そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.160  3月の詩 

 
 浜辺にて          清水行人

風は海から吹いていた
波を吹き飛ばして
波の花を打ち寄せて
波打ち際に泡を残す

吹き上げられて
足に当たる砂はちくちくと音たて
沖には黒い雲が走った
あんなに沖に離れているから
北国はまた雪だろうけど
ああ もう春が来るのかもしれない

群生する砂丘植物の間を風が吹き抜けて
砂が飛ぶ
浜にはだれもいない
アカシアはまだ枯れた姿のままで
とげを立てて武装しているが
風の音から
春の気配を感じているかもしれない

吹き上げられた砂が
路上にうなりを上げて走る
今日も犬と狢の轢死体が放置されていた
いつもの景色で
通りかかる車は
とどまることなく行きすぎた

風は冷たく顔を刺し
砂は音立てて駆けめぐり
いつもの風景が
今日も広がり
この浜辺に また春が来るのかもしれない