久々の逢瀬、ほんの些細なひとときであったけれど、ようやく一緒になれた時間。  そんな時に眠りこけている男に対してどうすればよいだろうか。  藤乃にはわからない。  起こしてはいけないと思う。  ずっと眠ってしまわれるのは困る。  けれど、幹也の安らかな寝顔を眺めていると、それでもいいかなと思ってしまう。  考えてみる。  鮮花ならどうするだろうかと。  式ならばどうするだろうかと。  もしそんな質問をしたらと藤乃は頭に思い浮かべた。  そして答えをすぐに得る。鮮花ならきっと「起こすわよ」と言うでしょうと。  目に見えるようだった。  わたしが訪ねているのに、寝ているなんてとんでもない、そんな台詞が耳に聞こえそう。  それはきっと嘘ではない。  鮮花なら、そう考えるだろう。  でも、この部屋で愛する兄と二人であれば、実際にはそんな事はしない。  文句は言うかもしれない。  でも、それ以上に内心を示す優しい眼で見つめているに違いない。  少なくともしばらくの間は。  式ならば、どうだろう。  少し首を傾げる。  藤乃にはまだ、式という少女は掴みきれていない。  どんな顔をするだろうか。どう動くだろうか。はっきりとはわからない。  鮮花とは違って、無造作に揺り起こす気もする。  でも、疲れもあって眠っている幹也を、そのまま許容する気もする。  仕方ないなという顔をして、横に並んで眠ってしまう姿がちょっと思い浮かんだ。  そうしたら幹也さん、起きて吃驚するでしょうね。  くすりと笑う。  そんな真似は式にしか出来ない。自分も鮮花も多分そうはしない。  想像の式をちょっと羨ましく思う。  では、自分なら?  さっきから、幹也の枕もとに座っているだけの自分は?  これから何をするのだろう。 d   「こんなに、藤乃は……、藤乃はこんな事をしているのですよ」  膝立ちで、幹也の顔を跨ぐようにしている。  寝ている幹也の目は、まっすぐに太股の奥に向けられる。  目覚めているのであれば、どれだけ羞恥を誘う体勢だろう。  初めてではないとは言っても、自分からこんな真似をする事に少しの驚きを感じていた。  いつもは……、ああ、いつもも、わたしが自分でしているけれど。  軽く睨む表情を幹也に見せるが、それを上回る愛情ゆえにまったく効力はない。 「見て下さい、幹也さん」  太股が形作る三角形の角度が増す。  両の手が、その付け根に伸びる。  幹也の指で弄んだ、花びらに触れる。  大陰唇により閉ざされた溝は、今は開いていた。  白い肌に、薄桃の花開く様。  中には鮮やかな紅。  指に、こぼれ出た露。  藤乃の指がさらに、そこを広げる。  中指と薬指とが、そこをくつろげていく。  重なり合う花弁の奥。  粘膜の中の小さな窪み。  それだけを見れば、さらに奥まで続いているとは思えない。  そこを探る藤乃自身の指でさえ潜り込めるとは思えない。  しかし、そこにさきほどまで幹也の指が入り込んでいた。  拭われ、舐め取られてはいるが、幹也の右手を見れば、二本の指がまだ湿りを帯びているのがわかる。  挿入して、襞を掻き分け、奥を軽く突く。  感じぬ筈の体を痺れさせ、声を洩らさせる。  こぼれかけていた藤乃の分泌液を、とろとろと流れ落ちさせた指。  いつものように。  このうえなく優しく、そして意地悪に。  甘く、そして辛いほどの刺激を与えて。    とはいえ、今日に限っていれば、そうしたのは幹也ではない。  幹也の手を取り、自らの性器に導いたのは藤乃自身。  眠ったままの幹也に咎はない。それが咎であるのかは別として。  わずかに、おなじみの感触に反応はしたけれど。  温かく濡れた膣道のぎゅっと締め付ける歓待の様に、指が無意識にきゅっと曲がった。  ただそれだけの動き。  柔らかい壁の肉を軽く引っ掻き、藤乃に思わぬ刺激を与え。  かくんと藤乃を突っ伏させそうになっただけ。        膣内から出た幹也のものは、まだ硬度を保っている。  それでも、一番大きく膨らみ、体内で弾けた時よりは小さくなっている。  ぬるぬるとした先端から付け根まで。  自分のこぼした膣液にぬらぬらとしている様を、藤乃は恥ずかしさをもって見つめる。  今しがたの淫行の証、情欲の深さを示しているようで。  同時に、嬉しさをもって赤みのある肉幹を見つめる。  やや白みを帯びた透明の液だけでなく、幹也は彩られている。  愛液とは明らかに違う、完全なる白。  藤乃の中に迸らせた精液。  その残滓が、丸みを帯びた先端や、幹にところどころ付着していた。  それに先端からはまだ、染み出ているのだろうか。  ふたつの腺液の混ざった様は、ある意味無残であったが、藤乃は嫌悪なく視線を向けている。  両方の手が伸びた。  幹に触れる。  白く細い芸術品のような指。絵であれ彫刻であれ、惚れ惚れと見つめられそうな手の形。  それがまみれる。粘性のある液にまみれる。  ねちゃりと指に液がつくのを、藤乃はまったく気にしていない。  むしろ嬉しそうにすら見える。  指の腹に幹也の白濁液をまとわせ、自身の膣液に濡らして、藤乃は手でそっと幹也に触れた。  指先で包むようにして、幹也の性器に触れている。  その行為に堪らない喜びがあるように。  指に伝わる何ものかを愛しむように。 「ずるいです、幹也さん」  指が動く。  幹にそって上下に。 「わたしは起きていても、まだあまり感じないのに……」  爪が、筋を這う。  指の腹がくびれをなぞる。 「眠っているのに、こんなに感じてしまうんですもの。  そして、動いてもくれないのに、わたしを最後まで……」  唇が幹也の肉棒に触れた。  指についたのと同じ性交の残滓が付着する。  瑞々しい唇にさらなる湿り気を与える。  むっとするような男の、そして女の匂い。  端的な絶頂の後の生々しい匂い。  それを厭わない。喜んでいる。  唇を触れ、間近に嗅ぐ匂いを、喜びを持って堪能している。  さらに、可憐な唇から、小さく舌が覗いた。  ぺろりと小さく動く。  仔猫か、子供のような仕草。  楚々とした少女には似つかわしくない行為。  しかし、誰か見ている者がいれば、逆に激しい魅力と目に映っただろう。