そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.159  言葉考9タイトル一つに苦労せよ 

 
 図書の整理をしていて,1冊の本を見つけた。『鳥取県地名姓氏語源辞典』(増井金典編著 1995年刊)である。いわゆる一般の語源辞典はだれでも知るところだし,地名の語源については,地誌などで部分的にはわかるが,県内の地名から姓氏まで詳しく考証しているものは見たことがなかった。
 2・3引いてみる。

 気多郡(けたぐん・現在の鳥取県気高郡…No.136参照)
 この辞典によると,「古代郡名 ケタ(崖 砂丘 自然堤防 波打ち際)に由来するか」とある。なるほど気高郡でも海岸に面した地域であればぴったりである。
 勝見(かちみ)はどうか。「説1 カツ(搗 崩壊地)+ミ(水辺湿地)  説2 渡来人勝氏に係わる地 加知弥神社を氏神とする一族」。昔の土地の様子から言えば説1になるし,説2の神社も実在するので,両論並記というところか。
 同じ地名でも語源が異なるものなどもある。

 姓氏も少し上げる。
 清水(しみず)「清水の湧く地 清水の湧水を源流とする川」とあり,まあだれが見てもそうだろうと思う。
 木下(きのした)はどうか。「説1 段丘の麓  説2 自然堤防の下  説3 街道から見て大木の下」と,若干説が分かれるがほぼ似たような語源になっている。

 さて,かなり長い引用・紹介になった。地名は一度につくものではなく,長い間にそう呼ばれて決まってきたものが多いと思う。何にしても名前は大切なもので,命名のときにはたいへん苦労する。子どもの名前については以前にも書いた。(No.74参照)考えすぎて読みにくい名前になっていることも往々にしてある。

 文章のタイトルについても考える。野口悠紀雄氏は『超文章法』(中公新書)の中で言う。「タイトルは,読者に訴えるための最初の,しかも最も重要な手段だ。」
 確かにその通りで,私自身が書いているこの「通信」の文章のタイトルだって,結構苦労することが多い。
 ちょっと読んでみようかと読者を引きつけるタイトル。実は初めから決まっている場合もある。しかし,なかなか決まらない場合もある。そんなときにはありきたりのタイトルをつけておいてどんどん書いていく。書いているうちにひょいと思いつくタイトルもある。推敲の段階でもタイトルを忘れてはならない。タイトルは文章の顔だからだ。
 さて今日の文章とタイトルはあまりよくなかったなあと,反省。(2003.3.12)