仰せのままに

 作:しにを


  「兄さん、お願いがあるんですけど」 「うん?」  秋葉が顔を赤らめつつ志貴に切り出したのは、二人合わせて十数回に及ぶ絶 頂を迎え、さすがに疲れて共に褥に伏していた時の事だった。  疲れてとは言っても、その気だるさはむしろ心地よく、愛する者と重なり体 温も鼓動も一つに混ざって余韻に浸るのは、激しく交わる行為にも負けぬほど 二人を結び付け、幸せを感じさせていた。 「なんだい、秋葉?」 「その……」  自分から話し掛けていながら口ごもる妹を訝しげに見ながらも、志貴は優し く次の言葉を待っていた。  その恥ずかしそうな表情を眺めているのも、志貴には何とも言えない喜びを 感じさせていた。 「兄さんは、私に優しくしてくれますよね」 「うーん、そうかな?」 「はい。今だって、頭の先から足のつま先まで蕩けるように可愛がってくれま した。  髪の一本一本まで感じてしまって、私、幸せで死んでしまいそうです」 「うん……」  突然の秋葉の告白に、志貴は赤面していた。 「でも、その……、こんな事言ったら罰が当たるかもしれませんけど」 「何か不満があるの?」 「不満なんて……。でも、最近の兄さんって私の事優しくしてくれるばかりだ なって、思って」 「え?」  志貴はあっけに取られて秋葉を見つめる。  当然であった。  兄さんはちっとも私の事、優しくしてくれないんですから。  そんな風に口を尖らせて言われるのならまだ志貴にも理解できる。  でも、優しくして何故に文句を?   「あ、違うんです。兄さんに文句を言いたい訳ではないんです」  兄のぽかんとした様子に、秋葉は慌てて先回りした否定をする。 「ただ、前はいろいろとしてくれたじゃないですか。  最近は、優しくして、私の嫌がるような事は何一つしないで、まるで壊れ物 の人形でも扱うみたいに甘く優しくして……、でも、そればかりで」 「ああ、そういう事か。  秋葉の笑顔とか、蕩けそうになっている顔が凄く可愛くて、マンネリだった かな?」 「誤解しないで下さい、秋葉はそれで幸せなんです。でも……」 「言ってごらん。どうして欲しいの、秋葉は?」 「その……、ええと……、苛めて欲しいんです」  口ごもった挙句、秋葉は小さく叫んだ。  その言葉に、志貴は声も無くのけぞり、愛する少女をまじまじと見つめた。  秋葉も自分が言った言葉に、凍り付いてしまう。  いつの間にか二人とも体を起こして向かい合っていた。 「……それって、ムチとか蝋燭とか、荒縄で縛って吊るしてみたりとかのSM っぽいの試したいとか言っているのかな、もしかして秋葉は」  濃厚な沈黙の時をようやく志貴の声が破った。  微かに言葉が震えている。 「秋葉がどうしてもと言うなら考えなくはないけど、その……、やっぱり……」 「違います、そこまでは私だって望んでいません」  慌てて秋葉が真っ赤になって、ぶんぶんと首を左右に振る。  目に見えて志貴は安堵の表情を浮かべる。  しかし、それに秋葉は気づかず、とにかく何か言わねばと、言葉を続けた。 「私が言いたいのはですね、その……、前は兄さんは、私が嫌だといってもず っと恥ずかしい格好をさせてみたり、お尻の穴ばかり弄って私を泣かせたり、 お風呂で指で広げさせておしっこさせるのを見たり、口の中に出してずっと飲 み込むのを許さないで過ごさせたり、下着をつけずに琥珀達のいる処に連れて 行ったり、ねちねちと私がどんなに恥ずかしいえっちな女の子か泣きながら告 白するまで言葉で嬲ってみたり、贈り物だよって言って綺麗なリボンで私のク リトリスを剥き出しにして縛ってみたり、お散歩だって言って裸のまま廊下を 歩かせたり、良く見えないなとか言って剃ってしまったり、自分で開いて奥の 方まで覗かせてクリトリスも全部剥いておねだりするまで入れてくれなかった り、ぽたぽた中から床へこぼれ落ちたのを舐め取らされたり、それから……」  特にわざわざ思い出す様子も見せないのに、秋葉の口からとめどなく言葉が 流れ出てくる。  それに比例して、志貴はだらだらと冷や汗を流す。 「そんなに酷いことしてた……、よな。うん、全部憶えがある」 「あの、兄さんを責めている訳ではないんです。その時は恥ずかしくて死にそ うだったり、兄さんを恨んで涙ぐんだりしていますけど、感じてしまっている のも確かですし……。  それに兄さんもそういう事なさるのお好きですよね?」 「否定しないよ。確かに俺は秋葉の泣き顔見てもぞくぞくする。最近はご無沙 汰しているけど」  そこで、なるほどと志貴は頷いた。 「そういう事か。秋葉もそういうのも嫌いでない訳だな。それで」 「はい」 「いきなり苛めて欲しいとか言い出すから何かと思った」 「それは、どう言っていいかわからなくて」 「ふーん、でも苛められて驚くほど感じちゃう秋葉を何度も見てるしなあ。  本質的に秋葉はそういう方が好きなのかもしれないな」 「そんな事は……あるかもしれないけど、ありません」  志貴はちょっと考えるように、まだ裸のままの秋葉の体を見つめた。  ちょっと秋葉が不安になるほど長く沈黙したまま。 「兄さん?」 「うん。まあ、少し趣向を変えてみようってのは賛成だ。  今度秋葉とする時には、今まで感じたことの無いほど悦ばせてあげる」 「あの……、痛い事とか、行き過ぎた事をしたりするのは嫌ですから」 「もちろんだよ、秋葉にそんな酷い事はしないさ。  そういうのは無しにして秋葉を苛めてあげるよ。それでも秋葉が悦んで、そ して涙を流すようなのをね」  何か心中で期する表情で、志貴は秋葉を見つめながら言った。  少し、秋葉はその眼に不安を覚えたが、志貴の言葉はいつものように優しく その後に抱擁を受けた事で、表面化する前に霧散した。  いつ、兄さんは…して、くれるのかしら……?  そんな事を思っていた秋葉であったが、それ以来志貴は優しくであれ苛める であれ、秋葉を求めなかった。  当然毎朝毎夜顔を合わせ、普段通りの生活を送っている。  しかし、たまたま持てた二人の時間にも、闇の帳が下りた互いの部屋を行き 来しても見咎められない夜にも、志貴は秋葉との交歓の時を持とうとはしなか った。  自分からしないだけではなく、秋葉からそれとなく、あるいは露骨に誘いを かけてもやんわりと断り、秋葉から離れて行ってしまう。  秋葉には不可解だった。  何か兄に嫌われる事でもしただろうか、と考えても思い当たる節は無い。  それに、秋葉に接する態度やその眼差し自体は、これまで同様優しく、時に 甘すぎるくらいだった。   あくまで秋葉と口づけし、秋葉をその手に抱き締め、秋葉と体を重ねるのを 拒んでいるだけだった。  浮気でもしているのだろうか。  そんな事を本気ではないが疑ってもみた。  翡翠や琥珀に手を出しているのでは、と陰に陽に視線を送り、見極めようと したが、そんな素振りはまるで無い。  志貴の目にも何ら疚しい色は見えず、却って疑いを持った自分の方が後ろめ たくなる始末。  でも、と不思議になる。  兄さんは……、したくならないのかしら?  そんな事をちらりと思って秋葉は赤面した。  標準の男性の頻度などには大して興味が無かったが、志貴が自分と交わる頻 度や回数は常人を超えているのではないか、とひそかに秋葉は考えていた。  同じ屋根の下で暮らし、毎日顔を合わせ、琥珀や翡翠の眼を多少気にするに しても少々無理をすれば幾らでも密会の機会を持てるから、当然だろうとは思 うが、それでも多い気がする。  それは秋葉にとって諸手を上げて賛意を示すべき事で、何一つ文句は無いし 志貴にしても決して無理をしているのではなく、自分の欲望に忠実なだけとも 言えた。  だからこそ不思議なのだ。  その志貴が完全に性的な面での禁欲を続けている、これは首を捻りたくなる 事だった。  そんな前提条件があれば、志貴に自分以外の女性がいるのではと考えるのは 秋葉にとって不自然な事ではなかった。  志貴を信頼しているしていないではなく、物理現象に対しての洞察、あるい は論理的思考の賜物であったから。  常人を遥かに超えた性欲過多な超絶倫人が果たして、平気な顔で禁欲生活を 送れるのか、否か?  堂々巡りのように志貴を疑い、信じ、またおかしく思う。  その答えの得られぬ疑問は、秋葉を少しばかり正常でない方向へと行動させた。    志貴の部屋のドアが開いている。  きちんと締めていなかったのだろうか。  本当にわずかに、締め切らずにドアが止まっていた。  秋葉は何の気なしにその隙間に近づき、覗き込んだ。 「えっ? 兄さん……」  小さく洩れそうになった声を、慌てて手で押さえて消し去った。  異様な雰囲気、異様な光景。  ベッドの上で、志貴は胡座をかくようにして背を丸めていた。  傍らには脱いだジーンズ。  そして、志貴はトランクスを下ろして、下半身を剥き出しにしていて。  なおかつ、その志貴のペニスは志貴が性的興奮にある事を、間違いようが無 く示している。  ドキドキしながら秋葉が見守る中、志貴の手がその反り返ったものを自ら擦 りしごいていた。  見るのは初めてだが、それがいかなる行為であるかは、秋葉も知らない訳で はなかった。  赤面し、しかしそれから目が離せなくなった。  兄さん、なんで、なんでそんな事を……。  その光景に魅入られた妹の存在を知らず、志貴は忘我の面持ちで自慰行為を 止める事無く続けている。   「ああ、秋葉、秋葉……」  自分の名が呟かれたのに、眼を見開く秋葉。  思わず飛び出しそうになった時。  志貴は、絶頂に到った。  あらかじめ用意したティッシュを出る瞬間にペニスの先にあてがったように 秋葉には見えた。  しかし、その勢いは志貴自身の予想すら超えたようで、ティッシュから弾け るように何かが飛び散り、志貴の脚を、布団を濡らした。 「あーあ」  志貴は今のティッシュを新しい数枚のティッシュで包むようにしてゴミ箱に 投じて、慌てて新しいティッシュで飛び散った白濁液を拭った。 「あんなに、いっぱい……」  最後に志貴は自分の手を何度も丹念に拭った。  だが、右手を疑わしい目で見つめ、匂いを嗅ぐ。 「手、洗ってきた方がいいな」  ぼそりと呟き、パンツを上げ、脱ぎ捨てたジーンズを手に取る。  秋葉は慌ててそこから離れ、そのまま自分の部屋に退散しかけて……立ち止 まった。  そして素早く物陰に身を潜める。  何をしているんだろう、私?  意識しない行動。  いや、意識したくない行動。  何をすればいいのかわかっている。  志貴が部屋から出て、洗面所へ向かうのを確認し、何の躊躇も無く兄の私室 へ忍び込んだのだから。 「何をしているんだろう、私?」  今度は口に出して呟く。   しかし次の瞬間には、その疑問符を湛えた顔は陶然とした表情に変わる。  精臭。  性臭。  オトコの匂い。  馴染みある兄の、自分の心を乱すニオイ。  しばらく触れていなかっただけに、自然と秋葉の中のオンナがそれを必要以 上に感知してしまう。 「兄さんの匂い……」  うっとりとした秋葉の声。  そして体は引き寄せられるようにベッドに、いやベッドの傍に置いてあるゴ ミ箱に向かう。  スチール製の丸い筒状のシンプルなゴミ箱。  覗き込むと、丸めたティッシュが幾つも放り込んである。  そして、くらくらするような精臭。 「こんなの入れておいていいのかしら」  翡翠か琥珀が掃除にきて毎日空にしている筈だが、こんなに濃厚な……。  乾くと匂いも少しは消えてしまうのだろうか?  それにしても……。  そんな事を考えながら、秋葉の眼はそこから離れなかった。  ごくりと生唾を呑み込む。口元を笑みで崩しつつ、手を突っ込む。  そして。  そして、慌てて飛び退いた。 「何をしようとしたの、私?」  戸惑った声。  信じられない目で自分の右手を見つめる。  まるで自分の意志に反して、勝手にその手が動いたとでも言うように。 「早く、戻らないと。兄さんだっていつ戻って来るか……」  下に行ったついでに、琥珀か翡翠と話でもしているかもしれない。  手だけでなく、さっとシャワーを浴びて体を清めているかもしれない。  あるいはふらりと外へ出かけたかもしれない。  でも、手だけを洗ってさっさと部屋へ戻って来るとすれば、もう現れても不 思議ではない。  だから、はやくここからとりあえず出て……。  それなのに、再度ゴミ箱を覗いている。  何をしているの。  自分に対し叱責交じりの声で問う。  でも、答えは訊くまでもなく、最初からわかっている。  全部消えたら兄さんもおかしいと思うかもしれないけど、少しくらいなら。  ……。  何が、少しくらいなの?  ダメよ。  ダメったら、ダメ。  何をするか知らないけど、そんな恥知らずな真似はダメ。  これね、兄さんのを受け止めた一番びしょびしょなの。  もっと紙で包まないと。  さあ、早く戻らないと。  何?  今、私は何をしたの?  この手の中に大事に持っているものは何?  十五分後。  秋葉は絶望的な顔で、泣いていた。  惨めだと、心から泣いていた。  自分がどうしようもない汚れた人間だと、心中で罵倒していた。  ベッドの上。  ほぼ裸のあられもない姿。  辺りには慌てて脱ぎ捨てた衣服と下着が散乱している。  胸、腹、脚、いたる処がぬめぬめとした粘液を塗られた跡を留めている。  股間はしとどに濡れ、まだ充血し開いたままの花弁は、自らの露液だけでな く、何故か青臭い白い粘液を塗れさせている。  手には小さくなった紙の塊を握っている。  それは唾液に塗れてびちゃびちゃになっており、秋葉の形の良い唇にその紙 の小さな破片が貼り付いていた。  そして体はぴくぴくと痙攣しているように動き、明らかな愉悦の跡を残して いた。 「兄さんが、兄さんが悪いのよ。  だから、私、こんな惨めな恥ずかしい真似を……」  呟き、また秋葉はすすり泣いた。       もう、あんな真似はしない。  そう自分に硬く誓った秋葉であった。  だが、さらに数日経ち、かれこれ2週間も何も無い日々が続いていた。  何度か志貴の部屋の部屋をそっと覗いた。  しかしそれは当主として、何の不自由もないか判断する為だ。  翡翠や琥珀が志貴の部屋の掃除をし、ゴミ箱を持って出てきたのをじっと見 守った事もあった。  しかしそれは二人の仕事振りを主人として評価していただけだ。  志貴が何やらいそいそと部屋にこもり、いつもなら開け放しの扉に鍵を掛け ているのをじっと飢えたように外をうろうろして眺めた。  しかしそれは妹として兄の行動を気遣っていただけだ。  では、夜刻に志貴が居間へとやって来て琥珀にお茶を求めた時、志貴の体か ら恋い焦がれたものの匂いを鋭敏に感じて、秋葉が立ち上がって階段を不自然 でない程度に駆け上がったのは、何だったろう?    震えて志貴の部屋の扉のノブを手にしたのは、何だったろう?  部屋に滑るのように入り、ベッドに駆け寄ったのは、何だったろう?  明らかな残臭に胸をときめかせ、躊躇う事無くゴミ箱に手を突っ込んだのは 何だったろう?  夢にまで見たそれを手にして、満面の笑みを浮かべながら、意気揚揚と自室 へ戻ろうとしたのは、何だったろう?    そして……。  しかし、秋葉が何を考えていたにせよ、彼女の想像外の事態でその思惑は破 れた。  秋葉の部屋の前に志貴が立っていた。 「どうしたんだ、秋葉?」 「兄さん、なんで……」 「うん? 俺が降りていったら突然形相を変えて出て行ったからさ、どうした のかと思って。部屋かと思ったんだけど、何処にいたんだ?」 「え……」  さあっと秋葉の顔は蒼褪めた。  とっさに手にしたものは後ろ手に隠したものの、パニックになっていて頭が 全然働かない。  こうしている間にも、紙で包む手間すら惜しんだティッシュは中から濃厚な 粘液が染み出し、秋葉の手を濡らし続けている。 「答えられないの?」 「その……」 「まあ、いいや。じゃあさ、その手に持ってるのは何か見せてよ」 「ダ、ダメです」 「なんで?」 「それは……」  ダラダラと秋葉の額が冷や汗を浮かべる。 「に、兄さんには関係の無い事です」  強気、というカードを引き出して、精いっぱい虚勢を張る。  しかし志貴は驚いた顔もしない。 「そうかな。自分の後始末したティシュ屑なんか持っていかれたら、それをど うするのか訊ねる権利くらいはあると思うけど?」  明日は晴れるかな?  そんな他愛の無い質問のような軽い調子だった。  しかし、志貴のその言葉で秋葉は足元が崩れ去ったような衝撃を受け、事実 膝を力なくカクンと折り、床に崩れた。  慌てて志貴は秋葉を支えた。 「おい、大丈夫か、秋葉」 「……」  秋葉はそれが何者かわからないかのようにじっと志貴を見つめ、そして急に 火のついたように泣き出した。  かろうじて「ごめんなさい」と「違うんです、ただ」という言葉が聞き取れ る他はほとんど意味のなさない声で、それでも泣きながら切々と志貴に何かを 弁明し、訴えかける。  志貴はうろたえ、秋葉を抱きかかえるように立たせると、秋葉の部屋に入り 扉を閉めた。 「知っていたんですか?」 「ああ、まさかそこまでやると思わなかったけど」  志貴が必死に秋葉を宥め、ようやく秋葉が落ち着き会話が成立するまで、か なりの時間と労力が費やされた。 「あれは偶然だったけど、秋葉が覗いているのに気づいてどうしようかと思っ たよ。結局、そのまま最後までしちゃったけど。  そもそも秋葉の事考えてしてたから、余計興奮させられたし……」  秋葉は呆然として志貴の告白を聞いていた。 「それから、わざと部屋から出てみたら、思ったとおり秋葉がこっそり部屋に 忍び込んできて、じゃあ秋葉が何か始めたら現場を押さえてそれから……とか 思っていたら、手にティッシュ握って凄い勢いで自分の部屋に戻っていっただ ろ? 追いかけようかなと思ったけど、それなら時間を置いてもっとじらした 方が楽しいかなって考え直したんだ」 「じらすって、何ですか?」  志貴の行為を覗っていた筈の自分の存在が知られていて、なおかつその後の 事までなんだか志貴の掌の上だったらしい。  秋葉は驚いてほとんど口を挟めなかった。 「まだ秋葉に手を出さなかったら、また秋葉が俺の部屋を探る真似するかなっ て思ってね。でも隙を見せないでしばらく過ごして、それでチャンスを与えた らきっと、それを逃さないだろうって思ったんだよ。  さっき秋葉が俺を見て、浮かべた会心の笑みったらなかったな」 「何が楽しくて、そんな真似をしたんです」  どれだけ自分が欲求不満になって、その挙句に人として恥ずかしい真似をし て、惨めさに泣いて、でもまた罪を犯そうとして……。  あるいは逃避行動かもしれなかったが、秋葉の心に怒りが湧いてきた。 「何言っているんだ、秋葉が望んだんだろ?」  しかし、妹の言葉に志貴はさも心外だという顔であっさりと答えた。  秋葉のテンションが急落し、当惑した顔で兄を見つめる。 「私が?」 「ああ、そうだよ。秋葉に苛めてくれってお願いされて、それで俺は今まで感 じたことの無いほど悦ばせてあげるって約束したろう?」 「はい、それはそうですけど……。兄さんは何もしてくれなかったじゃないで すか。私が誘っても断って、もうずっと……」 「だから、これが秋葉のお願いに対する俺の応え方なんだよ」 「……わかりません」  志貴は、秋葉を優しく見て説明を始めた。   「前に何かで読んだ事があってさ、求められるままに素直に苛めてあげるのは 本当は正しくないって。サディストは必ずしもムチで叩いたり、縛ったりとか してれば良い訳ではないんだってさ」 「なんでです?」 「うん、それでは相手を簡単に悦ばせてしまうだろ? 叩いてとか、苛めて下 さいって泣きながら懇願するのを、笑ってみているのがある意味でサディスト の真髄なんだって。それからおもむろに行為を始めると尋常でない愉悦を云々 ってあって、少し興味を引いたんだ」  志貴は秋葉を見てにやっと笑う。 「秋葉をぶったりはしないけど、せっかく自分から苛めて欲しいなんてお願い されたんだから、承諾してずっと手を出さずにいたら面白いだろうなって」 「それで、全然私のことかまってくれなかったんですか?」 「ああ、ちゃんと苛めただろ。言っておくけど、俺も辛かったよ。何度も秋葉 に触れたくておかしくなりそうになったし、秋葉も凄く可愛く俺のこと誘惑し て来るしさ……。  何やってるんだろうと思いながら、自分で処理したりしたんだから。  まさか、それを秋葉が持ってって使うとは想像もしなかったけど……」 「だって、兄さんが恋しくて」 「その時どうだった?」 「その時って?」 「自分の部屋で一人でしたんだろ?  気持ち良かった?」 「……はい。あんなにめちゃくちゃに感じたの初めてで、でもその後に死にた くなるほど惨めで……」  なるほど、と志貴は頷く。そして、身を乗り出して秋葉の唇を奪った。  驚愕の表情で、それでも大人しくしばらくぶりの兄の唇に秋葉は震えた。  キスだけでこんなに痺れてしまっている……。  そう思いながら、その感触に酔う。 「ああ、久々の秋葉はいいな」  志貴も感に耐えぬ表情で呟く。  そして悪戯っぽく秋葉を見つめる。 「なあ、秋葉。こんな状態でしたら、どれだけ凄いと思う?」 「想像もできません」 「確かめようよ」 「でも、もういいのですか。今度は途中で私を放り出したり……」 「しないって。ちゃんと秋葉を最後までしてあげる。今まで味わったことのな い程、悦ばせてあげるよ」 「はい、兄さん」  今度はもっと激しく唇を合わせ、志貴はゆっくりとそのまま秋葉の体を押し 倒した。  ・  ・  ・    汗と、固形化するような濃厚な淫気に塗れ、二人は抱き合い倒れてた。  幾分か疲れが見えるが、二人の表情はその姿には似合わぬほど清々しい。 「でも、おかげで久々にして、凄く良かっただろ?」 「体中が気持ち良くて死んじゃうかと思いました。まだぴりぴりしてて……」 「俺もだよ。毎日はしないで、少し間を置くのもいいかもしれないなあ」 「そうですね……、あ、でも今回みたいに苛められるのはもう嫌です」 「うん、あんなに我慢するのはもう止めよう。それよりもさ……」 「はい……。もっと……」  どちらともなく体が近づき、また二人の体が重なった。  また新たにシーツの海が荒れ、吐息と喘ぎ声と水音が溢れ出した。  これまでの空白を埋めるが如く。  飽く事無く。  ずっと……。    《了》 ―――あとがき  秋葉の誕生日記念SS……、にするにはあんまりなので、冠無しです。    秋葉の願いを叶える志貴、とか書くとハートフルなお話っぽいのに。  自分的には18禁ではないつもりなのですが、どの辺がボーダーなのだろう?  かといって一般向けかと言うと、なんとも。    ちなみに、仮タイトルは「兄さんの精液を欲しがる妹の物語」でした。  ……秋葉はこうだよと洗脳した阿羅本さんが、全て悪いんだと思います(笑  なんと言うか普通の方の秋葉イメージの範疇超えている気がしますね。  それに、ある意味陵辱系のお話より秋葉を汚している気もしますが、その辺 は秋葉至上派の人から見ると、有罪判決なんだろう……、だろうなあ。  お読みいただき……、ごめんね、品の無いお話で。  お誕生日、おめでとう。秋葉(笑   by しにを(2002/9/22)  
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