しづ心なく・・・

作:しにを



 ぎしぎしとベッドが軋みをあげている。  それに伴奏するかのような二人のはぁはぁ言う荒い息。 無自覚に洩れる喘ぎ声。  嬌声と悲鳴のブレンド。  時折発せられる意味の無い言葉の断片。  もう意味のある人間の言葉など失っていた。そう、まるでケダモノのように……。  交わっている姿も、恋人の甘い愛の営みと言うには程遠い。  私は犬のように四つんばいでお尻を高く上げている姿。  恥ずかしい部分を全て晒している浅ましい格好。  その雌犬に、ケダモノのようにのしかかり、荒々しく体を貪っている遠野く ん。  私もそれを嬉々として受け止めている……。  ひとしきり私を蹂躙し、何度も何度も昇天させた挙句、遠野くんは止めとば かりに後ろの穴に猛り狂ったペニスを突き立てている。  それでも最初は、 「今、どこに入れられてるのかな、シエル先輩」(一突き) 「お尻、お尻に……、あああっ」(一突き) 「お尻の何処?」(一突き) 「お尻の、穴、お尻の穴に遠野くんのが入っています……、あああ、駄目、く んんっ」(一突き) 「何が入っているの?」(一突き) 「遠野、くんの……」(一突き) 「俺の何?」(一突き) 「遠野くんのペニス。大きくて熱い……、ペ、ペニスが入っています。あっ、 あんん」(一突き) 「シエル先輩は、それを入れられてお尻の穴で感じちゃうんだよね」(一突き) 「ち、違う……んん」(作動停止) 「そんな事言うんならやめちゃおうかなあ」(作動停止) 「う……、ああ」(作動停止) 「嫌なんでしょ。ごめんね先輩、今抜くから」(ずずずーーっ) 「ああ、嘘です。やめないで下さい。お尻の穴でされるの好きです、私はお尻 の穴で感じちゃう恥ずかしい女の子です。  入れて、入れて下さい。お願い、遠野くん……」(ず、ず。一時停止) 「素直で可愛いシエル先輩に……、そら、ご褒美だよ」(ずんと深く一突き。 以降倍速)  ……といった仲睦まじいやりとりもあったのだけど、最後は二人ともただた だ快楽を貪りひたすら頂点へとひた走るだけだった。 「もうダメ。イッちゃう、遠野くんイッちゃいます」 「俺も、もう限界。イクよ、一緒に……」  動きの激しい抜き差しではなく、深くつながったままで私の背中に密着して、 抱きすくめる形で腰を動かす。  遠野くんの体重がかかる。その重さが嬉しい。  それでも、遠野くんは私の負担にならないよう片手で体を支え、空いている 手でびしょびしょに濡れそぼっている秘裂をかき回して、さらに刺激を与えて くれる。 「ああっ、遠野くん……」 「シエル……、」  最後にお腹まで突き破るんじゃないかという激しい一撃を加えられて私は絶 頂を迎え、遠野くんも熱く滾っている迸りを爆発させた……。   「それにしても先輩もすっかり慣れてきたよねえ」  二人して横たわり余韻に浸っている。力尽きたという方が正解かな。  まだ、小さくなっていないペニスをずるりと抜きながら、遠野くんは私に言 った。 「最初はあんなに嫌がってたのに……」  うー、不本意な言われ方。 「今だって喜んではいません。いえ、その、嫌々やってる訳ではないけど、え えと……」 「でも、俺だって嫌がってるのを無理やりなんて嫌だから、先輩も感じてくれ るんなら、その方がずっと嬉しいよ」  そう優しく言われると、弱い。  あれだけ何度もやられればお尻に入れられるのに馴染みもするし、遠野くん が喜んでくれるのなら多少辛いのも我慢できる。  いや、もう我慢なんかしていないのかも……。 「あーあ、こんなにこぼれちゃって」  終わって、まだ閉じていないらしいお尻の穴を指先でふにふにと弄っていた 遠野くんが、ティッシュを数枚取りながら言う。 「拭いてあげるよ。ちょっとお尻上げて」  横になっていた格好を、さっきのような形にする。  正気に戻るとかなり恥ずかしい……。 「凄い光景だなあ。前も後ろも丸見えでぐちゃぐちゃに。……ごめん、もう変 なこと言わないから。じっとしてて」  遠野くんの言葉に恥ずかしさで座り込もうとしたのを、制せられる。  しとどに濡れそぼっている谷間と、今吐き出されたものが溢れ出しているお 尻の穴に、柔らかい紙が当てられる。  たれてきた愛液と精液を何度もティシュを当てて染みこませ、びちゃびちゃ にしては新しいもので同じ拭き作業を繰り返す。 「いくらあっても足りないな、これじゃ」  優しくふきふきしてくれながら、遠野くんはぽつりと呟く。  遠野くんはその気はないのだろうけど、丹念に拭き清めてくれようとすると、 小陰唇のびらびらにそっと触れたり、お尻の穴の内周をなぞったりと軽い愛撫 にも似た行為になってしまって……、その新たな刺激に私はまた感じてトロリ と濡れ始めている。  遠野くん、絶対気づいてるだろうな……。  恥ずかしいなあ……。  恥ずかしいけど、意志の力でどうにかなるものでもないし、駄目だと思うと かえって遠野くんの指を感じてしまって……、ああ、また。だめだってば……。 「そうだ、先輩」 「なんです?」 「どうせなら、お風呂に入らない?」 「お風呂ですか……」 「うん。一緒に入ってさ、体洗って綺麗にしてあげるよ」 「うう、それは魅力的な提案ですね」            §  §  §  少し手狭なお風呂場に二人していちゃいちゃしながら入った。  遠野くんの言うままに椅子に腰掛けて、体を洗って貰う。  後ろから背中を流しながら「おっと手が滑った」とか言って、胸に手を伸ば すお約束とかされながら上半身をスポンジで洗ってもらう。  もっと力を入れてもいいのにと思うくらい、そうっと繊細な壊れ物でも扱う ようにゆっくりと軽く軽く石鹸を泡立ててこすってくれる。  手の指の一本一本、手首から腕のライン、胸とお腹。  肌を優しい感触で何度もなぞっていく。  なんだかくすぐったいような嬉しいような変な気分になる。  さっきまでのケダモノのような遠野くんの別な側面。  あれはあれで遠野くんの素敵な一面だけど、こうやって優しい遠野くんも好 き……。  なんだか幸せだなあ。  今度は下に移りつま先から足首、ふくらはぎから太ももにと進む。  気持ち良いなあ。  まるで召使に体を洗わせているお姫様にでもなった気分。  それとも、忠実な下僕を従えた女王様かな。 「シエル先輩、ちょっと足開いてくれない?」  はっと我に返る。 「いえ、そこまででいいです」 「うん? どうせなら最後までさせてよ」 「嬉しいんですけど、その、遠野君にして貰うと……、恥ずかしいんですけど、 感じちゃうから、そこは自分で……」 「そ、そうか」  わわわ、遠野くん真っ赤。いや、私も多分同じだろう。 「ええと、湯船にでもつかってて下さい。さすがに二人は無理ですから」  うん、と頷きそそくさと遠野くんはそちらへ避難する。  石鹸を泡立てて、指で直接秘処の襞を擦る。まだどろどろしてるなあ。  そちらを綺麗にして、今度は後ろ。  ちょっとお尻を持ち上げて、白濁液を掻き出してお湯で流す。  少しひりひりしてる。  うう、こんな姿は他人には見せられ、見せられ?  横を振り向くと……。  ああ、やっぱり遠野くんが身を乗り出してまじまじと見つめている。 「遠野くん、見ないで下さい」 「ええーっ」 「なんですか」  しぶしぶ遠野くんは背を向けてくれた。  シエル先輩のけちんぼって、ちゃんと聞こえてますからね。 「ねえ、遠野くん」 「んん?」 「遠野くんて私と結ばれた時って、もう何回もこういう事した経験あったんで すか?」  とたん、ごぼごぼ言う音がした 「突然、何を言い出すんですか。思わず沈んだじゃないですか」 「ごめんなさい。……でも、初めてで女性との経験が無かったって訳ではなか ったですよね」 「……。うーん、初めてみたいなものだよ」  不思議な表現。こういうのって0か1かという問題で、どちらでもないなん て解は無いはずですけどね。  知らないうちにやられちゃってたとか、失敗したとか、そういう事なんだろ うか。 「で、それがどうかしたの?」 「ええ。私と初めての時から遠野くん、お尻に興味示してたじゃないですか」  興味どころじゃなかったですけどね。 「……うん」 「男の人の性癖ってよく分かりませんけど、そんなに経験の無い男の子が、後 ろの穴に興味持ったりするものなんですか?」 「……そんなのわからないよ」 「そうですよね」  ざばーっ。  お湯をかぶる。 「でも初めてこーいうことする女の子に最初から後ろを強要するって、あまり ノーマルでは無いですよね。何度もその女の子と経験を重ねて、変化を求めて とかなら分かるんですけど」 「……やっぱり変かな」 「女の子にしてみたら、初めてした男の人にいきなりそんな事されたらショッ クじゃないですか」 「そうだよな、やっぱり」 「普通の女の子なら嫌われちゃいますよ」 「うーん」 「傷ついちゃうかもしれないし」  ちょっと沈黙。 「それに、だいたい排泄器官じゃないですか、あそこは。そこをいじったり舐 めたり、汚いとは思わないんですか」 「うーん、あんまり考えないけど。……でもさ」 「なんです」 「シエル先輩だから、あんな事出来るんだよ」 「私だから? 私なら、あんな真似しても傷つかないし、嫌われないと……」 「そういう言い方するかな。そうじゃなくて、シエル先輩の事好きだから、あ んな事までしたんだよ。あの時のシエル先輩凄く可愛かったし、全てが欲しか ったから。やっぱりお尻の穴舐めたり、って抵抗はあるんだし、他の女の子に はあんな事までできないよ。  シエル先輩のだから、平気というかしたいんだ。先輩が感じてくれるのも嬉 しいし」 「私だからですか……」 「そうだよ。それに好きな人に対してここまで、俺はしてあげられるんだって 言う変な満足感とかあるし。  先輩だってしてくれるじゃない、俺の舐めたり咥えたりしてくれるの。あれ だって凄く抵抗あるんじゃないの? 精液、口の中に出されるのだって気持悪 いだろうし」 「好きな人のなら平気なんです。私、遠野くんのなら全然嫌じゃないですよ。  むしろさせて貰うのが嬉しい……、って、ああ、同じですね」 「でしょ。好きな人にならなんでもしてあげられるんです」 「正面切ってこんな話すると、照れちゃいます」 「俺もだよ。……そろそろのぼせちゃいそうだから交代しよう」 「私も洗ってあげましょうか?」 「うう。とりあえず温まってよ。背中はお願いしようかな」 「はい」  ばしゃー。  お湯で泡を流して遠野くんと場所を替える。  うーん、もう少し大きなお風呂で一緒にお湯に浸かったり出来るといいんで すけどねー。  埋葬機関って、お金はある癖にこういう処には予算が廻って来ませんからねー。  ちゃぽん。  気持ちいい。  日本式のお風呂も最初は違和感ありましたけど、馴染むといいものですねえ。  ほうっと溜息などつきながら首までお湯に浸かる。  温泉なんかも風情があって良いと聞いてますし、今度遠野くんと行ってみた いですね。  それにしても、遠野くん、ずいぶんと自分の体だとがしごしと乱暴で速い洗 いっぷりですね。  ……。  こうしてあらためて見るとけっこう良い体つきしている。  特に運動とかしてないし出来なかった訳ですけど、均整がとれて男の子から 青年になる間の微妙な若々しさが……。  ついつい、目の前の遠野くんの肢体に見入ってしまってる。  まだ、ロアと関わった時の傷が残っているんですね。  私がつけた傷、ロアと戦ってつけられた傷、やがて消えるものもあれば、胸 の傷の如くおそらくはずっと痕として残る傷もある。  普通の高校生はそんな傷を負う目にはそうは遭いませんよね。  その生まれも、育ちも、後天的に得た直死の魔眼も、遠野くんを平穏には生 きさせてくれなかったかもしれないけど、もっと普通に生きる選択もあり得た と思う。  ちょっとしんみりとそんな事を考えてしまう。  遠野くんは自分の事、将来の事をどう考え……。  ……ふうん、遠野くん、おちんちんはそうやって洗うんですねえ。  他の箇所同様、タオルで(さすがにゆっくりと力は抑えて)洗ってから、手 で改めて丁寧にきれいにするんですか。  そうですね、先端のほうなんか敏感ですし、ゴシゴシやる訳にはいきません よね。  今みたいな可愛い状態じゃなくて、勃ってる時なんかはどうするんでしょう。 「……ぱい」 「シエル先輩」  へ? いつの間にか遠野くんが股間を手で抑えて真っ赤になっています。 「何、人のこんなところじいーっと見てるんですか」 「いえ、面白いなあって。ごめんなさい」 「さっきは自分だって嫌がってたじゃないですか」 「そうでしたねえ」  遠野くんは、向きを変えてしまった。ちぇっ、遠野くんのけちんぼ。 「そう言えば遠野くん、さっきの続きですけど」 「うん、何?」 「じゃあ、遠野くん、別にお尻にばかり固執している訳ではないんですね?」 「うん」  それでは……。  前から疑問に思っていたのだけれど……。  ひそかに内心悩んでいたのだけれど……。  聞いてみようかな。 「もしかして、私の、その……、前の方……」 「前の方……?」 「だから、その私のええと、前の方の谷間というか花園と言うか、端的に言う と穴ですけど……」 「シエル先輩、何を……。それが、どうしたの」 「遠野くん、満足してないんじゃありませんか? 物足りないとか、気持ち良 くないとか、締りが足りなくてあまり感じないとか、それで仕方なくお尻の方 ばかり……」  遠野くんがこちらを振り向く。  あ、呆れ顔。  だって、気になるんだもの。 「何を言うかと思えば。先輩のがゆるゆるだとか、締りが無いとか、がばがば だとか、入れても全然面白くないとか、先輩のに入れるくらいなら手でやって る方がずっとマシだとか……」  そこまでは言っていません。 「……そんな事ある訳無いでしょう。いつもあれだけきつきつに締め付けてく れるのに。あれよりきつかったら入れるだけで一苦労で、何もしないうちに終 わっちゃうよ。それに中に入れると周りの襞が吸い付いてくるみたいで、気を 抜くと暴発しそうになるし……、何を寝ぼけた事言ってるんですか」  突然の力説に圧倒される。  遠野くんは一息ついて、我に返る。二人して顔を赤くしてもじもじとして目 を逸らす。 「ええと、俺も比較対象が無いのでなんとも言えないけど、先輩の中って暖か いし気持ち良いし、先輩と一つになってると思うと、その……、それだけで幸 せだけど」  うわあ、遠野くんがこんな事言うなんて珍しい。  うう、目があわせられません。 「……それとも、それって遠まわしに俺のが小さすぎて、入れられても存在感 がありません、と文句言われてるのかな、もしかして」 「遠野くんこそ、あんな凶悪なのおったてて人をさんざ苛めておいて。いえ、 その、ごほん。……不安になる事があるんです。私なんかで遠野くん満足して くれてるのかなあって。遠野くんの周りには秋葉さんとかメイドのお二人とか、 可愛い女の子いっぱいいるし」 「そんな事言ったら、俺の方こそ先輩をちゃんと喜ばせてるのか疑問に思う事 があるよ。先輩優しいから、そういう振りをして俺を傷つけないようにしてい るだけなんじゃないかな、と思ったり」 「私、ただ遠野くんが力いっぱい抱きしめてくれるだけで、幸せですよ。他の どんな上手い人に抱かれても、あんなに感じませんよ、きっと」  遠野くんがおいで、と手招きする。 「俺だってシエル先輩だから」  湯船から出かかって片足を下ろしてもう片方をあげた処で遠野くんが後ろに 回って体を押さえた。 「こんな事も平気で出来るんです」  え、何?  あ、お尻の谷間が手で開かれて、ああ、舌で、舐められている。 「ちょっと、遠野くん」  ちろちろと舌先でつついて、指で開いて潜り込ませる。  せっかく洗ったのに、これではまた。  ……。  うん、でも気持ちいい。  好きだから、こんな事できるんだって遠野くん言ってくれた。  それに私も好きだから、こんな事を彼に許しているし、気持ちよくなってい る。  それではもし……。  もしも……。 「遠野くん、ここではやめましょう。またガラス戸を割りそうになるのも嫌で しょう。  お風呂出て、ベッドまで行って続きを」 「そうだね」  体を手早く拭きっこして、またキスしたり体に触れ合ったりしながらベッド に向かう。              §  §  § 「ええと、遠野くん、ちょっとしてあげたい事があるんです」 「え、何?」  上になろうか、下になろうかなどと思案していたらしい遠野くんが、機先を 制されてとまどった声を上げる。  今二人してベッドの上でお行儀悪く足を崩しいてる状態で向かい合っている。  ニコリと笑って膝で立ち、遠野くんににじり寄る。  トンと遠野くんの肩の一点を突くように押す。  僅かな力だけど、重心の要に連なるバランスが崩され、倒れる遠野くん。  肩を突いた右手をそのまま、胸、お腹へと滑らせ、軽く圧力を加え続ける。  同時に、左手を遠野くんの膝に差し入れ、上へと払う。  すっと宙に浮いた遠野くんの両足の間に体をすり入れる。  言葉にするとくどくどとした感じになるが、要は遠野くんを押し倒したので ある。 「な、何をするんだよ、シエル先輩」 「いいから、じっとしてて下さいね」  そう言いながら両足を掴んで前に押す。遠野くんからすれば背で体重を支え て体を二つ折りにされている状態。  すごい眺め。  遠野くんのお尻からおちんちんの裏までが目の前に晒されている。  普段、遠野くんにこんな格好させられてるんだ……。  自分の姿を想像してみて少し赤面。 「ちょっと、先輩、恥ずかしいよ、こんな格好」 「遠野くんは、私に対しての愛があるから私のお尻を舐めたり、いじったり、 挿入したりできるし、その行為に喜びを感じるんですよね」 「は、はい」 「私も、遠野くんへの愛があるからその行為を受け入れるし、喜びを感じちゃ うんです」 「……」  遠野くんが、不安げな顔をする。  何か嫌な予感がしたとでも言うように……。 「愛ある二人だからこそ成り立つ関係。一方通行ではない交感。ならば、遠野 くんと私は愛し合っているんですから、役割を交換してもその関係は成り立ち ますよね?」 「交換……? まさか……」 「そうです。私が遠野くんに……」 「冗談だろ、先輩」 「本気ですよ」  言いながら、遠野くんのお尻の穴を人差し指でちょんちょんと突付く。 「ここを可愛がってあげますよ」  遠野くんが硬直しているうちに、太ももをがっしりと押さえつける。  密接する肩や膝にも微妙に力を加え、抵抗不可の状態を作り出した。 「まずはキスからですかね」  顔を近づけくすんだすぼまりに舌先で触れる。  遠野くんからひいっと言う悲鳴が洩れる。  気にせず舌先を動かしチロチロと盛り上がった辺りを縦横無尽に探索すると、 面白いように遠野くんは反応し声が上がる。 「や、やめてよ先輩。そんな処汚いよ」 「さっき綺麗にしたばかりでしょう? それに私、遠野くんのだったら全然平 気ですよ」  ついでディープキスに移行。  指で少し開きながら唇を合わせて、舌を差し入れる。  さすがにきついですねえ。  ぎゅっと締まる狭道をほじるように、唾液を潤滑油として舌を尖らせてみり みりと進入させる。  少し異臭。それでも構わず舌を奥深く入れて内部を舐め回す。 「うわあ、変な感じ。嫌だ、先輩、もう許して。ああ……」  息も絶え絶えといった風情の遠野くん。  まだ、始まったばかりですよ。  それでも、遠野くんの言葉に従い舌を抜く。  入れた時以上に抜く時に、遠野くんの押し殺したような息が洩れる。  わかりますよ。ちょっと変な感覚があるんですよねえ。排泄感覚にも似た……。  確かに自分はここまで相手に奉仕できるんだっていう被虐感の混じった快感 がありますね。それに相手に悲鳴をあげさせるのも嬉しいし。  遠野くんのを咥えておかしくなるまで追い詰めるのとはまた違った感覚。 「もう、気が済んだでしょう。先輩、なんだか体が変だよ」 「は? 何を言っているんです。やっと遠野くんのここほぐれてきたんじゃな いですか」 「まだ、まさか今度は」 「次は指ですよ」  言うが早いか指を動かす。  ズブリ。 「うわあああ」  必死に身を捩ろうとするが、ほとんど動きが取れない。取らせない。 「やめて、お願い、シエル先輩。謝るから……」 「謝るって、何をです。私は遠野くんを愛しているだけですよ」  第一関節、第二関節……、はい、根元まで入りました。 「それほどは辛くないでしょう。前もって準備しておけば。私にいつもしてく れるけど、遠野くん味わってみてどうですか?」  大きな動きはせず、少し押しては力を抜くという刺激を断続的に与える。 「ううっ、なんか熱いよ」 「そんなには嫌じゃないでしょう。それとも私なんかに大事な処触れられるの は気持ち悪いですか」 「そこまでは言わないけど、変だよ」 「動かしますよ」  きついけどほどよくほぐれています。  ずずっと指を抜きかけてはまた奥深く差し入れる。  遠野くんの耐えている表情がたまらない。  ついつい、リズムを変えてみたり、中で指を曲げてみたり、違った刺激を与 えて反応を楽しんでしまう。  やっぱり抜く時の動きが違和感を与えるみたいですね。  とびきりゆっくりと指を抜いていく。  完全に抜いて、ティッシュでねとねとになった指を拭うと、ほっとした遠野 くんが顔をする。 「もう満足しただろう。シエル先輩……」 「はい、堪能しました」  前戯はね……。 「先輩……?」  体の自由を奪ったままで解放しない私に遠野くんが不安の色を浮かべる。  少々神経集中の時間が必要なんです、次の事するには。  ちょっと気を逸らして貰いましょうか。 「遠野くん」 「なに」 「錬金術とか魔術の領域では、いろいろ変わったものが必要なんです。童貞の 精液と処女の経血とか、死者の精液とかいった類のものが必要不可欠となった り」  遠野くんの顔に疑問符が浮かぶ。  突然何を言い出すのだろう。そんな表情。  まあ、時間つぶしの雑知識ですから、聞いてて下さいな。機械的に話してい て、大部分の神経は己が内に向かってますので、きちんと話せてなくても許し て下さいね。 「そんな類いの材料やら触媒の一つで、なるべく近しい血を持つ男女の精液と 愛液なんてのを求めるケースがありましてね。まあ、親兄弟とかですね。都合 よく協力者とかいれば良いですけど、魔術師なんてのは家族や俗世のしがらみ を捨てて偏屈に暮らしてたりしますから、そうそうはまっとうな手段で手に入 らない訳です。  それではどうするのか。自分の探求行為が世界で一番の重要事と思っている ような壊れた連中は、双子の兄妹をかどわかして研究に使用したり、その為に 自分の子供をつくって酷い事をしたりなんて所業を行う事があるんです。だか らモラルの府たる教会に睨まれて魔術師は排斥されたりするんですね」  あっ、廻ってきた、廻ってきた。自分でするの初めてだけど、こんなのまで 身についているんですね、ちゃんと。不本意ですけど……。 「それだけ苦労しても、その材料に不満があったりしましてね、それで彼らは いろいろ試行錯誤したんです。そして名前が残っていないある魔術師が一つの 方法を思いついたんです。まあ、天才的な発想ですね。何だと思います?   それはね、自分自身を使用するという自己調達なんです。男は女になる事で、 女は男になることで自分自身から両方の材料を得る、確かにこれ以上近しい存 在はありませんよね。実現性云々より、そういうアイディアを思いつく事が物 事を成す始まりとなる訳ですから」 「でも、そんなの無理じゃないか。男が女になったり、その逆だったり。外見 だけならともかく」 「そうです。外観を変質させても、中身が伴わないと意味無いですね。  今ならばクローン技術とか使って凄いことが出来ますけどね。  でも限りなく近い処までは近づけたんです。例えば女が男になる場合は、き ちんと男性器を備えて、擬似的な感覚器官まで備えてね。まあ、どちらかと言 うと当初の目的を逸脱して快楽追求の果ての結果みたいですけど。  で、これがその魔術研究の成果ですよ、遠野くん……」  体の中で廻していた力を発動させる。  体内に女性には不要な器官が形成され、活動し始める。  陰核がみるみる変貌を遂げ、膨らみ巨大化して、さながら男性の性器の如き 姿に変わった。 「な、な、な、何それ」  遠野くんが絶句している。  まあ、目の前でこんなもの見せられたら普通の人は驚嘆しますよね。  私もさんざ昔見た経験はありますけど、あんな、駄目、昔の記憶遮断。   「まさか、まさかシエル先輩、まさか?」 「そのまさかですよ」  遠野くんの目が大きく開かれる。  なんでそんな怯えてるんです。  ますます可愛がりたくなるじゃないですか。  さりげなく手を離す。  遠野くんは慌てて後ずさり、体を転がして私から逃げようとする。  ああ、そんな慌てるとベッドから転げ落ちますってば。  それにね、後ろ向いてお尻上げてくださいねなんて言っても、協力してくれ ないでしょうから、あえて自分で体勢を変えてもらうんです。  そうです、その体勢で膝の後ろを押し込んで、肩の線を掴むと、動けなくな るんです。  後は腰を引っ張ってと。 「ええと、遠野くん。歯食いしばらないほうがいいって話ですよ。口で息をし たほうが痛くないっていう話ですから」 「先輩、冗談だよね。まさか本気でしようなんて思ってないよね」 「とにかく力入れないほうが楽ですよ、私の経験からすると。息を大きく吸っ て吐いてして下さい。呼吸に合わせて挿入しますから……」    あ、そうだ少し濡らしておいた方がよいですね、こちらにも。  口に唾を溜めて上からたらーっと垂らす。  ペニスを遠野くんのお尻にあてがう。  ドキドキする。  遠野くんは観念したのか、放心しているのか力が抜けている。  遠野くんの呼吸に合わせて……。  めりっといった感じで先端が入り込む。  きつい。少し潜った辺りがゴムの輪の様にぎゅっと締め付ける関門になって いる。 「痛い、先輩、裂けちゃうよ」 「少しの我慢ですよ」  遠野くんの悲鳴にぞくぞくするような快感を覚える。 「遠野、く、ん」  最後は思い切りをつけて突き入れる。  痛いほどの締め付け。  ……入ったあ。  遠野くんの、遠野くんの、 「遠野くんの処女を貰っちゃいました……」  うふふふふふふ。  嬉しいです。  ゆっくりと遠野くんの中で動く。  肉体的にもさる事ながら、精神的に涙が出るほど満たされる。  いつもとは違った形で遠野くんと一つになっている感覚。  それにその、何と言うか……、遠野くんを征服したような喜び。  ぎゅっと遠野くんの背中に密着して抱きしめる。  ん?  これは……。 「遠野くん、感じてくれてるんですね」  手に当たった硬い感触。  いつのまにか遠野くんのおちんちんは、大きく硬く勃っちゃっていました。  そうっと握ってゆるゆると上下にすり動かしてみる。  ピクピクと反応しています。  凄く熱い。 「初めてでこんなに感じちゃって……、うふふ。おちんちん、びきびきですよ」  かぷ、と耳たぶを軽く噛む。 「だ、め。先輩、やめて……」 「遠野くんのここは、そんな事言っていませんよ」  ぬるぬるが滲み出ている先端を人差し指で突付く。そして塗り広げるように 指を動かす。 「ああっ、ダメだってば。もう我慢が……」 「お尻犯されてイクんですか、遠野くん」  言いながら手の動きを早める。 「ああっ、」 「イっちゃいなさい」  耳元で囁き、舌を耳の中に差し入れる。  遠野くんを握り締めたまま、親指でくびれを刺激し、人差し指を鈴口にねじ 入れる様に動かす。  びちゃ、と遠野くんが放出する。  手に熱い飛滴が弾ける。 「気持ちよかったですか……?」 「うん」 「遠野くん、女の子にお尻を捧げて最後までイったんですよ」 「苛めないでよ」 「うふふ。でもね、遠野くん。もう少しだけ我慢してくださいね」 「何を」 「遠野くんはもう終わったでしょうけど、私はまだなんです」  そう言うと腰を動かす。 「本当の精液じゃないですけど遠野くんのお腹をいっぱいにしてあげます」  血と体の分泌液の混合体だからちょっと不気味ですけどね。色とか。  時間かければ本物の精液も形成出来るんですけど。  ずっずっと動きを早くする。 「おやおや、遠野くんったら」  1回じゃ満足できなかったんですか?  白濁液でどろどろの手でまた、遠野くんを弄ぶ。  さっきとは違った感触で遠野くんのおちんちんを擦り上げる。 「シエル先輩、出したばかりで敏感になってるから、そんなに強く」 「聞こえませんねえ」 ただただ肉欲の命じるままに腰を動かし、空いている手、舌、胸で遠野くんを 刺激し、その痴態を存分に堪能する。  精液だけでなく、私の秘裂からこぼれる愛液をすくっては遠野くんのおちん ちんに塗りたくる。幹や膨らんだ先端だけでなく、袋のほうにも手を伸ばして ゆるゆると揉みほぐす。 「もう、ダメだよ。おかしくなる……」  だから聞こえませんてば。  もう少しだけ待ってください。  女としての絶頂とはまた違う、刹那的な爆発が近づいてきています。  狂ったように腰を打ちつける。 「遠野くん、一緒に、一緒にイって下さい」 「ああああ、また出ちゃうよ……」  どく、どく、どくっ。  遠野くんのお腹の奥深くに爆発させる。  同時に、遠野くんもさっきと同じぐらい大量に精を放出した。  気持いい……。  目も眩む様な快感。  魂ごと放出したような喪失感。  ぎゅっと遠野くんを抱きしめて余韻をかみ締めた……。            §  §  §  はあ、すっかり欲望に身を任せて羽目を外してしまいました。  私って理性のタガが外れると普段の反動で前後の見境なくなるから……。  今のは、さすがにまずかったかなあ。  最初はあくまで愛ある行為だったんですけど。  高揚感が消え去っていくと、後悔する気持ちが代わりに。  いえいえ、ちゃんとした愛の交歓だった……、筈。私一人が楽しんだのでは なくて、遠野くんだって一緒に気持よくなってくれたんですから。  でも、その……。  遠野くんの姿を見ると……。  その、部屋の隅で毛布で体を隠してうずくまっているのを見ると……。  ううっ、涙すら浮かべて震えている……。  ちょっと雨に打たれた子犬といった風情。 「あの……、遠野くん……」  反応が無い。 「遠野くんてば……」  近寄って視線を捉えると、ぷいと横を向かれる。  ちょっと、まずいかな。  肩に手を触れる。 「ねえ、話を」  毛布から出た手に私の手がはらわれる。 「シエル先輩なんか嫌いだ……」  うわ、本当にまずいです。  これは、どうしましょう?  素早くどう対応するか考える。手持ちのカードを見るが、ろくな手札が無い……。  ここで下手な手を打つとこじれちゃいそうだし。  案1「ひたすら謝る」  無難ですけど、遠野くんの性格だと逆に拗ねてしまいそうですし……。  平謝りして許しを乞うなんてのも良いですけど。  案2「開き直る」  うーん。 「普段遠野くんがしてる事をしただけじゃないですか。何傷ついた顔してるん ですか?」 「うわーん、先輩の馬鹿。だいっ嫌いだーーー」フェードアウト。 「遠野くん、ズボン忘れてますよ」  駄目ですね。  案3「もう一回襲い掛かってうやうむやにする」 「やめて、もう嫌だ」 「ふうん? 遠野くんのここはそんな事を言っていませんよ。口では嫌がって も体は正直ですねえ」 「ああ、またこんな事……」  あ、いいかも。でもちょっと……。終わったらまた元に戻りそうだし。  まあ、からめ手でいきましょうか。臨機応変で。  まずは哀しげな表情。  少し伏せ目がちに、かつ強張った表情。手を組む仕草なんかも重要ポイント。 「遠野くんに嫌われちゃった……」  台本でも読んでるような棒読み口調。  目は遠野くんから外して、自分自身に言い聞かせるように。 「仕方ないですね……。あんな事してしまって……。軽蔑されて嫌われて、許 してなんてもらえません……よね……。こんな事で遠野くんを失ってしまうな んて……」  語尾を振るわせる。  視界の隅で遠野くんがこちらを見てるのが映っている。  うんうん、脈あり。  その視線をとらえる。  あえて笑顔。  それだけ見ればまったく不自然さが無いが故に、遠野くんであれば逆に不自 然だと気づいてくれる笑顔。 「ごめんなさい、遠野くん……」  手の届かない遠くを見る目でじっと遠野くんを見つめて、しばらく間を取る。 「今までありがとう……」 「ちょっと、シエル先輩?」  遠野くんの少し慌てた顔。  そう素直に……、そこが可愛い処ですけどね。  でも、私の勝ち。 「短い間ですけど楽しかったです。私みたいな普通じゃない女の子とお付き合 いしてくれて嬉しかった。私、遠野くんの想い出は絶対に……」 「何言ってるんだよ。シエル先輩」 「何って……、遠野くん私のこと顔も見たくないでしょう。遠野くんの心を傷 つけて。無理もありません。だから」 「待ってよ。今のは言葉のあやと言うか、本気で嫌いになんてなってないよ」  表情を意識して変える、までもなくその言葉で自然な笑みがこぼれる。 「ごめんなさい、遠野くん」 「いいよ。うっ」  立ち上がりかけて顔をしかめる。 「お尻が痛いんでしょう」 「うん」 「心の準備も出来てないのにされたんじゃショックだし、いくら愛情表現でも 無理やりっぽくてちょっとみじめになりますよね?」 「うん」 「お尻に出されたのが逆流して出てきそうになるのも、変な気持ちですよね?」 「うん」 「でも、お尻を犯されていて、痛くて苦しいだけじゃなくて、なにかもやもや とした気持ちよい感覚があったでしょう?」 「うん、じゃなくて何言わせるんだよ」  ちょっとむくれ顔。   「そうですか? ぜんぜんまったく快感がなかったですか? 私なんかにお尻 の穴弄られたり入られたんじゃ気持ち悪くて嫌悪感しかなかったですか?」 「それはそのう……、全然気持ち良くなかったと言ったら、違うけど。体が、 というよりシエル先輩に無理やりやられちゃってるんだと思ったら、その……。  先輩、何ニヤニヤしてるんだよ。怖かったし嫌だったのは本当なんだから」  いけない、いけない。 「ごめんなさい。……お詫びに今度は遠野くんに、好きなことさせてあげまし ょうか」 「好きなこと……?」 「痛いのとか、外で恥ずかしい真似をさせるとかだったら、きっぱりお断りし ますけど。普段頭の中では考えてるけど嫌われそうで言い出せない事とかあっ たら、今日だけ黙って遠野くんの思いのままにさせてあげたり、してあげたり しますよ。前でも後ろでも。あんな事をした、お詫びと言うかお仕置きに。  まあ、そんなのがもしあれ、……あるんですか」  遠野くんの瞳が、欲しかったオモチャを買ってもらえると言われた子供のよ うに輝いている。  嫌な子供だこと……。  今日は二人ともどこかおかしいけれど、たまにはこんな狂った夜もいいです よね。  さて、遠野くん夜は長いですよ。  何を望むんですか。  ふむふむ。  ええっ、それはまた……、さすがに普通の時には好きな人には言えないです よねえ。  遠野くん、そんな事普段考えていたんですか……、はあ。  大丈夫。今夜だけはOKです。  アレは部屋にあったかなあ。  本当にやるんですよね?  大丈夫ですよ、それで嫌いになったりしませんから。  ゆっくりと楽しみましょうねえ。    でもやっぱり普通じゃないですよね、私たちって……。  それでも、愛していますよ、遠野くん……。   《FIN》     ―――あとがき  なんか他の方々の足して何十倍にも薄めて作ったみたいな出来。特に春日て いるさん、気を悪くされたらすみません。  たしか書き始めは何か「おおっ、今ならすらすら書けるよ」といった気分だ ったのですが、結局難産でした。シエル先輩はこんなのばっかり。  前回(裏秋葉祭)の反省をふまえて、今回は量より質、独り善がりはやめる をモットーにしてたんだけど、変化ないですね。また質より量か……。  意外とあなーるぷれい関係が皆さん手薄なので、手を出してみました。  それと、秋葉ふたなり物書いた時に、多くの方に「何故最後までやらない、 チキン野郎め」と叱咤いただいたので、補完を。  ……志貴の花が散らされる処じゃなくて、秋葉×晶ちゃんとか、×翡翠とか を書かない所を駄目出しされてたような気もしますが、まあいいや。  タイトルは紀友則の有名すぎる短歌より。「花の散るらむ」と続きます。  念の為。      BY しにを  (2001/11/25)  古守久万さんに続きを書いて頂きました。こちらです(2002/7/5)
二次創作ページへ