著作権に関して
始めに
多くの人が気になっているけれど、実際どんなものかはあまり理解されていない、そんな「著作権」について、ここでは扱いたいと思います。ちなみにこの文章の作者、著作権に関してはほぼ素人です(作者のみ爆笑)。何しろ私、専門が行政法ですからねえ…。細かい話は置くとして、畑が違います。
しかしながら、HP上で著作物を公開している以上、著作権に関しても無関心ではいられません。そういうわけで、この記事を通して私自身がお読みになる方とともに著作権に関して勉強するという意味で、こちらを進めて行きたいと思います。従って、ここにある文章はあくまで私、空下樫樹の私見であって、法律的な権利を保障するものではありません。
また、この記事に関する誤りの指摘等は大歓迎です。誤りを指摘していただければ、その分だけ勉強になりますし、またその他御覧になる方の参考にもなります。こちらを御覧いただいて、かつ相当の知識があり、さらにご親切にも当方のような弱小HPに目をかけてくださるという奇特な方には、よろしくご指導のほどをお願いいたします。
目次
T著作物とは
U著作権とは
Vセーフとアウトの境界線
1.権利者による使用の許諾
2.複製利用
3.文書に関する引用
4.放送と音楽
そもそも「著作権」の保護に値する「著作物」とは何か、という所から入っておくと分かりやすいかと思いますので、これを始めに持ってきました。
著作権法二条一項一号によると、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」とあります。難しいうえに、この文章を額面どおりに受け取るとむしろ誤解が生じる可能性が高いので私なりにかなり強引に要約しますと、世間的に「創作活動」と言われるものは大概ここでいう「著作物」に当たると考えられます。
その他、例えば新聞記事も、「著作物」の中に入ることがあります。これはむしろ中立性を重んじるべきであって「思想又は感情を創作的に表現」するのが望ましくない、という考え方が特にわが国では一般的です。ただ、例えば朝日新聞と産経新聞を読み比べれば良く分かるのですが、それなりの文章を書けば嫌でも思想や感情は出てきます。人間とはそういうものです。だから著作物になるわけです。ただし、「どこそこで火事があった」「何月何日に誰が死んだ」などという事実の羅列に過ぎない記事に関しては、著作物とはいえません。
ともかく、意外と色々なものが、著作権法による保護を受ける、逆に言えばその権利を侵害すると場合によっては損害賠償を求められる、と思っておいたほうが良いことは確かです。例えばテレビゲーム、さらにその一部分とか、下手に侵害したら大事になりますので、気をつけたほうが無難です。
上記の「著作物」、著作物を創作した人間に対して与えられる、「著作権」が、ここでの主要なテーマです。それでは早速、これについて概括をしてみましょう。
著作権法で保護されている権利には、大きく分けて二つのものがあります。
一つは、世間で言われている、また著作権法上もその名称が用いられている「著作権」です。「著作財産権」という言われ方をすることもあります。この際ぶっちゃけた話、著作物に関してお金を取る権利です。この権利によって、売れている小説家や、あるいはヒット曲の作詞家、作曲家、さらに歌手は「印税」と呼ばれるお金を手にすることができます。
で、この権利、実は売り払うことができます。何しろお金になる権利ですのでね。民法によれば、麻薬とか人間とか売り買いするのが明らかにまずい、というものでなければ、有形物であれ権利のような無形の物であれ、全て売買の対象になります。
これが、著作権です。こうやってお金になるからこそ、いわゆる「パクリ」で権利を侵害する人間に対しては、損害賠償を請求できるわけです。
このように著作権を売り渡してしまう契約は珍しいようですが、実はそうではありません。例えば、漫画雑誌でやっている新人賞の応募要綱などに「これに関する著作権は当社に帰属します」などという記述があるのは珍しくない、というよりごく当たり前です。そしてこの場合、この新人賞に応募して原稿を送り、それが入賞などした時点で、その原稿の作者はそれに関する著作権を、その賞の主催者に対して譲渡したものと見ることができます。そのような注意書きのある賞に応募した時点で、その条件を承諾したとみなされるからです。新人賞の賞金は概してそれなりに高額ですけれど、その代わり賞金以外の金銭的な利益は全く見込めません。無論受賞によって今後その道で仕事のできる可能性が大きくなる、というメリットはありますが。
というわけで、雑誌などに載っている作品に対しては、例えそれが創作者の同意を得ていたとしても、転載などは慎重にした方が無難です。著作権の全てが出版社に譲渡されている可能性がかなりありますし、作者が著作権を持っている場合でも、出版社にもまた出版する権利、いわゆる版権という形で一定の権利が保障されています。つまりは、普通の書店で売っているような本に関しては、例え作者の同意があったとしても、余程の覚悟と配慮がない限り転載はやらないほうがいいでしょう。無論同人誌でも無断転載はいけませんが、これは基本的に作者に権利が集中しているので、その同意が得られれば何とか、という所です。
さて、それではそろそろもう一つ、著作権法によって保護されている権利についてお話ししようかと思います。こちらはあまり世間的には知られていない、「著作者人格権」と、呼ばれるものです。
ここには色々な権利が含まれているのですが、世間的に重要なのは「勝手に改竄されない権利」や、「勝手に使われない権利」です。
これに関する有名な問題は、「サザエボン」なる一時期話題となった商品に関するものです。(なお、この記述はこの問題に関する正当な諸権利をお持ちの方の不利益にはならないと判断して実名にて行いますが、不都合であるとお感じの方がいらっしゃれば私まで、お手数ですが当HPのトップページにあるメールアドレスを用いてご一報下さい。適宜処置いたします。)
この商品は、ここで説明をするのもおこがましい「天才バカボン」と、「サザエさん」の、登場キャラクターの特徴を強引に融合させたものでした。確か、キーホルダーか何かに使う人形だったと思います。現物は最早入手困難かと思いますが、少なくと私見によれば、かなり大笑いな代物です。それに確か、「天才バカボン」の原作者である赤塚不二夫先生も、何かの機会に「面白いけど」とおっしゃっていました。まあ、これはその「サザエボン」の存在を認めるものではないとの意思を、明確にした上でのことだと私は記憶していますが。
しかしともかく、この「サザエボン」は、この記事で問題にする「著作者人格権」を侵害している可能性が極めて高いです。しかも『天才バカボン』の作者である赤塚不二夫先生と『サザエさん』の作者である故長谷川町子先生、二人分のものに関して、です。既存のキャラクターを、無理やりつなぎ合わせるということで改竄、簡単に言えばまがい物に変えてしまっており、そこで「著作者人格権」を侵害していると考えられます。もちろん勝手に商品化しているので、前述の著作権も侵害していますが。
この「著作者人格権」は、売り買いしたりすることができません。お金になる方の権利を他人に売り渡してしまったとしても、この「人格権」の方は作者の手元に残ります。著作者が死亡した場合はその管理権限が遺族のものになりますが、「人格権」そのものはあくまで著作者のもの、と考えられるようです。例えば『サザエさん』なら、今は遺族の方がそれをお持ちのはずです。
こちらの「著作者人格権」は直接お金に結びつく以外の権利ではありますけれど、侵害すると結局の所お金をとられてしまう場合があります。人格的なもの、つまり精神面に関する権利ですので、それを侵害すると、精神的な損害に対する賠償、要するに慰謝料を払わなければならなくなるのです。
ですから、たとえ「バカボン」や「サザエさん」のような非常に有名で明らかにお金になる作品ではなく、無名の人が創作したものであってもそれを無断使用したりすれば、「著作者人格権」の侵害になります。
さて、以上を踏まえまして、と。要するに、下手に他人が創作したものを無断で使うと、裁判を起こされてお金を取られる危険がある。だからうかつに使わない方がいい。著作権、そしてそれに関連する権利とは、少なくとも社会生活の上でいえば、大体そういうものです。悪質な場合には刑事制裁もありえます。要するに、牢屋に入れられるわけです。そしてこの権利は、著作物ができあがった時点で発生します。登記とか登録とか、そういう手続きは必要ありません。登録をしておくと、後で裁判になったときに有利になることがある、という程度です。
V セーフとアウトの境界線
じゃあ実際、セーフとアウトの境界線はどこなのか。それをここでは扱います。
まあ、当然といえば当然な話です。使っていいよと、持ち主が言っている物を使うようなものですから。「著作権フリー」「ご自由にお使い下さい」などと明確に表示されている画像などなら、どこで使っても大丈夫です。ただし、その表示を悪意で解釈するのは不可です。例えばこの文章で言えば、上記に「フリー」の文字があるからここのものは自由に使って良いだとか、そういう屁理屈は認められません。常識の範囲で考えましょう。
逆に言えば、権利者が「いいよ」と言っていない限り、無断で画像や文章、音楽等々を自分のHPに転載するなどはまずいです。このHPも含めて、作品上等に「無断転載を禁じる」などの表記があるものは多いですが、別にそのような表記がなくても、無断転載をしてはいけません。「禁じる」というのはあくまで単なる注意書きに過ぎませんので。
それから、利用目的を制限した許諾というものもあります。難しいようですが、代表例はネット上では誰もがご存知の、バナーです。当空下堂書店のものは創作性が認められるかどうかも怪しい簡単なものですが、特に絵描きさんのサイトだと看板になりますから、気合の入った美しいものが多いです。絵がなくとも、文字の配列や配色が一つのデザインになっていれば、それは十分著作物であると考えることができます。そして他の著作物ならともかく、バナーだけは自分のHP上に転載して使うということがごく当たり前に行われている、というより、そもそもそのためのものですからね。
ただ、逆に言えばこれはあくまで、リンク先を表すためのものです。それ以外の目的に使うのは、「バナーとして使って下さい」という権利者の許諾した範囲を超えています。美しいからといって意味もなくHP上に飾っておくとか、そういうことはやめましょう。
またその一方で、バナーというものがネット上の慣行としてこれほど定着している以上、一度「バナーです」などと表示しておいて、後で無断転載について「著作権を侵害している」などと主張するのは、まず認められないでしょう。
私的利用のための複製の作成なら、セーフです。HP上に公開されているものを自分のパソコンに取り込んでおいて後で見たり、あるいはそのデータをプリントアウトして読んだりと、その程度なら取り立てて問題にはなりません。
特に当空下堂書店は、読むのに時間のかかるコンテンツが多いですからねえ。止めたらお客様が寄り付かなくなってしまいます。そもそも技術的に言えば、HPをブラウザで見るという行為の時点で、サーバーから読み出されたデータがパソコンのメモリ上にコピーされるそうですし、そのコピーは一定の間ブラウザが自動的に保存していますからね。
余談はさておき、と。逆に言うと、「私的利用」の範囲を超えてしまえばアウトです。勝手に他人に売り払ってはいけません。また無料であっても、勝手に公開するのも考えものです。どこでどう公開するかの選択権も、著作権や著作者人格権の中に含まれるので。
その他だと、文章に関してプリントアウトしたものを他の人に無償で貸す、くらいならぎりぎりでセーフのようです。一般書籍の貸し借りは昔からごく当たり前に行われているわけで、これと似たようなことがネット上のものに関しては許されないと考えるのは、おかしな話です。ただ、そもそも一般書籍の貸し借りも、著作権を保護するという観点を重んじるとあまり望ましいことでもないそうなので、今後どうなるかちょっと微妙な所ではあります。
なお「私的利用」としては編集等の作業も含まれるかと思います。つまり自分にとって必要な部分だけをピックアップして保存しておいたり、などですね。音楽にこだわりのある人なら、気に入ったものを再編集することは日常的だと思います。改竄を規制する著作者人格権も、そこまで私的な領域に関しては止められません。ただ、編集したものを無断で公開すると明らかに著作者人格権の侵害になるので、手を加えた場合はあくまでプライベートな所で使うにとどめておいて下さい。
ルールとマナーを守ってやればセーフです。では何がルールで何がマナーかというと、それは中々難しい問題だ…と、著作権法の教科書に書いてあります。ケースバイケース、としか言いようがないんですよね。例えば学術論文なら論理を把握することができるそれなりの範囲を引用して来なければ意味がありませんし、そうすることがむしろ予定されています。誰にも引用されない論文というのは多分、要するに学術的な価値のない論文です。一方推理小説なら「犯人はこいつだ」の一行を引用するとそれだけでアウトです。
少なくともこれだけは守らなくてはならない、というルールとしては、どこから引用してきたかを明示する、ということです。作者名、掲載された出版物等の題名、出版元、書籍であれば版数・雑誌であれば号数・新聞であれば発行日、ウェブサイト上のものであればURL等当該引用元の文書を特定できる記述、引用したページ数。以上のうち、引用元のものに示されているものは、引用した際に付記しなければなりません。
後はなるべく引用を必要最小限にとどめ、侵害の危険も最小限にする、という配慮は必要でしょう。
その他このくらいならセーフ、の代表例としては、著作者自らが付加した総括的な説明文が挙げられます。例えば当空下堂書店なら、トップページの冒頭、「ファンタジー、SFロボットもの、ラブコメと多ジャンルに渡って取り揃えております」などという文章を、「作者コメント」としてリンクを張る際に引用するのはまず問題がありません。うちの場合は「リンクフリー」として、リンクを張るにあたって特に許諾は必要ないと明示してありますので、それに付随してコメントを引っ張ってくるくらいは当然許されてしかるべきです。逆にリンクフリーでない、会員制のHPなどについては、その内部の事柄については触れないほうが無難でしょう。また、それ以外でも権利者が明確に引用を禁じているのであれば、そうするべきではありません。
書籍ならそれを紹介するにあたって、前書きなどにある著作者が内容を簡単にまとめた一文を持ってくる、というくらいなら許されると思います。著作者が紹介などされたくない、との意思を明確に表明している場合は別ですけれどね。
あと、白書などの政府刊行物について。これについても一応著作権は発生しているというのが我が国の著作権法の立場ですが、これを利用しても使用料を請求されることはまずありません。そもそもこの種のものは政府が国民の利益となるよう税金を使って作っているのであって、そこで使用権料を徴収するとなると税金又は著作権使用料の二重取りになってしまいます。よってそれを買う場合には、印刷費等の実費は負担しなければなりませんが、引用をしてもそれに関する著作権使用料を払う心配はまずしなくても大丈夫です。ただし、著作者人格権は発生しているので、改竄をしたり、あるいは引用元を明示しなかったりするのはいけません。
いきなりですが、アニメ愛好家やゲーム愛好家の皆様(これは当書店にご愛顧をいただいている方の多くに当てはまると思いますが)、テレビのニュース番組などを御覧の際に、「あれ? この音楽、あの作品のものじゃないか?」と、気がつかれたことがおありではありませんか?
私は良くあります。個人的な感想としては、例えば犯罪特集などの緊迫した場面では、アニメ「新機動戦機ガンダムウイング」で使われていた音楽をよく耳にするように思います。逆にほのぼのとした場面だと、プレイステーションのゲーム「To Heart」の音楽が使われているとの印象を受けます。
私の友人も似たような経験をしたことがあるそうで、その話題になった際、「これは権利とかそういうことで問題じゃないのか」という方向に話が行きました。
まず結論から申しますと、これに関して著作権法上は問題ありません。大体は。放送局は社団法人日本レコード協会、という所に毎年お金を払っていまして、この協会が放送局から払われたお金を各権利者に配分しています。放送局としてはこのお金さえきちんと払っていれば、後は個別の権利者に一々許諾を求める必要もなく、また別にお金を払う必要もない、ということになっています。
だからそもそも、歌番組などが成立するわけです。一々権利者に許諾を求めていたら、特にリクエストやオリコンチャートに即応する番組なんて作れませんから。それ以外でも、音楽を使うたびに許諾が必要になってしまうと、多くの番組のBGMとして使われるのは保護期間の切れているクラシックのみ、ということになるかもしれません。そのような不都合をなくすべく、現在のような仕組みがとられています。
ただし日本レコード協会に参加していない著作権者というのも当然いるはずなので、こういう人の作品を無断で使ってしまうと著作権の侵害になります。
おわりに
事実の羅列的に書いて来たので別に結論という結論もないのですが、まあ、念押しという意味でもう一度、慎重に行きましょうと申し上げて、結語に代えたいかと思います。