そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.120 12月の詩 
 
  師 走
         清水行人

写真師
光と影の瞬き あらゆる角度から収めるため 背伸びし しゃがみ 寝っ転がり 前に回り 後ろにもぐり込み 追っかけて 走る 走る 
講談師
むかしむかしの物語 あったとさ なかったかもしれない ほんとのところは分からない  隙間だらけの客席を 言葉だけがとんととんとと 走る 走る
絵師
だれも見たことのない風景を求めて ためつ すがめつ ながめつ のぞき 心の中まで入り込んで 走る ときには筆も 走る 走る
経師
なんまいだ 三枚だ まだあるか まだまだ二十五巻 いや一百巻 読んでも読んでも 書いても書いても 続く続く 眼は血走る 走る
医師
診る 断ずる 病と命は別物 長くないから短い 今日も救急車は走る 医師のいない救急車が 走る 走る
薬師
あなたは喉から それとも頭から バカにつける薬はない 世界一長寿国の日本人 不老長寿を求めて 走る 走る
詐欺師
欺いて 嘘ついて ほんとついて 何がほんと みんなほんと みんな嘘 えーいまぎらわしい 逃げるが勝ち 逃げろや逃げろ 走れ 走れ
牧師 
懺悔 改心 徳性 正義 涵養 勧善 善は急げ 急げ走れ 走れ アーメン
教師
疲れはて 学校に行くのももういやだ でも走る 走るしか
どこ でも かしこ しか
つくつく法師 影法師
この年の暮れも 街角を
師が走る 
走る 走る
           (2002.12.12)