清冽な奔流

 作:しにを


 暗い。  最初に感じたのはそんな事。  まだ半ばまどろんでいる秋葉は、自分の身に起こったことを認識していなかった。  何故腕が動かないのだろうとか、目覚めの良い自分がどうしてこうもぼんやりとしてい るのだろうとか、そもそもここは何処なのだろうとか。  異状を異状と認知できず、そんな当たり前の疑問が形にならない。  頭にも闇が降りたような様に。  目を開けているのに……、暗い……。  そんなぼんやりとした思いのみが虚っている。  コツコツという音がした。  微かな響きが近づいて来る。  そう知覚はするものの認識はしない。  何か……、変……。  頭が働かない……。 「秋葉さま、秋葉さま」  ああ、知っている声だ。  誰だったか、良く知っている人。  誰だったかしら? 「ちょっと効きすぎちゃったかしら?」 「姉さん、大丈夫なの? 秋葉さまのご様子、どう見ても変だけど……」 「うーん、これくらい平気のはずだけど」  そうだ、琥珀と……、翡翠だ。思い出した。  ……? そうだったかしら、そんな名だっただろうか?  どうもはっきりとわからない。  でも、何をしてるんだろう。 「秋葉さま。ちょっと失礼しますね。  顎に手が当てられ、ちょっと上を向かされる。  唇に何か柔らかいものが覆い、濡れた何かが口の中に入ってきた。  秋葉の舌をかすめるようには動き、次いでトロリとした液体が口の中を満たす。  唇からそれが離れ、秋葉は口腔に残った液体を反射的に飲み下した。 「姉さん、今のは?」 「お目覚め用のお薬が半分」 「……残りの半分は?」 「うふふ」  喉と胃がポカポカとして来る。  そして真っ暗だった頭に少しだけ光が射す。  ・  ・  ・  !  何、これ……。  目を開けているのに真っ暗で何も見えない。  暗いというより、何かが目を覆っている?  顔に手をやろうとして、手を上に伸ばしたままほとんど身動きが出来ない事に気が付く。  体自体も重く間延びした動きをしている。  それでも緩慢に手を下ろそうとして動きが止められる。  手首に何か嵌まっていて、カチャカチャという音がする。  何なの、これ。  拘束されているという事実にパニックになりかけ、すぐ傍に自分の使用人の姉妹がいる 事に気が付く。 「琥珀、翡翠、これは何? どういう事なの?」  声を出すのも普段使わない筋肉を使うようにぎこちない。 「あっ、お気づきになられましたね。秋葉さま、おはようございます。ってまだ朝という には早すぎますけど」  いつもと変らぬ琥珀の声。  まるで普通に寝室で目覚めを迎えたかのような言葉。 「何を言っているの。これを何とかして。いったいどうしたの」 「ええと、秋葉さま。申し訳ございませんが、ちょっとその不自由な状態で我慢なさって 下さい。今、拘束を解いちゃうと、せっかくの私と翡翠ちゃんの苦労が台無しですから」  琥珀の言葉を消化する為に数秒を要した。  あたまがぼんやりする……。なんでこうも思考がまとまらないのかしら……。  秋葉が黙り込んでいる間、琥珀は秋葉に言うとも無く言葉を続ける。 「むやみやたらと叫んだりなさらなくて良かったです。一応、ボールギャグとか、楽しい ものもいろいろ用意してきたんですが、ちょっとお顔に痕が残るのもまずいですし」  ボールギャグって何かしら、という疑問が起こったが無視して、秋葉は口を開いた。 「教えて、琥珀。今、私は貴方達にこういう身動き取れない状態にされているのね」 「はい、秋葉さま」 「ここは何処? 私の部屋ではないわね」 「はい、秋葉さま。さすがに秋葉さまのお部屋を使う訳にはいきませんので、地下のお部 屋にお運びしました」  地下室? 少しひやりとした空気を感じていたが……。 「で、何をするつもり。こんな真似をしてただですむと思っているの」 「これくらいしないと、満足に話が出来ないんです。人は猛獣とサシで話しは出来ません から」 「………」 「秋葉さま、どうも最近翡翠ちゃんに辛く当たっていますね。 どうしてです? 翡翠ちゃ んの働きが悪いのであれば、主人として当然叱責し罰するべきですが、私の知らない処で 翡翠ちゃんが失敗したり仕事の手を抜いたりしていましたか?」 「そんな事はないわ」 「では、何故です。なんで翡翠ちゃんが一人で涙ぐんでるのを、私は見なくちゃならない んです?」 「………」 「志貴さんのせいですか」  兄の名を聞いて、僅かに秋葉の身が硬くなる。 「シエルさんやアルクェイドさんが志貴さんの周りに出没しているのがお気に触るのです か? 特にシエルさんとは非常に親しくされているようですけど?」 「そう…よ。何処から現れたの、あんないかがわしい女ばかり、兄さんの周りに」 「それで翡翠ちゃんを責められてもどうしようもありません。シエルさんはあくまで志貴 さんが御自分の意志でお付合いなさっているようですし、アルクェイドさんの神出鬼没振 りなど私にも止められません」 「でも、何事も無いように平然と翡翠が応対しているのを見ると腹立たしく感じるの。八 つ当たりだとは分かっているのに」 「そうですか。では秋葉さまは翡翠ちゃんに悪い事をしたとお思いなのですね」 「……ええ」 「では。……罰が必要ですね?」 「えっ、琥珀、何を」  改めて、自分が身動きの自由がほとんど取れない姿である事を思い出す。 「主人が道を誤るのを座視せずに、あえて心を鬼にして正道へ立ち戻らせるのもお仕えし ている者の勤めと思います」  少しだけ声に硬さが混じっている。 「何を言っているの。この拘束を解いてよ」 「ええと、秋葉さまのお力は封じさせてもらいました。そんな大袈裟なものじゃないです けど、思考がまとまらないでしょう。その状態だと私達も目に入らないし、目隠し自体を 何とかしようというのも出来ないですよね。生身の秋葉さまはあまりに危険すぎます」  秋葉の中にじわじわと寒気のようなものが満ちてきた。  彼女の持つ人外の力は、基本的に「見る」事により発動される。別な言い方をすれば、 今のように目隠しされてしまうと力は、ほぼ封じられる。  とは云えそれは絶対ではないから、見えないものを「見た」事にして力を振るう事は可 能だが、先ほどからの精神が弛緩したような状態では力を振るう為の集中がままならない。  秋葉の能力を熟知している琥珀なればこその無力化であった。 「罰というより、秋葉さまにお寂しい思いをさせたのが原因思いまして、翡翠ちゃんと二 人でお慰めしようかな……と。翡翠ちゃんも賛成してくれたんですが」  翡翠から賛同しているとは思えない声が上がる。 「でも秋葉さまの為、と納得したでしょう、翡翠ちゃんも。で、見られるのが恥ずかしい と言うので秋葉さまには目隠しを。これ感覚も鋭敏になりますから一石二鳥です」    プチプチとボタンが外されていく。腕が抜けないので全部剥ぎ取られた訳ではないが、 下着姿を晒している。 「な、何を」  返答はない。  ささやかな胸を覆う下着もあっさりと外されてしまう。 「湯浴みとかの時も、いつも感心してるんですけど、秋葉さまの肌って滑らかで本当に奇 麗ですねえ。翡翠ちゃんもそう思わない?」 「白くて……、凄く奇麗」 「これだとピンク色に染まると映えますね」  琥珀と翡翠の目に、少し薄暗い部屋の中で白い秋葉の裸身はぽうっと浮き上がるようで、 はらはらとかかった黒髪との対比が美しかった。 「目隠しされて腕を縛られて…、なんか被虐美とかいうのを感じますね、どうです?」  ?  ほっそりとした手が秋葉の頬を撫でる。 「まあ、こういった事で、秋葉さまをお慰めしようと……」  その呟きが間近から聞こえる。琥珀の声。  ふっと、また暖かい柔らかなものに唇がふさがれる。上半身に何かが覆い被さっている。  今度は、琥珀がのしかかるような体勢で、唇を奪ったのだと分った。  唇が重なっただけでなく、舌が秋葉の唇をなぞるように動き、口が少し開いたと知ると 隙間から口内に潜り込んできている。  口を塞がれている為声は出せないが、くぐもった音が絶え間無くもれる。  琥珀の舌がどんな動きをしているのか秋葉には分からなくなっていた。  自分の舌に絡むように動き、歯の一本一本の形をなぞり、引っ込もうとしては、また奥 深く差し込まれる。  トロトロとした唾液が注ぎ込まれたかと思うと自分のそれを飲み込まれる。  秋葉は、嫌悪感も何もなく、さらにぼうっとしてきた頭で、快感に近いものをただただ 享受しているのが精いっぱいだった。  と、新たな刺激に体がピクリとはねる。  琥珀の手が、右胸にそっとおかれていた。琥珀の小さな手の平に、起伏に富んでいると は言えない秋葉の膨らみがすっぽりと覆われ、微妙に円を描くように動いたり、指だけに 力を加えるように押されたり、と絶え間無く刺激を送られている。  絡まっていた舌が解かれ、糸を引きながら唇が離れる。  自分の唇を手で拭い、秋葉の口も優しく拭いてあげながら、胸への愛撫は続けている。  すっと舌が秋葉の胸の突起をチロと舐める。 「んんっっ。やだ、胸はやだ……」  琥珀の動きに体を捩るようにする。 「秋葉さま、可愛い胸ですよ。触るとちゃんと弾力があるし、先っちょはこんなに敏感だ し……」  またチロリと舌先が這い動き、チュッと唇に含んで吸い上げる。  ツンとピンク色の乳首が硬く突き出している。  ビクビクと過敏に反応をしたが、つと琥珀が離れると、少しでも隠そうとするかのよう に、身を捩じらせる。 「そんなにお気になさる事ないのに……。 じゃ、翡翠ちゃんお待たせ」  琥珀がすっと離れ、翡翠が反対側からにじり寄る。 「秋葉さま。失礼します」 「翡翠ちゃん、いつもみたいにすればいいからね」  先ほどまで琥珀の手で弄ばれていた胸に翡翠の白い手が伸びる。  琥珀とは違って手の平全体ではなく指だけが胸の膨らみをなぞるように動く。  指の腹だけで刺激を与えつつ、時折爪を立てるように別の刺激を送り込む。特に尖った 乳首の周りを擦るように弾くように指が動き、その切り替えの度に秋葉の頭が真っ白にな る。  琥珀はともかく、なんで翡翠が……。  そんな思いが脳裏に浮かぶ。  いつもみたいに、って琥珀と翡翠……? 「翡翠ちゃん、こう見えて巧いんですよ。ええ」  クスクスと笑いながら琥珀が秋葉に、と言うより翡翠に向って言葉を投げる。  翡翠は返事をしなかったが、その代わりに秋葉のまだ何もされていなかった左胸をいき なり口に含んだ。  そのままチュッと乳首を吸う。  舌先が動き、時に歯で軽く甘噛みする。  先に琥珀にされた愛撫ともまた違う、ぞくぞくするような快感が走る。  こらえていた声が、断続的にもれ出る。 「翡翠ちゃん、少し秋葉さまの体を、左に、そう」 「これでいい?」  あの翡翠がどんな顔をしてこんな事をしているのだろう。  胸を愛撫されているだけなのに、じんわりと快感が全身に広がって行く。 「あらあら、下の方もぐっしょりしてきましたよ」  脱がしちゃいましょうねえ、という声を遠くに聞く。  ほそい脚を撫でさする手を感じつつ、濡れた下着を手際良く抜き取ろうとする琥珀の手 に無意識の内に協力して腰を上げる。  ほぼ全裸に近い姿になってしまったのも意識していない。 「ここの辺はまだ女の子みたいですねえ」  力の抜けた脚を開くようにしながら琥珀が言う。 「花びらみたいとはよく使う表現みたいですけど、秋葉さまのはそんな感じ」  翡翠の胸にかけての愛撫に忘我になっていた秋葉であるが、下半身の一番恥ずかしい部 分への刺激には逆に目が覚めるような衝撃を覚える。  何か暖かいものが、うねうねと動いている。  ピチャというような音が聞こえる。  仔猫がミルクを舐めるような湿りを持った音。  目はふさがれているが、琥珀が、そこを舐め、舌で痛みとすら思える刺激を生みだとし ているのだと分った。  舌先が踊っていただけの、それでも快美に真っ白になり何も分からなくなりつつも必死 に抗っていた秋葉であるが、次の刺激にはもう耐えようがなかった。  舌がピンポイントに肉芽をつつき、かと思うとまだ閉じられている花びらの奥に忍び込 み花蜜を啜り込む。  強からず弱からずの絶妙の力加減で花弁を唇でついばみ軽く甘噛みする。  その行為の繰り返しに、快感が急激に体中に広がって行く。 「うんんーーーーん」  頭がショートしたようにふっと弾ける。ふわふわとした余韻が残る。 「軽くイッちゃいましたか?」  返事も出来ず忘我の状態の秋葉から少し身を外し、琥珀は翡翠に話し掛けた。 「翡翠ちゃん、ちょっと」 「なに、姉さん?」 「ちょっとおすそ分け」  ベッドがギシと音を立てる。  秋葉の両脇にいる琥珀と翡翠が何かをしているようだった。  目隠しをされている秋葉にはわからなかったが、琥珀が妹を手招きし、唇を重ねていた。  翡翠も頬を染めつつもさほど嫌がる様子はなく、姉の唇と舌を受け入れていた。愛撫と いうよりも親密ではあっても儀式めいた作業のような行為。  数秒そうしていて、糸を引くように二人は離れた。  翡翠は「どうするの?」と言う顔で 琥珀を見た。少し口の中をもぐもぐさせている。 「舌全体に絡めるようにして、後は呑んじゃって平気」  翡翠の喉が微かに動く。 「じゃ、続きを始めましょうか」  再び秋葉は琥珀と翡翠とが自分の体を翻弄し始めようとしているのを感じ、叫んだ。 「やめて、琥珀、翡翠。もういいでしょう」  琥珀の声が耳元で囁く。 「これは罰なんですから、秋葉さまは黙って受けて頂かないと。それに、もう少し素直に なられたら、如何です? 秋葉さま、本当に嫌なんですか?」 「……嫌よ。もう、やめなさい」 「翡翠ちゃん、始めて」  言葉と同時に、先ほどまで琥珀が舐め上げていた処をなぞる様に、翡翠の舌が触れた。  軽く、軽く、ほとんど触れるか触れないかというタッチであったが、触れた処に熱さが 残る。襞の一つ一つを翡翠が通り過ぎ、どうしようもない疼きが残る。 「翡翠ちゃんの舌とちょっとしたお薬ですけど、気持ち良くはありませんか?」 「んん……、だ…、だ、めぇ」 「翡翠ちゃん、もっとしっかり御奉仕しないと秋葉さまはご満足されないみたいよ」  さっきまでの翡翠の動きがそよ風だったとすれば、風の強さが嵐に向い始めた。  ほっそりとした手が太股やお尻の方を撫でさすり、舌もただ秋葉の花弁に触れるだけで なく、重なる深奥を探り、こぼれる花蜜をピチャピチャと舐め啜る。先の琥珀の働きでツ ンと存在感を増した敏感な突起を舌でつつき、指でそうっと包皮を剥いてさらに強い刺激 を与える。  その一つ一つに秋葉は反応し、体を左右にくねらせ、ただただ声だけは漏らすまいと唇 を噛み締めていた。  琥珀は、その間、秋葉を拘束する枷をカチャカチャといじっていた。  ほどなく、手首の鎖が解かれる。 「秋葉さま、手は御自由になりました。もうお望みなら目隠しを取って、私達を薙ぎ払う 事も出来ますよ。でも、目隠しを外したら、もう気持ち良くしてあげませんからね」  そう言うと、琥珀もまた秋葉に身を寄せていった。  秋葉は何も言わず、何もせず横たわっていた。  先程までの、体の向きの固定が無くなった為、琥珀と翡翠の愛撫はよりバリエーション に富んだものとなっていた。  秋葉はの体は左に向けられ、くるりと逆にねじられ、うつ伏せにされ、曲げられ、一体 自分でもどんな体勢にあるのか分からなくなっていた。  今、耳たぶを甘噛みしながら、胸に手を伸ばしているのが琥珀なのか翡翠なのか、トロ トロになった膣口に差し込まれている舌と、その下のさらに恥ずかしい個所をツンツンと 突ついている舌はどっちがどっちのものなのか、自分が触れているのは何なのか……。  手は自由になったのだから、自分に対するもう一つの拘束、視覚を奪っているそれを外 せば分かるのだが、高まった性感のに翻弄されながら、秋葉はそうしようとはしなかった。  軽い絶頂を何度も迎え、より高みへと上りつめようとして……。  その時、世界が動きを止めた。  琥珀と翡翠が忽然と姿を消したかのように、秋葉の体をつま弾いていた手も舌もすっと、 離れた。  沈黙のまま数秒の時が流れ、突然快楽の波を中断され戸惑った秋葉が声を上げる。 「どうしたの、琥珀、翡翠」 「すみません、秋葉さま。今更ながら、なんてとんでもない事をしたのだろうと。秋葉さ まの命を違えるような真似も。でも悪いのは私で翡翠ち……」  妙に平坦な声で琥珀は謝罪の言葉を口にしていた。  言葉と裏腹に何ら申し訳なさの欠片も見られない。  それを秋葉は遮る。 「……けて」 「はい?」 「続けて。止めちゃ嫌。お願いだから、琥珀、翡翠。こんな状態で止められたら狂っちゃ う……」 「……御自分の意志で、お望みになられるのですね?」 「そうよ、お願い、はやく、お願いだから」  再び、琥珀と翡翠の体が秋葉を挟む。中断で少し冷めた熱を取り戻すように、再び秋葉 の体は琥珀と翡翠の手によってより激しく火が点された。  心の枷が外れたかのように、秋葉は二人の動きの一つ一つに過敏に反応し、性感を滾ら せていった。翻弄の中、あえぎ声が断続的に洩れ、時折すすり泣くような声が混じる。 「秋葉さま……」  間近に聞こえた翡翠の声に、秋葉は顔を向け、求めるように唇をつき出した。  すぐに翡翠の唇が重ねられ、舌が秋葉のそれと絡み付く。 「んんんっっっ……」  どちらのものともつかぬ、あるいは双方の吐息がこぼれる。  秋葉も積極的に舌を翡翠の口内でうごめかせ、互いに唾液を送りすすり込む。  そっと秋葉は翡翠の背に手を回し上半身を引き寄せた。翡翠も口付けを続けたまま、柔 らかい体を秋葉に預けてきた。  全寮制の女子校という特殊環境で生活をしていたから、同性とのキスは経験があったが、 より親しい少女とこういう行為をして嫌悪感が無いのは不思議といえば不思議だった。  それにしても、何も知らないように見えて翡翠……。悪いお姉さんを持ったからかしら?  ちらとまた、そんな疑問が湧いて消える。  すでにどういう動きになっているのかわからない琥珀の手練手管で、下半身は蕩け、も はや戻りようの無い限界に近づいていた。  未知の感覚に恐怖すら覚える。 「もう、駄目……」  ふっと、体が浮く。  体がのけぞり、全ての力が抜けて行く。  自分でも分からぬうちに、叫び声をあげ、秋葉は絶頂を迎え……  意識を果てに飛ばした。  ・  ・  ・  どのくらい空白を漂っていたのだろうか。  うつ伏せにシーツに頬を埋めながら、まだ快美の中を漂う余韻に浸る。  ぐったりと体を動かす気力も無く、息だけを荒くしている。 「気持ち良かったですか、秋葉さま?」  そこへ、琥珀の声が届いた。 「気持ち良かった。……こんなの、初めて」 「だいぶ、素直になられましたね」  穏やかな声で、琥珀は言う。  すっと、まだピクピクと敏感になっている背に琥珀の手が触れた。  そのまま、秋葉の乱れた髪を梳くようにまとめた。  しばらく、静かな時が流れ、  再び琥珀から言葉を紡いだ。 「私達姉妹は、年少の頃からの秋葉さまの志貴さんへの思いを承知しております。だから、 せっかくお戻りになった志貴さんを新参者に掠め取られて、どれほど悲しく悔しいのか分 かるつもりです」 「………」 「なのに、何もせず使用人に八つ当たりしているだけなんて、おかしくはありませんか? 秋葉さまはもっと誇り高くお強い方のはずです」 「……何が言いたいの?」 「取られたなら、取り戻せばよいのです。ただ、今のままだと無理ですね。志貴さんはい ろいろ美点のある方ですけど、少々鈍い処がおありですから。秋葉さまには、もう少し素 直に志貴さんへの思いを表に出して頂かないと、振り返るどころか、気づいてすら貰えま せん」 「………」 「今のお姿なんて凄く可愛いかったですよ、秋葉さま。そうお思うでしょ、翡翠ちゃん。 ……さん?」  ?  今、何て言ったの?  琥珀の優しいと言ってよい響きの声が、一転して少し意地悪い調子の声に変わった。 「ところで、そろそろ最後のお薬が効いてきたと思うのですが、如何です、秋葉さま?」 「お薬って、……何?」  心の中に暗雲が広がって行く。 「いえ、今回秋葉さまにはいろいろお薬を摂っていただいておりまして。睡眠薬、筋肉弛 緩剤、特製の精神安定剤、媚薬に、その他諸々。もちろん、秋葉さまのお体に害を与える ものはありませんが、用が済んだ以上、さっさと排出した方がお体に良いのは確かなんで す」 「どういう事?」 「一番簡単な方法が、排泄物として体外に出す方法で、簡単に言うとおしっことして排出 してしまうって事です。で、どうせなら効果と時間を計算させて始末した方が良いので、 遅効性の利尿剤をお呑み頂いていたのですが……。そろそろ効いている筈なんですけど、 したくありません?」 「利尿剤……」  意識が戻ってからまったく自覚が無かった感覚が、琥珀の言葉で初めて形になったかの ように、いきなり痛痒感として現れた。  ああっ、何これ。 「琥珀、トイレに行かせて。はやく……」 「あいにく、ここにはトイレありませんし、また枷を嵌めてしまってすぐには外せません」 「えっ……」  うつ伏せになって脱力したままの体勢でいたから気づかなかったが、慌てて手を動かし てみると再び両手が鎖でつながれているのが分った。  それでも起き上がろうとして、さらに気づく。  先程はなかったものが加わっている。右足首にもなにか嵌められ、鎖がジャラジャラい っている。  せいぜい、肘と膝を立てて四つん這いになるくらいの体勢しか取れない。 「これは、何」 「いえ、正気に戻った秋葉さま相手ですから念の為。しかし困りましたね。今すぐおしっ こしたくてたまりませんよね?」  琥珀の言葉に、秋葉は痛みすら感じた。 「しかたありませんね、このままなさるしかありませんね。申し訳ありませんが」  平然とした琥珀の声。  いや、かすかに笑いの成分が混じっているような気がする。  それで初めて秋葉は気がついた。薬の排出云々の真偽はともかく、今こうやって放尿を 促しているのは、最初からの琥珀の意図なのだと。 「なんで……、こんな、こと、させるの」  もう言葉が満足に喋れない。 「誇り高いお嬢様が、使用人の前でおもらしなんて、ちょっと面白いかなあ、なんて」  そう言いながら、琥珀の指は先程の名残で濡れそぼった処へ伸びて行く。  敏感な肉芽との膣口間の窪みをちょんと突つく。 「ひっ」  突然の刺激に反射的に堰を切りそうになり、必死になって秋葉は耐え切った。  脂汗すら浮かべながらも。 「我慢なさらなくていいんですよ、秋葉様」  さらに琥珀の指が強からず弱からずそこを撫であげる。 「くうううっっっ」  もはや、声を出す事すら崩壊につながりそうだった。 「もっと素直になられればよろしいのに。いっそ獣まで堕ちてみましょうか」  言いながら琥珀が秋葉の左の太股を持ち上げる。  下半身を外に晒す形になるその体勢。 「こうなると、まるで犬と同じですね」 「い、、、ぬ、、、?」  四つ這いになって片足を高々と上げて。  ああ、犬なんだ、私。 「もう、我慢なさらなくていいんですよ?」  駄目押しとばかりに琥珀は、くりくりと動かしていた指の腹を曲げ、爪先をより強く尿 道口に押し当て、一瞬の間を置いて、つま弾くように刺激を与えた。  それが秋葉の限界だった。  ほんの微かに間が開いて、しんとした部屋に水音が響いた。  こんな格好で、人が見ている前で……、琥珀と翡翠に見られて……。  人間としての心は千々に乱れ、絶叫したくなる恥辱に支配されたが、犬の秋葉はじらさ れじらされて解放された甘美感に浸っていた。  そうしている間にも、放尿は続き、水溜まりを作って、やがて止んだ。  ・  ・  ・ 「気持ち良かったですか、秋葉さま?」  そっと柔らかい布で優しく、まだ滴っている雫をぬぐいながら、あさましい姿をさらし て放心している主に対し、琥珀は先程と同じ言葉を掛けた。  不思議と邪気を感じさせない、日常での会話の時のような声。  いつものようにニコニコと笑っている顔が浮かぶような。 「ええ、気持ち良かった」  思わず秋葉も本心を吐露した。 「それはよかったです。そうやって素直になさっている秋葉さまなら、志貴さんも虜にな りますよ」  忘我の中にいた秋葉は兄の名を聞いて、体を強張らせた。 「こんな時に、兄さんの名前を出さないでよ」 「すみません。でも……」  意味ありげな沈黙。  数秒が長く長く感じられる。  ・  ・  ・ 「でも、なに?」  耐え切れずに秋葉の方から問い掛けてしまう。 「秋葉様のお姿に、志貴さん、ひどく感動なされているようですよ」 「えっ」  頭の中が白くなる。全てが爆発して霧散したような空白。 「な、に、をいってい…… るの」  言葉がうまく出てこない。 「ですから、先程からの秋葉様の可愛らしいお姿を見て、志貴さんは感極まっておいでで す、と申し上げたんです」  間違えようが無く言葉の意は届いていたが、秋葉に残された理性全てがそれを拒絶した。 「なにを言っているの」 「秋葉様の奇麗な体も、私達の指や舌で気持ち良くなって下さったお姿も、上りつめてし まったところも、すべて志貴さんに見てもらっていたんです」  さっきからあった違和感、ときどき動きを止めたり、向きを微妙に変えさせたりしてい たのは……。  裸身を晒して、胸やお尻や、一番恥ずかしいところまで露わにして、琥珀と翡翠に愛撫 されて感じまくって果てて、いっぱい恥ずかしい言葉を発して、挙句の果てに犬のような 格好で放尿までして……。  あれを全部?  こともあろうに、兄さんに見られていた?  嘘。  嘘。  嘘。 「嘘でしょ。琥珀、嘘だと言って」 「私は秋葉さまに偽りなど申しません。志貴さんたら、妹の恥ずかしい姿を見ているだけ で、こんなに興奮なさっちゃって」  くすくすと琥珀は笑い出す。 「じゃ、志貴さんと御対面ですよ」 「いや、やめて。そんなのいやーーーっ」  恐慌に体がガクガクと震え出す。 「お願い、やめて。それだけはやめて。やだ、見せないで。お願いだから」 「もう全て見られているんですよ、秋葉さま。手後れです」  秋葉の目隠しが琥珀の手で外される。  いつもと変らぬ笑顔の琥珀と、顔を真赤にして、どういう表情をしたらいいのか判らな いといった風情の翡翠。 兄さんは……、兄さんは……、いない。 よかった、いない。  安堵が反動になったのか、体の震えがピンと伸び切って止まり次いで完全に弛緩した。  体の奥からこれまで感じた事のない何かが押し寄せる。 「何、これ。嫌だ。なに、あっっ、んんん……ん」  先ほどの絶頂とはちがう衝撃が走り、全身の力がぱーっと飛び散り……、果てた。  秋葉の体が糸の切れた操り人形のようにグッタリと崩れ落ちる。 「ちょっと吃驚させすぎちゃいましたねえ。秋葉さま。今日は翡翠ちゃん苛めたお仕置き ですから、志貴さんはいませんよ。志貴さんには刺激が強すぎますしね。あんまり秋葉さ ま感じやすいんでノっちゃいました。って、もう聞いていらっしゃいませんね。お休みな さい。秋葉さま」 「っっっ……」  声にならない声を上げつつ、がばっと上半身を起こす。  いつもの部屋、いつもの寝台、かえってその事に頭の中の認知が追いつかず、秋葉はし ばし呆然とする。 「え、と夢……?」  ぼんやりした頭が急激に思い出す。  夢とも現ともつかぬ先程の淫靡な体験を。  しかし、改めて見ると先程の痕跡は見当たらない。  夢にしては、あまりにリアルすぎる。胸はドキドキとしているし、体が少し火照っては いるが……でも。  あれは、本当だったのか。琥珀と翡翠の声も、体中に走った快感、指や舌で翻弄された 残り火も。最後にはまるで犬のように……。  そこではっとして、ぱさりと掛けられた寝具を跳ね除ける。  あんな夢を見て、まさかまさか子供みたいに。  シーツを撫でさすりながら特に異常なしと見て取って安堵の溜息をつく。赤面している のが自分でも分かる。 「いくらなんでも」  まさか、この私がおねしょなんて……。  コンコンと音がする。 「秋葉さま、入りますよー。もうお目覚めになられてますか?」  琥珀の声。  どうしたらいいのだろうと狼狽しているうちに琥珀がいつものようにニコニコとしなが ら部屋に入ってきた。 「もう、お目覚めでしたか。おはようございます。 ……?」  大きなベッドから落ちている羽毛の掛け布団、ちょっと過去の記憶にない表情で固まっ ている主人を前に、琥珀は珍しく表情を消してしまっている。  むしろ秋葉の方が「こうしてるとやっぱり双子ね、翡翠と似た雰囲気」等と無駄な冷静 さを取り戻す。 「ええと、どうなさいましたか? 秋葉さま?」 「なんでもないわ。それより、琥珀……」  いったい何をどう言えばいいのだろう?  翡翠と一緒に私の事陵辱して、最後に私は犬みたいに……とでも聞く?  出来る訳が無い。  主人の言葉が続かないのに、頭を捻り、琥珀は心配そうに逆に問い掛けた。 「……何か至らぬ点がございましたか、秋葉様さま」 「そうじゃないけど。いいわ、夢見が悪かっただけ」   安心したように琥珀は笑みを浮かべる。  邪気のない誠実そうに見える表情。 「じゃ、早く居間へ向かわれたほうがよろしいですよ。今日はどういう訳か志貴さん、変 な時間に目を覚まされて、翡翠ちゃんをびっくりさせてましたから。秋葉さまとご朝食一 緒になさろうとお待ちですよ」 「えっ、兄さんが。すぐに行くわ」  ベッドから降りかけ、大事な事を思い出した、というように琥珀を見る。 「昨日、翡翠に八つ当たりして酷い事言っちゃった」 「そうでしたか。なんか落ち込んでると思いましたが。翡翠ちゃん、けっこう気にしちゃ う性質ですから、僭越ながら、後ででも声を掛けて頂けると」 「そうね。謝っておかないといけないわね」 「ところで秋葉さま、夢見が悪いって、どんな夢をご覧になられたんです?」  興味津々という顔で尋ねる琥珀に、秋葉は真っ赤になって部屋をパタパタと出て行った。  ベッドを整え、着替えを持って部屋を出ながら琥珀は呟いた。 「今回は夢ということにしておきますけどね、次は楽しみにしててくださいね」 低い低い、微かな独り言。 「でも、秋葉さま可愛かったなあ。あれでお変わりになって志貴さんを振り向かせてくれ るといいんですけどね」  クスクスと笑いながら琥珀もまた部屋を後にした。 《FIN》 後書き―――  初めてきちんと書いてみた18禁小説なのですが、どうでしょう?  何というか匙加減(なんの、ねえなんの?)がえらく難しいですねえ。  らぶらぶ赤面H小説も考えてみたんですが、二重に難しいので、エロシチュエーション 直球ど真ん中勝負にしてみました。でも「地下室系」率高そうなので、別なの考えればよ かったなあとの思いも。  なまじ秋葉好きなので、志貴以外の男にやられちゃう話は不可で、使いやすい琥珀さん の手を借りました。琥珀さんはともかく翡翠はこんな子じゃない、という方には素直に頭 を下げます。  タイトルは多芸さに敬意を持っている、さっぽろももこさんの曲より頂きました。流れ る黒髪をイメージしてるそうですが、いろいろ深読みして下さい(何故に「地獄SEEK」 から選ぶ?)  目隠ししてるキャラの視点で話を進めるのは無理、と知ったのが収穫でした。 by しにを (2001/7/28)
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