そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.169  あたえ勇輝ゆうき 

 
  与勇輝展をしていると地元紙が盛んに報じている(この新聞社も主催者)。会場が米子なのでちょっと遠いが,車なら2時間足らずで行けるだろうと出かける。

 ちょうど鳥取県東部で初めての自動車道「青谷羽合道路」(写真)も開通したばかりだ。この道路は,青谷町青谷から羽合町長瀬を結ぶ13.2kmの本格的な自動車道である。この区間これまでより10分間の時間短縮という。
 確かに走行は速く便利だ。しかし,青谷側が直接9号線に接続していないため,その分接続道路を走らなければならず,信号待ちなどにも時間がかかる。この路線の交通難所「長尾峠」を通す道を考えない限り,この問題に解決を見ることは難しいだろう。長尾峠にトンネルを通し,9号線に直接つなぐのは3年後なのだそうだ。それから鳥取,さらに中国自動車道につなぐのはいつのことになるのだろう。

 などと話をしながら米子に着いて会場のデパートに入る。平日なので人はそう多くない。
「与氏は1937年,川崎市生まれ。布を使った作品は,その細密さから『布の彫刻』と称賛される。」(4月1日付「日本海新聞」より)
 展示されている作品は約120点。本当に細かいところまで布の特徴を生かした作品ばかりである。種類の多い布のそれぞれの特色を生かしながら,布に別の命を吹き込んでいるといってもいい。

「日本人が通り過ぎたどこか見覚えのある場景を,魅力的な視線をたたえた人形たちが,一瞬の所作で醸し出しており,『癒やし』あふれる展観となった」(同上)
 私より4才年上の作者は,なにか昔の日本を,私たちに布という温かい素材の人形を通して,見せてくれているに違いない。
 百年前の日本と五十年前の日本とでは,生活習慣にそんなに大きな違いはなかった。ゆっくりゆっくりと時は流れていた。
 私たちの身近にも「おこた」もあったし,がき大将もいたし,チャンバラもやったし,西瓜ドロも自慢話だった。そんな世界を,人形たちは温かく再現している。

 そうだ。最近の日本が変わりすぎるのだ。何事も高速の時代,あっという間に過ぎて行く。しかし,実生活との接続はうまくいっているのだろうか。
 交差点でいらいらしながら信号待ちをしている場面が,今そこここにありはしないだろうか。                  (2003.4.1)