「いいわ。見ていて。翡翠、七夜。私が、兄さんのものになるところ……」

 志貴は、覚悟を決めて秋葉の体にかぶさる。
「痛かったら言えよ、秋葉。無理はしなくていいから」

 笑って秋葉は頷いた。
 志貴は一度だけ迷いとも後悔ともつかぬ表情を見せて、次の瞬間、暖かい笑顔に戻った。
 少し腰を浮かせて手を反り返った分身に添える。
 痛いほど強ばったそれの先端を、秋葉のトロトロに蕩けた処にあてがう。

「いくよ、秋葉」
「はい、兄さん」

 柔らかい柔肉の中心に触れ、挿入を始める。
 最初だけは、秋葉の潤いの助けで進めたが、いきなり狭くきつい感触が志貴を阻む。
 強引に進みかけるが、秋葉の痛みを堪える顔に躊躇いを覚える。
 秋葉は健気にも声を押し殺している。

「秋葉……」
「大丈夫です、兄さん」

 全然、大丈夫そうじゃないよ、秋葉。
 そう言いたくなったが、ここで止めてしまう方が惨い行為だと分かっている。
 シーツをきつく掴んでいる秋葉の手を取り、自分の背中に回す。

「……兄さん?」
「痛くなったら、俺の背中でも肩でも掴んで、思いっきり爪を立ててくれ」
「えっ?」
「どうやっても痛い思いさせちゃうんなら、せめて秋葉の痛みを分かち合いたい。だから、
遠慮なく俺にも秋葉の痛みを分けてくれ」
「……はい」
 秋葉は素直に頷くと、もう一方の手も志貴の手に回す。

「じゃあ、続きいくぞ」
 一呼吸置いて、力を入れる。

 秋葉を切り裂くような感覚で、狭い道を貫き進む。
 狭さの感触だけでなく、隘路を進むにつれ尋常ならぬ快感が湧いてくる。
 痛みで泣き顔になっている秋葉の事すら、痛々しい、すまない、と思う反面、快感の一部
になっている。

「ツっっ」
 背中に、刺すような痛み。
 言われたとおり、秋葉が爪を立てている。
 痛いは痛いが、己が行っている行為をダイレクトに秋葉に返され、共有しているような感
覚に酔う。

「あ、き、は」
 最後の一撃で、志貴は秋葉の中に完全に入った。
「兄さんっっ」

 じっとしているだけでもそのまま果てそうなほど気持ち良いが、あえて抜き差しの動きに
入る。もう既に限界が間近で、これではどの道長くはもたない。
 ならば秋葉の初めてを、存分に味わっておきたかった。覚えていたかった。
 激しさはない秋葉への気遣いを含んだ僅かな前後の動きだったが、そこから生まれる快感
に、志貴はおかしくなってしまいそうになった。


「秋葉、もう」
「兄さん、ください」
 志貴の様子に終局を感じたのか、秋葉はぎゅっと志貴を抱きしめた。

 こらえようもなく、秋葉の中深く、精を放つ。
 まるで魂も吸い込まれるような快感。
 志貴はそのまま崩れて、意識を飛ばしそうになるのを必死で堪えた。
 秋葉は、志貴を受け止めて、嬉しさのあまり涙をこぼしていた。
 そのまま、二人は見詰め合ったまま、動けなかった。

 しばらく余韻に浸った後、志貴と秋葉はいったん身を放した。
 荒く息を吐いて座り込む志貴の目にじっとこちらを見つめていた二人が映る。
 翡翠は頬を染めながら、どう取ったらよいか判らない表情を浮かべており、七夜は普段よ
り嬉しそうな顔をしている。

「いっぱい出されましたねえ」
「あの七夜さん、ティッシュか何か……」
 急に恥ずかしくなる。秋葉も顔を赤くしている。

「いえいえ、そんな勿体無い。今日は私頂いてませんから」
 そうニコリと微笑むと七夜は秋葉ににじり寄る。
「何を……」
 驚く秋葉の声に七夜は答えない。

 秋葉の弛緩した太股を閉じられない様に抑えると、秋葉と志貴の愛し合った名残にためら
う事無く舌を伸ばす。
 志貴と秋葉の混ざり合ったもの、そこに混ざる秋葉の純潔の紅を猫のようにピチャピチャ
と舐めとる。
 まだ痛みが残る辺りを気遣うように、柔らかい舌使い。

 洩れ出た周りを舐め終えると、指を伸ばし、秋葉の花びらをそっと開く。
「っ……」
「すみません、秋葉さま。まだ痛いですよね」
 そう言いながらも舌だけでなく、唇を秋葉のそれに直接つける。

「志貴さま」
 息を呑んで志貴がその頭がくらくらするような二人の姿を見つめていると、今まで控えて
いた翡翠が志貴に近づく。

「志貴さまの後始末は、私が」
 そう言うと、秋葉と志貴のものでぬらぬらとしたまま衰えず、目の前の光景により強く反
応している肉棒に唇をつける。
 舌でちろちろと拭くように残滓を舐め取り幹をきれいにすると、今度は先端を口に含む。
 まだ、中に残っている精液をちゅっと吸出す。
 刺すような快感に呻き声を上げて、ご褒美と言うように翡翠の髪を撫でてやるが、視線は
また、七夜と秋葉の方に引き寄せられる。

 秋葉に対する奉仕であると同時に志貴への奉仕でもある、という行為を続け、七夜は秋葉
の下の唇から顔を上げた。
 口を閉じたまま七夜は、自分の唇を唐突に秋葉のそれと重ねる。
 秋葉は驚きながらも逆らわず、差し込まれた舌と送り込まれる強い匂いを放つトロリとし
た液体を受け入れる。
 唇が離れ、七夜は自分の口に残ったそれを飲み込み、秋葉を促した。

「志貴さんのですよ。お嫌ではないでしょう?」
 兄さんの……。
 秋葉は志貴の方を見る。
 興奮した面持ちの兄の顔に恥ずかしさを覚えながらも、喉を鳴らしてそれを呑み込む。
 決しておいしいとは言えないものであったが、兄から注がれたものと思うと嬉しさにも似
たものをジンワリと体中に感じる。

 と、志貴にきつく抱きしめられた。
「え、兄さん」
 何も言わず、志貴は己の精液を呑み込んだ妹にくちづけし、舌を絡ませる。
 濃厚なキスを交わす。

 そのまま志貴はまた、秋葉の体を求める。
 脇にどいた七夜が少し物欲しそうな顔で志貴を見つめている。

「七夜さん、続けてで……ごめん」
「お気になさらずに。それより秋葉さまが痛いだけじゃ可哀相ですから……」
 七夜との交感で破瓜の痛みは小さくなっていたが、秋葉にはまだ不安の色が残っている。

 志貴はさっきとうって変わって、ゆっくりゆっくりと入り込む。
 じれったさに耐え難くなりつつも、逆にもどかしさに性感が高まって行く。
 秋葉も痛みと違和感を感じてはいたが、兄と一つになって行く感覚に酔う。

「全部入ったよ。大丈夫か、秋葉?」
「最初とは全然違います。……中にいる兄さんを感じる」
 硬さときつさは変わらないが、少し馴染んだ感触を志貴も感じていた。
 そのまま、動こうとして、気を変える。

 秋葉の背に手を回し、上半身を持ち上げる。
 あぐらをかいた自分の上に乗って足をかけるよう、秋葉を促す。
 素直に言われたとおりにして、秋葉は無言で志貴を見上げる。

「こういう体位だと、秋葉の事もっともっといっぱい抱きしめてあげられるから」
 そう言うとぎゅっと秋葉を抱き寄せる。同時に腰を上下と前後の動きで揺らし、秋葉の体
を翻弄し始める。
 波のように揺られて、秋葉も志貴の背に手を回す。
 動きに慣れてくると、だんだん快感を覚え、志貴の動きに呼応して秋葉は喘ぎ声をこぼす。

 息も絶え絶えになっている妹を見て、少し緩やかな動きに抑える。
「秋葉も動いてごらん」
 ぎこちなく、志貴の背に手を回したまま、志貴の動きに合わせて体を揺する秋葉。
 二人、ゆっくりと動く。
 最初はばらばらだった二人の動きが、やがて同期し、一つの体のように揺れていく。

「なにか、変です。兄さん、んんっ、深い」
 うわ言のように秋葉が言葉をもらす。
 その声の高まりを察して、志貴の動きが速く大きく変化する。

「兄さんーーー」
 一声叫んで秋葉の体から全ての力が抜ける。
 
 

 意識を無くした如く放心した秋葉を、志貴はお姫様だっこをしながらそっと横たえ、今度
は七夜に向かう。

「じゃあ、次は七夜さんだな」
「えっ、よろしいのですか? 今日は秋葉さまを」
「秋葉だけ、特別扱いしたんじゃ意味はないよ。それに、こんなにしちゃって七夜さん、
我慢出来るの?」
 既に一糸纏わぬ姿になっている琥珀からは、明らかな情欲の印が見て取れる。
 白い肌はぽっとピンク色になり、上気した表情をしている。ぴたりと閉じた脚をもじもじ
とさせている。
 
「嬉しいです、志貴さん。……では、こんなのはいかがです?」
 そう言うと四つん這いの獣の姿勢を取り、くるりと背を向け、形の良いお尻を高く上げる。
 少し開いた秘処は既に濡れそぼっている。
 いちばん秘められた部分を自らさらけ出す様に、志貴は目を奪われる。

「何もしなくてもいいみたいだね。もう準備OKなんだ」
 二度目の交合では秋葉の事だけを考えて動いていた為に、志貴は最後までは達せずにいた。
 食虫花の淫香に引き寄せられるように、志貴は膝を立てて七夜ににじり寄り、位置を合わ
せて挿入を始める。

 最初からぎゅっと握られるような秋葉の中とは、まるで違う感触。
 入れる時には抵抗が無いのに、いざ中に進むとじわじわと襞か締め付けてきて、気がつく
と身動きが出来なくなる。
 捕らえたまま、中の襞一つ一つが獲物を咀嚼するように動く。


「くっ……、凄いよ、七夜さん」
 ゆっくりと抜き差しを開始すると、志貴を束縛した七夜の内部が動きに抵抗し、より大き
い快感を生み出して行く。
 くちゅりとした水音。
 とろりとこぼれた蜜が七夜と志貴を濡らす。

「いやらしいなあ、七夜さんは。こんなにしちゃって」
「ああ、酷いです。志貴さんだから……」
 顔は見えないが、恥ずかしがっているのが分かる。
 深く突き入れて動きを止める。志貴は上半身を白い七夜の背中にかぶさるように密着させ、
ふくよかな胸に手を伸ばした。

「柔らかくていいなあ、七夜さんのは」
 むにむにと胸を揉むと、不意打ちに七夜は悲鳴をあげる。

「七夜さん、こっち向いて」
 舌先を突き出すと、七夜も舌を伸ばしチロと交差させる。そのままくちづけする。
 口内遊戯に意識を向けさせておいて、今度は志貴は指先を繋がったままの七夜の秘処に伸
ばす。膨らんだ突起を押すように、こするように刺激すると、七夜は上半身を崩して、布団
に頭を埋めてしまう。
 志貴はまた上半身を起こして、腰を打ちつける動きを再開する。

「七夜さん、本当に攻めと受けで、まったく別人みたいになるね」

 もっと苛めて、いや喜ばせてやろうと思い、ふと七夜と自分の結合部の上に目が止まる。
 普段は目につき難いが、上下反対になった今は目の前にある、七夜の後ろのすぼまりに。
 人差し指を七夜の蜜液で濡らすと潤滑油替りにして、その穴に突き入れる。
 きつい締め付けに構わず爪先から第一関節まで潜り込ませてしまう。

「な、ちょっと志貴さん、何なさっているんです。やだ、そんな処いじらないでください」
「この前は、涙浮かべるほど嬉しがっていたじゃないか」
 きゅっと力を入れたのか、志貴の指がより強く締め付けられる。

「そんな事ありません。どうして秋葉さまには、あんなに妬ましくなる程お優しかったの
に、こんなに意地悪なさるんです」
「ふうん、そんな事言うんだ」
 指に力を込めてズブリと根元まで入れてしまう。
 嫌がっているのに、いや嫌がっているからなのか、指の動きに伴い、志貴を包んでいた柔
肉がきゅっと収縮して圧迫感が増す。

「すごい。七夜さん、気持ち良すぎるよ」
 そう言いながら大きな抜き差しでなく、深く突き込んで小刻みに揺らす動きをしながら、
差し込んだ指をうねうねと動かす。
 呼応するかのような柔肉の動きが、志貴を高ぶらせる。

「あ……、駄目。く、る……。し、き、、さん、やだ」
「まだ、早いよ。七夜さん」
 絶頂が近いと見て取って、名残惜しげに指を抜く。少し広がったすぼまりが、すっと閉じ
ていくのが志貴の目に入る。

「じゃあ、少し趣向を変えようか」
 七夜の腰に手を回して抑え、足を前に動かさせながら、自分は腰を落とす。
 ちょうど先程秋葉を抱いた体位と同じような姿勢に移行する。ただし向かい合っていた秋
葉と逆に七夜は背を向けてつながっている。

「さて、と」
 七夜ともども小休止しながら、さっきから志貴に構ってもらえず、物欲しげな色を浮かべ
ているように見える翡翠に声をかける。

「翡翠」
「はい、志貴さま」
「ちょっと七夜さんの前に来てよ」

 ほぼ全裸の志貴達の中にあって、翡翠だけまだメイド服を着たままでいる。
 志貴の趣味である。

「こういう体勢だと、七夜さんがどうなっているか俺には見えないから、教えてよ」
 ちょっと訝しげな顔をして、翡翠は志貴を見たが、そういうプレイなのだろうと悟る。
 こういうちょっと意地悪モードに入った彼女の主人は、交わりながら翡翠に、どんな状態
にあるのか口に出して説明させ、羞恥の様を楽しむ事がある。
 目の前の姉の痴態を口にするというのは自分の事以上に抵抗があるし、七夜にとっても恥
ずかしい行為である。だからこそ、それを楽しみたいのだろう。

「どこから説明致しますか」
「じゃ上から。七夜さん今、どんな顔をしている?」
「軽く、イったみたいで少し放心して幸せそうです。口元が緩んでいます」
「ふうん、だらしないなあ、七夜さん」
 
「あまりいじってやってないけど、胸は?」
 そう言いながら、後ろから乳首を弄り引っ張る。
「胸の先が勃っていて、硬くなっています」

「つながってる処はどんな具合?」
「志貴さまのが挿入されていて、その、いっぱい広がって」
 どう言ったものか翡翠は戸惑う。
 志貴は、翡翠の目を見て、目配せする。

「嫌がってはいないだろう」
「はい。美味しそうに咥えています。志貴さまを離したくないみたいで、あんなに感じて
とろとろに濡れて光って、いやらしい……」
「翡翠ちゃん、何を」
 姉の非難の声がするが、その後ろで志貴が目で促すままに翡翠は言葉を続ける。
 志貴の命じるままに言葉を紡いでいるが、翡翠も真赤になっている。

「クリトリスも、大きく硬くしてしまって、ええと、包皮が自分でめくれそうになってい
ます。志貴さまにいじって貰いたくてたまらないんです、きっと」
 翡翠の声に反応してまたトロリと蜜がこぼれる。
「ほら、また涎を垂らしました。姉さんは淫……ら、んです」
「そうだな。淫乱な七夜さんは、これくらいじゃ物足りないよな。じゃあ、翡翠、すまな
いけど手助けして貰えるかな。前から姉さんを楽しませて上げて」

 頷き、翡翠は姉と志貴がつながっている部分に顔を寄せる。
 どきどきしながら、舌を伸ばし姉の合わせ目の上に輝いている突起をつつく。
「やだ、翡翠ちゃん。そんな駄目」
 悲鳴ではあるが、どこか甘い響きがある七夜の声。

 翡翠は、志貴の動きを邪魔しないように舌先の動きを続け、唇を寄せついばみ、引っ張る
動きを加える。
 七夜が自分の動きで翻弄されるのが、普段と逆転していて翡翠を妖しく高ぶらせる。
 次いで今日はまだ全然構ってくれていない志貴にも意識が向かう。

 志貴の大きくなったものが、七夜の中にすっぽりと埋め込まれているのを見て、その根元
に唇を寄せる。七夜と志貴のこぼれた体液をかまわず舐め取り、
 そして志貴の律動的な動きと共に揺れる袋を手で軽く握り、志貴が苦痛にならない程度に
ゆるゆると刺激する。
 思わず志貴の口から悲鳴が洩れるのに、ひそかな満足を覚える。

「翡翠、それ、気持ち良いけど……、今は七夜さんの方を」
 いつに無く積極的に動いている翡翠の行為に、志貴も暴発しそうになっている。
 翡翠は残念そうに手を離す。

 志貴は荒く息を吐いて一息つこうとするが、今度は背中にぺたりと柔らかいものがはり
つく。
 秋葉が後ろから抱き付いている。
「……私も一緒になりたいです、兄さん」
 滑らかな肌の感触、胸の柔らかさが押し当てられた背中から志貴に伝わる。

「さっきこんなに傷つけてしまって」
 初体験の時に、秋葉が爪を立てた処から血が滴り固まっている。
 秋葉は、それをぺろぺろと舌で舐め始めた。
 うっとりとした顔で、自分のつけてしまった兄の傷を舐め、唾液で溶けた血を呑み込む。
 そこを奇麗にすると、今度は志貴の古い傷痕を舐めはじめる。
 当時できなかったから、今その流れてはいない血朱を取り込もうとするかのように……。

 志貴は、秋葉の行為に気持ち良さと、むず痒さを感じていた。
 前に回された秋葉の手は、古傷と志貴の乳首を弄っている。
 体はもう後戻りできない処に来ていた。

「七夜さん。一緒にいこう」
 はい、と力の抜けかかった声で答え、七夜は動きを増した志貴を素直に受入れ、高みへと
昇って行く。

「も、もう駄目です。志貴さん、来て、私の中に」
 その声に志貴は最後の一突きを加え、七夜の奥深くに精を放った。
 七夜は崩れるように前に倒れてしまい、志貴も、力を失った肉棒を七夜からずるりと引き
出すと、仰向けに倒れ込んだ。

「……つ、疲れた」
「大丈夫ですか、志貴さま」
 翡翠が心配そうな顔で覗き込む。
 空っぽになったような体に、何か暖かいものが満たされてくる。

「……大丈夫、……じゃないかも。いやいや平気だよ、翡翠。ちょっと頑張りすぎただけ
だから」
「よかったです。……私はまだですから」
 ニコリと笑った翡翠の顔に、初めて志貴は悪魔を見たような気がして、ゾクリとした。
 そこに追い討ちを掛けるように、秋葉も初めて見る恥じらいを浮かべた表情で近づいて
来る。

「あの、兄さん、さえよければ、その私、もう一度、その……」
 体に、翡翠からのものともまた違う生命力の源が注ぎ込まれる感触。
 倒れる事すら今は許してもらえないらしい。

「わかった。とことん最後まで相手をしてやる」
 少し引きつった笑いを浮かべているのが自分でも分った……。



               §     §     §


 差し込む朝の陽射しに、秋葉は眠りから覚めかけ、またうつうつと沈み込む。
 起きなくちゃと思いつつ、こうして微睡んでいるのが快い。
 気だるさが体を支配している。体も心も……。
 
「翡翠ちゃん、珍しいわね、お寝坊なんて」
「姉さんも」
「あんなに凄かったの初めてだものね。ところで、志貴さん本当に眠っているだけなの?」
「……大丈夫だと思う」
「そうだよね。私達三人分の力を注ぎ込んでるから、平気だよね。死んでるみたいな寝顔
だけど」
 七夜と翡翠の声……。

「ねえ、翡翠ちゃん。本当に良かったの? これで」
 七夜の声が真剣さを増している。
「私は志貴さんと翡翠ちゃんの関係に加えてもらって、初めて自分の居場所があるんだと
思えた。秋葉さまも少し違うかもしれないけど、志貴さんとの絆を必要とされていた……」
「……」
「他の人から見たら淫らで不道徳な事かも知れないけど、こうなれてよかったと思う。で
も、志貴さんが選んだのは本当は翡翠ちゃんなんだから。翡翠ちゃんが哀しい思いをして
いるんなら、私、そんなの嫌だよ」
「姉さん……。何度も志貴さまを介して繋がったから分かるでしょ。正直、複雑な気持ち
だけど私喜んでいる。秋葉さまが辛い思いをされるのも、姉さんが泣き出しそうな顔をす
るのを見るのも嫌。皆で幸せになれるなら、こういう関係で絶対に嫌じゃない」

 少し沈黙の時が降りた。
「そう。ありがとう、翡翠ちゃん。……志貴さまもそれでいいのかな」
「うん。二人で話をした。秋葉さまに対してはかなり抵抗があると言うか、悩まれていた
けれど」
「志貴さん、煮詰まると『翡翠、俺と一緒に何処かでひっそりと暮らそう』とか言って失
踪しちゃいそうだものね」
「……」
 そうね、と秋葉は心の中で呟いた。兄さんならそんなとんちんかんな真似をしそうだ。

「じゃ、朝ごはんの支度でもしようかな。翡翠ちゃんもお腹空いたでしょ? 秋葉さまと志
貴さんは、その後起こせばいいかな」
「姉さん、私も行く」
「うん、翡翠ちゃん、手伝ってくれるの?」
「うん。志貴さまに、その……」
「食べさせたいのね。はいはい」
 戸を音を立てぬように開ける音と、二人が屋敷へ戻る物音が遠ざかって行く……。

 秋葉は二人が出て行くと、目を開いた。
 横に顔を向けると身動きどころか呼吸もしていないような、兄の寝顔が見える。
 こうしていると今では志貴とのつながりを強く感じる。同時に翡翠と七夜とも志貴を通し
て一つになっていると分かる。
 八年ぶりに帰ってきた兄が、遠野に残った者全てを抱きとめてくれて、あるべき姿になっ
たようにも思えるし、逆に自分と翡翠・七夜姉妹の三人で、遠野志貴を見えない鎖で縛り
上げてしまっているようにも思える。
 七夜が言うのと同じ様に、翡翠に後ろめたい気持ちはあるが、こうなるのが正しい姿のよ
うにも思う。
 兄さんはどうなんだろう。

 兄さんにとって、この状況は天国ですか?
 後で答に窮するであろう質問をぶつけてみようか。
 兄の寝顔を眺めていたかったが、また睡魔が力を増した。
 手をさし伸ばし志貴の指に自分のそれを絡め、秋葉は抗わず目を閉じた。

 七夜と翡翠が迎えに来るまで、もう少しこのとろとろとした微睡みの中にいよう……。


《FIN》








後書き―――
 長かった。このくらいで何だと言われそうですが、書いてて終わんないんじゃないかと思
いました。
 書いてそっくり消したり書き直したりした個所が多かったし。
 本当は七夜さん記憶が戻ってるんだよ的なエピソードも絡めようと思ってたのですが。

 それにしても最初、あんなに書くのに抵抗あったのに……18禁。3本も書くとは。
 今回は、泣き秋葉と言うか、壊れ秋葉が書きたいなあという欲求とか、『タナトスの花』
で完膚なきまでに打ち倒されながらも、「1人足りない……」てな思いを抱いてしまった外
道さ故の産物です。
 あとは裏秋葉祭に送らせて頂いた前々作、前作で結局「秋葉が奇麗な体のまま」だったの
で、線跨ぎたいなあ、とか。……なんか今凄い事書いた気がしますが。……ええと、秋葉の
想いを叶えてやっていないのが、心残りだったので。これでいいかな。
 法田恵的な世界(『3人から始めよう』みたいな)を目指しましたがどうでしょうか。最
初の方がぢたま先生の初期のダウナー系のお話みたいなのでちゃんとつながっているんだか、
どうだか。

 裏秋葉祭に寄せられた方々の作品とか、阿羅本さんの『半月』とかに強い影響を受けてい
て、おやと思う部分がありますが笑って見逃して下さい。特に西紀さんの『ごかいもろっか
いもありません』における「志貴は皆のもの」思想に強い感銘を受けましたので。
 最後までお付合い頂けたのなら幸いです。

  by しにを(2001/8/26)
 





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