっている。
 むしろその年頃の少年に相応な調子であったが、今までが今まであっただけに突然、志
貴の中身が変わったような違和感が秋葉には感じられる。
 それになにより自分への、その呼び方……。

「どうしたの、秋葉お姉ちゃん」
「に、兄さん、なにを、何を言っているんです」
「だから、あんな真似をするなんて……」
「そうじゃなくて、私のこと、その……、なんでお姉ちゃん、なんて」
「だって、見た目からすれば、むしろそういう方が自然じゃないか、秋葉……、お姉ちゃ
んは?」
「やだっ、そんな呼び方をしないで……」
「ふうん?」

 志貴が秋葉お姉ちゃんの名を呼ぶ度に、秋葉はびくびくと異常なまでに過敏に反応して
いた。
 それは決して嫌だという感情を持った反応ではなく、むしろその逆の様だった。

「だって、さっきは昔の小さい頃の僕だと思って、悪戯しようとしたんじゃないのかな、
秋葉お姉ちゃん?
 ならさ、その頃の俺からすれば今の秋葉は妹じゃなくて、ずっと年上のお姉さんじゃな
いか。そうじゃない、秋葉お姉ちゃん?」
 そう言いながら、志貴は秋葉ににじり寄る。

 さっきの秋葉の行動は秋葉自身が口にしたように、喪失した絆を求めての行為、別離し
ていた自分との肉体的な交わりの再現を求めてのものだったろう。

 しかし、と志貴は思った。
 しかし、今の秋葉が見ているのは成長した遠野志貴なのか、それとも八年前から時を超
えて現れた幼い頃の遠野志貴なのか。
 後者だとすると、秋葉を愛して結ばれた「八年後の」自分の存在は何なのだろうかと複
雑な思いを抱かなくも無い。でも、秋葉にとっては何ら矛盾する事ではないようだった。
 成長した自分が子供の頃の兄と交わるという異常なシチュエーションに惑溺しているよ
うにすら思えた。
 シエルと同じく秋葉も、幼い少年の姿の志貴に妙な感情を抱いているのを、何とはなく
志貴は感じていた。
 それは何とも理解し難い感情だった。あるいは本来の自己を否定しかねないその事実を
認めたくなかった。

 それじゃ俺は秋葉の兄さんじゃなくて弟みたいじゃないかと、ふと思った。
 秋葉を「お姉ちゃん」と呼んだのは自嘲混じりの何気ない事であったが、そのリアクシ
ョンには驚くようなものがあった。
 体を震わせ、次第に目がとろんとさせる。
 まるで直接体に触れて秋葉の体を愛撫したかのような……。
 今も志貴を見つめる目は酔っているかの様にぽうっとしている。

「秋葉お姉ちゃん?」
 顔を間近に近づけ囁く様に声をかける。
 秋葉は答えない。何かに耐えている様な表情。
 志貴は訝しげに秋葉の顔を見つめ、視線をゆっくりと下へ向ける。

「えっ、秋葉」
 素に戻って志貴が驚きの声を上げる。
 正座を崩したようにぺたんと秋葉は腰を落としていたが、少しだけ開かれた脚の間、陰
になり良くは見えないそこが、……明らかに先ほどよりも濡れていた。
 下の布団に染みが出来るほどしとどに……。
 これは、もしかして?
 そう思ってみれば、とろんとしたような瞳、今の放心した様が志貴には理解できた。

「そうか、弟に悪戯するだけじゃなくて、弟の目の前で一人で軽くイっちゃったんだ。
 何もされてないのに、指一本触れられてないのに、名前呼ばれただけで……。ねえ、秋
葉お姉ちゃん?」
「あ、わ、私……」
 否定の言葉を口に出来ず、秋葉は動揺を露わにして固まってしまう。

「だって」
「だって、何かな」
「夢みたいで……」
「夢って?」
「私、兄さんが有間の家から戻ってくる前から、ずっと兄さんを想って……。
 直接会うことは出来なかったけれど、成長された兄さんの写真を手に入れて、それに一
緒に過ごしていた頃の兄さんの姿を思い浮かべて、その……」

 秋葉の顔が真っ赤に染まっている。語っている言葉に恥かしさを感じているからだと志
貴は推測したが、そんな羞恥心を誘う内容ではないよなとも思う。

「もしも戻って来て下さったらどんなだろう、私を見てどんな事を言って下さるだろうと
か夢想したり、子供の頃の兄さんが現れたらどうしようかとか。そんな事を想いながら、
いつも私……」

 あ、分かった。
 秋葉と同じく、志貴の顔も真っ赤になる。
 今の告白って要するに、秋葉が一人で、その……、致していた時の、ええと、非常に下
世話に言うと……、夜のオカズの話?
 それもその対象が……、自分。うわあ。
 志貴は頭が破裂するのではないかと思った。

「そ、それは、う、ううう」
「わ、私、その、兄さんが私の弟だったらと想像したり……」
「わかった、わかったから、もういい。恥かしくて顔から火が出る」
「はい……」

 頬を染めつつも秋葉はまっすぐに志貴を見つめていた。
 その目がまたうっすらと濡れた様に光っている。
 秋葉が自分の顔を見つめ、そしてその視線が下へ降りるのを志貴は感じた。
 その目が妖しい光を湛えて、問い掛けるように再び志貴の目を射る。
 縮こまっていた志貴のそこはすっかり回復し、前以上に漲り猛っていた。

「兄さん……?」
「そうだな。……ねえ、秋葉お姉ちゃん。どうしたらいいのか、分からないんだ。教えて
くれないかな?
 どうすればいいの? どうすればお姉ちゃんを喜ばせてあげられるの?」
「!!! はい。そうね、教えてあげないと、わからないですよね」
 
「来て……」
 言葉のままに、腕を広げる秋葉の元に志貴は近寄った。
 秋葉の唇が志貴のそれに触れる。
 さっきのように貪るというような激しさは無く、唇だけを擦るようにして、しばらくそ
の感触を互いに味わう。
 秋葉の手が志貴の背に回されぎゅっと力が入れられる。
 それに同期するように唇が開き、秋葉の舌がちろりと志貴の舌を求めて動く。
 志貴もそれに答えて、舌を差し入れる。
 絡めあうような動きとは違う、互いの口腔に潜り舌先で触れ、快楽を与えるような動き。
 しばらくそうしていて、どちらともなく離れる。

「今のがキス。ずいぶん巧いのね、これだけでどうにかなってしまいそう……」
 悪戯っぽく言いながら、まだかろうじて纏っていた襦袢を落とす。
 白い滑らかな肌が露わになる。
 前は恥じていた起伏に乏しい胸をむしろ強調するように、志貴の前に晒す。
 志貴は、うっとりとそれを見つめた。

「小さいけど、凄く綺麗だ。触ってもいい?」
「ええ」
「ふうん、それなりに柔らかくて……」

 志貴の手が秋葉の胸をゆっくりと動いた。
 そっと全体を動かしたり、指を順番に力を入れたりする。
 手の大きさ故か、ぎこちないもどかしさがつのる触り方。
 しかしそれがかえって秋葉の官能を煽る。
 本当に経験の乏しい少年に触られいるかのように感じられて。

「あれ、秋葉お姉ちゃん、先っぽが尖がってきたよ?」
「そこは刺激されて、気持ち良くなると硬くなるの」
「そうか、お姉ちゃん気持ちいいんだ」

 つんと尖ったピンク色の先端に集中して、志貴の指が蠢く。
 果てに、片方の乳首を口に含み、唇と舌とで刺激を与え始めた。

「んん。赤ちゃんみたい」
 自分の乳首を一心に吸っている兄の姿に、秋葉は快楽と笑みを混ぜた表情で見つめる。
 志貴の髪の毛をそっと撫でさする。
 しばらくそうしていた後で志貴はくすぐったそうな顔をして秋葉を見上げ、名残惜しげ
に胸から離れる。
 秋葉は、今まで志貴が口に含んでいた、濡れ光る己の乳首にそっと触れる。

「こっちも、勃っちゃった。強くされると痛いだけだけど、ここは女の子の凄く気持よく
なる処なの」
 教えるような口調に志貴は素直に頷く。

「次は、女の子の一番大事な処……」

 言いながら秋葉は布団に仰向けになり太ももを開いた。
 志貴の視線に、濡れ光る秘裂が露わにされる。
 吸い寄せられる様に志貴は膝を立ててにじり寄り、顔をそこへ近づけた。
 息を呑み、手でそこに触れる。
 谷間に触れるとビクリと秋葉の体が震える。

「駄目。そこは女の子の一番敏感な処なんだから、もっと優しくしてあげないと駄目よ」
 志貴は頷き、そうっとつやつやと光る柔肉に触れた。

「柔らかい……」
 志貴は頭を上げ、自分を見つめる秋葉の目を捉える。

「ねえ、秋葉お姉ちゃん。よくわからないよ。どうなっているのか教えてよ」
「えっ、でも……」
「お姉ちゃんのピンク色で綺麗なここ、僕のと違っててよくわからないんだ。どこをどう
すればいいのか教えてったら」
「そ、そうね。初めてだとわからないわね。いいわ、教えてあげる」

 自分の秘裂を凝視している志貴の姿に、羞恥とぞくぞくするような快感を秋葉は覚えた。
 羞恥心を快楽で消されて、秋葉は上体を起こして、さらに大きく脚を開く。
 そしてためらいなく手を秘裂へさし伸ばし、すでに開き始めている花びらをさらに開花
させる。

「凄い。ピンク色で凄く綺麗だ……」
 感嘆する志貴の声にさらに高まりながら、秋葉は続ける。

「見える? ここの襞の奥が穴の様になっていて、そこに男の人のモノが入るの」
「こんな小さい処に入るの?」
「好きな人のなら大丈夫なようになっているの……」
「あれ、秋葉お姉ちゃん、何かまた濡れてきたよ。これ、何?」
「ここは感じて気持ち良くなってくると、自然に濡れてしまうの。
 ここに男の人を迎えても大丈夫なように、体が準備しているみたいなもの……」
 志貴の指が恐る恐るといった様子で伸び、膣口と濡れ光る襞に触れる。

「僕のと全然違うんだ。僕のお姉ちゃんみたいにこんなの生えてないし」
 片手の動きはそのままに、志貴はもう一方の手で、薄く萌えている茂みをさわさわと撫
でさする。
 摘めばそのままちぎれそうな淡い感触が心地よく感じられる。

「それは、大人になると自然に、生えてくるの」
「そうなのか。ねえ、おちんちんがないけどおしっこはどうするの?」
「この上の方に、ぼつんとした処があるでしょう? そこから、あっ、駄目、そんな処触
っちゃ」
「ごめんなさい」
「そこから出るの。恥かしいから、そんな処に興味を示しちゃ駄目。
 それとね、そのもう少し上の合わせ目のところ……」
「ここ?」
「そう、そこがね、男の人のモノに相当する処なの」
 言って、既に硬く大きくなり包皮から顔を覗きかけたクリトリスを指先でそっと撫でさ
すってみせる。
 志貴の指が伸び、秋葉の指の動きを真似てほとんど力を入れずに触れる。

「そうっとね。ここは女の子の一番敏感な処だから」
「ここも硬くなるんだ……。あ、皮が剥ける」
 包皮を後ろにずらし、剥き出しになったクリトリスに恐々と直接触れる。

「きゃうっっ」
 強い刺激に秋葉が悲鳴にも似た嬌声を上げる。

「あ、ごめん」
「大丈夫……」
「お姉ちゃん……」
 言いながら志貴はそこへ顔を近づけ、舌を差し向けた。
 秋葉は触れるか触れないかというタッチの志貴の指に体を震わせていたが、突然の異質
の感触に感電したようにビクビクと体を痙攣させる。
 上半身が仰け反って後ろに倒れこむ。

 志貴は秋葉の太ももを手で支えて、舌での奉仕を続けた。
 より硬く勃起して舌を押し返すような突起だけでなく、その下をつうっと舌でなぞり、
今までの行為で辺り一体を濡らしている愛液を舐めすすった。
 指の動きも休めずに、ついには膣口から人差し指を挿入してしまう。

「ああ、指一本なのにこんなにきつい」
 前には、ここに入ったんだと思いつつも、その締め付けにこれからここに小さくなった
とはいえ指よりはずっと大きな自分のが本当に入るのか疑問にすら思う。
 しかし危惧と同時に中の熱くぐにゅぐにゅと蠢動する感触に、これが指で無かったらと、
興奮が高まる。
 後から後から新たにトロリと分泌される秘裂を舌で宥めながら、何もされずに放ってお
かれている股間の高まりにもどかしい思いを抱く。
 横たわる秋葉に並ぶように、しかし上下を逆さとして寄り添う。顔は股間に埋めたまま、
自分の下半身を秋葉の顔へと近づける。

 絶え間なく送られる快美の波に酔っていた秋葉は、目の前に現れた志貴のペニスに驚く
事はなかった。
 そっと両手で包む様にして、ゆるゆると摩り撫でた。
 そして先ほどの精臭の残るそれを、差し出された指でも咥えるように、ためらう事なく
口に含んだ。
 名ばかりでない文字通りのお嬢様学校の秋葉であっても、経験はもちろんないものの、
そうした口淫の知識くらいは頭にあった。
 それでも志貴が本来の姿でそうした口での行為を求めたとしたら、即座に従うのは恐れ
と羞恥とで拒んだかもしれない。ただ、今の可愛いといってすらよい志貴のソレが大きく
なり震えている様はどこかそうした拒絶心をまったく感じさせなかった。
 そのやんちゃな様に、微笑ましさすら感じていた。
 愛撫というよりも、唇と舌とで志貴のペニスの存在感を確かめる様に、ゆっくりと口内
の志貴を翻弄する。
 その動きは志貴に蕩けそうな暖かさと快感を与えた。志貴の先触れと溜まった唾液を飲
み込むときの動きで志貴は何度も体を震わせた。

「お姉ちゃん、もういいよ。ここがむずむずして変なんだ。出ちゃいそうだ」

 その危機迫る声に、秋葉は名残惜しげに志貴を解放した。
 秋葉の口から、唾液で濡れ光ったペニスが現れ、つうっと糸を引く。
 このまま口の中で志貴の迸りを受け止めたい気持ちもあったが、先ほどの暴発もあり、
秋葉は今度こそは自分の中に志貴を迎えたかった。
 なにより、もう秋葉自身が舌と指だけでは我慢できなかった。

「ここに、お姉ちゃんのここに入れて」
 秋葉は両手で秘裂をくつろげ、さらに奥の方までもを剥き出しにして志貴を誘う。

「うん……」
 からからに喉をからして、志貴は秋葉に重なっていった。
 片手で反り返ったペニスを押さえ、秋葉の中心へ近づける。

「落ち着いて。慌てなくていいから」
 志貴が秋葉に触れる。
 それだけで二人とも身を震わせる。

「お姉ちゃん、貰って、僕の……」
「嬉しい。私、兄さんの初めてを……」
 感極まって、軽い絶頂に言葉を途切れさせる。

「凄い、何か絡み付いて、気持ちいいよ、秋葉」
 志貴の声に喜びを感じつつも、秋葉は僅かに身を強張らせていた。
 大きさは違えど、経験の浅さからの恐れは残っているし、実際に挿入には痛みが伴う。
 一方の志貴は先の口での愛撫とはまた次元の異なった快感の中にあった。
 きつ過ぎるわけではないが、ぎゅっと手でつかまれてでもいる様に、入るそばから柔肉
に包まれ周りから擦られ嬲られる。
 このまま全部呑み込まれるのではないかという底なしの快感の中で、一旦身を引こうと
して、より強く締め付けられる。
 まるで、ようやく迎え入れた志貴を離したくないとでも言うような秋葉の動き。

「あ、あれ」

 一度高波をやり過ごそうとして、堪えきれず志貴はそのまま流されてしまった。

「駄目だ」

 抗いようも無く、ほとんど挿入しただけの段階で志貴は秋葉の中に放ってしまった。
 言葉に出来ない絶頂の中、ペニスごと秋葉の中に融けてしまうような快感に浸りながら
も、自分だけという恥かしさとすまなさを感じた。

「ごめん、秋葉。また俺だけ……」
 素に返って秋葉に謝る。
 まともに顔が見れなかった。
 だが、秋葉の手が優しく志貴の頭を撫でた。

「初めてだもの仕方ないわ。それにお姉ちゃんの中で気持よくなってくれたんでしょ? 
凄く嬉しい……」
 志貴が顔を上げると秋葉は慈愛に満ちた顔で微笑んでいた。
 中途半端で中断させられた事より、志貴が我慢できないほど高まり、己の中で果てた事
にうっとりしている様子だった。
 本当に自分が子供でずっと成熟した姉に抱かれているような錯覚を志貴は覚えた。

「それに、もう終わりじゃないみたいだけど?」
 悪戯っぽく秋葉は笑う。
 あれだけ精を放ったにも関わらず、秋葉の柔肉に包まれたまだった志貴は、再び中で大
きく回復していた。

 秋葉に頷き、志貴は動き始めた。
 ゆっくりと腰を動かしゆっくりと奥へと入り、また抜ける寸前まで戻る。
 激しさはなかったが、それだけでまたすぐに達してしまいそうになるほど気持よかった。
 秋葉も志貴の背に手を回して、志貴の動きの一つ一つを味わうようにしている。
 時折、耐え切れぬ様に、声を洩らす。

 志貴は全神経を「秋葉を喜ばせる」という一点に傾けていた。
 秋葉が感じ、喘ぎ、顔を振り、身を強張らせ、また悶える様をうっとりと見つめていた。

「遠野くんが秋葉さんに会えないという不安は、遠野くんがこの身体になって《男》にな
れないという不安からなんですよ……」

 そう言われてシエル先輩に強引に初めてを奪われてしまった訳だけど、その言葉は真実
の様だった。

 自分のこの体で秋葉を感じさせている、という事実に言葉では言い表せない喜びを感じ
た。
 単純な前後運動から、強弱をつけて、また緩やかに円を描くように、小刻みに、緩急を
つけてと変化させる度に、過敏に秋葉が反応する。それを目にするのは、それに伴う自分
自身の肉体の快感以上に、喜びが大きかった。

「あああ、もう駄目です。兄さん……、来て、お願い。一緒に、一緒に」

 息も絶え絶えな秋葉の懇願に、それだけで心が満たされつつも、肉体を同調させる。
 志貴自身もとっくの昔に限界点を超えかかっていた。
 少しでも気を抜けばそのまま達してしまいそうになるのをどうにか堪えていたのは、さ
すがに既に2回放出していたのと、とにかく秋葉を、という思い故であった。
 ぐっと深く深く挿入し、密着したままの状態で小刻みに腰を動かす。
 根本から密着し体を合わせた処から、秋葉からあふれ出たものが水気を帯びた音を立てる。
 互いに、抱きしめあい、時に口づけを交わす。

 秋葉が泣きそうな顔で志貴を見つめる。
 志貴も限界ぎりぎりで体を強張らせる。
  
「秋葉、あき、は」
「にいさん、ああっ、だめ、もう……」

 互いの名を呼びあい、体をしっかりと抱きしめあう。
 最後に志貴は腰を引きぎりぎりまで狭路を後ずさり、そして秋葉の奥深くにペニスを打
ちつけた。
 体の中の全てが空になるような勢いで志貴が放出を遂げたのと同時に、秋葉も正気を失
うほどの高みの極地に辿り着く。

 一人では耐えられない波にさらわれぬ様、堅く抱き合ったまま、二人は死んだように動
けなくなった。
 満ち足りた想いで言葉なく二人で目を合わせる。
 言葉は今の二人には不要だった……。



                  §     §     §


 一糸纏わぬ姿のまま二人で寄り添い、明かりを落とした暗がりの中、互いの体温と吐息
のみを感じている。
 長い沈黙を破って、志貴がぽつりと呟く。

「元に戻れないかもしれない……。そうしたら、秋葉はどうする?」
「おかしな事をおっしゃいますね、兄さん。戻れますよ」
「……何でそんな自信満々に言い切れるんだ? シエル先輩だって……」
 こんな場で他の女の名を出しちゃ駄目ですと言う様に、人差し指で志貴の口をちょんと
突付く。

「だって、別にずっとその姿という訳ではないんでしょう? なら、八年待てば、兄さん
は戻って来て下さるじゃないですか」
「……。まあ、そうだけど」
 かさりという音。
 志貴は胸の辺りに秋葉の頭の重みを感じた。
「兄さんと引き離されて、それでも私はずっとずっと八年間、兄さんの事を想い続けてい
たんです。ずっと顔も見ることが出来ずに我慢していたんですよ? それに比べたら、ど
んな姿でも兄さんが傍にいて下さるなら、私は喜んで待ちます。
 いえ、その姿で共に暮らして、兄さんと引き離されていた歳月を埋められるのなら……、
むしろ秋葉は凄く幸せです」
 どこかうっとりとしたようにも聞こえる甘い声。

「それとも……」
 秋葉が身を起こす。
 暗くとも見える間近に秋葉の顔が近づく。
 真剣な表情。僅かに不安げな色が志貴に見て取れる。

「こんな年上の妹なんかお嫌ですか? このままいくと兄さんが元の年になる頃には私は
25,6くらいになってしまいますし……」
「馬鹿言うな。俺だって秋葉がどんな姿だってかまわないよ」
「それでは、兄さんが追いついてくれるのをずっと待ちますから、兄さんは何も心配なん
かなさらなくていいんです」
「そうか……」
 少し潤んできた目を見られないように、志貴は秋葉の胸に顔を寄せてぎゅっと抱きしめ
た。あるかなしかの胸の奥のとくんとくんという心音が聞こえる。
 秋葉は幼子をあやす様にそっと、志貴の髪を梳いた。

「だから、兄さん、もう一人で何処にも行かないで下さいね。
 いえ、もう離しませんからね。どんなに兄さんが逃げようとしたって」
「うん……」
 胸に顔を埋めたまま、志貴は言った。

「そういえば、まだ言ってなかったな」
「何をです?」

 精いっぱいの想いを込めて志貴は言葉を口にした。
 二度と顔を会わせる事すら出来ないとまで思いつめたのだ、この何にもまして大切な少
女に。
 でも、俺は帰って来た。
 この少女のもとへ。
 愛する秋葉のもとへ。

「ただいま」

 数瞬、沈黙があり、ゆっくりと秋葉は口を開いた。
 志貴の短くそれでいて万感の想いを込めた言葉に対して、同じくありふれた短い言葉を
返す。
 幾つもの感情と言葉を託して。
 志貴が初めて聞くような響きの声。
 このうえなく優しく、そして微かに涙の混じった秋葉の声。
 
「お帰りなさい……、兄さん」



  《FIN》





―――あとがき
 ごめんなさい、阿羅本さん、ごめんなさい。

 あまりにツボでした、「Curatio vulneris gravior vulnere saepe fuit.」は。
 年上のお姉さんと男の子って組合せは防御不能なんです。
 続きみたいよーとか思いつつ、何とはなく秋葉で妄想を膨らませていたら、こーいう形
にまとまってしまいました。
 しかし、何故に秋葉はこうも書き易いのだろう。シエル先輩と比べて何たる違い。
 
 あと、これは続編等という大それたものではありませんから、念の為。あくまで私個人
の手慰みです。
 私だって阿羅本さん本人の翡翠琥珀とのショタ志貴タナトスが見たくて仕方ないんです
から。秋葉編も。 しかし、これほど素晴らしいシチュエーションをお借りして、この程
度しか出来なくて悔しいです。もっとメロメロ秋葉で煩悩全開を書く技量があれば……。

 タイトルですが、それらしいのを引用し、反語的に使ってみました。「歳月は無慈悲な
れども、朽ちず滅びぬものもある……」とでも言いますか。

 しかし、いいのかな、本当に。了解頂いたとは言え、こんなの晒してしまって……。

  by しにを  (2001/12/24)




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