そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.14 山の幸

 今年は花が早い。サクラ(ソメイヨシノ)はもう葉桜になりつつあるし,我が家のハナモモも,いつもなら入学式頃がちょうどよいのにもう散り始めている。スイセンが満開だと思ったらムスカリもチューリップも咲いている。シバザクラも咲き始めた。暖冬に続いて暖かかった3月の天候が花を急がせているようだ。

 となるとワラビなども早いかもしれない。そう思うとじっとしていられない。ちょうどこの日休みだった妻と山歩きをしてみる。
 毎年ワラビやタラの芽などを,4月下旬から5月上旬の日曜日ごとに採りに出かけている。ワラビの場合,たくさん採れたときには灰汁抜きをして,冷凍保存しておく。そうすると1年間食べられる。

 いつもの場所に行ってみるがワラビはまだ出ていない。やはり気温を感じて咲く花と,土の温度を感じて出て来る芽とは違うのだろうか。それでも数本出ているから,もう2・3日で一斉に顔を出すかもしれない。
 まあまた来ようか。と言いながら帰りかけたが,
「ちょっとコゴミでも探してみましょうか。」
と妻が言うので,もう少し山菜採りの足をのばすことにする。

『コゴミ』世界大百科事典(平凡社)で調べると『くさそてつ』とある。『くさそてつ』「春,こぶしのように巻いて出る若葉をつんで食用にするシダ。ウラボシ科。一名コゴミ。」

 しばらく川に沿って周りを見ながら走るがそれらしきものが見当たらない。まあ車を降りてみましょう,と川土手を少し歩く。
「あれはクレソンみたい。」
 川の浅いところの石にびっしりとしがみついているのは確かにクレソンだ。早春の冷たい水に洗われて,正にみずみずしい葉の姿だ。

『クレソン』「水辺に生ずる多くのアブラナ科植物の総称であるが,狭義には,コショウソウ,オランダガラシ…(中略)…など,若芽が食用に供されるものをさす。」(前述・世界大百科事典)

 近くにはセリもたくさんあり思わぬ収穫となった。
 帰りながら対岸の河原にコゴミも発見。目的のワラビは採れなかったが,今晩はやっぱり山の幸を味わうことができそうだ。(2002.4.4)