そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.132 言葉考7 大雪・小雪 

 テレビのアナウンサーが盛んに言っている。
「大雪が降るおそれがあります。」
 なんか変だ。「雪が降る」は普通に使うが,「大雪が降る」というのは馴染まない。2003年版『山陰の気象暦と潮汐』(日本気象協会中国支店刊)で調べる。「警報・注意報の基準」を文章化すると次の通り。

 大雪警報(24時間降雪深) 平地40cm以上 山地80cm以上になることが予想され,災害が発生するおそれがあるとき発表する。
 大雪注意報(24時間降雪深) 平地20cm以上 山地40cm以上になることが予想され,災害が発生するおそれがあるとき発表する。

となっている。なお,降雪深は地域によって基準量が異なる。
 つまり,気象用語としての大雪は,「ある一定時間内に積もる雪の深さの大なる状態」を言うのであって,一度にそれだけの雪が降るわけはなく,雪の形や降り方を言うのでもない。やはり,気象に関する天気予報では「大雪が降るおそれ」ではなく,「大雪になるおそれ」とした方がいいと思う。

 万葉集にも「大雪」は歌われている。
 我が里に大雪降れり 大原の古りにし里に 降らまくは後(巻2-103天武天皇)
【訳】わが里に大雪が降った 大原の古ぼけた里に降るのは後だ(小学館『日本古典文学全集・萬葉集一』)
 天武天皇が藤原夫人(ふじはらのぶにん)に雪自慢をして送ったのだろうか。それに対して
 藤原夫人が唱和した歌。
 わが岡の?(おかみ)に言ひて降らしめし 雪の摧(くだ)けし そこに散りけむ(巻2-104)
【訳】わが岡の竜神に頼んで降らせた雪のそのかけらが そこに散ったのでしょう(同上)
 なかなかおもしろいやりとりではないか。

「大雪」に対して「小雪(こゆき)」という言葉がある。小雪(しょうせつ)は二十四節気の一つだが,「こゆき」は気象用語ではない。
こゆき【小雪】(「こ」は接頭語) すこし降る雪 すこしの雪(小学館『日本国語大辞典)
 僅かに降る雪,また,その降り方もこの言葉には込められているような気がして,「大雪」とは違った風情が感じられるのである。

 そんなことを考え調べていたら,新春の雪はとけてしまった。(2003.1.12)