そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.12 記念樹

 退職記念に何を贈りましょうか,と職員が言う。多くの職場で退職・転勤時の記念品を贈る習慣がある。別に何も考えていなかったので即答できなかった。
 そういえば前任校では,転勤時の記念に自転車をいただいた。と言っても金額の足りないところは私の負担であったが。
「健康のことも考えて,時には通勤にも使いたいと思います。」
などとそのとき話したが,実際にはその後,自宅の用事にたまに使うだけで終わっていた。

 通勤に使っている私の車が最近調子がおかしい,と思っていたら,朝バッテリートラブル。修理工場に電話で修理を頼んで「よし,自転車で行こう。」
 自宅から学校まで僅か4キロの道のりである。「自転車でスイスイ」と思っていたが,
どうしてなかなか。上り坂だし向かい風だし,車で5分ほどのところを15分以上もかかってしまった。「ああ,中学生が帰りのライト点灯を嫌がるのもわかるわ。」などと思いながら,ふうふう汗をかいて学校到着。

 仕事をすませて午後は挨拶回りを予定している。これには車が必要だ。帰りももちろん自転車である。下り坂ということは楽だが,なぜか帰りも向かい風。
「北風の日は,北風にむかい 南風の日は,南風にむかい」という詩(山下清三『ひばり』より)が浮かんでくるが,たいへんなのはひばりだけではない。

 さて,今年の記念品はどうしようか。そうだ記念樹にしよう。自宅の庭(というほどではないが)にはいろいろ植えているが,中心になるものがない。妻にそのことを言うと,
「それがいいわ。メインツリーになる。」
 早速庭木などを扱っているところをたずねる。白木蓮が満開で値段も手ごろだ。これに決めよう。

 木を植えたり,ちっぽけな畑を作ったりしている我が家の土地の真中に植える。先日の大風で花は散ってしまっていたが,毎年この時期に花を見るだろう。いい退職の記念品になった。